- Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
- / ISBN・EAN: 9784296108800
作品紹介・あらすじ
20年かけて政府が積み上げたIT戦略やITインフラが、新型コロナ対策で役に立たなかった。まさにデジタル敗戦だーー。菅義偉首相肝煎りで「デジタル庁」創設に挑む平井卓也デジタル改革相は、こう反省の弁を述べた。
事実、マイナンバーカードは緊急の現金給付事業で力を発揮できなかった。陽性者の情報を登録するシステムは病院や保健所から「使いにくい」と不満が噴出した。国の構造から制度、人材までデジタルシフトを怠ってきたツケが回った格好だ。
行政のDX(デジタル変革)に挑む日本は、この敗戦から何を学ぶべきか。年金システムから特許庁システム、マイナンバー関連システムまで、20年にわたる電子政府/システム調達改革の歴史から、失敗の教訓を読み解く。
感想・レビュー・書評
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個人的に昔、SEABISやGIMA、人給など府省共通システムに断片的に関わったことがあったので、興味深く読みました。
日経コンピュータや日経クロステックの過去記事からの収録が多いですが、それが「デジタル政府の失敗」というひとつのテーマでまとまっていることに本書の価値があります。
e-Japan戦略から始まる政府のデジタル政策の大きな流れや、その過程で起きた特許庁、年金、人給といった失敗事例がよく分かります。
直近で起こったHER-SYS、COCOA、G-MIS等についても問題の経緯を詳細に記載しており、とても分かりやすかったです。
失敗事例だけではなく、政府CIOによる立て直しの記録やBPMの導入、農水省によるSlackを用いた自治体や農業従事者とのコミュニケーション事例など、成功事例についてもいくつか触れられていたので、示唆的な内容もありよかったです。
自治体の失敗事例として、京都市の事例が詳細に載っているのもよいです。まだ民事調停も続いているところですが、判例として旭川医大とNTT東の発注者側責任を問う判決事例と並んで後々に残りそうなものなので、最新の状況も踏まえて経緯が記載されており、読みごたえがありました。
本書の記載内容に関しては中央省庁や自治体の情報なので、失敗事例についても契約情報など基本的にはすべて公開されている情報であり、本書独自の情報としては、いくつかあるインタビュー記事の内容くらいかなと思います。
ただ、公開情報であっても、それが時系列的に網羅的にまとまっているので、本書には資料的な価値が十分にあると思いました。
これから政府も自治体もデジタル化が大きく進んでいく中で、それに関わる人たちは、本書に記載されている内容は知っておき、過去の失敗を繰り返さないようにする必要があると思います。
特に地方自治体は基幹系システム17業務の標準化を「25年度末までに統一」という話が降って湧いてきたところで、「標準化」の中身が明らかでない中でもBPRを進めなければならず、国の「業務・システム最適化計画」の失敗を繰り返さないように早急に検討を進めなければなりません。
発注者側のガバナンス、BPRを含めた仕様の作成、ステークホルダーの協力体制など、当たり前のことですが、プロジェクト現場に入り込むとなかなか問題が見えにくくなってしまうことがあります。
その時に、過去の失敗事例を知っていれば、「ヤバい」という勘所は掴めるようになると思います。そうすれば、何が「ヤバい」のか落とし込んでいき、足りないリソースは外部コンサルでも使って埋めていくことができます。「ヤバい」ことの具体的な原因は組織やプロジェクトによっても異なりますし、まずは「ヤバい」ことに気付けることが大事かと思います。
今年の9月にデジタル庁ができることで、国や自治体だけではなく、民間企業への影響も多かれ少なかれ色々な形で出てくるのではないかと思います。
「DX」がバズワードになって久しいですが、民間企業も政府の失敗事例から学ぶところは大きいと思います。
政府だけではなく、自治体でも民間企業でも、デジタルに関わる人は読んで知っておく価値のある内容の一冊です。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
2001年以降、デジタル政府の施策で失敗し続けてきた日本政府。本書曰く、「デジタル敗戦」の根本原因は各官庁や自治体がデジタル人材を手当てしなかったことにあるという。
要するに、役所はシステムのことが良く分からないから業者に丸投げし、いい食い物にされてきた、ということ。本書は役所の問題にのみフォーカスしているが、より大きな問題が業者側(いわゆるITベンダー側)にあると思うのだが、それは気のせいだろうか。
下請け・孫請の高コスト体質、モラルの低さ(いいものを作るよりも、むしろ中途半端なものを作ってメンテナンスで儲けようという発想)、そして能力の低さ(これも下請け、孫請の体制と根っ子は一緒)。問題だらけだと思うのだが…。
デジタル庁ができて、IT予算が膨らんで、という流れのなかで、ITベンダー達はさぞかしほくそえんでいることだろう。行政機関が再び食い物にされないためには、やっぱり本格的な内製しかないんだろうな。業者は下請けで使うくらいでないと。特にAIの活用なんて考えたら、丸投げのアウトソーシングなんてあり得ない訳だし。とは言え、まあこれも現実的じゃないか。
デジタル政府の今後の課題は、「データの標準化」「OSSの活用」、そして「政府の政策立案とデジタル技術の活用とを両方担えるデジタル人材」の確保だというが、本当に大丈夫なのか? -
「動かないコンピュータ」をはじめ、システム導入刷新の歴史を長年ずっと追いかけてきている日経コンピュータは、信頼に足るメディア。
最後の有識者のチョイスだけ疑問だったが、行政システムの歴史を手軽に追えて良書だった。
若手官僚は特許庁システムや年金システムの話を知らないままデジタル政策に携わる人も多いので、最初のうちに読んでおくとよいのではないか。
あとはデジタル庁が行政システム庁と揶揄されないように、願うばかり。 -
内容の詳細は書かれていたが
そもそも固有名詞が多く
役所やITの基礎知識がある人でないと
理解できない内容だった
初心者には分からなかった -
読書会の歴代レポート(1冊がA4用紙2枚+αにまとまっています)は、PortalⅣの電子ファイルサイトから誰でも閲覧できます。
「この本に興味はある!けど、読む時間はない…」という方は、ぜひそちらにアクセスしてみてください。
KC>経営企画室>全グループ会社>05.読書会 -
デジタル庁によるマイナンバーと民間人材の活用は、今のところ、今ひとつの成果。
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ここに出てくる大臣や関係者の話を読んでも、残念ながら、今後、日本で、政府のデジタル化が格段に進展するとは感じられない。まぁ、デジタル化したからと言って、即、改「善」につながる訳ではないので、そもそもの目的によるのだが・・・
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結論としては、ユーザ(官僚)側のITリテラシの不足が支配的で、付随的に、ベンダ側の能力不足、利用者(国民)側の不信感、が原因。
内容的にはよく言われていることかなと思う。地方自治体の標準業務って、細かい差異を除けば全国的に定型なはずなので、韓国のKLIDを真似できたらよいのに、と感じた。第8章の提言はポジショントークの印象。