くもをさがす

著者 :
  • 河出書房新社
4.09
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本棚登録 : 9093
感想 : 728
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309031019

感想・レビュー・書評

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  • ノンフィクション小説はあまり読まない方ではあるが西加奈子さんであればと思い、拝読。
    扱う内容は癌の闘病ものであるものの、重くはない。もちろん、肉体的にも精神的にも限界なときもあったろうが、西さんがそれを取捨選択しながら、西さんらしい表現に仕上げたのだろう。
    カナダはとても素敵な国で、魅力的に感じたのだが、読んでいると不思議と日本なりの良さも感じることがあった。国民性の違いなだけで、日本人も真面目で、照れ屋で、情深い素敵な民族だと思う。医療も問題は山積みだが、スムーズに受けられる安心感もある。
    正直ノンフィクションの小説に評価をつけるのはしっくりこないが、これまでの作品と相対評価として、★3とした。

  • 周りにがんの経験者や海外に住んだ人などがいなかったため、新しい視点を与えてくれるエピソードが多く、メモの量が大変なことに…。
    例を挙げるなら、カナダの医療制度やバンクーバーの多様性の実態、西洋医学と東洋医学の話や、店と自分の責任の違い、薬物に対する意識、乳首って必要?という話など。

    ただ、カナダと東京の違いで挙げておられる「狭さ」に関しては、東京に限らなければ国内でもカナダに近いところはあるかも?と思う。

    がんになるのなんて誰だって突然のことだし、人ごとじゃないんだよなぁ、なるときはなる、という心づもりはしておくべきかも。と、改めて感じた。

  • 西加奈子さんのカナダ、バンクーバーでの乳がん闘病記。
    西さんは当時44歳。自分で右の胸にしこりをみつけて乳がんを発見します。
    西さんには夫と子どものSと、猫のエキもいます。

    まず始めたのは抗ガン剤治療。
    頭は坊主頭で、体毛もすべてが抜けたそうです。

    62ページより
    日本では全部一人でできたことがバンクーバーでは歯が立たなかった。どれだけ努力しても語学には限界があり、それだけで可能性がうんと狭まった。
    ああ、自分は一人では何も出来ないなあ。弱いなあ。日々そう思った。
    そしてそれは、恥ずかしいことでも忌むべきことでもないのだった。ただの事実だった。
    私は弱い。
    私は、弱い。
    日々そうやって自覚することで、自分の輪郭がシンプルになった。心細かったが、同時に清々しかった。


    そして、西さんは治療中に、夫と子ども共にコロナ陽性になります。
    西さんは言います。
    「勇敢とは思わない。やらな仕方ない」
    そして、胸の全摘手術。

    185ページより
    邪魔すんならGet out of my way
    生きてるだけですごいでしょ
    もうtoksik なのはいらないわ
    つまんないプライドなんてGo away
    作りましょう brand new bible
    型にはまっては息苦しい
    ーZoom guls 「生きているだけで状態異常」

    西さんは「やらな仕方ない」と言って、どんどん治療を続けていきます。異国の地バンクーバで子どもと猫まで抱えて、コロナにも罹患してしまったのにすごく物事の考え方がポジティブに私には思えました。
    私にはとても真似できない。そう思いました。


    西さんにあって私にないものがたくさんありすぎる、と思いました。
    西さんはまず、自立しています。
    そして頼れる友だちも多く、お金も持っています。
    私にはないものばかりです。

    でも、この西さんが書くことでご自分を励ましたという手記を拝読しました。
    ないものは仕方ないけど、あるもので、私もできることはやって今の自分の体の不調を乗り越え自分のやりたいことをできる体になりたいと強く思いました。

  • 例のキャンプである。
    夜に行われたキャンプファイヤー。
    燃え上がる炎と、どんどん燃えていく土台の木を、ひとり見つめていた。
    まるで、死ぬ時に人間が焼かれて、骨だけが残っていく様子に似ていた。
    わたしはその時に思ったのだ。
    自分が死ぬ時に、誰かに骨を、拾い上げてほしい、と。
    強烈に、そう思った。
    全てが燃えてなくなった時、将来の自分や、自分が今考えていることなんかも、全部なくなっちゃったような気がして、それはそれで寂しいような、ちょっとすっきりしたような、不思議な気持ちになった。

    遺伝子として、わたしはがんのサラブレッドだ。
    だから、本作品で描かれている西さんの闘病記は、他人事とは思えなかった。
    特に乳がんは、知り合いも患ったりして、かなり身近ながんだという認識だ。
    朝井リョウさんが深夜のラジオでこの作品を勧めてて、この作品をテーマにしたコーナーなんかもやっていて、さすが作家さんのラジオだな、なんて思ってた。

