人間の解剖はサルの解剖のための鍵である

著者 :
  • 河出書房新社
3.64
  • (10)
  • (13)
  • (15)
  • (2)
  • (2)
本棚登録 : 303
感想 : 23
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309027081

作品紹介・あらすじ

「人間」ってなんだっけ? ロボット、人工知能、ナッジ、認知バイアス、利己的遺伝子…ポストヒューマン状況に生きる私たちの診断書。

「人間の解剖は、猿の解剖のためのひとつの鍵である」……カール・マルクスの断章をタイトルに借用した本書は、もし人間から学ぶことができる猿がいたならば、その猿は人間の犯した誤りを回避できるかもしれないと考える。コペルニクス、ダーウィン、フロイトによって三度自尊心を傷つけられた人類は、進化と認知にかんする諸科学によって、いま四度目の試練に直面している。主体性と合理性が切り崩された先にある「人間の定義」とはなにか。前著『理不尽な進化』以降の諸論考を集成。稲葉振一郎、大澤真幸、橘玲、千葉雅也、山本貴光との対談・鼎談も収録。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • タイトルの『人間の解剖はサルの解剖のため…』は、カールマルクスによる資本論で用いられた言葉である。ネットで検索し、この句の続きを探してみた。すると「人間の解剖は、猿の解剖のための一つの鍵である。より低級な動物種類にあるより高級なものへの予兆は、このより高級なもの自体がすでに知られているばあいにだけ、理解することができる」とある。逆説!猿が人間のために解剖されるのでは、と思う。まんまと著者の思惑に嵌り、ここから考えてみる。

    我々が理解したいのは人間なのか猿なのか。客体としての事物を理解する手掛かりは、常に人間自身の主観を通じていて、擬人化の罠、ストーリーの後付けをしている。つまり、人間自身を理解する事が対象を忠実に理解する鍵になる。

    本著は言う。人間は他律的であると言うことから完全には自律していないと言う意味でロボットである。遺伝子の複製にしか興味がない、利己的な遺伝子の乗り物に過ぎない。また、この社会にはギャップを引き起こすように巧妙に作られた誘蛾灯がそこかしこにしかけられている。100メートルおきにジャンクフードやスイーツが手に入る。

    つまり、人間は一見、意識して自我を通しているようで、他者や環境プログラミングの存在により既定され、他律的に動き、相対的に物事を解釈し、意味づけている存在に過ぎない。こうした社会的生物としての複雑系において、自他を区別し、認知しているのだろう。

    では、猿は。客体としての猿は、そうしたフィルターを通したアイコンとしての猿。人間に認知された枠内なサルだ。ペットとして飼っている訳でもなければ、大多数の人間にとって「猿」に特別な意味は無い。だからこそ、脳内に再現するサル的イメージが共通言語として機能する。

    人間がプリセットされる義務的・道徳的直観と功利主義的思考を区別しながら双方ともに受け入れる二重思考。第二次世界大戦においてアメリカ兵の発砲率はわずか10から15% 、これは兵士の道徳的直観が殺人行為に抵抗したためである。それが訓練することにより、ベトナム戦争では、90%以上に達した。道徳観も功利主義も社会要求により変化し、人間は変わる。個々に仕事というコマンドを、生存欲求というミッションを満たしながらこなしていく。個々を満たす事で、より高次元の規模の大きな要求が満たされていく。

    全ての生物の反応を登録し、予見しておかねば、全能の世界などあり得ないから、人生にやり直しなど効かない。この反応をある程度、予測してコントロールしようというのが労働である。労働は神による支配を擬似的に再現する。どこに向かうのかは、本著に少しヒントがある気がした。

  • 相変わらずの膨大なブックガイド。1冊読み終えると次読みたい本が50冊増えるという不思議。

    著者が近年関心を寄せている進化心理学、認知心理学、人工知能研究に関するアンソロジー。主題を一貫して論じていくタイプではないけど、読者がその先に思考を走らせるためのTipsが仔細に提示されている。

    びっきりしたのは、大澤氏、千葉氏、著者の鼎談パートで交わされている内容がちんぷんかんぷんだったこと!素人を意識しない研究者の議論って、こんなに前提知識をはしょりながら展開するんだーと垣間見た気分。

