弱さの思想: たそがれを抱きしめる

  • 大月書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (207ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784272430963

作品紹介・あらすじ

「弱さ」を中心に据えた町やコミュニティをフィールドワークし、考察を深めていくと、全く新しい共同体のあり方が浮かび上がり、今を生きる思想としての「弱さ」が形づくられていく。2人が体験を通し真摯に語り合う。

感想・レビュー・書評

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  • 昨年出た「降りる思想」(辻信一・田中優子:共著)も読んでみたくなりました。。。

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    「「弱さ」を中心に据えた町やコミュニティをフィールドワークし、考察を深めていくと、全く新しい共同体のあり方が浮かび上がり、今を生きる思想としての「弱さ」が形づくられていく。2人が体験を通し真摯に語り合う。」

  • ・2014年出版の本だが、コロナ禍を経た今改めて読み直されるべき本だと感じた。直前に斎藤幸平の「ぼくはウーバーで捻挫し、山でシカと闘い、水俣で泣いた」を読んだが、フィールドワークを通した身体知によって、今の自分の世界認識をアンラーンしていくという点で共通点が多々あった。
    ・小説に見られる弱さ、強さという視点は高橋源一郎ならではだと感じ、同時代の小説や表現について、もっと積極的に読んでいきたいなと思った。
    ・弱さを中心とした共同体作りなどは魅力的ではあるものの、そこに魅力を感じるのは少数派だとも思う。マスを相手にする人たちにはその人たちなりの正義があり、そこをどう乗り越えるかは引き続き課題であると思う。

  • 私自身は、これまでは弱者とその「弱さ」に目を向けることが寛容かつ包摂的な社会をつくるのではないかという立場だったが、本書はいくつかの具体的なケースを踏まえた上で「強さ・弱さの二項対立を超えること」へとその思想の結論を導いている。
    過疎地域と迷惑産業、精神病院が真ん中にある街、小児ホスピスなどのフィールドワーク、そして著者自身の経験を通じて「弱さの強さ」と「強さの弱さ」が対談されているが、全てにとても多くの含蓄があった。特に、以下のような言葉にははっとした。

    ・強者と弱者に分けること自体に不自由がある
    ・利他と利己は二元論ではない(グレーバーの指摘)
    ・弱さの思想とは、勝たないし負けないこと。勝ち負けそのものを超えること
    ・競争は内側から共同体を滅ぼしていく
    ・いつも「正しく」ありたいという自分自身がつくった偏見に、自分自身がとらわれてしまう
    ・現代社会の特徴は「管理」の強化。それは「支配」や「効率」につながる
    ・多様であることは非効率。多様性とは弱さ
    ・効率性を追求すると多様性が失われる
    ・複雑性を包摂した経済システムへのシフトの鍵は、ダイバーシティとレジリエンス

    私は現在、多様性の包摂を重んじる会社に勤務しているが、それは効率性の追求に対する自己矛盾でもあり、一方で微妙なバランスを取り続けるための知恵でもあるのではないかとも思った。しかしながら、弱いとされる多様性には強さもあるし、強いとされる管理には弱さもある。
    中庸論ではない脱構築はどこにあるのだろうか?

  • 二元論で単純化しない知恵。曖昧な、あわい。大切にしたい。

  • 【1】インド人思想家のクマールによれば、力にはパワーとフォースの二つがある。パワーは、内なる力。種子は木となる潜在的なパワーを持つ。フォースは外なる力。権力やお金など。つまり、社会的弱者とは、フォースを持たない人のこと。

    【2】社会は、厄介なものの存在を外に押し出す傾向がある。例えば、日本では、地方に迷惑施設を作って金渡すという施策を続けてきた。原発も、水俣病も構造は同じ。弱みを外に押し付ける構造。

    【3】著者の子供は、障害を持って生まれてきた。子供を支えることは、「自分にしかできないこと」。他人によって代替不可能な仕事だと感じた。弱さを抱えた子供に凄く元気づけられた。

    弱さがかけがえのないギフトに変わる瞬間がある。これが、弱さの強さ。強さの弱さ(311で大混乱する先進社会)と、弱さの強さ(祝島や子供ホスピス)。

    【4】人間は歳をとって死ぬ。怖い。避けたいけど、それは無理。人が辿るへの道は根本的に負けなのだ。例外なく全員負け。
    それにさらに、負けの要素を足そうとしているのが今の社会。病気になったら負け。障害者になったら負け。学力競争で落ちたら負け。良い会社に入れなかったら負け。

    【5】地方自治体も、競争している。ゆるキャラ、ふるさと納税。誰かが買ったら誰かが負ける。結果としてはみんな負けるのに、それに気づかないまま、競争から降りられなくなっている。

    【6】①祝島は、競争から降りている。負けを受け入れている。面白いのは、そこに人が戻ってきたこと。何かの競争で負けた人が、ホームランドとして、居心地の良さを感じて戻ってくる。

    当然の老いを、受け止める。老いを抱きしめる。弱さを抱きしめる。死を抱きしめる。

    【6】②子供ホスピスは、近い将来死が確定された子供たちの居場所。必ず負ける。その敗北をどう抱きしめるか。このホスピスでは、死に至る期間を最も価値ある時間として、特別な時間を抱きしめる。

    【7】人間はみな弱さを持っている。それは、種類も程度も様々。それに序列をつけると、支配、被支配の関係になる。そうではなくて、勝たない/負けない関係性をもつ。勝ち負けという二元論から降りる。弱さ強さという二元論から抜ける。これが弱さの思考の入り口。

  • 「不幸とかネガティブなことがあると、人は力を失うけれども、ある極点を超えると、どうも「ギフト」と呼ぶしかないものが来るらしい。」
     いろいろなところに線を引いた。きのくに、とかでら~ととか、祝島とか。考えるべき、考えるヒントになりそうなことがたくさんあってね。この本は、繰り返し開いて咀嚼するべきものだと思ったね。まだ咀嚼できてはいないと思うけど。

  • 弱さにあわせて仕組みを作るとみんなが使いやすくなる、生きやすくなる。速さより遅さ、とか。
    だよなぁと思う。

  • 対談形式。大変よかった。内的な強さ(パワー)を感じること。弱さを中心にした共同体と組織論。同著者らの『雑の思想』を合わせて読むと、狭い視野で捉えていた「弱さ」や「雑」への偏見が整理されていく。【事例】イギリス:マーティン・ハウス(子どもホスピス)、オランダ:エルメロー(精神科病院のまわりに形成された町)、日本:べてるの家/祝島/井戸端げんき/アトリエ・エレマン・プレザン他

  • 某所読書会課題図書.「弱さ」をポジティブに捉えて、人間が生活していく上で重要な視点だという認識をベースに二人の議論、というより励まし合い のような落ち着いた会話が心地良かった.「べてるの家」を皮切りに、多くの施設の紹介が続くが、どこも画一的な運営をやっていない.入居者、多くの場合 障がい者や難病に苦しんでいる子供たちだが、彼らを主体に運営している事例は非常に心を打つ.オランダのエルメローの精神病院城下町の事例は、非常に重要な観点を示していると感じた.外へ開かれた病院が、その町自体を活性化させることは、嬉しい驚きだ.

  • 高橋源一郎+辻信一『弱さの思想』
    おふたりがご自身の体験やフィールドワークでみつけた「弱さ」が持つ強さのはなし。
    さらには、強さvs弱さや勝ちvs負けの二元論から抜け出す知恵のはなし。
    付箋貼りまくり。

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著者プロフィール

作家・元明治学院大学教授

「2020年 『弱さの研究ー弱さで読み解くコロナの時代』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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