- Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309419398
感想・レビュー・書評
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和歌山市の記念館を訪れて以来、有吉さんの作品を少しずつ読んでいる。
今回は紀行文で、知った時には旅行エッセイ好きの血が騒いだ。文化人類学者のご友人 畑中幸子氏に誘われニューギニアの奥地ヨリアピに足を踏み入れるというもので、ハラハラ引き込まれること間違いなしだ。
有吉さんたちの文字通りに歩んだ旅路自体には正直そこまで驚かなかった。辺境作家 高野秀行氏によるハイレベルな珍道中に慣れてしまっているせいで、驚き飽きていたのである。
(意外と合理主義な)高野氏のことだから移動手段はもう少し楽な方法を模索するだろうけど、有吉さんが戦慄したシシミン族への密着取材なんかは絶対「いいじゃないですか〜」と目を輝かせるだろう。
でも体力的に厳しい有吉さんからすればたまったもんじゃないし、高野氏目線から外れるとやっぱり普通にしんどい。現に、2日かけて山々を越えたせいで足にダメージを受け、1週間の滞在予定が1ヶ月になっている…。ゆるい表紙絵からは想像がつかない武者修行っぷりである。
しっかりしたイメージの方が参っている様子は、それはそれで面白かったけど笑
「ニューギニアだなんて、あんなところは、私たちは戦争だから[中略]いやいやながら行ったところですよ。[中略]私が知ってたら、絶対お止めしましたね。私はまた外国とばかり思っていたものだから」
早速ネタバレに入ってしまうが、ニューギニアからの帰国後有吉さんはマラリアに罹病してしまう。上記は贔屓にされていた呉服屋さんが入院中の彼女にかけた言葉である。
ヨリアピにはさすがに旧日本軍も踏み込まなかったが、やはり海側ではまだその当時の記憶が色濃く残っているという。
「外国」という点においても、数学者 藤原正彦氏が「戦後しばらくは『外国』といえばほぼアメリカを指していた。皆何かとアメリカに憧れていた」と述べられていたのを思い出す。
そう考えると有吉さんのニューギニア行きは、新しい時代の象徴のように映って見えた。
「私らの国、あれ、ちょっと狭すぎるな、そう思わへん?」
6−10歳まで、父親の転勤に伴いインドネシアで暮らしていた有吉さん。
戦後も世界各国を歴訪されていて、ニューギニア行きも海外観光の延長線みたいに捉えられていた節がある。(下調べを疎かにされたのは少々!?いただけなかったが…)
紀行文も写真も残さない代わりに食への好奇心は旺盛で、ヨリアピでもしきりに大蛇を食べたがっていた。参っていながらも、人間その気になれば住めば都になるのだな…。
それは現地の通訳やポリス、シシミン族にも臆さない女傑 畑中氏に対しても言える。男性優位のシシミン社会に圧倒されないよう、決して自分を見失わなかった。
夫婦漫才みたくコミカルなやり取りもあった共同生活。
しかし東京で縮こまっていた「女二人」が、あの時代(1960年代後半)にジャングルの奥深くへ乗り込み見事に生き抜いていたことは、もっと語り継がれるべきではないだろうか。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「どうして誰も止めてくれなかったの?」ヨリアピへの道中愚痴りまくる有吉さんの姿に大笑い。紀州弁の文化人類学者・畑中幸子さんと過ごした濃い三週間と帰国後の顛末。気がついたら渦中にいたというのは『非色』の主人公にも似ている。
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わーとっても読みたくなりました!有吉さんのエッセイは読んだことないのでわくわくです。
そして気力ダウン中だったとのこと、無理なさらずご自愛く...わーとっても読みたくなりました!有吉さんのエッセイは読んだことないのでわくわくです。
そして気力ダウン中だったとのこと、無理なさらずご自愛ください!読書しながらお互いぼちぼち頑張りましょう〜2024/01/28 -
ロッキーさん、お気遣いありがとうございます♪
逆に申し訳ないです。健診結果で要再検査のため鬱々としてました。結果は問題無しで良かったのですが...ロッキーさん、お気遣いありがとうございます♪
逆に申し訳ないです。健診結果で要再検査のため鬱々としてました。結果は問題無しで良かったのですが、妄想力強いから「仕事は?家のことは?」とか何日かいろいろ考えてしまって‥。このタイミングで読めたのも嬉しかったです♪読みやすさはエッセイも同じですのでぜひ。2024/01/28 -
