死にたくなったら電話して

著者 :
  • 河出書房新社
3.62
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本棚登録 : 717
感想 : 120
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309023366

作品紹介・あらすじ

「死にたくなったら電話してください。いつでも」
空っぽの日々を生きてきた男は、女が語る悪意に溺れていく。
破滅の至福へと扇動される衝撃作。
全選考員が絶賛した、第51回文藝賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 浪人生・徳山とキャバクラのナンバーワン嬢・初美との"破滅"へと向かう物語。厭世的な思考の初美の影響で、徳山は徐々に外部との関係を遮断して行き、"破滅"への欲望が強くなる様子が描かれている。物語の最後に徳山が初美との結婚を希望するも、突然「"在日"だから無理…」と言われ、その唐突さに驚かされた。

  • ゆるやかな、ゆるやかな心中の物語。

    意味のわからなかった冒頭の、徳山を見た初美の大笑い。
    読後、その時の初美の心の声が聞こえた気がした。
    「見つけた」「おったやん」と聞こえた気がした。

    結末は描かれていないけれど、ゆるやかに、けれど確実に死にゆく二人が見える。
    尽きない眠りの中、初美はもう徳山を必要としていない。でも、離しもしない。
    いや徳山が離れられなくなっている。
    逃げ道はあったのに。「ない」と思っていたのは徳山だけなのに。

    眼を閉じれば闇。夢も見ない眠り。
    落ちる瞼に抗う理由はとっくに無くしている。

    読んでいる間中ずっと、初美と徳山の、老成されたような言葉・行動に気持ち悪さを感じた。
    この「気持ち悪い」は、この作品にとってはきっと褒め言葉になるのだろう。



    献本企画でいただいたプルーフ版にて読了。
    普段読まないタイプのお話なので、新鮮でした。
    Booklog様、河出書房様、ありがとうございました。

  • 厭世観をメンヘラと切って捨てる事も可能。しかし、この小説には世界中の残虐な記録をコレクションし、民族問題の表層から、所詮人間なんて汚らしく、生きるに値しないという思春期の思索をストレートに表現するような、著者自身の在日としての主張が散りばめられている気がしてならない。登場人物に言わせるからストーリーが時に支離滅裂だが、それも芸術性として、より厭世的な雰囲気を増長している。一歩間違えれば厨二病の所をギリギリで仕上げた素晴らしいアートとでも言おうか。

  • Twitterで読了ツイートが流れてきて、タイトルが気になった一作。
    これはまさに恋愛×地獄小説…キャバクラ嬢の初美と浪人生の徳山がゆっくりと破滅へ向かう物語。

    恋人に趣味や考え方が影響される人って結構いるんじゃないかなと思うのですが、本作の場合はそれが強烈な厭世観だから始末が悪い。
    ラストは、もしかしたら読む人によっては救いが見えるのかもしれないけど、私には破滅に向かっていくようにしか思えませんでした。

    別に重い話ではないのだけど、心が疲れてる時や沈んでいる時に読むと引きずられちゃうかもしれないから、気になる人は心の体力がある時に読むのがおすすめ。

  • 面白かったです。表紙が怖い。
    読んでいると初美にどんどん惹かれてというか引きずられていくのわかる…と思いました。厭世的なのか?とは思いましたが、生きることを緩慢に拒否していくのは羨ましくもあり。
    でもほとんどの登場人物はダメだと思いました。こんな人ばかり周りに居るなら、独りでいいとなってしまいそう。だからって初美も危険ですが。死神みたい。
    「食欲はキモい」というのに同感で…そのわりに、食べ物が美味しそうな小説は好んで読むのですが。自分が食べているのは好きじゃないです。
    読んでお腹がふくれたらな~と思ってます。食事はしているのに拒食症を疑われているのはこういうところなのかも。
    今夜寝て、明日起きなくていい…そんな最期をわたしも望みます。

    「人生経験なんて塵でしかない」
    「妥協して生きて、卑しくなって醜くなんのは絶対に嫌です。あえての全肯定なんて、所詮やっぱりただの全面降伏」

  • 「だって、仕事なんて、どうでもいいですもんねえ? しょうもないもん。そんなんどうでもいい。労働の美しさとかプロ意識とか、そんなんウソウソ。洗脳、洗脳。仕事ができない? ええやん別に。器用不器用だけでその人の価値測られたくないって。ねえ、違います?」

