1970年体制 「縮み志向」が日本経済を停滞させた

著者 :
  • 日経BP
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  • Amazon.co.jp ・本 (300ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784296103683

作品紹介・あらすじ

日本経済停滞の原点は1970年代にあった――
「失われた30年」をもたらした思考法や行動様式は今も日本に根を張り続けている。
抜本改革を先送りし減量経営に走る「縮み志向」はどう企業を縛ってきたのか。
変われなかった50年を終わらせるために必要なカギがここにある。

1990年代初頭にバブルが崩壊し、成長力を失った日本経済。アベノミクスによって
戦後最長の景気拡大になったともいわれるが、往時の力強さは姿を消したままだ。
「失われた30年」とまで称される長期停滞はどうすれば終わるのか。

そのカギは1970年代にあった。

為替の変動相場制移行や2度に渡る石油危機によって、奇跡と称された戦後の高度成長は終焉。
生き残りをかけて企業が向かったのは、人件費や新卒採用の抑制、設備投資の手控えなどコスト削減と多角化だった。

売上高の伸び悩み・減少に応じた減量経営と、少しでも稼げそうな分野に出て行くことで
危機を乗り越えようとしたが、リスクをとって事業構造を作り替える抜本改革は先送りされた。
取材を通して見えてきたのは、そんな思考法や行動様式に今もとらわれ続ける日本の姿だった。

ホンダを創業した本田宗一郎氏やマクドナルドを日本に持ち込んだ藤田田氏らが戦後を繁栄と躍進を
もたらす一方で、ダイエー創業者の中内功氏、リクルートの江副浩正氏といった「異才」はなぜ躓いたのか。
「電子立国」を掲げ、半導体などで世界を席巻した時代がどう終わりを迎え、
インターネットという新時代の波に乗り遅れたのはなぜか。
台頭する新自由主義の下で拡大した非正規労働と格差は日本経済に何をもたらしたか……。

ホンダのプリンスと呼ばれた入交昭一郎氏、ダイエー創業者の長男、中内潤氏、
田中角栄元首相の秘書官を務めた小長啓一(元通産事務次官)氏ら、当時を知る多数の証言者への
取材を通して、「1970年体制」の呪縛が生まれた経緯、そして、そこから解き放たれるために必要なポイントを探る。

感想・レビュー・書評

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  • 日本経済の近現代史を学べる本です。1970年代からの日本経済の歴史を、具体的な事例を踏まえて振り返りながら、現代の日本経済の様々な問題点・課題の根幹・原因を教えてくれます。温故創新、歴史から学び、新しい時代にどう対応していくかを考えさせてくれる1冊です。

    【特に印象に残ったフレーズ】
    ・昔も今も陥りがちことの本質が変わらないことの例を示している。
    「先行例を追うばかりの経営は、グローバル化の中では二番手以下となり、規模も利幅も小さくなる。」
    「高度成長が急激に終わった日本が陥った、リスク回避傾向を強め、人件費拡大、設備投資に徹底して慎重になるが、人手不足が厳しくなると、一転して採用を増やす短期志向の経営になるのは、今でも変わらない。」
    ・将来への希望も教えてくれる。
    「社会課題が深刻であることは、それだけ需要が大きいということでもある。大企業が進みがちな、大規模で目に見える市場への参入とは異なる切り口となるが、こうした取り組みが次の時代の成長分野になるかもしれない。」

    【本のハイライト】

    〇1970年代に根付いた縮小均衡思考が今も続く
    ・戦時にできた体制が戦後の復興の起点になり、高度成長へとつながった。
    ・ある年に商品需要が増えると、設備投資も増えるが、商品需要の伸びが鈍化すると、需要が前年より減っていなくても設備投資は減少する、負の加速度原理が起こる。
    ・高度成長が急激に終わった日本が陥った、リスク回避傾向を強め、人件費拡大、設備投資に徹底して慎重になるが、人手不足が厳しくなると、一転して採用を増やす短期志向の経営になるのは、今でも変わらない。

    〇リーダーが変えたものと変えられなかったもの
    ・「タイムマシン経営」といった、先行例を追うばかりの経営は、グローバル化の中では二番手以下となり、規模も利幅も小さくなる。
    ・東芝のように、経営者が内部統制の仕組みを破壊してしまえば、企業の正しい情報が隠蔽される。リーダーたちの対応力が問われている。

