滅ぼす 下

  • 河出書房新社
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感想 : 17
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  • Amazon.co.jp ・本 (344ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309208886

感想・レビュー・書評

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  • 「何が何でも物語作品が必要である。自分以外の誰かの人生が語られていなければならない」

    これは物語終盤、主人公がある危機に陥るが、「読書」によって一時的に絶望から救われる場面。

    あまりにも絶望的?な本筋とはすこし離れるが、
    ウエルベックの読書に対するポジティブな考え方が集約されているような気もして、無性に嬉しくなった。

  • 著者のウェルベックは「鬼才」と呼ばれることもあるようで、個人的には物語の主題、伝えたかったことが読み切れなかったように感じた。50歳前くらいの主人公ポールの周囲の出来事、それらを通じて悩んだり、自分自身を振り返ったり、妻のプリュダンスや父をはじめ、人との関係を考えていく。宗教や、輪廻転生の話題も上がるが、それも主題を構成する要素の一つでしかないよう。

    上巻の冒頭に起きたサイバーテロは、下巻の途中では多くの犠牲者が出る事件も。治安総局DGSIは、ポールの父が倒れる前に作成した資料から捜査を続け、グループや目的は突き止められないまでも、次の事件を予測することに成功。そこから先は触れられず。本筋ではないと分かってはいたが、ちょっと残念。

    以前に興味を持ったが読んでない「地図と領土」はウェルベックの作だと知った。他には「素粒子」が有名らしい。機会があれば読んでみたい。

    なお、上下巻のカバー画に惹かれたことも、この本を手に取った理由だが、これは日本版オリジナルのよう。引地渉さんというイラストレーターの作。

  • 巧妙なフェイク動画の謎は、船を沈めたテロリストの正体は、正五角形と五芒星の意味は、ポールの父親のメモの真意は…すべての伏線は一体どこに行ってしまったのか?
    下巻の半ば以降は、ポールが患った病を通して生の意味を問う、ひたすらそんな類の描写に尽きることに、いささか面喰らい、そして肩を透かされた思い。
    性描写がここまで必要なのかどうかも、私には分からない。
    惹句にあるように、リーダビリティが高いことは認めるが、カタルシスを得ることはなかった。

    「フリードリヒ二世は愛犬のそばに埋葬されることを望んでいた。邪悪な種である人間にかこまれて眠らなくていいように。」
    「森は、生命の本質であり、闘いも痛みも知らない、穏やかな生命である。永遠を思い起こさせることはなく、それは問題ではなかったが、我を忘れてじっと眺めていると、死はそれほど重要ではないと思われてくるのだった。」

  • ミステリー系かと思っていたら全然違った。
    人種差別、性差別、階級思想などが見え隠れする表現に共感できず、がっかり。

  •  日々、仕事や生活、娯楽に追われて気にもとめない「死」について考えさせられた。ニュースでは毎日自殺、殺人事件、有名人の病死など様々な「死」が報道されているが、我々はこの「死」というものにもう少し真剣に向き合う必要があるのではないか、「死」を軽んじてはいないだろうか、そんな気持ちにさせられた。

     フランス革命や世界大戦を経て大勝利を収めた「大衆」の中で居場所を失ったエリートの絶望が描かれているわけだが、そんな「大衆」の支配する世界も暴力により滅ぼされてしまうのではないか、そんな不安がタイトルに表れているのだろうと思った。

  • 滅ぼす 下

    こんな気持ちになるとは思ってもみなかった。愛と肉体はいっしょのようでも異次元にいさせたいから愛には来世を夢想させるのかな。プリュダンスとマドレーヌとセシルは女神みたいで悲しみも言葉も慎しみ深い。

    死について。インディーに取り憑かれた人生。インディーはまさに悪魔的でオーレリアンにとっては不幸。自死を書くウエルベックには驚きと落胆で腹立たしさも湧きでた。しかし、その後のポールとブリュノに"バカげている死"と言わせている。はっきりと。オーレリアンを"バカげている"と言わざるをえない悲しみには複雑な感情が身体を駆け抜けている。
    そして父もポールまでも死と向き合う。"滅ぼす"とはテロや戦争や大統領戦ではなかったのか。自分の身体の生命が主体なのだ。
    終盤の生へ向かう輝きは神々しい。

  • もはや一種の黙示録とも呼べる文学作品を作り続けているフランスの鬼才、ミシェル・ウエルベックによる新著であり、過去の作品と比べても単行本上下巻という大著。

    個人的に新著が出たら、迷わずに買うことを決めている現代作家の一人がウエルベックなのだが、迷わずに買ったことを全く後悔しないほど完成度高く魅惑的な作品であった。

    ウエルベックの作品は登場するテーマや意匠に強い共通性がある。デビュー当初は、カルト宗教やセックス/性の問題に始まり、ここ10年ほどは極めてアクチュアルな移民問題やテロリズム、資本主義の限界など政治・経済学的な側面が強まっている。本書はまさにウエルベックを構成するであろう様々なテーマ・意匠が総動員されることで、作家自らの代表作といって過言ではない文学世界が構築されている。

    正直、圧倒的な物語の面白さはありつつも、その陰惨たるテーマ・意匠の連続によって読み手の体力を著しく奪う書物に仕上がっている。そのような辛さを味わってでもなお先を読み進めたいという中毒性を与えてくれる作品というのは非常にレアであり、その黙示録的な現代社会の救いのなさの前でただ佇むことしか私にはできない。

  • 下巻は一転して 主人公を中心とした家族と愛の物語

  • 上よりサクサク読めた。大きなストーリーではなく、個人の物語と集約されていくのは面白かった。テロの話とか全然解決されてないけど人生そういうもんだよね

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著者プロフィール

1958年フランス生まれ。ヨーロッパを代表する作家。98年『素粒子』がベストセラー。2010年『地図と領土』でゴンクール賞。15年には『服従』が世界中で大きな話題を呼んだ。他に『ある島の可能性』など。

「2023年 『滅ぼす 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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