そんなことが!問題なしで本当に良かったです。
わたしもダウナーモードの時にこの本読んで元気出そうかな。素敵なレビューありがとうございました!そんなことが!問題なしで本当に良かったです。
わたしもダウナーモードの時にこの本読んで元気出そうかな。素敵なレビューありがとうございました!2024/01/28
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女二人のニューギニア (朝日文庫) | ダ・ヴィンチWeb
https://ddnavi.com/book/4022603283/
女二人のニューギニア :有吉 佐和子 | 河出書房新社
https://www.kawade.co.jp/sp/isbn/9784309419398/
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「スピン/spin」創刊号『絶版本書店 手に入りにくいけどすごい本』で紹介されていて、読みたい!と思っていたところ、、、 -
1985年に朝日文庫から刊行された『女二人のニューギニア』の再文庫化になります。
著者の有吉佐和子さん(1931-1984)が、
ご友人で文化人類学者の畑中幸子さん(1930-)(当時、東京大学院文化人類学在籍、現在は中部大学 名誉教授)のフィールドワークを訪れた際の、壮絶だけども笑えてしまう滞在記になっています。
「ニューギニアは、ほんまにええとこやで、有吉さん」という畑中さんのお誘いに「じぁあ、行くわ。案内してくれる?」と大層気楽な気持ちでスタートしてしまったこの旅は、大変なものになります。
悲惨な状況が続くんですが、文章が面白すぎて何度も何度も笑ってしまいます。
のっけから、ニューギニア行きを止めてくれなかった周囲への不満がたらたらと。笑
道中・滞在記では、お二人のやりとりが生き生きとして伝わってきて、本当に面白いです。
とにかく大変極まりないんですが。
現地に行くため二日間ジャングルを歩き、疲れて三日目に「こわれてしまった」有吉さんを、迎えにきてくれたシシミン族の人たちが運んでくれる描写など、最高に笑ってしまいますよ。
考えさせられることもしばしばです。
戦地だった傷跡も描写の中に出てきます。
また、白人はネイティブをバカにし、その白人から文明を取り入れた者が、また新たなヒエラルキーの頂点に立つようなところは、植民地時代から繰り返されているであろう人のエゴが感じられます。
「山野を自由自在に駆け巡っていた彼らが、文明という眼鏡をかけ、文化という靴をはき、贅沢というシャツやパンツを身につけるようになるのが、幸福といえるかどうか、難しいところだ。」と記されています。(ケン・リュウ氏の「紙の動物園」に収められた「結縄」にも感じた想いです。)
色々ありますが、たくましいに尽きます。
仕事などで疲れている時に読むと「まだ頑張れる!」という気持ちになれるかもです!笑 -
ニューギニアの大自然と文明とは隔絶された民族とに出会う大冒険のエッセイ。
民族たちの力強さを感じるとともに、文明に生きる我々との隔絶も感じる。その隔絶の中で、コミュニケートして共に生きるには上下の別を厳しく言わないといけない面もあると思われる場面も多々描写されてる。安易に平等に、情をかけると、舐められてあちらの論理で豚三匹と交換されてしまうかもしれない。異文化と接するには、異なることを主張することも必要かと気付かされる。
されど彼らの生き方、文化に対して、我々の文化文明が優れているとは言えないし、文明人気取りする我々の価値観で彼らを測ることができないのも事実だ。それは余計なお世話だし、ほっといてくれと思う。けど、文明と接触することで彼ら自身も毒されていく(変容せざるを得ない)し、また、資源を巡って経済的に、資本主義により蹂躙されることも生じてしまう。
所謂西洋先進諸国の人権基準とは異なる価値体系にある人達の権利を守ることはできるのか。押し付けることなく、異なる価値体系の中でも接触しない距離感を保ち共存することができるのか。その課題へのアプローチは、自然保護の考え方に繋がる気がする。
距離を置き手付かずのままおく保全
介入して手を入れて支援する保護
利用しながらいい距離で付き合うこと 里山
利用全面で取り込むこと
そして一方的な収奪
どの距離を拒み、どの距離を選ぶのか。適切な関係性を維持できるかが課題になりそうだ。 -
雑誌「スピン」で中島京子さんが絶版本として紹介されていた本。図書館でもなかったのだか、今回、河出書房新社で復刊した!
