みんな水の中-「発達障害」自助グループの文学研究者はどんな世界に棲んでいるか (シリーズ ケアをひらく)

著者 :
  • 医学書院
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  • Amazon.co.jp ・本 (270ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784260046992

作品紹介・あらすじ

ASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠如・多動症)を診断された大学教員は、彼をとりまく世界の不思議を語りはじめた。何もかもがゆらめき、ぼんやりとした水の中で《地獄行きのタイムマシン》に乗せられる。その一方で発達障害の先人たちの研究を渉猟し、仲間と語り合い、翻訳に没頭する。「そこまで書かなくても」と心配になる赤裸々な告白と、ちょっと乗り切れないユーモアの日々を活写した、かつてない当事者研究。

感想・レビュー・書評

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  • 「脳の多様性」という考え方について知りたくて手に取った。ASDとADHDの診断を受けた文学研究者である著者が描き出す体験世界の解像度に目をひらかれる。
    発達障害と呼ばれるものは障害ではなくあくまで脳の特性であり、この社会は多数派である定型発達者に合わせてもろもろ設計されているがゆえに、それに合わない特性を持つ者にとっては、できないことが増えてしまっている、それが現状なのだ。この考え方がもっと広まって、どんな特性の人でも暮らしやすい社会になっていくことを願う。
    また、著者の言うように「私もあなたも、脳の多様性を生きている」という視点をもち、他者の思考のクセみたいなものを理解し受け入れれば、人間関係のモヤモヤも減らせるかもしれないとも思った。いくら特性だと受け入れても、たびたび傷つけられる言動をされたとしたら、どこまで耐えられるか、耐えるべきなのかはわからないけども。
    あと、あとがきで著者が診断を受けたのが2019年と知ってビックリした。わずか2年足らずで自助グループ主催といった行動を起こし、当事者としての思索をここまで深められるなんて。

  • 今読みはじめた、一章の詩がヤバすぎる

  • 『みんな水の中』
    多数派のためにデザインされた環境のお陰で僕は生きにくさをあまり感じずに能力を発揮できるのだなと痛感する。
    「脳の多様性」を考えることで、健常者VS障害者のような二項対立ではない、環境との摩擦に苦しむ多くの人が楽に呼吸することができるようになる社会へ!
    #読了 #君羅文庫

  • ASDかつADHDの文学研究者である著者が、先人の自身の体験世界を詩(のようなもの)、論文(的なもの)、小説(風のもの)という形式で伝える。
    発達障害者の方が感じてる世界はどんなものかという一端をつかむことができた。著者の透徹した自身への観察眼とさらけ出し具合には感服した。文学や芸術によるケア、セラピー、リカバリーの可能性も感じた。

  • 大学准教授の著者は発達に難あり(ASD(自閉症スペクトラム症)とADHD(注意欠陥・多動症)を併発)。そんな自身を「詩のように。」「論文的な。」「小説風。」の3種の形式で「私という唯一無二の人間の自己解剖記録」(P46)を書き表している。

    「論文的な。」では著者自身の症状と著者と周囲の関係性が書かれている。言語の「中動態」というのは初めて聞いた。「あげもらい」の使い分け(うちの息子(9歳)未だに間違えるよ…)が難しいというのは「中動態」が関係しているのかな。

    性についてかなり赤裸々に書かれていて少し驚いた。ぶっちゃけるなぁ。すごいな。

    「文学によって癒されている」というのは定型発達の人たちと同じだと思うけど感じ方が違うんでしょうね。少し同意できる部分があるので私もちょっと凹凸してるんだろうなと再認識。

  • この本を読むと「発達障害」とか「発達障害者」という単語は簡単に使えなくなる。代わりになんと言えばいいのだろう。
    その当事者である文学研究者が、自分の世界の見え方を教えてくれる。なかなか言語化できない、普通だったらできないようなことができる人を得た、いい人を得たな(誰が?何が?)と思った。
    I部など、最初読んだ時、見た時「え⁉︎」となってしまった。II部では当事者でない者にもわかりやすい言葉で説明されている。Ⅲ部では、II部で書かれたことが具体的に小説の形になっていて、本当の意味での理解はできないにせよ、そういう感じなのかとだいぶなじんだ感じがした。

    以下は、本書の主旨と離れるかもしれないが、私自身がこの本を読んで心に残ったところ。

    恨みの物語から解放されるように心がけること。誰かを、あるいは何かを恨んでいると、その物語の回路に呪縛されたままになってしまうから。
    自身を別の新しい物語に送りだす。
    新しい物語を生きはじめる。  
    (197ページに書かれていることを自分の都合に合わせて抜き出す)

    "心が傷ついている人が創作物に触れると、そこから元気や勇気を受けとることができる。その時起こっていることは、小規模でも確実な治癒や療養なのだ。" 201ページ

    "私は文学と芸術によって多重スティグマを「あやす」ことができ、それを低減させた。特に外国語や古語を現代の日本語に置きかえる翻訳作業は、私を自由の時空へと導き、多重スティグマを溶解させた。読者諸兄姉も、ぜひとも試していただきたい。簡単な英語でも日本語の古文でも構わないから、あなたが訳してみたいと思ったものを、日本語のあなたが好きな文体へと鋳造しなおしてみてください。" 203ページ

  • 当事者どからこそ書けること。
    当事者ならではの研究。
    言語化が素晴らしい

  • 思っていたのと違ったが、例えるならTwitterでもブログでもない、SNSへの投稿を散漫と眺めているような良さがあった(伝わるか不明な説明)
    パッと読んで、ふむと思う、また引用される作品の多岐さも面白い。良書

  • 493.76(闘病記)

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著者プロフィール

京都府立大学文学部准教授。1979年生まれ。大阪市出身。文学博士(京都大学)。専門は文学・当事者研究。単著に『みんな水の中――「発達障害」自助グループの文学研究者はどんな世界に棲んでいるか』(医学書院)、『唯が行く!――当事者研究とオープンダイアローグ奮闘記』(金剛出版)、『イスタンブールで青に溺れる――発達障害者の世界周遊記』(文藝春秋)、『発達界隈通信――ぼくたちは障害と脳の多様性を生きてます』(教育評論社)、『ある大学教員の日常と非日常――障害者モード、コロナ禍、ウクライナ侵攻』(晶文社)、『ひとつにならない――発達障害者がセックスについて語ること』(イースト・プレス)、『解離と嗜癖――孤独な発達障害者の日本紀行』(教育評論社)、『グリム兄弟とその学問的後継者たち――神話に魂を奪われて』(ミネルヴァ書房)、『村上春樹研究――サンプリング、翻訳、アダプテーション、批評、研究の世界文学』(文学通信)が、共著に『当事者対決! 心と体でケンカする』(世界思想社)、『海球小説――次世代の発達障害論』(ミネルヴァ書房)、編著に『みんなの宗教2世問題』(晶文社)、『信仰から解放されない子どもたち――#宗教2世に信教の自由を』(明石書店)がある。

「2024年 『発達障害者は〈擬態〉する』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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