- Amazon.co.jp ・本 (154ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309410913
作品紹介・あらすじ
昭和二〇年八月六日、広島は雲ひとつない快晴だった-東京の女学校に通う十五歳の珠紀。戦争の影が濃くなるなか、友人たちは次々軍人に嫁いでゆき、珠紀は従弟の担任教師と結婚する。だが突然、夫は軍に志願したため、二人で過ごせる時はたった一週間しかなかった。珠紀は姑と暮らすため広島へ移り、やがてその地で運命の日を迎えることに…。少女たちの目から原爆を描き話題となった名作。
感想・レビュー・書評
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昭和16年から原爆投下の日まで、女学生珠紀の何気ない日常を、彼女を慕う4歳年下の従弟との交流を織り交ぜながら描いていく。
戦時下の市井の人々がただ凄惨な日々を過ごしたのではなく、不自由ながら小さな喜びを見つけて一生懸命生きていたんだとつくづく思う。
だからこそ、一瞬でその日常を奪った空襲や原子爆弾の理不尽さが際立つ。
鹿屋から(鹿屋へではなく)出発する市岡や、広島市内で原爆の犠牲となったであろう史郎が最期に珠紀に会いにきたことが切ない。
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最後まで核心を書ききらず、またそれがより効果的になってる。私にも帰ってくるあのこの姿が見えたよ。
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原爆とかどうとか関係なく、珠紀と史郎の心の交流が美しかった。これが、年下萌えなのか…?とも思ってしまったり。
原爆で死んだ史郎が最後珠紀に会いにくるシーンが、なんとも悲しい。
市原さんのことは結局よくわからなかったな。当時の若い青年の戦争観なのだろうか。
「突然消えてしまう」ように見える乗組員のように、突然消えた史郎。肉片になって敵の甲板じゅうに飛び散らずに、彼の肉体はどこへ行ってしまったのだろう…。
珠紀は毎年八月六日、白玉の泡蒸しを作って彼を思うのだと思う。 -
とても悲しい、怖い出来事。
それを、直接的な恐ろしい描写ではなく、
でも、悲しくさせられる本でした。
九州大学 : 花 -
河出文庫は昔のサラサラとした手触りの表紙の方がよかったなぁ。
表紙の淡い色彩によく合ったろうに…と思ったり。
あからさまには書かれないことへ思いを馳せて、しみじみと哀しく。
序盤の少女特有のきららかさが好ましかっただけに余計に。 -
何を描いても、長野まゆみは長野まゆみだ。道具仕立てが素敵だ。
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去年手に入れたまま読んでいなかったので、思わず手にとった。この時期になると避けて通れないといつも感じる。筆者独特の雅で高貴と感じさせる品のいい文章。日本語はこんなにも豊かだと示してくれる。
興味深いのは、直接的には何も書かれていないことだった。市岡にしろ、史郎にしろ、ただ珠紀に姿を見せにやってくる、その健気さが読み手にたまらなさを募らせる。
(20130818) -
単行本の刊行は1995年ということですので、
戦後50周年の企画として描かれたお話なのかもわかりませんが
ただ勢いに乗って書いたという風ではないので安心して読めます。
(あとがきを読んで納得です)
細かい情景の描写と麗しき少年の描写はさすが長野さんだなと思いました。
よくある日常の中に何気ない顔をしてぐいっと入り込む戦争の冷酷さが
ひしひしと伝わる異色の作品でした。