- Amazon.co.jp ・本 (427ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309464206
感想・レビュー・書評
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ハローサマー、パラークシと同様に後半の急展開&テンポの良さがすごい!始めの方は少し読み進めにくいかな?と思ったけど読了感は上記の二作よりも素晴らしかったかも
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解説にも書いてあるけど、何故タイトルにコレを選んだのだろう。いやまあ、機構によるアルカディア統治の象徴みたいなものかもしれないし、結局いろいろあったけど機構による統治期間の物語だから、機構のやり方と農地を蹂躙する巨大機械を掛けたのかもしれないけれどね。
物語自体は大変面白かった。『ハローサマー、グッドバイ』よりこっちの方が好み。本筋以外にもマインドやアモーフなんかの異星生物とその生態系への関与が大変興味深かった。 -
これは好きだ。こういう作者が知識総動員で社会実験を脳内で組み上げるようなSFが好きだ。あとがきにあるgene mapperとエアも覚えておこう。
人口流出の危機に瀕した惑星アルカディア。それに歯止めをかけると名乗りをあげた宇宙の超巨大企業ヘザリントン。その手段とは惑星をまるごと買い上げ実質的に惑星を支配するという植民型開発独裁みたいなことで、当然それに反発する人も出てきたりあれやこれや。平行して主人公ケヴィンはヘザリントンの移民誘致コマーシャル企画に巻き込まれる!みたいな。
惑星の人口流出の原因だとか、開発独裁の体制と人々の争いだとか、さらに相対する人間の理想型に変化するエイリアンとか、いちいち練られている。クライマックスにそれらの要素がまとめあげられ思いもよらない結末に導かれる様がたまらなくいい。非常に論理的なんだけども、それ以外のメインエピソードやラストシーンはスペクタクルでロマンチック。好きだー。キャラクターもいいなぁ。
タイトルは独裁の象徴でもある巨大な無慈悲危険トラクターの名前。こういうガジェットがぽんぽこ出てくるのもSFならではでやっとこさ慣れてきた感じ。 -
コーニイと言ったら『ハローサマー・グッドバイ』よりも『ブロントメク!』派である。しかしそれも三十数年前の記憶。同様に若い頃、『ブロントメク!』に惚れ込んだという大森望による新訳がやっと登場。
他の惑星への移住に経済が係わってくるなんて観点は当時は新しいものだったのではないか。惑星アルカディアでは52年に一度、海洋生物が人間の精神に影響を与えて多くの死者を出す。このため、アルカディアから離れていく人々が増え、惑星の経済が破綻しかかっている。これを再建するのにもはや政府は役に立たず、民間企業へザリントン機構がはいってくる。企業に惑星全体が買われてしまったのだ。
タイトルのブロントメクとはへザリントン機構が農業開発のために導入した巨大機械、いうなれば自動式巨大トラクターである。本書では初出のときだけ雷竜機という訳語を使っているが、コーニイの造語である。しかし、ブロントメクは企業によって再開発される惑星という背景を象徴するものに過ぎない。主役メカではないのだ。
〈僕〉、ケヴィン・モンクリーフは最近アルカディアに移住し、リヴァーサイドという田舎町で小さな造船工場を経営している。ヘザリントンがアルカディア宣伝のために企画したヨットによる単独世界一周の企画で造船を請け負う。〈僕〉はキャンペーン・ガールとしてやとった利発な美女スザンナと恋に落ちる。ヘザリントンとリヴァーサイド住人との小競り合い、ヨット世界一周の実況中継、呑気な田舎町の出来事がだんだん焦臭くなってくる。
からんでくるのが惑星マリリンの不定形生物アモーフ。アモーフは防衛本能から相手の思考を読み取り、相手が理想とする存在に姿を変える。人間の場合なら高率に魅力的な異性に。ヘザリントン機構はアルカディアとの折衝役にアモーフが姿を変えた人物を送ってくる。人を傷つけることのないきわめて感じのいい人物になるからである。このアモーフはデビュー長編『Mirror Image』の主要主題だという。そして脇役の海洋生物学者マーク・スウェンドンは上述の海洋生物による大被害を描く第2長編『Syzygy』の主人公。そしてスザンナは本作のひとつ前の長編『カリスマ』に登場する謎の美女スザンナであることをほのめかす記述が結構前のほうからあることに今回初めて気がついた。
もうひとつ物語にからんでくるのが惑星アルカディアの生態系の特性。ヘザリントン機構はそれを狙ってきたのだ。
表紙はブロントメクではなく、ヒロインのスザンナである。この小説がラヴ・ストーリーだというのには同意できない。スザンナはいるだけ、〈僕〉と行動を共にするだけ。そんなのをラヴ・ストーリーというのか。いうのである。ラカンの有名なテーゼ「女は存在しない」に依拠するなら、スザンナは「いる」のだから。
「主役メカ」ブロントメクはエピローグで朽ち果てた姿で登場する。それもひとつの象徴。何とも苦い物語だ。 -
新訳・復刊の長編。
『ハローサマー・グッドバイ』のおかげで、リリカルな青春恋愛ロマンスの書き手というイメージがあったが、本作の雰囲気はどちらかというと社会派で、予想していたものとは違っていた。
しかしロマンス部分の、ある意味でのピュアさというのは健在で、こういう部分が、この著者を忘れがたい存在にしているような気がする。