    目下準備中という、骨太な主義主張を展開するような次回作に期待でござい。

  • 科学の進化によって、いままで人文系の学問が前提としていた「人間」のとらえ方が揺らいできている。進化論や行動経済学の知見の蓄積、人工知能の発展、功利主義の道徳化など、人間のあり方を考える上で欠かさないトピックについて、網羅しているのが本著だ。

    友だちの実験系の心理学者から人間の認知メカニズムの話を聞くと、やたらと「進化」の話になりがちで、それが不思議だった。本著を読み、いまの科学による人間理解の基礎には進化論があることがわかり、謎が解けた。

    あと、数十年前から人間活動の影響で、地球が地質学的にあらたなステージに入ったという「人新世」はショッキングな考え方だったな。

    現在、人間のあり方を考えるうえでキーとなるコンセプトをうまくまとまめて、そこから問題提起をしている一冊。おすすめ!

  • 著者の他の作品から辿らなければ表題からはあまり手に取る感じはなかったかもしれない。

    評論雑誌を読みこなすカロリーに比べれば題材的にも読みやすく、それでいて昨今の界隈における雰囲気みたいなものも感じられる。

  • ふむ

  • 本の紹介レビューとしては星4つ。筆者の論考は星2つ。平均して星3つ。レビュー本として読めば満足できる内容。

    筆者も書いているように、独自の論考はいいところの寄せ集めにしか見えない。本として読みたいのは筆者のアイディア・視点から事実を再構築する世界観であり、そこが根本的に欠けている。

    逆に他の本の解説はとても魅力的でどれも読みたいと思わせる。筆者の本領発揮である。

  • 対談とかはハイコンテクストで何が問題になってるのかいまいち分からなかった。まあ評論なのだが、各々、専門の人からするとどうなのだろうか。

  • 認知科学(認知心理学、行動経済学、人工知能研究)と進化論(社会生物学、行動生態学、進化心理学)を中心とした評論や書評を集めたもので、ブックガイドとしての価値もある。スタンスは「読まなくていい本の読書案内」に似ており、橘氏との対談も、よくかみ合っている。

    ヘルダーは「人類歴史哲学考」において、自然だけでなく人類の歴史をも神のあらわれとみなし、自然と歴史の発展を統一的に捉えるスピノザ主義的な歴史哲学を提唱した(大村晴雄「ヘルダーとカント」)。

    神話を歴史が自然へと変換されたものとみなして分析する手法は、カントの批判哲学の継承・発展だった。18世紀の批判哲学者は、20世紀において神話学者として生まれ変わった。

    共有地の悲劇は、1968年に生物学者のG.ハーディンが資源管理の重要性を訴えるために唱えたもの。とはいえ、現実の世の中は、町内会から労働組合、国家間同盟まで、人間は種々の協力体制を考案し、維持しており、悲劇を防ぐために様々な工夫がなされている。

    人間の道徳感情は、共有地の悲劇を避けるために発達したものであるため、同じ常識を共有するグループのみ奉仕し、同じ常識を共有しないグループ外には攻撃性となって表れる。ジョシュア・グリーンは、これを常識的道徳の悲劇と呼び、問題の種類に応じて、問題が共有地の悲劇に関わるものなら、感情の道徳的直観に従い、常識的道徳の悲劇に関わるものなら、思考を理性に切り替える二つのモードで対応することを提案する(モラル・トライブズ)。

  • 道徳心理学の原理
    ・まず直感、それから戦略的な思考。
    乗り手(思考)は象(直感)に使える召使い

    昔流行った未来学、今は通信の延長に未来を想像する
    人が作ったAIが残ることは人類滅亡と言わないのでは
    進化論ではなくダーウィンは適者が生き残る

  • 人文書に関する記事がまとまった雑誌みたいな本。

全23件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

吉川浩満(よしかわ・ひろみつ):1972年鳥取県米子市生まれ。文筆家、編集者。慶應義塾大学総合政策学部卒業。書評サイトおよびYouTubeチャンネル「哲学の劇場」を山本貴光とともに共同主宰している。おもな著書に『哲学の門前』(紀伊國屋書店)、『理不尽な進化増補新版』(ちくま文庫)、山本との共著に『人文的、あまりに人文的』(本の雑誌社)、『その悩み、エピクテトスなら、こう言うね。』(筑摩書房)、『脳がわかれば心がわかるか』(太田出版)がある。

「2022年 『人間の解剖はサルの解剖のための鍵である 増補新版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

吉川浩満の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×