105歳の料理人ローズの愛と笑いと復讐

  • 河出書房新社
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感想 : 12
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  • Amazon.co.jp ・本 (344ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309206820

感想・レビュー・書評

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  • 2012年、フランス。マルセイユでレストランを営む105歳のローズは、一通の手紙をきっかけに自らの生涯をノートにしたため始める。ローズは20世紀初頭にトルコで生まれ、8歳のとき、アルメニア人だというだけで家族を殺された。美貌を見出されて小ハーレムへ連れていかれた彼女は、その後も数奇な運命に導かれながら生き延び、ついにフランスでレストランを開く。折しも大戦中、パリに侵攻してきたナチスの親衛隊長官ヒムラーに見初められ、彼の専属料理人になったローズだったが……。歴史に翻弄されながらもしたたかに復讐を遂げてきた老婆の一代記。


    正直、ジャーナリストが書いたっぽい小説だなぁと思ってしまった。回想体でローズがあえてドライに振り返っているのはいいのだが、会話なども少ないため、各キャラのことを何も知らないうちに退場していってしまうという印象。手紙の謎や復讐殺人もミステリー的な意味では効いてこないし、可視化されたローズの良心である山椒魚のテオも存在感が薄い。
    断章と呼べるほど短い章の区切りで、すべてがスピーディに過ぎてゆく。この構成を105歳に達したローズの体感であり、運命に対する皮肉として受け入れることもできるし、嫌いではない。けれど、どうしても読んでいてルポじみたもの、資料を読んでいる感覚が抜けず、それでいてリアリティにも肉薄するものはないと思ってしまった。
    よかったのは、ローズが大の男好きで105歳の今でもティーンの少年に欲情したり、不倫した過去があったり、間接的に夫と子どもたちを殺したと気付きながらもヒムラーに魅力を感じたりするところ。この手の造形は作品によっては主人公を"上品にしすぎない"ためのわざとらしい設定と感じることもあるが、ローズの肉欲に対する素直さはなぜかはよくわからないけど好ましかった。人間が大好きなのに大事にしきれない、その矛盾に語られない悲しみを感じるからかもしれない。
    重たいものを軽く話そうとするローズの語りは魅力的で、フランスにおける反ユダヤ勢力の様子なども勉強になる一冊だった。

  • タイトルを見て、フランスのおばあちゃんシェフが料理にまつわる人生エピソードをほのぼの語っていく…みたいな内容を想像していたら全然違っていました!裏表紙をちゃんと見れば良かった、いいイラストいい装丁ですねこれ。
    アルメニア人ジェノサイドからドイツホロコースト、文革まで経験しながらも、復讐で己を保ち105歳まで生き残ってきたローズおばあちゃん。しかし文革は駆け足すぎて、世界六代悲劇のうち三つまで入れる必要あったのかしら。とは言え過去の悲劇から人間はいつ死ぬか分からない、だからこそ今この瞬間をこの瞬間しかないと思って生きるという思想が、温く生きている現代人の私にはそれなりに刺さりました。

  • 文学

  • 20世紀の大量虐殺事件で次々と家族を奪われ、だけど復讐すべきろくでなしにはきっちり落とし前をつけて生きてきた、かつてのとびきりの美女で、腕の立つ料理人でもある、ただ今105歳のおばあさんの一代記。「フォレスト・ガンプ/殺戮の20世紀編」みたいな感じ(なんだそれ)。

  • 正直に書きます。途中まで”実話”だと思って読んでました。見事に20世紀初頭の欧州の出来事(アルメニア人虐殺、第一次世界大戦、ビシー政権、ナチスによるユダヤ人虐殺、中国共産党の大躍進政策)が織り込まれて引き込まれ、続きが読みたくてたまらなくて少しでも時間があれば読み続けてた。一章が短いので読みやすく、冒頭に時と場所が記されるので時と舞台を迷わずに読み進められる(地図があればもっと良かったんだけど)。人間の3大欲求の中の食欲と性欲を武器に理不尽な世界の流れの中で戦い抜くローズの行動は恐ろしくもあるけどその背景の悲劇と表裏一体だと考えると悲しくもある。
    できれば中東と南アメリカにもローズを行かせてあげてほしかったな。中東紛争や南米のゲリラと期して動くローズが見てみたかった。チェ・ゲバラにローズが料理を出してたら素敵だったのに。

