- Amazon.co.jp ・本 (261ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309204949
感想・レビュー・書評
-
詳細をみるコメント0件をすべて表示
-
シムノンの最高傑作ともいわれる、半ば自伝的な作品。
パリの貧しい家庭に育って後に画家となったルイ・キュシャ。
小柄でおだやかで、あるがままに周りを見ている風変わりな男の子でした。
突き飛ばされてもけんかせず、先生にも言いつけなかったために、ちびの聖者というあだ名がつく。
天才の独特な視点の描き方がなんともいえない感動を呼びます。
手押し車で野菜を売っている母親は明るくて美人だが、シーツで区切ったベッドの向こうにたいてい男を引っ張り込んでいる。
シーツの穴からそれをのぞいている兄と姉といった暮らし。
貧しいながらも個性的な登場人物のそれぞれの姿が、光や空気やにおいの向こうにありありと浮かび上がります。
1965年の作品。
メグレ警部シリーズで有名なシムノンは、1903年生まれ〜1989年没。
ベルギーの貧しい家庭に生まれ、15歳で学校をやめ、パンや本屋などで働き、新聞記者となり、18歳で小説デビュー。
ミステリ以外でも評価が高く、300作以上の小説を書いて世界中で5億冊も作品が発行されているそうです。すごいですね〜!
-
20世紀初頭のパリ。
4歳半の主人公のルイ・キュシャはそれぞれ父親が違う11歳半になるブラディミール、9歳のアリス、7歳の双生児、6か月のエミリー、そして母親の7人でムスターフ通りに暮らしている。
母親は手押し車に野菜を乗せ、市場で売るのを生業としている。
彼女は夜になると家に男を連れ込む。
男は一晩だけのときもあれば、一か月ほど滞在するのもいる。
タイプも職業もまちまちである。
ルイは年齢の割に小柄であまりしゃべらない無口な子で常にうっすらと微笑んでいる。
なぜなら、彼には嫌いな人がいないから。
家にいるときには、いつも窓辺に座って通りの景色や色彩、人々の印象を眺めているのが好きである。
小学校へ入学したルイはある時、兄から貰ったビー玉を学校の上級生から取り上げられる。
殴られても教師に告げ口せず、とうとうルイは上級生にビー玉を差し出す。
以来、彼は『ちびの聖者』と呼ばれるようになる。
ブラディミールは品物を盗んでは藁蒲団に隠し、双生児は家出を繰り返す。
アリスは父親が誰かわからない子供を身ごもる。
ルイは学校へ行く前に母親と市場へ行き、仕事を手伝うようになる。
その後、ルイは絵を描くことに興味を示し、やがて画家になる。
「おまえは笑わないね。幸せかい、ルイ?」
「とても幸せだよ、ママ」
「他の家に生まれたほうがよかったんじゃないのか? 足りないものは何もないのかい?」
「ぼくにはママがいる」
-
パリ下町の貧民街と中央市場を舞台に、無垢で繊細な少年が、無理解と暴力に穏やかに向かい合い、ついには人々の賞賛を集める画家に成長して行く過程を描き、「ニューヨーク・タイムズ」がシムノンの最高傑作と折り紙をつけた作品。