服従 (河出文庫 ウ 6-3)

  • 河出書房新社
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感想 : 63
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  • Amazon.co.jp ・本 (324ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309464404

感想・レビュー・書評

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  • どうしても惹かれて、本当は本を買っている余裕がなかったのに、一冊なら!と購入。
    呼ばれたなー。

    というのも、直前に萩耿介『グレイス』を読み。
    その前にフリードマン『新100年予測』を読んでいたんですねー。
    フリードマンの方は読み終えていたので、ドイツとフランス間のアレコレが気になって手に取ったのは間違いない。
    ただ、『グレイス』に出て来たデュルタル神父が、まさかユイスマンス経由でこの作品に繋がってくるとは。呼び本、恐ろしや!

    そんな訳で運命的に手にした一冊なのだけど、なかなかすごすぎる。
    国民戦線とイスラム党の決選投票。
    そこから目まぐるしく変化するフランス内部。
    主人公が車で移動するときの、情報から断絶された静かな狂気のシーン。かなり怖い。
    選挙ってこんな暴力的に破壊出来るのか!そりゃそうだわ!という発見。

    ユダヤ人の彼女はイスラエルへ引っ越してしまうし、女性達は服装もキャリアも穏やかに退去させられることになる。

    主人公の最後の決断がまたエグい。
    私はユイスマンス読んでないから分からないけど、『グレイス』で感じたデュルタル像から安易に対比させるのに抵抗がある。

    なんだかんだ右往左往して、彼が守ったのは女性達が「信仰上」心から捨てなくてはならないものだった訳で。
    つまりは孤独を貫くではなく、孤独を癒やしてくれる救いが欲しかったわけですか……。
    他の方のレビューにもあったけど、描写が村上春樹に似ているからか、飄々とエグかったわ。
    なのに、ディストピア小説って言えるほど、かけ離れた嫌悪感がないこともまた怖し。
    これをディストピアと感じる人は、マジョリティかマイノリティか。

    選択することで、放棄しなくてはならないものの存在がある。
    それは一人一人が自発的に行えることが理想なのだろうけど、国や宗教といった集団に属する限り、個人は時に無視されてしまう。
    そうした世界に溶け込み、無視されたものを敢えて見ないようにする力に服従することは、幸福なのか。

    何かと考える。ユイスマンスも読みたくなる。
    フランス選挙の結果も気になる。

  •  かなり考えされられる内容だったが、全体的に女性への無理解がキツすぎた。女性を同じ人間として見ていないし(エキゾチックとか言っとけば許されると思っているのか)、自分の姿勢を客観視しようとする素振りも見えない。例えば、同僚の女性のマリー=フランソワーズの夫妻に親切に家と別荘に招かれてディナーをご馳走になっておきながら、イスラム優位の社会では彼女のキャリアが全く断絶してしまうだろうということに一言の言及もない。そりゃ自由恋愛で結婚できるわけないわこいつ……と思いながら我慢して読んでいた。
     そういう自省のない傲慢な知識階層へ、イスラームが都合の良い面を押し出してアプローチしてきて、なし崩しに受け入れていくという粗筋が、今のヨーロッパのイスラムへの恐れの心理を皮肉に暴き立てるためのレトリックなのか、それとも単に著者の人間性なのか。ウェルベックをこれしか読んでいないので分からないが。

  • よみまぴた。なかなかダウナー…主人公が女性にたいして言及してるところにちょっとピリッと思うところが多かった、でもウエルベックって「非モテ男子」にすごく人気があるみたいで、ああなんだかんだ知識や教養があってもこういう風に女性を見ている人が多いんだなとゲンナリした。

    その点ではクンデラと比べてみたら面白いかもと思った。クンデラといえば小説の中でだいたいモテる男子だし、女性をより深く理解しているように(わたしには)感じられる。愛がとか恋がとか、そういう話も多いし。

    村上春樹はちょっとウエルベックとクンデラの間のような、でもどっちかというと私は村上春樹には女性の描写にあまり嫌な思いをしたことがない。

    フランスがイスラム政権になってしまう、というのは突拍子もないように思えて案外あり得たり、いや有り得ないな…とかいろいろ考えるのが楽しかった。でも小説の中でもっと広がりがあって欲しかった気がする、なんせ主人公がダウナーで孤独であまり色んなことに興味がないから、世間の動きと切り離されていた。

    ウエルベック…他のも読んでみたい、けどやっぱり私にとっては時間の洗練を受けたもの&日本以外の国で書かれたもの、つまりある程度今の自分と距離がおけるものを読む方が息が詰まらなくてのびのびと読めるな〜って改めて思いました。

