八月六日上々天氣 (河出文庫)

著者 :
  • 河出書房新社
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感想 : 25
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  • Amazon.co.jp ・本 (154ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309410913

作品紹介・あらすじ

昭和二〇年八月六日、広島は雲ひとつない快晴だった-東京の女学校に通う十五歳の珠紀。戦争の影が濃くなるなか、友人たちは次々軍人に嫁いでゆき、珠紀は従弟の担任教師と結婚する。だが突然、夫は軍に志願したため、二人で過ごせる時はたった一週間しかなかった。珠紀は姑と暮らすため広島へ移り、やがてその地で運命の日を迎えることに…。少女たちの目から原爆を描き話題となった名作。

感想・レビュー・書評

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  • 再読。投下の瞬間を詳しく描かないことで、かえって大きな喪失が迫ってきます。
    史郎が原爆投下で喪われ、市岡先生も実は鹿屋「に」ではなく鹿屋「を」立つだったんじゃないかと思ったりします。どちらも、最期に珠紀に会いにきたのだと。
    出来るだけキラキラとした日常を送っていても、戦争の影はひたひたと迫ってきて、終戦近くにもなると空襲という牙を剥いてくる。
    どちらが先とかではなく、こうの史代さんの「この世界の片隅に」とも似ている物語世界だと思いました。空襲の描写、長野さんも色遣いが特徴的でしたし。
    珠紀はきっと広島市といっても海側の中心部からは離れた内陸部にいて、すずがいるのは呉。原爆投下は光と振動だけで、、
    焼夷弾、油が降ってくるのは薄っすら存じていましたが改めて怖い兵器です。白く烟るように降る雨の如き激しさで。。

    長野さんのあとがきでいつも長野さんのお父さまのことを考え…母方の祖父の弟の事も思い出してしまいます。叔父は8月9日に長崎にいました。幸いなことに生きて帰ってきたのでそれから長生きしてました。もしかしたら叔父も、何も語れず(語らず)いたのかなと思います。叔父一家だけかなり離れたところで暮らしていたのでほぼ会ったことがなく、そんな話する機会もありませんでした。
    こうやって、先の大戦は遠くなりましたが、こういう作品を読んで反戦を染み込ませていくのは続けていきたいです。

  • 昭和16年から原爆投下の日まで、女学生珠紀の何気ない日常を、彼女を慕う4歳年下の従弟との交流を織り交ぜながら描いていく。

    戦時下の市井の人々がただ凄惨な日々を過ごしたのではなく、不自由ながら小さな喜びを見つけて一生懸命生きていたんだとつくづく思う。

    だからこそ、一瞬でその日常を奪った空襲や原子爆弾の理不尽さが際立つ。
    鹿屋から(鹿屋へではなく)出発する市岡や、広島市内で原爆の犠牲となったであろう史郎が最期に珠紀に会いにきたことが切ない。

  • 最後まで核心を書ききらず、またそれがより効果的になってる。私にも帰ってくるあのこの姿が見えたよ。

  • 原爆とかどうとか関係なく、珠紀と史郎の心の交流が美しかった。これが、年下萌えなのか…?とも思ってしまったり。
    原爆で死んだ史郎が最後珠紀に会いにくるシーンが、なんとも悲しい。
    市原さんのことは結局よくわからなかったな。当時の若い青年の戦争観なのだろうか。
    「突然消えてしまう」ように見える乗組員のように、突然消えた史郎。肉片になって敵の甲板じゅうに飛び散らずに、彼の肉体はどこへ行ってしまったのだろう…。
    珠紀は毎年八月六日、白玉の泡蒸しを作って彼を思うのだと思う。

  • 夏なので夏っぽい長野まゆみ作品を再読しようキャンペーンそのご。今他に読みかけが2冊ほどあるけど、これは日を選んで読んだよ。

    久々すぎてほとんど話憶えてなかったんやけど、改めて読んだらめっちゃおもしろかった。こういう時期のこんな日常がこんなに語られるのってあんまりないんじゃないのか?いや戦争モノ好きじゃないけんあんまり読まんくて知らんけど。
    一番衝撃やったのは、特攻隊員進発の記事が女性たちに嘆きや悲しみ以上の興奮を与えたっていうところ。興奮てどういう興奮なんやろか。こんなの語られることないんやろうけど、戦争ってわたしらに知らされん一面が絶対あったはずよ。

    6日の描写もあっさりしているようですごくドラマチックで素敵ですよ。それから、夫も史郎も会いにきてくれる珠紀はみんなに愛されているなあと思う。
    でも、史郎せつないのうーーー

  • とても悲しい、怖い出来事。
    それを、直接的な恐ろしい描写ではなく、
    でも、悲しくさせられる本でした。
    九州大学 : 花

  • 河出文庫は昔のサラサラとした手触りの表紙の方がよかったなぁ。
    表紙の淡い色彩によく合ったろうに…と思ったり。

    あからさまには書かれないことへ思いを馳せて、しみじみと哀しく。
    序盤の少女特有のきららかさが好ましかっただけに余計に。

  • 何を描いても、長野まゆみは長野まゆみだ。道具仕立てが素敵だ。

  • 去年手に入れたまま読んでいなかったので、思わず手にとった。この時期になると避けて通れないといつも感じる。筆者独特の雅で高貴と感じさせる品のいい文章。日本語はこんなにも豊かだと示してくれる。

    興味深いのは、直接的には何も書かれていないことだった。市岡にしろ、史郎にしろ、ただ珠紀に姿を見せにやってくる、その健気さが読み手にたまらなさを募らせる。

    (20130818)

  • 単行本の刊行は1995年ということですので、
    戦後50周年の企画として描かれたお話なのかもわかりませんが
    ただ勢いに乗って書いたという風ではないので安心して読めます。
    (あとがきを読んで納得です)
    細かい情景の描写と麗しき少年の描写はさすが長野さんだなと思いました。

    よくある日常の中に何気ない顔をしてぐいっと入り込む戦争の冷酷さが
    ひしひしと伝わる異色の作品でした。

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著者プロフィール

長野まゆみ(ながの・まゆみ)東京都生まれ。一九八八年「少年アリス」で第25回文藝賞を受賞しデビュー。二〇一五年『冥途あり』で第四三回泉鏡花文学賞、第六八回野間文芸賞を受賞。『野ばら』『天体議会』『新世界』『テレヴィジョン・シティ』『超少年』『野川』『デカルコマニア』『チマチマ記』『45°ここだけの話』『兄と弟、あるいは書物と燃える石』『フランダースの帽子』『銀河の通信所』『カムパネルラ版 銀河鉄道の夜』「左近の桜」シリーズなど著書多数。


「2022年 『ゴッホの犬と耳とひまわり』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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