これから始まる「新しい世界経済」の教科書: スティグリッツ教授の

  • 徳間書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (251ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784198641047

作品紹介・あらすじ

これから経済を勉強したい人はもちろん、身の回りの経済事象の本質を知りたい人に最適の一冊! いまなぜ資本主義は崩壊の危機にあるのか。巨大格差、移民問題の何が問題なのか。決算粉飾などの企業モラルの低下はなぜ起こるのか。経済は対立や紛争をいか世界に生み出してきたのか。グローバル化はなぜ人々を不幸にするのか……。ノーベル経済賞受賞のスティグリッツ教授が、既存の経済学の誤りをわかりやすく示し、新たな経済の枠組みを説く。

感想・レビュー・書評

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  • 台頭著しい中国とは違った意味で、世界経済のこれからを考えるうえでその動向をもっとも注視しなければいけない国がアメリカです。なぜなら、アメリカはこれまで経済のグローバル化を推し進めてきた国であり、昨今力が落ちてきたと言われつつも、まだまだ世界の中心にポジションを取り続ける国だからです。

    グローバル化の過程でアメリカは自国のルールを他国との貿易や経済のルールにおいても適用してきました。つまりグローバル化の主導権を握ってきた国であり、そのことはいわずもがなだと思います。そんなアメリカの国内では格差の拡大、それも富める1%と下位に属する層とに別れてきていて、中間層が空洞化しつつあるようです。この状況は日本の状況ともとても似ています。本書はそんなアメリカの経済状況の現状を分析し、なにがいけないのかをノーベル経済学賞受賞のスティグリッツ教授を中心としたルーズヴェルト研究所のグループでの共同研究の結果と提言を著したものです。アメリカ国内で貧富の差が拡大しているのに、そのルールを他国にもお仕着せるようでは他国も同じ目に遭います。本書のタイトルに『「新しい世界経済」の教科書』とありますが、グローバル化によって多くの国々に蔓延したアメリカと同様の格差社会を是正する方向性こそが新しい世界経済であるとの観点からのセンテンスだと思います。

    僕たちが生活していて不安や不平等を感じるときというのは、少ない給与や不十分な利益、未来に対する不安などがあると書かれています。それを氷山の海面上にでた部分に喩えて、海面下のすぐ下の部分にあたるところに注目するのが本書です。そこには、経済の規制、税制、労働法があります。富める上位1%を優遇してどんどん富むようにしていくように、規制も税制も労働法も機能している。この何十年前からの経済システムの設計のありかたに今日の中間層の零落すなわち貧困層の拡大の発端があるのだと指摘されています。ここを具体的にどう良くない機能をしているかを前半部では述べながら、後半部でその打開策を提言しています。

    読んでいて晴れ晴れする気分になるところが多いのは、一般人(僕のような者だとかです)が肌感覚で感じているんだけど言語化がままならないものを見つめて表現してくれているからでしょう。本書で具体的に指摘している部分って、実は市民感覚と繋がっているんです。

    そして、どうして格差社会がいけないのか、と問う人もいると思うのですが、格差社会のほうが経済は発展しないからというのがまずひとつあります。中流層が多くて元気なほうが経済は発展していくと経済学の研究としてわかっているのだそうです。経済が発展するほうが豊かでしょうし、より多くの人が不安の少ない生活、または幸せを感じられる生活を送れるほうが豊かだというのがふたつめの答えです。

    本書を読んでいてやっぱりこれだよなあと思うことがいくつもありましたが、他の本などでよく目にしてきた「企業の短期主義」についてもちゃんと書かれていて、これについても規制やルールの作り方によって長期主義が有利になるようにデザインすることが大切になるという主旨でした。まったくそのとおりだと思います。

    最低賃金のパート労働だとかは、グローバル化でしょうがないなんて言われ方もあるでしょうけれども、はっきりいうとまあ搾取なんですよねえ。

    あと、面白かったのは、アメリカのFRBが完全雇用率達成よりもインフレ率を抑えるほうに大きく傾いてきていてそれが問題だという指摘でした。失業率が下がっていき完全雇用率が達成に近づくにつれて、お金がより多くの人に回るようになるのでインフレが起こるというのが理論的な見解だそう。インフレがすすむとお金の価値が下がりますから、国全体・国トータルでストンっと貧しくなるイメージが湧きます。本書を読むと、もっと多岐にわたるインフレのネガティブな効果と、その真偽についてわかるのですが、ここでは説明にかなりの字数がかかるので割愛します。著者は完全雇用のほうが大事だ、と主張するのですが、それは完全雇用が達成されて、労働市場において労働者の取り合いになる状況のほうが、労働者の立場が強くなり力をもつようになるので、賃金の上昇だって望めるのが第一としてあります。そうなれば、中間層社会の実現に近づくという考えでした。
    また、長きにわたって雇用状態にない人を作らない効果もあるんです。長きにわたって働いていないと、仕事をこなす能力が低くなるのでさらに採用が遠のき、ますます働けなくなります(ヒステリシス現象)。

