- Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
- / ISBN・EAN: 9784272330973
作品紹介・あらすじ
「生産性」「自己責任」「迷惑」「一人で死ね」……刺々しい言葉に溢れたこの国で、男は19人の障害者を殺害した。「莫大な借金をかかえた日本に、障害者を養う余裕はない」との理由で。沈みゆく社会で、それでも「殺すな」と叫ぶ7人の対話集。
感想・レビュー・書評
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「障害者は不幸を作ることしかできません」と言って障害者施設で19人を殺害した相模原事件。一報を聞いて、雨宮処凛は「とうとう起きてしまった」と思ったという。
2000年代に始まった、自己責任論の蔓延、ヘイトデモ、嫌韓嫌中ブーム、生活保護や貧困パッシング、2018年に杉田水脈の「LGBTには生産性がない」発言。
実はその前には公務員パッシングもあった。「いい給料をもらい、安定した雇用のもとに楽をしている。」と。
←このように並べると、政治家はこれらの意見に乗ってその後の悪法や経済政策、外交を進めたのだと気がつく。まさか、内閣調査室が仕掛けた!?
「公務員を通り越して、生活保護利用者や障害者が「特権」とみなされるなんて、この国の人々の生活はどこまで地番沈下してしまったのだろう」
(11p)と雨宮処凛は嘆く。
←学術会議任用拒否問題に対しても、同じ構図が広がっている。「彼らは特権階級なのに、何を守ってあげる必要があるのか」。
この序章の「問い」から発して、雨宮処凛は6人の識者と対談をして、昨年9月に発刊した。基本的に彼らの意見に9割方賛成する。問題点はかなり整理されて提示されている。が、紹介しない。
「事実はなぜ人の意見を変えられないのか」ではないが、世界の片隅でひっそりと語られた会話では、その流れは止められない、止まらない。
彼らの幾人かは植松被告と直接対話を試みたが、もはや植松被告に聞く耳は無かったようだ。
加藤周一は、世界を変えるのは「科学」ではなく「文学」だと言った。それは狭義の意味ではなく、かなり広い意味であることは明らかである。文学といい、哲学といい、歌といい、体験といい、世界観が変わるためには特別なモノが必要なのだが、正解はない。わたしはずっと「体験」が必要だと思っていた。生活保護問題にしても、貧困問題にしても、パッシングしている人は、彼らと「直に」関わっていなかったからだと思っていた。けれども植松被告は、「やまゆり園」そのものに勤めていたのだ。予め殺すべきだ、と思って勤め出したとしても、直に接することでその世界観に揺らぎは起こらなかったのか?わたしは自説を修正せざるを得ない。
どうして、バブル時代は公務員パッシングが生まれなかったのか?植松被告はこのまま「借金が膨らむと大変なことになる」と犯行に及んだが、どうしてステルス戦闘機F35を6.2兆円で147機購入(維持費含む)することに、大きな非難の声が上がらないのか?
いかん、ダラダラ言葉を並べ出した。何の意味もないのに。
植松被告については、それから一年後死刑が確定し、これ以上の事件の解明は難しくなった。
※テレビで「鬼滅の刃」を見ていると、なぜか植松被告が、悲しい運命を持つ鬼たちの姿と重なった。アニメもこの事件も、時代が作っていることでは共通性がある。 -
【寛容さを大事に】
金に余裕が無くなると心にも余裕が無くなる「不寛容」と「自己責任」だらけの世の中を考える本。
神戸氏:相手の立場で考える「想像力」が「優生思想」に対抗する為の出発点。
熊谷氏:障害者と介助者が対等な関係を保つ為、人権や構造的差別の問題として捉え、障害者の安全や人権が保たれるようにしている。
「本音」を語れても「本心」を語れない世の中である。
「貢献原則」が「必要原則」を上回り過ぎると優生思想に近づく。
森川氏:「聞ききる」ことで尊重されているという感覚を生む。
「迷惑をかけない」というモラルで「耐え忍ぶ」は安易で短絡的な日本の特徴。
短絡的なショートカットをしないでとにかく対話することで、結果的には効果的に社会を運営できる。
格好つけるのをやめて「面倒だ」と口にすることで追い詰められていることを自覚する。
なるほどと思えることが満載です。対談者のそれぞれの著作を読みたくなります。 -
副題のとおり、「相模原障害者施設殺傷事件」をめぐる対談集である。
雨宮処凛さんがホスト役を務め、ジャーナリスト・精神科医・大学教授・批評家など、6人の論客との連続対談を行っている。
6人は、それぞれ障害者と深い関わりを持つ人々である。自らが脳性麻痺の当事者であったり、お子さんが重度障害者であったり、元障害者介助者であったり……。