期待通りの面白さ!
海外に行くこともまだ珍しかった60年遡った話なんだから、ますます凄いと唸るしかない。
著者や文化人類学者の畑中幸子氏、現代では考えられないパワー、女性の逞しさを知らしめる。
最後のオチ(といってはいけませんけど(笑))、予想外の展開でとにかく最後まで期待を裏切らない。
復刊すべき良本、長く残って欲しい本です。
装丁、挿絵も最高! -
すごい経験!文化人類学の教授って、すごいことしていたのだね
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1968年未開の地ニューギニア。
文化人類学者の畑中さんが逗留している、発見されたばかりの部族の村に呼ばれ、
都会の小説家の有吉さんが何の覚悟もなく軽い気持ちで遊びに行ったら、とんでもない目に遭ったお話です。
とにかく畑中さんがすごすぎる・・・
キャラが濃すぎてフィクションの人物なのかと思うほど
強烈な個性をお持ちの方です。
でも、このくらい自分の感情を素直に表に出せるからこそ
屈強な男性ですら尻込みする環境の中で
生活することができるんだなぁと思いました。
傑物と言わざるを得ません。
対する有吉さん(著者)はお嬢様然とした都会のおしゃれな作家さん
言葉の端々にお上品さが拭えません。
単身海外に行くだけあって、人一倍強い行動力や好奇心をお持ちです。
有吉さんも只のお嬢様ではないのですが
空港に着いた時から来たことを後悔しています。
というか、畑中さんよくここに人を呼んだな・・・
そして著者の有吉さん、よく行ったな・・・
有吉さんすごく頑張ったと思います!
そしてまたすごいのが、
この本が出版されたのが1985年ということ
今から約半世紀前なのに全く時代を感じさせないことです。
当時は職業婦人なんて言葉がある時代に、このようなタイプの女性はかなり珍しかったのではないかと思います。
半世紀後の現在、
お話に出てくる土地をGoogle Earthで調べてみました。
オクサプミンは見つけることができたのですが
ヨリアピは見つけられませんでした。
この辺は2023年現在でもGoogle Earthで見ると緑しかありません。
シシミンという部族も検索で引っかからないので
その後、どうなったんだろうと気になってます。
今でも当時のような生活をしているのでしょうか?
この本は一度絶版になり、最近復刊されました。
とても面白かったです。 -
有吉佐和子は人としても「持っていた」のだなと唸ってしまう。特に日本に帰る顛末は映画のようだし、帰国後の後日談もすごくて、まさに事実は小説より奇なり(ここで改めて筆者の呑気さが分かってびっくりする)。
「専門家ではないからシシミン族のことより畑中さん(筆者を招いた人類学者)とのことを書いた」と書かれてる通り、女2人の友情ものとしても読める良い本。 -
いや、面白かった。
今でいうアラサー?アラフォー?30台後半だからアラフォーなのかな?に3日かけて道なきジャングルを踏破して文化人類学者のフィールドワーク最前地に行くとか。無謀にもほどがあるだろう(笑)としょっぱなから笑ってしまいました。
「悠揚迫らざる」という表現も知らなかったので勉強になりました。
現地の人が昔から繰り返してきた暮らしを、今の自分の文化や人道的観点から批判したり差別することはたやすいけれども、ありのままの現状を調査して知る、という事が文化人類学という学問なんだろうなぁとしみじみ思いました。そして畑中先生の和歌山弁での命令や叱咤には実感がこもっていて笑ってしまいました。日本のペラマダムという言い方も面白い。それにしてもマラリアって怖い病気ですねぇ…
それにしても半世紀以上前にまさに未開の土地へ、今のような通信手段もネットワークもなく単身飛び込んだ畑中さんはすごいなって思いました。今度著書を読んでみよう。