- Amazon.co.jp ・本 (411ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309463605
作品紹介・あらすじ
ロンドンで暮らし始めたピップは、同宿の青年の教えを受けながら、ジェントルマン修業にいそしみ、浪費を重ねる。恋いこがれるエステラとは次第に疎遠となり、虚栄に満ちた生活に疲れた頃、未知の富豪との意外な再会を果たす。ユーモア、恋愛、友情、ミステリ…小説の醍醐味が凝縮された、天才ディケンズの集大成。
感想・レビュー・書評
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面白い
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下巻は一気読み。古典で一気に読めるなんて!ディケンズすごい!
なんていうかもう小説全体が英国流のシニカルな笑いに満ちている。
ヒップの本当の恩人が誰であるか分かったときもそう。自分が裏切ってきたと思っていた故郷の恩人に胸の内を打ち明け、新たなスタートを切ろうとしたときに、相手から幸せの仕返しを受けたときもそう。
一番好きなキャラクターはウェミック。シティ(ロンドンの仕事場)にいる時はカリスマ弁護士ジャガーズの有能な秘書として自分を出さずに淡々と仕事をこなしているのに、ウォルワースの城(郊外の自宅)へ帰ると全然違う。城の前に跳ね橋を付けたり、毎日決まった時間に大砲を打ち鳴らしたり、居間のドアに楽しい仕掛けをしたりして、シニア(父親)との穏やかでユーモアに満ちた生活を楽しんでいる。郵便ポストのような口を開けて食事をし、やることがミスター・ビーンみたいに面白い。「ちょっとした散歩に付き合って下さい」とヒップを連れて歩いた先にたまたまのように教会があって、その中にウェミックの花嫁が待っていた。この憎らしいくらい気の利いた演出の、でもささやかすぎる結婚式の数少ない参列者のなかにヒップを選んでくれた。弁護士事務所のクライアントであるヒップに私的にはそれくらい友情を抱いていたというところに心が温まる。
カリスマ弁護士ジャガーズもその強面と仕事での断固とした態度の裏には依頼人の人生について人知れず深く考えていて素敵。
英国人って恥ずかしがりやなんでしょうね。
そして、誰よりもヒップの本当の恩人…。人の価値は見かけや生まれや育ちで決まるものではないのですね。
「プライドには色んな種類があると思うの」という、上巻でのビディの言葉が印象的でした。
イギリスは階級による格差がはっきりしていると言うけれど、そこを超える冒険をしたヒップを通じて“本当の善とは何か”というのを考えさせられ、読者としても成長したと思います。
笑いもサスペンスも冒険も教育もあるエンターテインメント小説でした。
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たださん
そうですよ。これは読まないとですよ。
ちなみに前からよく出回っているほうの訳よりもこちらの訳のほうが断然読みやすいという情報を事前...たださん
そうですよ。これは読まないとですよ。
ちなみに前からよく出回っているほうの訳よりもこちらの訳のほうが断然読みやすいという情報を事前に調べて、中古でもそんなに安くなかったですが、こちらの本を購入しました。
“文豪“と呼ばれているから日本でいえば芥川龍之介みたいな人かと思っていましたが、まあ芥川も読めば面白いのですが、もっともっとサービス精神に溢れ、読者を笑わせよう、感動させようとしてくれている小説でした。まさしく、ミスター・ビーンのようにちょっと真顔に戻ったかと思えば、次の瞬間面白いみたいなイギリスらしい笑いのリズム(ビーンしか知らないけど)もありました。
