薄情 (河出文庫 い 40-2)

著者 :
  • 河出書房新社
3.36
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本棚登録 : 313
感想 : 45
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  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309416236

感想・レビュー・書評

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  • 実に地味な話。
    閉塞した状況に縛られていながら心は自由みたいなことなの?いまいちピンとこないけど読みやすかった。
    掴み処が無いというか見つからないと云うか。

    以下Amazonより
    他人への深入りを避けて日々を過ごす宇田川に訪れた、ある出来事。土地が持つ優しさと厳しさにそっと寄り添う傑作長篇。

  • かれの前をいろいろな人と出来事が通り過ぎていった。「淡々とした自分に戻ることができればそれでよかった」というかれはでも、間違いなく変化を経ていた。

  • 読んだのがたぶん去年なので(どれだけ置いておいたんだ 笑)うっすら忘れかけている部分もあるのだけど…悪い言い方をすればとても地味な雰囲気の小説。だけど妙に心にずっしりと来る。
    地方都市の狭さとか(人間関係の密接した感じ、噂がすぐに広まる、等)は似たような街に住む私もよく分かる。時には助けになるけれど、一方でものすごくうんざりするときも多い。都会ではなく、本当の田舎でもない。そういう独特の狭さの街。

    この、薄情というタイトルがどういうところを指しているのかは、作者ではないから分からない。主人公はある意味で至って普通の青年だ。つかず離れずの人間関係を形成しながら、必死ではないものの日々食べていける程度に働いて、彼女が出来たり、そして別れたりする。
    そんなどこにでもいる青年。それこそが、薄情、を体現しているのかも、とは思った。全体的に希薄な感じが。
    書きながら思った。身近にもこういう人がいる、って。

  • なんというか、しみじみとよかった、という感じ。
    文章に淡々としたユーモアがあって、するする読める。
    すごく大きな事件とかはないんだけど、でも読みながらなんとなく、人間関係とか人生とか日々の暮らしとか、いろいろ考えさせられる。ラストには希望のようなものがあってさわやかな感じもして。好きだ。

    主人公は、30代男性、将来は神主の職を継ぐことが決まっていて、群馬県の実家で暮らし、ヒマなときは農家の住み込みのアルバイトしたりとか、基本、ふらふらっとしてる感じで。基本、淡々と生きてる感じで。
    自分にはなにかが欠落してると思っているけれども、最初からなかったものは、そもそもなにがあったのか、なにがあるべきなのか、わからない、とかいってるのには、なんかわかる、と思ったり。

    地方で生まれて育って暮らすっていうのはこういう感じなんだなあとも。
    舞台になっている高崎とか群馬の温泉とか、行ってみたくなる。日本の地方のどこかが舞台の小説っていいな、と思った。

  • 読書開始日:2022年3月19日
    読書終了日:2022年3月22日
    所感
    北関東、東京へ行こうと思えば行けるくらいの立ち位置。
    この立ち位置も、宇田川のうだつのあがらなさを助長させていたのだろう。
    行動すればなにかが変わることも、
    行動できない理由なんか一つもないことも、
    心のどこかで自覚しながら、日々を怠惰に過ごす。
    自分と対極の鹿谷の自由生活に触れ、その人生の疑似体験を行うも、
    どこかで鹿谷の失敗を望んでいた。
    自分のしがみついた安定が間違っていないことを、実感したかった。
    みずから実感を掴みに行くのではなく、その実感が来るのを待っていた。
    ここにも、宇田川の弱さが出る。
    鹿谷がいざ失敗をすることで、気づけば自分は毒に侵されていると知る。
    自覚があったからこそ、横須賀の見舞いできっかけを得、ヒッチハイカーを拾ってあての無い遠出をするという行動に出れた。
    なにに対しても無気力で、自分の生活、凝り固まった思考にしがみついた、薄情な宇田川が色づいた。
    過去が過去になっていくのを感じる。これはいい文だなと思った。
    瑞穂に対して「勝手な投影」と言い非難した宇田川がすぐさま自分もみずほに対して「勝手な投影」をしていたことにに気付いたシーンは、
    かなりきつかった。
    こうなると折り合いをつけるしかなくなる。
    欠落してるからこそわからぬ俺の欠落。
    W田中の鏡の話が思い起こされる。


