有栖川有栖選 必読! Selection4 真夜中の詩人 (徳間文庫)

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  • 徳間書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (578ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784198947347

作品紹介・あらすじ

身代金0円? 難易度S級の傑作ミステリ登場!
「富豪と庶民」連続誘拐の謎


孤独な魂の慟哭ドラマと意表を突くどんでん返しで、
中毒性抜群の〈笹沢左保サスペンス〉。第4弾は『真
夜中の詩人』――笹沢左保作品の定番ネタの一つ〝
誘拐もの〟。なかでも難易度S級の多重誘拐の傑作
登場! 老舗百貨店のオーナー・三津田家と一介のサ
ラリーマン浜尾家から赤ん坊が誘拐される。「生命の
危険はない」という電話通告のみ残して、犯人は闇
に消えた。「百合の香りがする女」の行方を単独で
追っていた浜尾家の姑がひき逃げされる。この事件
を契機に、夫、恋人、妻、従業員、それぞれの思惑
が交錯し、相互不信のドミノ倒しが始まる……。

〈トクマの特選!〉
イラスト 唐々煙

〈目次〉
Introduction 有栖川有栖
真夜中の詩人
Closing 有栖川有栖

感想・レビュー・書評

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  • 江戸幸デパートのオーナーである三津田家と、サラリーマンである浜尾家から赤ん坊が誘拐された!命の危険はないと言い残して、身代金の要求もなく犯人からの連絡は途絶えた。この連続誘拐の目的とは?!

    誘拐犯の仲間と思われる「百合の香りがする女」。真相を単独で追った浜尾家の姑・澄江がひき逃げされ、事件の背後にある闇が深くなる。息子・純一をさらわれた浜尾真紀は犯人の手がかりをつかむために奔走する。同じく息子・和彦が誘拐された三津田家の麻知子。同じ母としての強かさの対比が際立つ。

    誘拐ものと言えば、警察と犯人の緻密な駆け引き!身代金はどう受け取るのか!などが一般的な見どころになる。しかし、この作品はあくまで母・真紀が調査を重ねて真相を手繰り寄せるドラマの積み重ねが中心。ページが厚い分だけ、母の愛も厚い。警察がほぼ出てこないのは今読んでも斬新だよね。読むほどに絡まりゆく人間関係。ミステリを読み慣れている人には真相の形自体は早くわかるはず。それでも、その外堀から埋めていくことがどれほど困難を極めるかというのが痛いほど伝わる。

    誘拐ミステリ好きなら触れていただきたい作品ながら、やっぱり長いのが玉に瑕(550ページ超え)。それと夫・洋一郎が真紀をまったく手伝わずに冷淡に扱うのがねえ。洋一郎ォ!お前さあってなる(笑) 洋一郎が話を聞いてサポートしてあげてたらもっと早く解決できてたのでは?おい!聞いてるか!とツッコミを入れたくなる(あくまで母の強さを魅せたかったのは理解できる)。ラストはもっと痛快かつドラマチックに仕上げてくれたらスッキリしたかなあ。

