歴史を変えた気候大変動 (河出文庫 フ 8-2)

  • 河出書房新社
3.76
  • (5)
  • (13)
  • (10)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 165
感想 : 14
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (408ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309463162

作品紹介・あらすじ

人類の歴史を揺り動かした五〇〇年前の気候大変動とは、いったい何だったのか?人口大移動や農業革命、産業革命と深く結びついた「小さな氷河期」を、民衆はどのように生き延びたのか?現在、地球規模の温暖化に直面しているわれわれが決して無視できない問題に、気候学と歴史学の双方からアプローチした名著。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • タイトルだけ見れば、歴史の動きの影には気候の大きな変動があったのだ、という主張が展開されている本なのだろうという感があるのだが、読んでみるとそうでもない。むしろ、たびたび触れられているように、著者は環境決定論、つまり環境がすべての変化を説明しうる、という論点には立っていない。気候は歴史や文化に変化を与える圧力の一つであり、その重要性を見落としてはならない、ぐらいの考え方なのである。実際、気候変動は直接に戦争の原因にはならないかもしれないが、人の流動や飢饉、争いにはつながり得る、という主張はなされている。

    そこで改めて原著のタイトルを確認してみて、すんなり納得。原著は『The Little Ice Age : How Climate Made History』で、直訳すれば『小氷河期:気候はどのように歴史を作ってきたか』なのである。
    今が小氷河期にあり、気候変動のさなかに我々は生きている、そしてこれまでの歴史においても氷河期と温暖期の変動の中で人の歴史や生活が影響されてきたのだ、という論点から見返すと、本の内容がしっくりくる。

    ということで、例の「翻訳した本のタイトルを売れるように変える」というトリックにまんまとしてやられたな、というのが読み終わってからの感想。というか、原著のタイトルをそのまま出してもそれなりに売れたんじゃないか、という気もする。下手に「大変動」などと煽りを入れてしまった結果、著者の意図とはズレた感がありますね。

    ただ、この本が出たのが2001年だったということを考えると、気候変動が人の生活にどれほどの影響を与えるかということをこの時点で本としてまとめ、指摘していたという著者の眼力は素晴らしいと思う。

  • 手に入れたかったが、書店にはすでに無し。

  • ヨーロッパ中世〜現代の歴史の動きに気候変動がどう関わっていたかを、最近明らかになってきた資料から解説した本。とても有用。 気候の変動はゆるやかなものではなくて、気まぐれにも見えるほどくるくると変わりうる(最近数十年間は穏やかな変化にとどまっているがそれは例外的)という結論が、これからのことを考えるとかなり怖い。

  • 事例の羅列は良いのだが主張のポイントが見えづらい。海外の人文系書物にたまにあるような。。。翻訳の問題もあるのか?学生のコピペレポートみたいな感じ。

    いくつか面白いポイントも
    ・太陽黒点の活動と気候、マウンダー極小期
    ・英仏の農業技術進歩の違い
    ・CO2濃度(19世紀後半から20世紀初頭)赤祖父説との違い
    ・グリーンランド(「文明崩壊」に寒冷化は一因として挙げられていたか?)

  • この小説は、著者が昨今の地球温暖化を危惧したので、過去の温暖化によって起きた事件や騒動などを解説しています。

  • 2009年(底本01年)刊。◆13~19世紀までの主に西欧史上の各種事件を環境からの影響という観点から解読。端的に飢饉史と言え、内容面では「文明崩壊」と被るが、時期・地域が限定され、内容は詳細。また、地理的にはかなり狭い範囲を叙述し、欧州、特に英・仏・愛蘭やアイスランド等の北欧が中心。西欧中世・近世史の事件に関する知識があった方が読みやすいかも。救貧用食物たるジャガイモの世界史的意義についても検討必要。ほぼ同じ環境的影響下にあった英仏なのに、農業発展に向き合う姿勢・対応の違いが興味深い。
    分業の程度如何という結論も見え隠れするが、そうなると「繁栄」で叙述されるような、分業の起源、つまり分業が創出された生物学的要因という面は後景に引き、社会的要因こそが分業の近接要因という印象に至っている(まだ理解には程遠いが…)。

