世紀末・戦争の構造: 国際法知らずの日本人へ (徳間文庫教養シリーズ こ 1-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (249ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784198908324

感想・レビュー・書評

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    近代国際法は中世の終わりぐらいから発達してきたのだが、ヨーロッパはそれ以前から国際社会であったということである。結論から先に言うと、はじめにヨーロッパありき。後に国がでてきた。近代国家ができる前にヨーロッパがあった。(…)カトリック教会が全ヨーロッパ的な存在であり、近代国家にいちばん近かったといえる。(…)近代の戦争も、国際政治も、国際法も、資本主義もヨーロッパのキリスト教共同体を母体としている。7
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    主権という概念は、それまでの王様の大権が他の特権に比べて大きいという相対的なものだったのに対して、絶対的な力を持つということである。(…)主権が確立されると、どんな大諸侯でも偉い僧侶でも、大金持ちの商人でも、王の命令には絶対服従しなければならない。(…)中世においては、法律は習慣の中に見出されるもので、あらためて法律をつくるという考え方がなかった。それが王様の意志によって新たな法律がつくれるということになってくる。また、自分の臣民の生命、財産、自由を何とでもできるということにもなった。105
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    主権者である王は、自分の領地の中ではどんなことでもできた。そうしたなかから必然的に生じてきたのが、国家主権の確立であり、国民、国境という概念であり、やがて近代国家が出来上がっていくのである。要するに、はじめにヨーロッパは一つであるという概念があった。そして主権、国民、国境という概念とともに出来上がった近代国家が、お互いの絶対的な主権を前提として、対等な国際関係を結びましょう、と。そうした関係から発達していったのが近代国際法なのである。 106
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    現代国際法の最大の問題は、独立の主権国家になる資格がない国が、あたかもあるように行動していることである。今、世界各地で起こっている紛争内乱のほとんどは、根本のところで結局、そこに行き着く。(…)外国の助けを借りて、選挙とは何ぞやというところから始めなければならないことを見ても、そのことが分かる。要するに民族も国家も意識として全然できあがっていない国が、一人前の国家を主張して、われわれもそれを完全な主権を持つ独立国として扱わなければならないというところに、最大の問題があるのだ。112
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    列強政治とは、列強が相互に連関しあう政治ということである。列強諸国は、おたがいに、他のすべての諸国と連関しあっている。それゆえ、一国だけが勝手に動くということは、できない相談なのである。これこそ、国際政治においては、公理に近いほどの大定理である。それなのに、ここのところが、ちっとも分かっていないのが日本人。日米関係、日中関係、日ソ関係、日欧関係……などは、みんなバラバラに存在しているのだと思い込んでいる。133
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    秘密議定書において、ヒットラーはスターリンに、バルト三国とポーランドの東半分とをプレゼントしたのであった。そのかわりに英仏と開戦したときには中立を守ってください、と。一九三九年九月。ドイツ軍はポーランドに侵入し、英仏は、ドイツ軍に宣戦して、第二次大戦が始まった。(…)独ソ不可侵条約の秘密議定書こそ、ミュンヘン会談とならぶ列強政治の範例。174
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    主権は絶対だといっても例外がないわけではない。その一つが王国の基本法、これには違反することができない。それから神様が決めた自然法、これにも違反できない。また主権者が自らの意志でした契約には違反できないなど、主権は絶対ではあるが、制約条件もまたいくつかあった。国際法の元祖といわれるのはグロティウスで、この人はもともと自然法学者であった。だから国際法の背景には自然法があって、主権の絶対といえども自然法に違反してはならないという考え方が非常に強かった。212
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    例えばアメリカは、人権問題に関しては内政干渉してもいいと主張している。(…)また国際法の歴史からいって、経済問題に関して密接に連関する場合には、外国でも口出ししていいということになっている。これは要するに、国際法は資本主義の法律である、資本主義の要請は自然法みたいなものであるという原則からきている。(…)経済的に密接につながりのある国が商慣習上、自国に不利益をもたらすようなことがあれば、その改善を要求しても内政干渉にあたらないと、そのようになった。213
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    ウィーン外交関係条約ということで決められた条約の中に、外国の大使館や領事館、公邸などの公館に接受国の官使が入る場合には、使節団の長の同意を得なければならないという条項がある(第22条)。これは国の主権が及ぶ範囲はどこまでかということの、きわめて重大な取決めであった。(…)在外公館の主権の問題に話を戻すと、緊急の場合に軍隊や警察を入れるには、使節団の長の同意を得なければならないとあるのは、つまり同意を得れば入ってもいいということである。213
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    例のペルー事件のとき、日本の官房長官が、日本大使公邸は日本の主権の及ぶ範囲だから入られては困ると言っていたが、この表現は国際法を知らないということを告白したにすぎない。(…)ウィーン外交関係条約には、「使節団(例。日本)の公館は、不可侵とする」とある(同右第二十二条)。しかし、「不可侵」という意味は、「官邸の敷地は、接受国(例。ペルー)の領域外、その主権外にあるのではなく、派遣国(日本)の領域でもない」(高野雄一『全訂新版国際法概論』)のである。213
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  • 明快でスッキリするんだけど、展開が「またかぁ」って感じなんだよね・・・。戦争と国際法に興味をもちはじめた人が最初に読む分にはいいかも

  • これで初めて国際法を学んだ。
    国際法を知って初めて、靖国問題がわかる!!

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著者プロフィール

1932年、東京生まれ。京都大学理学部数学科卒。大阪大学大学院経済学研究科中退、東京大学大学院法学政治学研究科修了。マサチューセッツ工科大学、ミシガン大学、ハーバード大学に留学。1972年、東京大学から法学博士号を授与される。2010年没。著書は『ソビエト帝国の崩壊』『韓国の悲劇』『日本人のための経済原論』『日本人のための宗教原論』『戦争と国際法を知らない日本人へ』他多数。渡部昇一氏との共著に『自ら国を潰すのか』『封印の昭和史』がある。

「2023年 『「天皇」の原理』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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