    『追い込めば慌てるし、逃げればちゃんと追いかけてくれる。足を出せば引っかかって転んでくれるし、謝れと言う前にもう平謝りしてくる。これが計算ずくならもはや敬服に値するし、どちらにしろ、ともかく、俺はこの女の剥き出しの神経が心地いい。』

    「不正は方便、法律なんて足枷、自分たちのしていることは国家のためなんだから文句言うな、鬱になるのも過労死も労働者の自己責任、勝手に座るな勝手に休むな勝手に飯食うな、勝手に生きるな勝手に死ぬな、ーーって、そんな具合。いい感じです。いい感じで、最低で下劣です」

    「人類なんてものがいつの世も、どの地域に生まれても、本質的にあまり変わらずに、どいつもこいつもクズばっかりっていうのがこういう本を読んでいるとよくわかります。ていうか、そういうのを読むと私は安心するんです」
    「安心するの?」
    「しますします。雨の日の夜なんか最高ですよ」

    「トラウマとかDV体験とかそんなん、一緒の杖やと思います。心のバネになったり言い訳にもできたり。アクセサリー代わりにしている女の子もいてるし。あと、現代の流行病に乗れている感もある。私にはそれがない」

    「仲間、とか、夢、とか、他人のために生きる、とか、チャリティー精神? 革命? そんなもん、人集めのための宣伝文句、エサ、手段でしかあらへん。まぁ、手段を手段と金づるたちに気づかせないためにはそれこそ本気の演技が必要かもしれんけど、でもその演技に自分自身まで洗脳されてたら、まったく世話あれへん。しかもまさか偉いさんの悠木さんまでそんな自家中毒にかかってるなんて、ホンマ、がっかりです」

    「キャバ嬢やってて、いかにもキャバ嬢ですっていう行動パターンになったりせえへんの?」
    「霊長類ヒト科キャバ嬢属?」
    「ん? まあ」
    「正直に言います。私もやっぱりそのわなからは逃れられへん、とも感じます。私もどっか、買う服とか香水とかのブランドの傾向、会話で使うフレーズとか所作とか、なるべくそこから離れようと意識しているつもりなんですけど、型に嵌まってきてもうてる。最悪、ごてごてのミンクファーのコートとか平気で着るようになるかもしれん」

    「結局そこの型に嵌め込まれる。生きてるかぎり、逃げられへん」
    「どうせ逃げられへんのやったらもう、しゃあないんちゃう? ある程度受け入れたら?」
    「嫌です。妥協して生きて、卑しくなって醜くなんのは絶対に嫌です。あえての全肯定なんて、所詮やっぱりただの全面降伏」

    「とにかく、…幸福は夢に過ぎなくて苦痛こそが現実です」

    「死にましょうよ。心中しましょう。それが私たちの取れる唯一の脱出策です。唯一の、まともなままでいられる生き方。意志と目的と結果が一致してしかも成功の一点がそのまま永遠となる唯一のアイディアです。ね? 心中しましょうよ」

    『手を離すと空気を求めて喘ぐのだがそのときの形相には徳山の見たこともない原始的なものが貼りついていて、理性の光がまったく消えていて、新鮮だった。ひどくみっともなくて新鮮で愛おしい。原型が美しいからこそ余計に破壊的で、ひどくそそられる。』

    「…あんなあ、アホがアホのくせにいろいろ考えても余計にアホな結果になるだけや。アホはアホなりにアホしといて、アホなまんまに生きて死ねばええねん。しょうもないこと考えんなアホ」

    『俺は何を言うとんねん、やめろ、と思うのだがこういうときの口の歯止めが利かないのは自分でもわかっている。わかっていてしかも心の声のほうが断然正しい、ともわかっていて、それでいて自分が止まらない悲しさ。こういうとき、内心との葛藤が際立つせいか、時がスローモーションで流れているように徳山は感じる。かといって、ゆっくりとした時間のなかで落ち着いて自分を修正でにるのでもなく、ただゆっくりとした時間のなかで明らかに間違えている自分を冷静に見るしかない。』