  • 小氷期の暮らしぶりが詳細にまとめられている。内容はヨーロッパが主体で、数年ごとの気候変動がNAO振動で説明されている。

    北大西洋振動(NAO)は、アゾレス諸島上空の強い高気圧と、アイスランド上空の低気圧の間で繰り返す変動で、海面水温の変化が主な要因。NAO指数が高いときは西風が吹いて大西洋の海面の熱をヨーロッパ中央部に運ぶ。南ヨーロッパの冬は乾燥し、北ヨーロッパの夏は雨が多くなる。NAO指数が低く気圧傾度が小さいと、偏西風が弱まってヨーロッパの気温が下がる。

    専門家の多くは小氷期を1300〜1850年としているが、最も気温が低くなった17世紀末から19世紀半ばに限定する人もいる。アジアでは、17世紀に大陸のほぼ全域で大混乱が起きた。

    南極海で生成される深層水の量は、今日よりも小氷期の方がはるかに多く、最終氷期の最盛期やヤンガー・ドリアス期も多かった。

    8世紀、カトリック教会は塩漬けのタラとニシンを食べてよいことにした。タラは1950年にはまだ大量にいたが、その後の40年間に水温が下がって激減した。

    14〜15世紀、休耕地に牧草、エンドウなどの豆などを植える農業革命が始まり、16〜17世紀にはクローバーやカブが植えられるようになった。囲い込みは生産性の高い大きな土地にまとめて、羊毛の生産性を高めるために進められた。土地に肥料を与えるために家畜を、家畜を育てるために冬季用の飼料が必要だったためで、1650年頃から進んだ。

    18世紀末のフランスでは、農村の人口が増えて土地が不足し、貧しい放浪者が増えた。1770年以降は気候変動が激しくなって不作が続き、1784〜85年はアイスランドのラーキ山の噴火によって冷夏が訪れた。1788年の春は乾燥のため作物が不作になり、トルコがオーストリアとロシアに宣戦布告したため、バルト海の航行が危険になって穀類の輸入が落ち込んだ。1788年の気候は、フランス革命の時期を決定するのに大きな役割を果たした。

    1812年にセント・ヴィンセント島のスーフリエール山、1814年にフィリピンのマヨン山、1815年にインドネシアのタンボラ山が噴火した。1883年に噴火し、世界のほぼ全域で直射日光を15〜20%遮ったクラカタウの噴煙による火山灰の厚さを1000とした指数は、1811〜1818年に4400だった。

    アイルランドでは1740〜41年に寒冷となって不作になり、30万〜40万人が赤痢、飢え、発疹チフスで死亡した。1800年、イングランドとアイルランドが連合したため、アイルランドの産業はイギリスとの競争に負け、穀物の4分の1と家畜の大半はイングランドに輸出され、大半のアイルランド人はジャガイモで質素な暮らしを送っていた。夏が来なかった1816年は、食糧不足のため6万5000人以上が死亡した。1845〜1848年はジャガイモ疫病菌の被害を受けて、1841年に817万人だった人口は1851年には655万人に減少した(100万人は移民として国を脱出した)。

    1850〜1870年の間に、世界各地で開拓農業が爆発的に進んだため、大気中のCO2濃度が10%増加した。

    黒点などの太陽の活動の変化についても記述があるが、アジアの記述やエルニーニョはほとんど登場せず、世界的な視点ではなかったのがやや物足りなかった。

  • [ 内容 ]
    人類の歴史を揺り動かした五〇〇年前の気候大変動とは、いったい何だったのか?
    人口大移動や農業革命、産業革命と深く結びついた「小さな氷河期」を、民衆はどのように生き延びたのか?
    現在、地球規模の温暖化に直面しているわれわれが決して無視できない問題に、気候学と歴史学の双方からアプローチした名著。

    [ 目次 ]
    第1部 温暖期とその影響(中世温暖期;大飢饉)
    第2部 寒冷化の始まり(気候の変動;嵐とタラとドッガー船;巨大な農民層)
    第3部 「満ちたりた世界」の終焉(飢えの恐怖;氷河との闘い;「夏というよりは冬のよう」;食糧難と革命;夏が来ない年;アン・ゴルダ・モー―大飢饉)
    第4部 現代の温暖期(ますます暖かくなる温室)

    [ 問題提起 ]