  • アルメニア人というだけで家族を殺された悲しい過去を持つおばあさんの人生を描いた一冊。美貌と料理を武器にして生涯を生きていく様子は、たくましい。現実でも現在も続く人種による差別。人種問題についても考えさせられる。

  • 最初のページを読んで、引きずり込まれた。
    壮絶な体験をして、1世紀を生き抜いた女性の話である。

    何と言って良いのか、幼い時に両親を殺され、今の難民状態より、過酷な試練の末、結婚へと、、、、
    それも、ユダヤ人と言う事で、最愛の夫も子供達もナチスの収容所へ行って殺されるのである。
    唯一、養父母だけが、彼女の救いだったのでは、、、、と、思う。
    色々愛情の表現が出て来るが、とても、戦争と、紛争の中尋常でない事で、命をながらえて来たのには、凄いとしかいいつくせない。
    愛情が深ければ深い程、憎しみが湧き、ペットの山椒魚テオをよりどころにしながら、話を進めて行くところが、少し、重たい話を和らげてくれている。

    先日、難民問題の「揺れる移民大国フランス」という本を読んだばかりであった。
    ユダヤ、アルメニア、ツチの人々が、虐殺され、共産主義者、反共産主義者、全体主義者、反全体主義者、宗教問題、の大量殺戮。
    国の政治により飢饉。
    ヒットラーの代2時世界大戦の犠牲者6000万人。
    その他に、スターリン、毛沢東も、数千万人者死者を増やした。
    主人公、ローズは、フランス、ドイツ、アメリカ、中国と、いろんな国々をめぐり、そして、深い読書感からも、そして、料理についても、才能を発揮している。
    100年の歴史は、誰も知りえない歴史であり、ドキュメントである。

    ローズさんの生きている間に、平和な世界をと、願うのに、去年のパリの同時テロに続き、先日のベルギーでも、沢山の被害者が出た。

    憎しみ合っても、答えは出ないのに、近代世界になっても、争いは尽きないものなのかと、残念に思う。

  • 105歳、女料理人の自叙伝の形をとった小説。壮絶な体験を淡々と振り返る。「引き寄せの法則」の影響で、マイナスな言葉や思考を使わないよう心掛けていて、若干お花畑状態な私の脳がローズおばあちゃんの生き様にごつんとやられた感。そんな甘っちょろくないよお嬢ちゃんと。憎しみとか復讐とか負の感情を糧として堂々と生き抜いてきたローズの図太さ。そうならざるを得ない状況であったというのはもちろんある。「ショーシャンクの空に」とか「夜と霧」とか?パッと例が思い浮かばないけれど、極限状態をまさに正攻法の前向きさで生き抜く人もいたわけで(そういう文学作品もあって)、「生きる希望」を正負どちらの切り口で見いだすか、人間にもいろんな心のサバイバル法があるのだなと思った。それにしても自分以外全部失った、むき出しの人間って強いと思った。私はそんな強くなれそうもないから、やはり正攻法のプラス思考を目指した方がよさそう。そしてやっぱり「復讐」の仕方に賛否があると思うので★一個マイナス。

  • 歴史に運命を翻弄された主人公ローズの一生。
    幼いころに家族を虐殺され、成人した後も夫と家族を殺され、、、とかなり過酷な人生を歩んでいるにも関わらず、決して屈せず、食欲と性欲を武器に大胆に生きる。
    文体もこの主人公らしく、ぶっきらぼう。本能のままに、動物的感覚で生きている。経験から体得した持論は独特でおもしろく、それ故に知識人や文化人との交流が多いのだと想像させる。
    特にひきつけられたのは、ヒムラーとの件。本当の話?とやけにリアルで秘密めいた雰囲気にどきどきしてしまった。
    激動の歴史と共に生きた、というか歴史を作った人物の側にいつもいたローズの人生は、とても刺激的でたくましい。まるで世界史のB面を見ているような心地になる。
    ひとりの人生を描けば、必ずおもしろい物語になるけれど、ここまで歴史に沿った生き方をする人の一生は、普通の人の何倍も刺激がある。
    現在でもシリア難民の問題があり、主人公と同じような運命をたどる人がいるという現実。出版されるべく出版された本のような気がする。

  • ローズは105歳の今も現役で厨房に立つスーパーおばあちゃん。8歳の時、アルメニア人大虐殺で家族を皆殺しにされてから、殺戮の20世紀を、美貌と料理の才を武器に生き抜いていく。

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