    さくい
    ヘルパーツバメ
    〇〇ではどこに日が沈む、どこから日が登る
    ミレイちゃんのお父さんお母さんに会いに来たわけではなかった。俺は粟井という人間に会いに来た
    あまりものを言わずに暮らしていると客観性を失う。自分の都合で考える癖がつく。
    鏡、見えないものを大事にしていれば大丈夫。
    子供と大人は見えているものが違う。興味ベース
    怜悧
    似合う、そういうのが夫婦だ
    お相伴
    宇田川=密度
    欅は八年くるい続ける???
    自己憐憫で腫れ上がった彼女の目
    投影=宇田川も=鏡
    欠落してるからこそわからぬ俺の欠落
    ショックで寝込むなんて全部終わってからにしろよ
    いつからおれは裁いてんだ
    俺を選べばこんな間違いはおきなかった。でもそういうのはえらべない
    ルームミラーに移した自分の顔は笑っていた
    鹿谷さんのアトリエに通うものはみな、弱い毒が蓄積していた。それは自分自身を認められないことによる、狭く濁った視野からくる毒。鹿谷さんと過ごす時間によって、自分が広い視野を持つ擬似体験をするが、結局は擬似。どこかで弱い毒が、仕方に失敗しろ、地元にしがみつく安心こそが正義と叫ぶ。
    安定は求めるものでしがみつくものではない。弱い毒が蓄積する。
    過去が、たしかに過去になっていくのを感じた

  • もっさりヘラヘラした主人公だけど、「あーあるある、こういう感情!」という場面が多々描かれてるから嫌な主人公という印象にならなかった。もっさりしてるけど。

    「当たり前」のように毎日同じ生活してて、ふと全然違う行動したくなる衝動とか、夜の田舎道を運転する何とも言えない孤独感?ワクワク感、スリルみたいなものを思い出す。ここではないどこかに行きたい気持ち。

    歳をとると薄情が当たり前になってたけど、人間同士の感情の複雑さを嫌な部分も含めて明るみにしてくれた感。

    あとは、田舎道ドライブしたくなる。さすが絲山秋子。BGMはくるりのハイウェイとかいいな。

    映画化したらどうなるんだろう、と妄想したけどどうにも主人公が私の中でもっさりイメージなので華がないかもなぁ。でもきっと景色は綺麗そう。

  • なんか、ずっとざわざわしてたの。

    景色や光の描写もストンと入ってこなくて何度も戻った。

    「宇田川、おまえ大変だな。」
    って、彼の状況ではなく思考に対して感じていたせいか。


    そしてそして、堀江敏幸さんの解説を読んで、何度も、
    「はっ!」
    ってなる。

    ダメだなーオレは。


  • 「薄情」読了。絲山秋子の小説は多くが核とした筋がないように思う。たゆたうようにゆらゆらと、しかし、そこに人の心があり、読者はそこに惹かれる。
    第52回谷崎潤一郎賞(中央公論新社主催)

  • 地元に対する関わりを失いつつあるけど、そういった周りの人との付き合いの輪というものはどうしても切り離せずにあったりするかもなって感じ。

  • 主人公・宇田川がいう、「かけ算で0になる関係性」というのは、都会にもありますよね。
    ただ都会では、そういう関係性も社会生活のなかに紛れて、なんだかそれはそれで危うい孤独という形で成立しているんだと思うのです(良し悪しは別として)。0になりそうでも、どうにか倒れず生きている。目の前の通勤ラッシュとかをやり過ごしていくうちに。
    それが地方の社会生活のなかでは、同じようには成立しにくいのかなと、本作を読んで思いました(私は東京育ちなので、あまり深くは分からないところがあるのですが)。なので、0になりそうな危うさが際立って、宇田川の戸惑い?を生んでいるのかなと思いました。

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著者プロフィール

1966年東京都生まれ。「イッツ・オンリー・トーク」で文學界新人賞を受賞しデビュー。「袋小路の男」で川端賞、『海の仙人』で芸術選奨文部科学大臣新人賞、「沖で待つ」で芥川賞、『薄情』で谷崎賞を受賞。

「2023年 『ばかもの』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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