    [ 結論 ]


    [ コメント ]


    [ 読了した日 ]

  •  中世から近世までのヨーロッパにおける歴史上の出来事に対して、気候変動が与えた事実を一つ一つほりさげている。やや冗長な感もあるが、そのことがかえって、当時の悲劇が克明に浮き上がってくる。高校では世界史を履修したが、当然のことながら、世界史の出来事と気候変動の関連など教わるはずもなく。新鮮さを感じるとともに、歴史に限らず、社会を見るうえで、人類が制御できない気候変動という要因が、今後ますます重要になってくると認識した次第です。

     B・フェイガンには同文庫から『古代文明と気候大変動』もあり、お勧めの1冊です。単行本でも『千年前の人類を襲った大温暖化』もありますが、こちらは未読です。文庫化を期待しています。

  • 歴史変動や人口動態を踏まえない歴史の叙述はカスだ。太古の気候を正確に把握するのは難しいし、気候変動が歴史的事象の直接的かつ主要な原因だったというのも短絡的に過ぎるが、無視して通ることは出来まい。

    今は間氷期(氷河期と氷河期の間)であること、16世紀は全世界的に寒冷であったこと、1960年代は氷河期の再来が噂されていたことは覚えておこう。

    欧米人の著作なだけあって(というか想定読者が主に欧米人だったからかもしれないが)話題が欧米にほぼ限られているのが、それでも面白い。現状でわかっている気候変動や人口動態の資料ってネットに公開されてたりしないのかなぁ。

    10世紀前後5世紀:中世温暖期(今より耕作可能地が広かった!アイスランドで大麦が再び栽培できるようになったのは1900)
    スカンジナビア元気
    余剰穀物→献金→大聖堂建設(ゴシック)パリのノートルダム聖堂、イングランドのカンタベリー大聖堂など

    1315~1319 大飢饉
    餓死・病死・耕作放棄→共同体解体、耕作地減少、小作人増加、農地の集約(→後の囲い込みへ)
    牧草減→家畜減→畑の肥料、農業労働力減
    ペスト(何度読んでも信じられないがガチで人口半減とか街全滅とかしてる)
    百年戦争
    10年おきに凶作

    1500 悪天候から予測不能の気候変動期へ
    (太陽活動が停滞していたらしい)
    1600 ペルー南部の火山大噴火
    アルプス氷河前進→麓の村を飲み込む
    魔女狩り多発
    (同時期明では旱魃、反乱、満州族の侵攻、日本や朝鮮半島でも大飢饉)
    かねてからの農地集約と、農業生産をあげる必要性から農業革命が進展@英国、オランダ地域などで進んでいた技術を導入
    ←→フランスは立ち遅れる。ルイ14世のころ
    ←→アイルランドはじゃがいもの単一栽培。いっきに養える人口増加、後の大飢饉の布石

    1641 フィンランドミンダナオ島の火山大噴火
    1680~1730 最寒冷期。寒さによる死者続出
    ノルウェーの農業不振→木材輸出への転換
    魚群の移動→アイスランド漁業に痛手

    フランス
    人口密度増加、不作→都市への人口流入
    1776英仏通商条約→遅れていたフランスの繊維業壊滅→失業者増
    1788不作
    →生命の危機が頂点に→フランス革命へ

    1815 タンボラ山噴火(→全世界的に日光の15~20%減少。「夏のない年」)→社会不安

    アイルランド
    1820年代人口急増
    1845じゃがいも不作
    (イングランドは「自由市場」が大切、といいはり、人道的援助をせず。餓死者多数。→アイルランドのイングランドへの恨み)
    (アイルランドに限らないが)→新大陸への大量移民

    新大陸への大量移民→森林の大量伐採→大気中CO2急増(化石燃料時代でもないのに、1850~1870年で10%増加)→(?)→1900年以降の温暖化

全14件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

イギリス生まれ。カリフォルニア大学サンタ・バーバラ校の人類学名誉教授。考古学関連の著作が多数あり。『歴史を変えた気候大変動』、『千年前の人類を襲った大温暖化』、『海を渡った人類の遥かな歴史』など。

「2023年 『歴史を変えた気候大変動』 で使われていた紹介文から引用しています。」

ブライアン・フェイガンの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×