    「だって、あらゆる欲求の綺麗になくなんのが、ある意味、理想やないですか? ー 食欲なんてはっきり言ってダサいし、キモい。食欲はキモいです。性欲も身も蓋もない言い方すれば、みっともないし。どう言い繕おうと言い飾ろうと、見られて恥ずかしいもんなんやし。だから全部涸れたらいいんですよ、涸れたら」

    「黙っといたほうが、よかったです? なんにせよ、隠しとかんと得られへん幸せって、いったい何?」

    「死ぬ、って別に、簡単な話です。泣いちゃうぐらい、ーーああそうなんやね、と腑に落ちる話です ー 今夜寝て、そしてもう明日起きなくていい。そういうの。おやすみなさい。もうなんにも心配せんでいいから。もう、そのあったかい寝床から出てこんでええ。悪い夢も見ません。というか、どんか夢も見いへん。何も見たり聞いたりせん。もう新たな経験を肉体に痛く痛く刻むこともない。いや、怖くないですよ。怖ない怖ない。死んであの世の裁きなんて絶対にないから。誰もどんな説も信じられへんのやったら私の言葉だけ信じて受け取って。ただ眠るだけです。寝ましょう。安心して、ぐっすり寝ましょうよ。いったん寝てしまえばもう、誰も恨まず誰も妬まず、何も恐れず何も嫌悪せず、何ものからも、おびやかかれない。落ち込むことも、落ち込まれることもない。何も感じなくていい。これからはもう、なんにも、感じんでいいの。なんにも思い出さんでいい。未来の心配はない。未来そのものがない。過去の傷も綺麗に消える。すべての傷と、流された血がなかったことになる。歴史がなくなる。宇宙の法則がなくなる。すっかり無になる。素晴らしいことやないですか? この眠りの向こうの世界では、戦争もなければ病気もない、犯罪もなければ迫害もない。騙し騙される不安もない。ただもうぐっすりできる。 ーーねえ、もう休みましょう。こういうのに早すぎるなんてこと、ないですし、もう充分といえば、いつだって充分すぎるほどです」

  • タイトルセンスがものすごくいい。死にたくなったら電話して
    どこか引っかかるものがあって、聞いた事があるような、もしかしたら過去に言われた事あったっけ? と心に残るようなタイトル。

    容姿はいいのだがエリート一家の落ちこぼれ三浪の徳山はバイトの同僚に連れられてキャバクラへ行った。そこで初対面のナンバーワンキャバ嬢、ミミこと初美に爆笑される。文字どおりの爆笑を。美しさと不思議さを身に纏った初美から名前と携帯番号、そして「しんどくなったり死にたくなったら電話してください。いつでも。」とのメッセージ入り名刺を渡される。「いつでも」の箇所にはご丁寧にアンダーライン。

    初美の家の書架には殺人、残酷、猟奇、拷問、残虐、と、おどろおどろしい文字が並ぶ。膨大なちしきりょと記憶力で恍惚と語る「世界の残虐史」を聴きながら異様なセックスに溺れる徳山。ネットワークビジネスの世界にはまっている友人や、長い浪人生活の末に大学生になった先輩友人、バイト仲間たちなど、次々と外部との切断をしていった果ての結末が本当にやばい。
    初美の頭のキレ具合がたまらない。ミステリアスさも妖艶そのもの。ひとりの男の浸食された破滅までの道のりをとても丁寧に描いている。
    読みやすいし、目が離せなくて夢中になる。読者も初美の毒牙にかかるかのよう。新人作家とは思えない素晴らしい出来にめまいがした。第51回文藝賞、素晴らしかった!

  • 破壊力の有る小説。
    最初に浮かんだ感想がこれ。こんなに怖い女性見たことない。
    美人だけど破滅願望があるキャバ嬢「初美」と、流されるままに何処までも流れていく主人公「徳山くん」。
    こんなに影響力のある女性がいるか?と思う反面、彼氏も主体性無さ過ぎとも思うが、二人揃って落ちていく様がリアリティー有り過ぎで怖い。
    お互いに男性遍歴、女性遍歴はある二人がこれほど相手にハマれるのはある意味幸せかも。
    そして二人は「心中」に向かって落ちていく。
    帯に有るが如くこれは十三版「失楽園」なのか?「愛」の究極の形なのか?
    違うんじゃないかな~。渡辺淳一とは明らかに違う愛の形の描き方。凄く新鮮だった。夢に見そう。
    読み返そうとは思わないけど。