    と、消化不良気味のレビューなのですが、著者が言いたいのは、みんなで中間層になろうということです。1%の人だけが巨万の富を抱えて、さらにますます富んでいくなんておかしいじゃないか、それはルールや仕組みがおかしいからなんだ、ということです。本書の中身がもっとみんなの知るところになると、世の中の風向きが大きく変わります。そんな本でした。

  • ジョセフ・E・スティグリッツ(1943年~)は、米国の経済学者、コロンビア大学教授。2001年に「情報の非対称性を伴った市場の分析」によりノーベル経済学賞を受賞。クリントン政権では米国大統領経済諮問委員会委員長を務め、オバマ政権とも近く、その思想は民主党の経済政策に影響を与えてきた。
    本書の原書『Rewriting the Rules of the American Economy』は、もともとルーズヴェルト研究所の報告書として、主として政策決定者向けに書かれたものであるが、その反響は大きく、ニューヨークタイムズ紙は「最上層への莫大な富の集中と、さらに強まる中間層への搾取を導いた35年の政策(レーガノミクスに始まる自由主義経済政策)を書き換えるための大胆な青写真」と評し、タイム誌は、「報告書が不平等の“秘めたる真実”を暴いた」と伝え、フォード財団は「陸標(ランドマーク)」と呼んだという。邦訳は2016年に出版された。
    私は、経済学者・スティグリッツ教授の名前こそ知っていたものの、著書を読んだことはなかったのだが、先日NHKで放映された、今年のダボス会議の「ステークホルダー資本主義」についてのパネル・ディスカッションでのスティグリッツ教授の主張を聞き、ネットで調べて本書を手に取った。(思い出せば、以前からスティグリッツ教授はNHKのドキュメンタリー『欲望の資本主義』などにも出ていたのだが。。。)
    そして、本書に書かれていたのは、私の期待通りの内容であった。私は、現在の世界の人間社会における最大の問題は、「格差・不平等」にあると考えている。国の間の争いも、一国の中の階層間の争いも、人種の間の争いも、更には宗教の間の争いでさえも、最も影響を及ぼしているのは「格差・不平等」である。「格差・不平等」がなければ、好き好んで他の集団と争ったり、他の集団の支配地域に移動したりすることはないはずなのだ。(あったとしても、現状よりはるかに少ないはずだ)
    本書が議論の対象としている米国は、本書にもあるように、2009年から2012年までの収入増加の実に91%が、最富裕層1%の人びとの懐に収まっている、「格差・不平等」の縮図といえる国である。しかし、その米国でも、1980年代前の数十年間はもっとバランスが取れており、格差が急拡大したのは、大幅なルール変更が行われた1990年代以降のことである。そして、その結果、実体経済は健全な成長から乖離してしまったのだ。
    そして、スティグリッツ教授は、金融セクターの改革、短期主義の排除、CEO報酬の抑制、最高限界税率の引上げ、公平な税制の制定、企業の海外所得への課税などにより、最上層を制御し、また、完全雇用の目標化、公共投資の復活、労働者の権利強化、最低賃金の引上げ、女性と非白人へのチャンス拡大、学資ローンの再構築、医療制度の改革、住宅金融システムの再構築などにより、中間層を成長させることにより、経済(さらには、民主主義と社会)を健全な姿に戻すことができると主張している。一方、格差の原因をテクノロジーの発達とグローバル化に求める従来の議論については、否定的である。
    世界に広がる「格差・不平等」を縮小するには、世界を牽引する米国の改革が不可欠である。また、いまだ米国を模倣する日本にとって、本書の議論は他人ごとではない。米国・日本の政策決定者の真剣な取り組みを期待したい。
    (2020年4月了)

  • 世界経済が今後どのような方向に向かっていくのかについて富と貧困や資本主義経済、女性の活躍等について解説されている。どのようなダイナミクスで経済が動いているかについてわかりやすく解説されているが、比較的一般的に議論されている内容が多かった印象であり特別印象に残る部分はなかった。

  • アメリカ経済のどこに問題があるのか、どう修復すればいいのかが書かれた本。
    アメリカで起こっていることは世界中の国々でも起こっている。
    「神の見えざる手」は存在しない。正統派経済学によらない新しいルールに変える必要がある。
    労働者の生産性は伸び続けているのに賃金は上がっていない。一方でCEOや銀行役員の所得は大幅に増加している。
    富の増加の多くは、固定資産の価値増加。それは生産性の高い経済につながらない。独占利益が増え、不平等が拡大するだけ。