その深い関わりをふまえた6人の言葉には、重い説得力がある。
雨宮さんは、各対談者からよい話をたくさん引き出している。インタビュアーとしても優秀な方だと感じた。
相模原事件で19人の重度身障者を殺害した植松聖被告を、あろうことか英雄視するような言説も、ネット上に散見される。
そこまでいかなくても、「重度障害者は不幸しか作らない」という植松の言葉に心中ひそかに共感を覚える人は、けっして少なくあるまい。
本書は、いまの日本社会に蔓延するそのような空気に抗う対談集である。
相模原事件を話の起点にしてはいるものの、各対談はそこから思いもよらぬ広がりを見せる。
たとえば、事件の底流にある優生思想の歴史をめぐって、小泉政権以来顕著になった「自己責任」論をめぐって、そして、「不寛容」な日本社会になった遠因たる貧困問題をめぐって……。
語らいは縦横無尽に展開し、文明論的な深みすら帯びる。
このところ、相模原事件についての本を何冊か立て続けに読んだが、その中では本書がいちばんよいと思った。質の高い好対談集だ。 -
相模原事件をテーマに雨宮処凛さんが6名の方と語った対談集。とても良い本でした。
熊谷晋一郎さんの、生産性ではなく必要性の方が上位だという話、森川すいめいさんのオープンダイアローグについて、そして、向谷地さんの浦川べてるの家の話がほんとに群を抜いてすごいと思った。
みんな自分の体験から語っている。自分の体験を自分の言葉で、一人一人がそう語れるようになったら、いいのかもしれないと思った。 -
重い内容だと思うけど、自分の求めていた言説がしっかり記されていてほっとする。このほっとする感じを出来るだけ多くの人と共有できたらいいなと思う。優しい世界を望む人へ。
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2019年、安倍政権下で出版された本書。
新自由主義や自己責任論がはびこったこの社会は、どうしてこうなってしまったのか、そしてどこに向かっていくのか。そんなテーマで行われた対談集。
雨宮処凛さんと6人の対談相手との対話は、それぞれ中々に読ませる。ニュース記者、精神科医、障害者施設の運営者など。様々な視点から語られる「不寛容」が、自分の強張った心を少しだけほぐしたような気がした。
「自分を愛せれば、他人も愛せる」「本音ではなく本心で話すべき」など、印象に強く残る言葉が多かった。
自分と同世代の人間や、若い人にこそ一読してほしい1冊。
(書評ブログもよろしくお願いします)
https://www.everyday-book-reviews.com/entry/2021/10/27/%E3%80%90%E5%AF%BE%E8%AB%87%E3%80%91%E3%81%93%E3%81%AE%E5%9B%BD%E3%81%AE%E4%B8%8D%E5%AF%9B%E5%AE%B9%E3%81%AE%E6%9E%9C%E3%81%A6%E3%81%AB_-_%E9%9B%A8%E5%AE%AE%E5%87%A6%E5%87%9B
僕は社会保障の逼迫が、社会に不寛容、自己責任論、新自由主義をさらに加速させていると考えてます。立場の弱い者がさらに弱い者を叩く不条理の連鎖を断ち切る鬼殺隊が存在し得るとすれば、彼らに何が求められているのか、どんな呼吸でどんな技を、何に対して繰り出さなくてはいけないのか?考えたいと思います。
私も考えていきたいと思います。
私はずっと、ネットの中だけではなく、直に生活保護が...
私も考えていきたいと思います。
私はずっと、ネットの中だけではなく、直に生活保護が必要な人や障害者に接したならば、こういうことは起きないと思っていました。労働関係で、数人だけ生活保護支給決定に関わった経験からそう思っていたのですが、今回の相模原事件でそういう単純なものではないと思い知らされました。この前起きた「人を殺したかった」若者も強い意志で実行したし、30人を殺した「津山事件」も、かなり周到な準備をしていました。彼らには、それなりのエネルギーの蓄積があったのです。そのエネルギーに見合うだけの発見がないと人は変わらない。
これからもよろしくお願いします♪
立岩真也・杉田俊介『相模原障害者殺傷事件――優生思想とヘイトクライム』(arsvi.com...
立岩真也・杉田俊介『相模原障害者殺傷事件――優生思想とヘイトクライム』(arsvi.com:立命館大学生存学研究所)
http://www.arsvi.com/ts/2017b1.htm
「不条理の連鎖を断ち切る」「エネルギーに見合うだけの発見」肝に銘じておきます。。。