    がんの宣告や治療の場面はもとより、特に興味深かったのが、カナダの医療と日本の医療との違いである。
    日本の医療制度は整っているとして有名であるし、とても丁寧にケアをしてくれる印象がある。一方でカナダでは、手術しても日帰りだったり、ドレーン(体内にたまった血液等を体外に排出する医療行為)のケアを自分でしないといけなかったり、そもそも医療へのアクセスがとにかく悪い。日本と比較すると、ありえないほど”サービスが悪い”。

    また、「あれ?それ説明受けてないの?今日からその治療だよ?」みたいなことがカナダでは普通にあるみたいで、そうなるに至った問題もどこかにあるはずなのだけれど、それを医者や看護師に訴えても、彼らは謝らないそうだ。(「それは大変やったなぁ」と、話は聞いてくれる。)
    P93「会社や組織を代表して自分が謝る、という観念が、こちらの人にはないのだと思う。何故なら彼らには、彼らの給料に見合った仕事がある。自分達の仕事を全うしている限り、彼らに責任はないのだ。」

    つまり、日本で行われているような”サービス”が存在しないので、患者と医療者は常にフェアなのだ。確かに、日本人のその”サービスを提供しなければいけない感じ”が、日々我々を消耗させ、給料以上に働かされているように感じる。(カナダ人は早々に仕事を切り上げてお酒を飲む。)
    ただ、医療という点においては、「病気の不安」というものが根っこにあるわけだから、日本の医療の対応は我々を安心させ、それが精神的ケアにもつながっているんだろうなと思う。この国の医療を享受できていることに、改めて感謝したいなと思った。

    さらに、我々はまるで、狭い場所に詰め込まれて、せかせかと動き回っている。
    空間を麻痺させる程の大きさの広告、男はかっこよくあらねばならない、女はキレイであらねばならないを押し付けてくるそれらのいきぐるしさ!電車の中でも、常に広告を見せられているだけでいきぐるしいのに、加えて我々はスマホで情報を得まくる。生活にも脳みそにも、空間にも、全く余裕のない、我が国。

    この作品は、単なる異国でのがんの闘病記ではない。
    一人の日本人が、制度や文化を超えて、病気と向き合うことで得られた、かけがえのない体験記である。

  • くもは雲ではなく蜘蛛。
    弘法大師の使いだから、みだりに殺してはいけない。

    そして、自宅での蜘蛛との出会いが、西さんの運命を変えた。

    カナダ・バンクーバーで、しかもコロナ禍で、乳がんの罹患が判明した西さん。検査からがんの宣告を経て、抗がん剤治療、手術、放射線治療を行い、新しい日常を得るまでのエッセイ。

    悲しみが、怒りが、苦しみが、不安が淡々と抑制されたトーンで綴られていて、だからこそ胸を打つ。
    読み終わってしばらく涙が止まらなかった。

    がんを治療している人にとっては、きっと力強いエールとなる、そんな一冊だと思う。

    ♪生きているだけで状態異常/Zoomgals(2020)

  • テレビで紹介されていたのを見ました

    エッセイやノンフィクションは
    あんまり得意ではないのですが、
    がんと闘う話と聞いて手に取りました


    西さんの作品は
    そんなにたくさん読んでいるわけではないのですが
    でも西さんらしい
    ぶわーっと溢れ出てくる感じの作品でした。


    伝えたいことがたくさんあって
    あれもこれもわーっと詰め込んだ!
    っていう感じ。伝わるでしょうか?



    カナダで生活している中、
    それもコロナ禍で、
    がんの告知を受け闘病生活に入る。

    自分では想像もできません。


    日本との考え方の違いや
    制度の違いなど初めて知ることも多かったです


    こういう本を読むと
    あー日本はそういうところあるよなーとか
    だからやなんだよなーとか
    外国はいいなーとか
    いろいろ考えてしまいます。


    でも、いる場所の問題はもちろんあるけど
    一番は自分の気持ちですよね


    自分は日本で生きている
    日本で、前向きに、
    自分らしく生きるしかない。


    人と比べるんじゃなくて
    自分が幸せを感じられる瞬間を大事にしようと
    そういう気持ちにもさせてもらいました



    そして
    西さんはたくさんの周りの人たちに
    助けられながら癌と戦っていましたが
    異国で、これだけたくさんの人たちと
    絆を結べる西さんが凄いなと感じました

    • ginza7さん
      ぶわーっとという感じ、ほんとわかります。
      ぶわーっとという感じ、ほんとわかります。
      2023/07/11
    • どんぐりさん
      ginza7さん