    1970年代に始まった「規制緩和」という名の再規制が、1989年の金融危機、1990年代前半の不況、不平等の拡大を招いた。
    富が集中すると、その人たちに都合のいい政策が採用されやすくなる。
    短期的な株価の重視は、従業員たちを負債として扱うことになる。
    かつて企業は投資のために借金していたが、現在は株主配当のために借金している。
    有色人種差別による格差も大きい。住宅市場や労働市場でも差別は広がっている。
    そして貧困は親から子へ受け継がれる。貧困率の高い地域では教育の質が不十分であることが多い。

    性差による所得格差が是正されれば全体の所得が上がり、総需要が増え、GDPも上がる。
    「大きすぎてつぶせない」金融機関は、自分たちが責任を負わなくても潰されないことを知っているから、簡単にハイリスクな事に手を出す。
    これらの問題を解決するための提案も、終盤に書かれている。税制などはアメリカと日本では違うけど、アメリカと同じ轍を踏まないためにも参考にしたほうがいいと思う。
    短期のキャピタルゲインに付加税をかける、というのは、長期の企業経営をうながし、労働者に投資するために必ずする必要があると思う。

  • 経済学部 上野勝男先生 推薦コメント
    『ノーベル経済賞も受賞したスティグリッツ教授が、富裕層に富は集中し、中・下層は沈んでいくばかりの現在の経済状況を分析しました。一年生には少し難しいかも知れませんが、背伸びして読んで見ると得るところ大でしょう。』

    桃山学院大学附属図書館蔵書検索OPAC↓
    https://indus.andrew.ac.jp/opac/book/588052

  • 最近、「資本主義の過ち」的な本をいくつか読んでおり、そのせいもあってか新しい発見がなかった。

    「自由な市場」のために減税、それは税率面では富裕層に最も利益があってそのメリットを独占、期待されていたトリクルダウンによるその下の層が富むことは起きず…というのはこれまでいくつか読んできた中で既知の話。

    それをどう変えるかにもかなりの紙面を割いているが、一般市民でどうこうできるものではない。

    そもそもアメリカ経済についての本で、邦題がミスリーディングなのも気になるし、どうも訳が自分に合わず読みにくい。

  • 経済的格差の拡大など、今の経済の問題は、自由主義経済の失敗、グローバル化やテクノロジーの進展によるものというのが通説だが、スティグリッツ教授は、これ自体が選択した結果であり、政策次第で変えられるのだという。
    富裕層が一方的に有利になるような税制や政策ではなく、中間層を豊かにする政策こそが取るべく道だと説く。主張は納得できる。
    米国を念頭に書かれているが、中間層が細っているなど日本も概ね同じようなもの。少しでもこのような方向に進んでほしい。

  • 将来予測を経済学の視点から語っているのかと思って手に取ったら、アメリカ経済の問題点を語っている本でした。やられた。

    経済全体でみたら成長していても、成長しているのは最上層だけで、中間層以下は貧困に喘いでいると、しかもそれが出生に影響を受けていると言うのは改めて悲惨。でも日本なんか成長もしてないからトリクルダウンなんて起こりようがないんだぜ?とかって皮肉も言いたくなる。

    個人的には富裕層をディスるのは違うと思っていて、問題なのは相対評価ではなく絶対値としての貧困層がいること。そこだけ社会保障でカバーできればあとは自由競争ってのが一番管理コストはかからないよね。まあ、中間層には嫌がられそうだから選挙では弱そうなシナリオだけど笑

    トリクルダウンは、起きなかった
    不動産のようなレントで富が積み上がる
    アメリカも結局親の学歴に左右される
    経済的移動性が弱い(貧困層は貧困のまま)
    規制緩和が再規制になっていた
    テクノロジーは市場支配力を強める
    最賃や福利厚生が機能していない

  • 経済が強くなっても中流層が弱くなるという構造で、富の集中による巨大な格差社会が到来している。さらに、国家や社会を疲弊させ、各国で動乱や経済危機を生み出している。
    解決策は新しい経済ルールの書き換えを説く。

  • 富裕層のみが豊かになり、中流層以下は沈んでいく。「なぜ資本主義はこのような事態を生んでしまったのか」という問題意識と「その問題をいかにして是正していくか」という解決策が提示されている。スティグリッツは宇沢先生の教え子というだけあって、経済学者にしては珍しく数字だけではなく人をしっかり見ているという印象を受けた。

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