ちなみにwikiに「パープル・ヘイズ」という言葉が出てくると書いてあったのも確かこの小説でして、残念ながら「紫の煙」という言葉は見つかりませんでしたが、「ジミヘンが読んでたわけないだろ」という考えでもなくなりました。まあ、どちらにしてもあの歌詞の中に出てきたのは単なる偶然だと思いますが^ ^。
とにかく、プロットも笑いのセンスも天才です。そして笑わせながら本当はとっても生真面目なのを隠しているのもイギリス人らしいのですかね。2023/04/09 -
まこみさん
なるほど。確かに訳は重要ですよね。原文に忠実なものよりも、物語の内容と作品のメッセージを分かりやすく伝えてくれるものの方が、私に...まこみさん
なるほど。確かに訳は重要ですよね。原文に忠実なものよりも、物語の内容と作品のメッセージを分かりやすく伝えてくれるものの方が、私には合ってるかなと思い、こちらを読んでみたいです。
サービス精神に溢れている、まさにエンタテインメントですよね。タイトルからして、そんな笑いがあるとは思わず、自分の価値観だけで判断してはいけませんよね。何でもまずは中身を確かめないと。
「パープルヘイズ」、そういえば私も聞いたことありまして、ネットで見ると、原文にはその記載があるとか・・ジミヘンの方はサイケの香りしかしませんが、面白いですよね。
それから、イギリス人の気質を感じ取れるような内容は、まさに文豪なのでしょうね。まこみさんのレビューには、読んでいなくても登場人物が生き生きと動いているのが感じ取れるようでした(^^)2023/04/09 -
2023/04/09
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「大いなる遺産」が誰からの贈り物なのか、物語が展開していく。
友情、恋愛、ユーモア、ミステリなど、あらゆるテーマを内包していてかつ読みやすく、面白い。
テーマの豊富さに加えて、掌を返す人と変わらない人、都会と田舎、金持ちと貧乏、さまざまな対比が織り込まれていて、何を軸に読み進めるかによっても感じ方が変わるように思う。
あとはやっぱりキャラクターが立ってるなぁと思う。かなりの人数が登場するがみんなそれぞれに個性的で、好きな登場人物がわかれそうだなと思った。ウェミックが良い。
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「今日は痛みはひどいですか?」
「文句は言わねぇよ、ピップ」
「ほんとに一度も言いませんね」
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これまた良い出会いをした。
田舎に暮らす貧しい少年が、
謎の人物から遺産を継ぐことになり、
そこから大きく揺れ動く人生を描いた作品。
物語として、本当によく出来ている。
徐々に新たな真実が明るみになり、引き込まれていく展開設定、
絶望と希望の良い塩梅、入念な人間観察に基づいているであろう愛すべき個性的な登場人物たち、然るタイミングで然る展開が来る嬉しさ。
ピップ(と私たち)はいずれ帰るべきところに帰っていく、汚された気持ちは浄化されていく。
気づかなかった愛に気づき、
許せなかった人を許していく。
それが人生なんだと思って、
涙腺がどんどんゆるくなっていく。
赦し、信仰、恋愛、友愛、家族愛。
そして私たちの身近にある問題。
この作品が初めて世に出てから幾年も経ているが、
拝金主義で利己的な人間に溢れている世の中。
現代に生きる私たちもそんな社会に揉まれて、
人に裏切られ、裏切り、憎まれ、憎んで、
届かなかった愛や拒んだ愛も数えきれぬ程あるだろう。
そんな時に私たちに慰みと内省する時間を与えてくれるのが、こういった類の物語なのだろう。
物語に人生への、そして愛への礼賛を求めずして、
何を求めよう!