      コメントありがとうございます(^^)

      語彙力がなくて
      こんな表現になってしまいました(ーー;)
      伝わってよかったです!
      ginza7さん

      コメントありがとうございます(^^)

      語彙力がなくて
      こんな表現になってしまいました(ーー;)
      伝わってよかったです!
      2023/07/12
  • 西加奈子さんの本は、いつも力強くてエネルギーが溢れているといった感じがある。

    今作は、彼女の闘病日記なのだが真正面から伝わってくるものがあり、やはり強いなぁと感じた。

    カナダで、癌になったが帰国せずに知人や友人に頼って治療してきた。
    日本とは違う病院での仕組み。
    戸惑いながらも諦めずに声をだし、ひとつずつ乗り切る逞しさに圧倒された。
    日本人には情があり、カナダ人には愛がある。と感じたとか。
    愛はいつも良き心、美しい精神からきてるのに対して、情は必ずしもそうではない…という件に納得するものがあった。

    怖さは、いつまでもついてくるのかもしれないが、彼女には書くことでもう一人の自分が誰より味方しているはずなのだ。


  • この本の中盤に挿入されている西さんの日記に、NHKの和久井アナウンサーによるインタビューを受けたと書かれている記述がある。

    ちょうど、その番組を私は観ていて、なぜか強く印象に残っている。
    カナダからのリモートで取材を受ける西さんはお元気そうで、近著の『夜が明ける』のことを、丁寧に言葉を選びながら語っていた。

    彼女が乳癌治療を受けていたとはつゆ知らず、新刊出たんだ、と思っていただけだったけなので、本書を読んで驚いた。
    そのときには抗がん剤で髪は抜け落ち、ウィッグを被り出演されていたそうだ。

    おそらく、体の不調と不安のさなかにいたであろう西さんは、それでも、日本の若者達を気遣い、自分の言葉を届けようとしていたように見えた。

    本書でのご家族やご友人、医療従事者のほとんどは、まるでドラマのヒーローのようにやさしく、かっこいい。
    それは西さんの愛されるお人柄と、良いところを見つけて見つめる視線の温かさによるものなのかもしれない。
    蜘蛛の巣のように張らされた西さんを巡るご友人たちのネットワークは、光に当たるとキラキラ光って、雨に濡れても美しい。

    そして、西さんは本や歌にも助けられてきた。
    ラストに引用されるのが私の好きな小説『ホワイト・ティース』なのが嬉しかった。
    この小説、内容ほとんど忘れたけれど、この小説のことを思い出すと胸がポッとあたたかくなるのだ。

    西さんの小説、『サラバ!』も同様に、私はとても大事に思っている
    読んだときよりずっと好きになっているような気がする。

    本書の表紙には蜘蛛と雲、両方描かれている。
    「蜘蛛」は亡くなったお祖母様。
    あとがきによると「雲」は、治療中に触れた芸術たちのことかな。

    ノンフィクションであり、海外文学のちょっとしたブックガイドになっているなんて、やるね、西さん。

    本書も、これらの本も、必要としている人に届きますように。

  • また、西條奈加さんと間違えた。
    西加奈子さんの、乳がんの闘病の様子。
    コロナ禍の最中に、しかも、カナダで発症した。
    当たり前と過ごしている、日本の、完璧な医療制度と比べ、カナダの医療は、戸惑うことが多かっただろう。

    私も、同じ、ガンサバイバーである。
    13年前の6月にシコリを見つけ、抗がん剤、手術、放射線治療、分子標的治療。

    その頃、同じ病気の女性から
    「情報交換の為、親睦を深める為」と、グループに誘われたが、どうしても、同病の人たちとつるむ事ができず、断った。

    今も、この作品を手にしたことを後悔している。

  • 普段、作家のエッセイは読みませんが
    発売当初から話題になってたので
    読んでみました。

    異国の地での闘病生活、
    想像以上の大変さが伝わってきます。

    【自分のがんは医者任せにしない。
    自分の身は自分で守る!】
    病気になると医者任せにしている
    自分には耳が痛いです。

    カナダの適当さ、おおらかさ。
    日本のまじめさ、窮屈さ。
    色々と考えさせる内容でした。








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著者プロフィール

1977年イラン・テヘラン生まれ。2004年『あおい』で、デビュー。07年『通天閣』で「織田作之助賞」、13年『ふくわらい』で「河合隼雄賞」を、15年『サラバ!』で「直木賞」を受賞した。その他著書に、『さくら』『漁港の肉子ちゃん』『舞台』『まく子』『i』などがある。23年に刊行した初のノンフィクション『くもをさがす』が話題となった。

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