    〇日本企業の挑戦と挫折
    ・70年代のエネルギー不足への恐怖と、消費行動の多様化で、日本の製造業は「軽薄短小」に突き進んだ。それは最終製品における日本勢の地位低下を招き、このまま弱体化が進むと、相互に好影響を及ぼし合ってきた電子部品の強みも維持できなくなる。
    ・事業と同様、人材面でも長期的なビジョンに基づいた経営が、あるようでない。事業売却、M&Aでの人と事業の入れ替えを始めたのはこの10年余り。成功した仕組みを変えられない例は多い。
    ・円高が経営に一時的なショックを与え、製品開発の遅れを自覚しながらも、次に円安が来ると危機感が薄れてしまう、その繰り返しではないか。
    ・企業の社会的責任はこれからも問われるものの、公害対策で進化した環境対応の技術やノウハウは、日本の強みの1つになりつつある。
    ・インターネットの拡大は、既存の企業グループや業界の垣根を破壊した。新ビジネスのチャンスが到来する一方、経営者のちょっとした判断の誤りは、一気に企業の存続にも影響を及ぼすという厳しい時代を呼び込んだ。
    ・グローバル化の進展で、巨額M&Aも増えたが、経営の難度も高まる。事前の準備と最適な経営ノウハウ、それらを生かす経営人材がいなければ成果は出ない。
    ・中国経済の台頭は、日本企業の経営に、変化対応の徹底やスピードアップなどの変化をもたらした。ただ、ここ数年は、中国の経済成長が賃金上昇をもたらし、コスト増になりつつある。対応が必要となっている。

    〇先送りされた構造問題
    ・1995年に生産年齢人口が天井を打ち、以後減ることがわかっていても、バブルの影響で対応が遅れた。
    ・日本の台頭が米国を脅かし、貿易摩擦など競争環境が激変した80年代で、生き残れたのは変化に対する柔軟性のある企業・産業だけだった。
    ・経済活性化を目指したはずの規制緩和は漂流を続けている。自由化すれば自然と競争が起き、業界に活力が生まれ、利便性が高まると期待しながら、異なる現実が見えるとあっさり方針を転換している。
    ・日本経済が成長する時代は、交付税などで地方への再分配を拡大できたが、低成長が常態化する中でどうなるか。人口減少は、首都圏へのヒトの供給の終わりも意味する、首都圏の経済力が衰えれば、日本全体が縮小へ向かいかねない。
    ・年金改革は今なお模索を続けているが、逃げ水のようなゴールを追う改革を根気強く続けるしかない。
    ・他社の自動車とわずかな機能の差をつけるため、技術者は何でもカスタム化したがるが、汎用性のなさは、災害に対するリスク対応としては課題となる。

    〇新経済モデル構築へ何が必要か
    ・2016年後半から経済のデジタル化・ネット化が大きく進み、世界的にデータ量が増大し続けた結果、半導体、ソフトなど幅広い産業に大量の需要が生まれ、輸出などで景気を押し上げたと考えられる。日本が成長力を取り戻すには、こうした新たな分野で強みをつくり出すことが欠かせない。
    ・社会課題が深刻であることは、それだけ需要が大きいということでもある。大企業が進みがちな、大規模で目に見える市場への参入とは異なる切り口となるが、こうした取り組みが次の時代の成長分野になるかもしれない。
    ・ベンチャーブームだが、過去と同じく不況になると資金が逃げる可能性、VCの投資を受けたベンチャーが上場後に機関投資家の投資対象にならない可能性が懸念となる。上場はゴールではなく、日本再成長の先導役にするためのもう一段の改革が必要。
    ・昔も今も、成功する起業家には変わらないものがある。狙ったことに我慢強く取り組めて、でも素早く行動できる。
    ・起業家に必要なのは、早い段階から優秀な仲間を集め、もっと成長志向を持ち、第2弾、第3弾を常に用意すること。社会にどう貢献するかも大事。
    ・VCがハンズオンで何でも教えるのではなく、起業家に自ら考えさせ、苦労させないと育たない。
    ・大企業がベンチャーの力を生かすには、まず自分の体質を変える。会社の上層部が、どこまでリスクをとる考えなのかをはっきりさせ、本気度を見せる。経営者が現場とコミュニケーションを取らないとできない。

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著者プロフィール

日経ビジネス主任編集委員/日経トップリーダー主任編集委員1981年大学卒業後、全国紙を経て88年に日経マグロウヒル(現・日経BP社)入社。日経レストラン、日経ビジネス、日経ベンチャー、日経ネットトレーディングなどの編集部を経て2002年から日経ビジネス編集委員、13年から同誌主任編集委員。15年から日経トップリーダー主任編集委員を兼務。税・財政、年金、企業財務、企業会計、マクロ経済などが専門分野。著書に『マネー動乱』(日本経済新聞出版社)、『日本電産 永守重信、世界一への方程式』(日経BP社)など

「2017年 『経済ニュースの「なぜ?」を読み解く11の転換点』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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