そんな気分に最近はなっているな。 -
一見、語り手であるピップが主人公のように見えるけれど、物語の最後には一人ひとりの登場人物がそれぞれに輝き出して、実はみんなが主人公のように思えてくる。
身分や立場は異なれど、自尊心を保つために、貧困や劣等感に打ち勝つために、あるいは本当の愛を見つけるために、それぞれがそれぞれのgreat expectationsを抱きながら生きていく。
もちろん人生は期待していた通りにはいかないけれど、最初は「他人に期待して」生きていた登場人物たちが、気がつけば「他人の期待に応えよう」としていたのがとても印象深い。 -
長編でもあっという間に読めるほど面白い。
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読者の予想を裏切る顛末で面白く読み進めることができた。
生活している階層の違いや、より上流へのあこがれなど、現在においても相通ずるテーマが盛り込まれているように思う。 -
すごい展開の数々。ご都合主義のような側面もあるけれども、どんなあり得ない展開(実際、読んでいてどのような分岐もとりうると思った。)が来ても納得させられるような説得力をディケンズは持っている。ディケンズの丁寧で正確な描写だからこそ成せるわざなのだと思った。ミステリーの部分では、その点と点が勢いよく線で繋がっていく様は、競馬で例えるなら、さながら大外から一気に抜き去る追い込みのようだった。ミステリーあり、サスペンスあり、ユーモアありと、色々なものが詰まっていて、ほんと剛腕といった感じだ。プロットが非常に複雑で、よくもまあこんな代物を週刊連載で書き上げたものだと感心した。人生の期待や諦観、愛、悔恨が詰まった名作だった。
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読み終わってしまた、また一つ心の大事なもの箱にこの本が追加されました。
訳者解説でも指摘されている通り、これまで読んだディケンズの作品と一線を画すのが、主人公ピップが恐らく老年になって過去を振り返る形で物語が語られるところにあります。そしてそれによって、主人公はその時自分がどれだけ愚かだったのか、醜い卑しい考えを持っていたのかということを包み隠さず教えてくれます。外面上ピップは遺産をもらいジェントルマンになり地位は上昇していくのですが、内面上では子どもの頃の純な心を失い、昔仲良くしていた人に恥の感覚を覚えたり自分の保身やプライドを守るために立ち回ることが多くなります。こういうのって…私じゃん…私…あぁ…私です…泣、ってなりましたね…
ジェントルマンの定義が、この時代の社会で定められていたように「もともとお金持ちの生まれか、もしくは裁判官とかなんかそういう偉い仕事してる人」ではなく、gentle(やさしく)あることならば、ピップは最終的にやっと真のジェントルマンになれたのだということができ、外面上は好きな人と結ばれずお金持ちにもなれなかったけれど、内面的には立派に成長していてハッピーエンドだなと思いました。ひとりの人間が、最初はみんな純粋なのに恋愛したり陰謀に巻き込まれたり社会で揉まれて、なんやかんやあったけど本当の自分を見つけるという意味ではこれ以上ないくらいの教養文学だとも感じました。
そういう意味では『感情教育』や『魔の山』を思い出します。あれらの小説とも通じているのが、主人公の恋愛が決して実らないということです。これは人生の真理なのでしょうか…!うまく言えないのですが、やはり恋愛感情というのは嘘ではないのだけど、長続きする類のものではないし、たとえ永遠に愛しているとしても結婚したり一緒に暮らせるようになるのとはまた違うことなのだろうなと思います。もちろん愛し合って結婚できる人もいると思うけど、実際には身分が違ったりタイミングが合わなかったり住んでいる場所が遠かったり、そのような実質的な問題で、人と人は離れてしまうのだと思います。でも、大事なのはたぶんその思い出とかあの頃感じていた愛は別になくならないし偽りではない…!ということなのかもしれません…。
いんやぁ〜それにしてもだな、これはあれだな、なんていうか上出来さな!俺にはこんな言葉遣い何年生きたってできっこないよ。わかるか、ピップ?つまりだな、ディケンズって人の頭の中いっぺんパカっと開いてみて、覗き込んでみたいもんだね。もしかしたらそこら中に辞書やらなんやらあんのかもしんねえな。(ジョー風言葉遣い)
(翻訳すると)ディケンズの巧みな語り口や比喩には頭が吹っ飛びそうになりますね…物事をどう捉えるか、どう表現するか、ということ…しかもたぶん「そこにあるものを虚飾なくそのままにいう」ということをやっているからこそなのですね。ぎゃー、すごいよー…
ディケンズラブになりました♡