  • ● 感想
     誘拐がテーマの作品だが、2つの誘拐が描かれる。1つは老舗百貨店、江戸幸のオーナー三津田家の長男、和彦の誘拐事件。もう一つは、ごく一般的な家庭である浜尾家の長男、純一の誘拐事件。この作品の大きなプロットは、江戸幸デパートの和彦の誘拐事件が狂言というもの。和彦は、その父が酔った状態で抱き、取り落としたため死亡。孫である和彦を溺愛していた江戸幸デパートの社長、三津田良吉は激高するが、江戸幸デパートの時期社長が子どもを死なせたという事実を隠すため、孫を取り戻すため、自分が過去に妊娠をさせ、他の男と結婚させた澄江という女性の子ども、浜尾真紀の息子を奪うための計画を立てた。
     三津田良吉の計画は、自身の孫、和彦が誘拐されたということを報道させ、その後、純一を誘拐する。その後しばらくして、純一を和彦として、誘拐犯が返してきたと報道させ、純一を和彦として育てていくというもの
     協力者は、三津田家の通いの医師だった中津川、江戸幸デパートの敏腕社員、結城、そしてお手伝いの中塚清子。中塚清子の母である水野アキ子。三津田良吉はこれらの手ごまを利用して、純一の誘拐を行う。
     中津川が、浜尾真紀の妹である由美の恋人であったというご都合主義的な偶然がある。これは話を面白くするための仕掛けでもある。物語は、純一の誘拐犯を見つけ出そうとする浜尾真紀の行動を中心に描かれる。
     浜尾真紀の母である澄江は、真紀の実の父が三津田良吉であり、純一が三津田良吉の孫であるということを知っている。なぜ、平凡な家庭の子どもである純一が誘拐されるのか。三津田良吉の孫である和彦が誘拐されたという報道を聞いていた澄江は、この誘拐の真相、誘拐犯が三津田良吉ではないかということに早期に気付く。そのため、江戸幸デパートの結城の手で殺害される。
     この結城新也という男の動きもポイントで、浜尾真紀が真相に辿り着くのを阻止するために、浜尾真紀の妹である由美に近づいたり、浜尾真紀に協力するふりをするなどの動きを見せる。
     中津川という由美の元恋人である医師も、もう一人の交際相手でもあった田口清子という女を自殺に見せかけて殺害し、開業医になるための資金の提供という後ろ盾を得て、共犯者というより真相を知ってしまっている、三津田家のお手伝いで、水野アキ子の娘でもある清子と結婚するという話となる。
     文庫本にして550ページを超えるそれなりの長い作品であり、浜尾真紀による純一誘拐の犯人を捜す捜査が描かれる。浜尾真紀の母である澄子の死から、純一誘拐の際に、保険外交員のふりをして純一から真紀の目を背けさせた、共犯者の一人である水野アキ子の正体を探る。
     水野アキ子は不治の病で死亡。打つ手なしかと思われた段階で、澄江と三津田良吉に接点があったことを知る。ここから急展開を見せる。
     2つの誘拐事件と見せかけ、実際は、子どもを奪うための狂言誘拐と真の誘拐。読者の目を欺き、物語を面白くするために、由美と中津川医師との関係、結城という江戸幸デパート社員の行動を描く。浜尾真紀の父が店を持つことができた金はどこから手に入れた?真紀の母親である澄江はなぜ結婚を急いだのか?など、三津田良吉と澄江の間の接点の伏線もある。やや冗長と感じる部分はあるものの、サスペンス感、意外性の両方に優れた作品といえる。
     タイトルの由来は、共犯者である水野アキ子が、三津田良吉の犯罪計画を詩人の創作のように感じたからというもの。この点はさほど共感ができず。真犯人である三津田良吉の存在感が薄いからか。
     トータルのデキとしては★4でよいと思う。身代金をどう受け取るか?といった知的ゲーム的な雰囲気はなく、誘拐モノのミステリとしてはやや異端のように感じるが、真紀による捜査、真相の意外性に優れた誘拐ミステリの傑作といっていいと思う。

    ● メモ
    由美 妹
    真紀 姉
    江戸幸デパート
    浜尾 洋一郎 真紀の夫
    純一 洋一郎と由美の子

    江戸幸デパートの社長の子どもの誘拐
    純一の誘拐→保険の外交員
    真紀の父親→新橋で料理店を開く。そのお金はどこから?
    中戸川→由美の元恋人。医者
    清子→三津田家のお手伝い
    真紀の母がひき逃げに遭って死亡
    田口清子→中戸川が恋人として紹介した女
    水野アキ子

  • 戦後の高度成長期、国内屈指の百貨店社長の孫とある一般家庭の乳児が誘拐されるが、どちらも身代金要求は無いという。
    誘拐ものなのに、身代金の話や警察の出番がほぼなく、母親である主人公が独自調査で真相に辿り着くという異色作。
    淡白な文章で語られ全体的に緊張感は緩いものの、最後はスルッと収まりました。
    発表の時代(1972,昭和47)は置いといて、好みは分かれるかな、と。

  • 中盤まで、誘拐ものって読むといったい何が起こってるのかと推理の行く先がふらふらしていてどうなってるの?どうなるのの不安があったけど、ある事実から全てとこの誘拐の意味と気持ち悪い動機が…

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著者プロフィール

1930年生まれ。1960年、初長篇『招かれざる客』が第5回江戸川乱歩賞候補次席となり、本格的な小説家デビュー。 1961年『人喰い』で第14回日本探偵作家クラブ賞を受賞。 テレビドラマ化されて大ヒットした『木枯し紋次郎』シリーズの原作者として知られ、推理小説、サスペンス小説、恋愛論などのエッセイ他、歴史書等も著し、380冊近くもの著書がある。2002年、逝去。

「2023年 『有栖川有栖選 必読! Selection11 シェイクスピアの誘拐』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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