しき (河出文庫 ま 20-2)

著者 :
  • 河出書房新社
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本棚登録 : 141
感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309417738

感想・レビュー・書評

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  • コミュニケーションが今一つ不十分で、不器用な高校生たち(男女6名)の四季を描いた小説。登場人物の主語や、平仮名が多い描写はクセがあって、読んでいて何となく馴染めなかった。不器用ながらも1つのこと(ダンス)に熱中する様子や、同級生たちと「つかず離れず」な不思議な距離感や、コミュニケーションが微妙にズレたまま継続する状態は、読んでいて甘酸っぱい。
    「あと少しだけコミュニケーションが通っていれば、後の展開は異なっただろうに・・・」という惜しい場面が沢山あった。高校生の頃って、チャンスが沢山あって、人生の分岐点が繰り返される毎日だったのかも知れない。

  • 他人と自分は絶対的に違い、思考は共有できないということ。
    さらには、自分の思考さえ人は言語化できないということ。
    それでも、ひとは「バラバラのまま重なり合える」ということ。その美しさ。涙が出るほどの、美しさ。

    この小説のやっていることは、星野源が「うちで踊ろう」で提示した世界の美しさと同じだと思う。

    それぞれの登場人物の思考が、明確な区別なく、入り乱れる構造をとる本作。それぞれの思考は言語化されているようでありながら完全には言語化されえず、その人物自身にもその正体は把握できないし、まして他人にそれは絶対に伝わらない。
    しかし、明確に違う人たちが同じ世界に同じ時間を生きて、四季が過ぎていくということ。その美しさに勝るものなどない、ということがはっきりと伝わってくる。

    そして彼らの教室への馴染めなさ。それはかつての自分のそれで、その熱量のない馴染めなさ=それが決して切実な問題ではないということがとても気持ち良い。
    類型的な学生生活の描き方を明確に拒絶することによって達成される、解像度の高い描写。

    町屋良平は、やはり天才である。

  • 大人向けの青春小説を読んでいるかのような独特な世界観・独特な文章でした。

    1年間にわたる高校生たちの友情や恋愛模様が描かれています。大きな盛り上がりというものはありませんが、話がディープな部分もあり、それに翻弄される高校生の心理描写を垣間見れます。爽やかな風が流れるというよりは、どこか無機質でドライな風が流れているような雰囲気でした。ダイレクトに描いているというよりは、間接的のようなどこか突っ伏した感じで遠くから高校生を描いていて、独特な青春小説でした。

    特に特徴的なのは、文章でした。あえて一部を漢字から平仮名にする事で、堅苦しい文章から柔らかみのある雰囲気をさせてくれる印象がありました。全てわかりやすく漢字に変換していたら、堅いままで終わったかもしれません。
    また、主人公を「彼」ではなく、「かれ」表記にする事で、かっこいい印象ではなく、あくまでも「普通」の高校生という印象がつきました。
    あくまでも個人の見解なので、正解なのかはわかりませんが、これらが計算されているのであれば、町屋さんの文章力に凄みを感じました。

    ただ、個人的にはこの作品を味わうには難解かなと思いました。相手に魅力を伝えるには、なかなか伝わりづらい部分もあり、良い意味で新しさを感じました。
    馴染む人には馴染みますし、馴染まない人には水と油のように合わないのではと思いました。

  • 誰の一人称でもない俯瞰
    ただ語り手による語りというわけでもない
    流動的に移行する「気持ち」のようなもの
    魂がいくつも一つの場所に集まってざわざわノイズを作り出しているように、それによって大人と子供の狭間にある子どもたちの心情のあわいのようなものが語られている

    文体は極めて奇怪だ。ふらふらと一人称は変化するし、軸のようなものが見当たらない。とにかく不安定。小説自体の短さから、この物語が推敲を加えられず一息に書かれたものがそのまま出版されたもののようにも思われる。(そんなことがあり得るわけないが)言ってみれば衝動そのもの。ダンスを踊ること、子ども同士の身体の混じり合いなど、それは衝動や人間の欲望に根ざすもの。それらは人に共有して持たれるもので、誰かに特有のものではない。同学年のみんなと距離を取り馴染めないことを気に止めながら、みんなと同じなのだ。同質性と異質性。思春期の同質性に悩まされる。

  • 反抗期の弟をこどもだとして接しているかれ自身がまた、こどもで、自分の気持ちの成長に悩みながらに向き合っていくさまが良かった。わからない、としたところさすがに良かった。かれらや彼女らの友人としての関係が、深くなく、でも他人でもない淡白とは言えない関係で、リアルでとても良かった。思春期の心情がリアルで(と言っても、男子高校生の気持ちは知らんのだが)、なんだか良かった。

  • 分かりやすく感情をぶつけ合うわけでもなく、青春的野望に苦心するわけでもなく、ともすれば淡白な人間に見えてしまう彼ら。
    親しみを感じる三人称視点が彼らをある程度俯瞰で見つつ、だけど温かみを持ってその無表情の内側を見つめている。
    オンリーワンな青春小説だった...。

    最近、某ボーイズグループにハマったことでダンスに熱中する少年というものへの親しみが自分の中で高まってて、この本を読んだタイミングはばっちりだったというのもある。
    この本も彼らのダンス同様、突き放されて好き勝手言われてるんやろうけど、親しみを持って見ている人にだけ味わえる何かがきっとある。

  • ハズレくじを引いた感覚、半分までがやっと。陳腐な創作力、希薄な内容。

  • 一人称がかわる、この部分にこの表現がくるかと驚かされる、など町屋さんの小説は今までにない書き方だった。だからこそピースが揃って情景が浮かんだ時に一気に読める。春は出会いと別れの季節。夏は、秋は、冬は…四季を感じられることはすばらしい。

  • 「俺ら、なんで踊ってんねやろな。」

  • 青春小説。かなの使い方がおもしろく、非常に読みやすいけれど、淡々とした仄暗さと切なさがある。青春時代のジタバタやモヤモヤや家族や友達を俯瞰で描いたような感じ。

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著者プロフィール

1983年生まれ。2016年『青が破れる』で第53回文藝賞を受賞。2019年『1R1分34秒』で芥川龍之介賞受賞。その他の著書に『しき』、『ぼくはきっとやさしい』、『愛が嫌い』など。最新刊は『坂下あたるとしじょうの宇宙』。

「2020年 『ランバーロール 03』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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