破局 (河出文庫 と 10-2)

著者 :
  • 河出書房新社
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感想 : 58
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  • Amazon.co.jp ・本 (176ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309419343

感想・レビュー・書評

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  • ちょっと側から見たらよくある大学生の話だが
    主人公の淡々とした思考回路が猟奇的
    自我が感じられない辺りがまさしくゾンビ
    認知と言動のアンバランス感が気持ち悪くていい


  • 第163回 芥川賞受賞作

    主人公の視点で語られる日常風景は、
    驚くほど内向的で無機質。

    物語を読んでいるというより、研究の結果や
    分析の説明を受けているような印象でした。

    主人公はこうしなければならないという
    拘りが非常に強いタイプで、年長者や
    女性に対する態度は概ね誠実。

    その一方で、他人の本心は結局のところ
    わからないという冷めた感覚を持っている。

    一見相手を思い遣っているような態度も
    形だけの表面的なものに感じられてしまう。

    一人語りで進む、音のないスライドを
    ただ粛々と見ているような静けさと、
    味気なさとも言える空虚感を覚えました。

  • 陽介みたいなタイプは少し苦手。
    自身の思い描く男性性・女性性に対する理想像への異常な執着が随所に見られ、気味が悪かった。
    筋肉が男らしさの象徴という理由だけで筋トレしてそう、、

  • 主人公は他者の気持ちを推し量ることが出来ないようですね。自閉スペクトラム症なのでしょうか。そういう思考の方から見た世の中は、こんなふうに映るのか…と知ることが出来ました。本人はいいでしょうが、家族や周囲の人は大変なんですよね。

  • なんとも独特な世界観
    読んでいるうちに何故か不安な気持ちになってくる
    それがまたクセになるから面白い
    性描写や自慰のシーンでは生々しくて少しウッときたけれど、あれが24歳の若さなのかしらと、昔むかしを思い起こされた

    ラストシーンは不条理な結末で
    あーーーっなんでーー!!??!!?
    と思わず声が出そうになってしまった

    女ってずるくて面倒ですね(女だけど思った)

  • スラスラと読み進めた結果、あっけなく結末を迎え、解説を読んで「なるほど」となった。解説を読んでからまた読み直すと新しい発見がありそう。

    初見ではどこか違和感を得ながらも読んでるうちにいつの間にか「破局」を迎えてしまったが、2回目に読むと何が「私」を「破局」に追い込んだのか気づけるかなと思った。

    「私」は自分を規則正しくルールに則って生きてる善良な人間だと思っているけど、それはあくまで社会的に定められた範疇で、正しいとされる規律やマナーに他人行儀に従っているにすぎない。「世間的にはこれが正しいとされる」「父親がそう言っていた」他人などが決めたことに倣ってるだけで、本心からそうしてるわけではない。頭でわかってるだけで、心では何も感じていないというか。

    そうした現代人の歪みのようなものを、ユーモアも織り交ぜながらうまく文章表現に落とし込んでる点が、芥川賞につながったのだろう。

  • 別れではなく破局なところがなんとなく拘りを感じさせる。
    ムキムキに鍛えている青年と女性との別れ。
    合わないようでいてどことなく形としてしっくりきたのは不思議だ。

    作中の主人公には殆ど感情移入はできない。
    自分勝手で正義感の塊であると信じてやまない己に酔いしれているいわば嫌な奴。そこへもって彼女がいることがまたおかしく、浮かんでは落とされて不快ながらも読むのには邪魔ではない。また不思議。

    自分のことを俯瞰できていると多分彼は思っている気がした。でもそれは気がしただけで、そこらへんの男性陣よりもっともっと幼稚で幼くて乏しい。

    無理して手にした灯とも結局うまくいかない。
    かくれんぼがうまい彼女を探しきれなかった。

    最後で読んで思う。これは別れではなく破局だ。
    自分の意志で動かないまま迎えてしまった終わりだからだ。

  • 終始主人公との感覚の乖離が感じられました。
    事実だけを見れば、主人公はこの上なく充実した学生生活を営む善良な青年と思えます。しかしそこに自発性が感じられず、まるで社会的な正しさや規則的な倫理観に依存したゾンビのようでした。
    作中では、無差別的に他者の幸福を祈る描写がいくつか差し込まれていました。ラグビー指導の中であったように、ゾンビのように生きることを強く実践できてしまうからこその所業と感じます。
    事実だけに即し、認識できないものを省いて結論を導く短慮が主人公にはありました。物語全体の不穏さの正体は、自覚のない短慮に裏打ちされた脆さにあると思います。詰んで乾いて朽ちていく、まさに破局でした。

  • ページ数が少なく、行間や余白も多く取られており、
    あっさり読むことが出来るかな・・・と
    手に取ったのに、意外とページが進まなかった。
    独特の文体で、流れるような展開にはならない。

    必要以上の描写をせずに、ぐいぐいと読者を
    引っ張りながら進むようなそんなお話。
    肉体を鍛え上げた、ラグビー部の大学4年生、
    就活(公務員試験)と並行して、出身高校の後輩指導、
    恋愛模様など、リアルな大学生。

    不器用なのか、器用なのか、
    優秀なのか、ある意味ラグビーバカ?とも言うのか、
    計算高いのか・・・つかみどころのない主人公の彼、

    題名の「破局」はどこから来るのか、と思ったが、
    それは麻衣子との別れであったり、
    灯との別れであったり、
    高校のラグビー顧問、佐々木との距離感や
    指導する後輩との世代間のギャップだったり、
    終わりを迎える学生生活だったり、
    多くのことをはらんでいるように思う。

    後半、灯と旅行に出かけるあたりから、
    ぐっと読みやすくなる。(私が慣れてきただけなのか)
    ラストが気になり、このあたりから一気読み。
    まさか、灯に別れを告げられるとは思わなかった。
    スポーツウェアを来た男も、通りすがりの人で、
    灯とは無関係なのかもしれない。
    それでも、彼は、全てを失った。破局・・・
    ここで終わりだった。

    暴力的な文体もある意味、こちらも癖になる。
    ほかの話も読んでみたい。
    昔、金原ひとみさんを初めて読んだ時にも感じた。
    無駄なものがない研ぎ澄まされた感じ、
    きっとこれから、良い作品、たくさん書くんじゃないかな。

  • めちゃくちゃ芥川賞だなって感じの小説だった。特に変態的でもない、男の真っ当な性欲の気持ち悪さをここまで克明に書いているのがすごいなと思った。
    「私」の思考は一見すると正しいように思える思考なのに、「私」に対してどうしようもない気持ち悪さを感じてしまう。それがよかったなと思う。
    「私」は一人称の地の文さえなければ、文武両道で女性に対して思いやりを持ち合わせている、いい青年であるはずだ。
    「女性には優しくしないといけないから優しくする」「同意を得てない性交はダメだからしない」「彼氏だから灯の下着を見てもいいが、彼氏でない人間に灯の下着を見る権利はない」
    「私」の行動は、自分の意思がどうこうではなく、社会でこうなっているからこう、といったように、他者の価値観に支配されている。それがとても気持ち悪かった。本当に傍から見たら筋トレ好きの青年なんだけどな……。
    真面目で正しい青年の、正しいがゆえに社会常識に縛られすぎている気持ち悪さ、というのは面白いなと思った。

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著者プロフィール

1991年生まれ。2019年『改良』で第56回文藝賞を受賞しデビュー。2020年『破局』で第163回芥川龍之介賞を受賞。他の著書に『教育』がある。

「2023年 『浮遊』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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