  • 献本企画にて。初美というキャラクターが強烈。
    徳山に寄り添っていくようで本当は全く必要となんてしていないんだろうなあ。教祖となるのはこういう人間なのかもしれない。なんというか、思考から支配していく感じ。でも初美自身は無自覚なのかも。最後の「在日」発言は暗示を解くようだった、夢想の世界から現実に引きずり落とすような展開に驚嘆。
    文章はとても読みやすくて、途中で長いと思ったけど、振り返るとセンテンスが明解でわかりやすい。何をどう書き換えたのか気になるから改稿版を読んでみたくなった。

  • 初めて献本に当選。光栄にも読ませて頂きました。
    本年度の文藝賞受賞作です。

    まず、舞台がとてもいいですね。十三という、阪急電鉄の
    中では、おハイソ感のない、大阪らしい、活気と泥臭さと
    曖昧さのある猥雑な街を選んで舞台にしているのが
    素晴らしい。

    徳岡という宅浪生と初美というキャバ嬢が、めまいの中に
    堕ちていくような恋をして、お互い溺れ合ってゆくのも、
    大阪のどこよりも、ここでならありうるかもしれない、という
    リアリティを持って書かれていると思います。

    大阪の言葉も、やりすぎていなくて

    「ああ、こういう喋り方するよな…。」

    と、人物の口吻に、納得するものがあります。

    色っぽく、一緒にいると楽で、そして金の心配をさせなそう。
    そして、入り口は楽そうなのに、謎めいている。

    そういう初美の姿から、男…徳岡は惹かれていきます。

    極めて普通の日常的な恋の初手から入っていったはずが
    当たり前の日常の擬態を纏った異質な日々へと、
    恋人たちを連れてゆく。

    猥雑な街なら、こんなこともあるのじゃないか、と
    読者もまんまと嵌ってゆく、その感じが凄いのです。

    その何気なさが怖いし、刃物のように読者の背筋にきます。
    荒れた言葉遣いがない、しんとした言葉たちから届く
    その感じは、つい私にもう1ページと読み進めさせました。

    二人は死に向かって淡々と官能的で時間の流れのない
    道行きの日々を過ごしていくのですが、初美の家庭環境や
    背景、思惑などは、本当に無彩色で透明な感じ。

    多くの読者様が「見えない」とおっしゃる所以でしょう。

    でも、私は、彼女は徳岡と出逢うもっと前に、それらを
    喪失して、自分でも現実的な手触りで思い出すことが
    出来なくなっていいる女性なのだな、と感じました。

    彼女はもうずっと前に、彼女が朗読した人々のように
    本当は死んでいる、そんな気がするのです。

    生きている感じがしない女、初美はきっと。
    まだ生きて、熱を発している男、徳岡に。

    自分が過去に受けた心理的な「死」に至るまでの痛みを、

    彼に対して語り、性的にふたりで高まって擬似的な死を
    分け合うことで、どうにか現実に留まっていたのかな、と
    思うのです。

    だけどそれだけでは、そのまま生きてはいられない。

    徳岡の方はずり落ちるように閉じた日常に溺れていって
    初美と同じく壊れていきます。

    バイト、友人、受験…彼を現実に繋ぎ止めていたものは
    どんどん彼から剥がれ落ち、彼も自分の日常から
    熱や色、音をなくしてゆく。

    そんな感じがありました。

    何でもない日々も、裏返すとこんなに怖くて。
    ぽっかりと私達を飲み込んでいく。

    虚構だと解っていても、本当じゃないか?と一瞬
    本を閉じる時に思って。

    そしてそのあと我に返り、自分の日常を確認して
    帰って来られた…、良かった…。

    小説って堪らない…と嘆息させてくれる、というのが
    読後に一番感じたことでした。

    車谷長吉さんとか、お好きな方にもいいと思います。

    関西文学の新たな騎手になっていただきたい作家さんの
    登場とお見受けしました。次回作が楽しみです。

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著者プロフィール

1976年、埼玉県生まれ。在日韓国人三世。2014年『死にたくなったら電話して』で第51回文藝賞を受賞しデビュー。2020年『あなたが私を竹槍で突き殺す前に』で第42回野間文芸新人賞を受賞。

「2022年 『あなたが私を竹槍で突き殺す前に』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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