  • 楽しめたけど、意外と掘り下げが小さかったなというのが正直な感想。というのも、憲法改正の動きやレジスタンス活動が端折られていることと、ローマ帝国復活の意味合いとヨーロッパの緩い統一の関係性がほとんどと言って論じられていない点がその要因のような気がする。結局は、国家制度として恣意的に力を持たされた男が仲人媒介の一夫多妻制に抗しようがないことでイスラーム化は進められるとでも、結局は言いたかったのかな?筆者も言っているようにレジスタンスが国民の中に染みついているのがフランスという国ですよね。とすると、女性(だけに限定されないけど)のレジスタンス(たとえば、18世紀のパリ行進みたいな)の潜在性と顕在制に触れられていないのは画竜点睛を欠いたのかな、やっぱり。

  • 「人間の絶対的な幸福は服従にある」。
    2022年のフランス大統領選で、ファシスト党とイスラーム党が決選投票に残り、イスラーム政権が誕生するお話でした。
    楽しいの意味はなく、面白かった。
    知識や教養は、超越神の前では脆い。インテリほど迎合も早いというのは驚きです、フランスはレジスタンスの国だと思ってたけどインテリはこうなのかな?
    この主人公は、再び大学で教鞭を執って生活していくためにイスラームに改宗するというより、何人も妻が欲しい…の方が強そうなのにもやもやするところがありました。もともとノンポリなのも珍しいかも。

    外堀から埋められるみたいなところに寒気がしました。その方向からか、と。
    実際にこれが起こるかと言われれば8割方無かろうとは思います。でももしも…となれば、このお話の流れは自然に感じられました。
    一神教の国でこうなんだから、多神教だともっと容易そう。だけど、男性観で拒否しそう。。

    2024年に読んでいるので、解説にあるイスラエル人のご友人の「ハマスの主敵はイスラエル」がつくづくわかります。イスラーム国とハマスがガザ地区で内ゲバやってたのは存じなかったけれど…どちらもスンニ派なんだな。
    世界的に世論はパレスチナ支持に傾いてる。イスラーム支持でなく、イスラエルがやり過ぎという方向で。
    でももしもイスラエル側が「敗戦国」とされても、それがそのままイスラーム支持という意味にはならない気はします。見方が甘いかなぁ。

  • 人間の絶対的な幸福は服従にある。それが全てを反転させる思想なのだ : ルディジェ

  • 2020河出文庫フェア対象本。2022年の仏大統領選挙でイスラーム系政党の代表が大統領となり国内が変化して行く様を、主人公のパリ大学の教員から見た物語。この主人公の線の細さに少し居心地の悪さを覚えながら読み進めたのだが、徹底して彼は孤独であり、家族はバラバラで、ユダヤ人の恋人はイスラエルに去って行く(このユダヤ系仏人のイスラエル移住は実際に2010年代以降増えている)。これは新大統領が「家族」を大切な価値観としていることととても対照的な姿で描かれる。最後には孤独な主人公の友であり研究対象でもあったユイマンスとの決別が訪れる。しかし最後まで彼は、他人の意見を傾聴しつつ決断ははっきりとした意思表明といった感じでなく、流されるように従っている。この、知らず知らずに物事が進んでいくような流れの居心地の悪さは、作者の将来への不安を表しているのだろうか。
    もう一つ読みながら不思議だったのは、こうしたイスラーム系国家元首が欧州の真ん中に誕生し、国家がイスラーム化して行くのなら、周辺の欧州教国からの反発があるだろうに、そういった国際世論は全く描かれない。逆にトルコやモロッコ、地中海周辺のイスラム国との交渉と同盟の進展は描かれる。最後に、欧州で仏に続きイスラム系の代表が選ばれる国が出てくることがさらっと描かれる。
    2024年、仏は五輪・パラリンピックの開催国である。その時仏はどんな政治体制になっているのだろうか。
    メモ:読了日:ヒジュラ暦1442年ムハッラム(第1月)2日

  • ウェルベックの作品は和訳も多く出版されていて、かねてより興味を持っていました。フィクションですが、フランスの政治や社会情勢については、かなり現実を反映しており、実在の政治家も登場します。ここに描かれるのは、イスラム政党のフランスでの台頭ですが、ウェルベックが描きたかったのは、「ヨーロッパの自死」ではなかったかと思います。

    西欧文明が、キリスト教支配の頚城から逃れ、理性・啓蒙主義を軸に文明の発展を図ってきたものの、アナーキズムとニヒリズムが社会と精神の停滞を招き、この小説の舞台である近未来のフランスで、イスラームの信じる神とその世界観に「服従」していく。ウェルベックは、フランスが精神のバックボーンを喪失し、方向性を見失っていると考えているのでしょうか?

    作中には、大学教授である主人公にウェルベックがこう語らせています。「希望が無くなったとき人々に残されているのは、読書だと信じるべきなのだろう」
    フランス経済の低迷の中で、出版業界は比較的業容が良い状態を踏まえての言葉ではあるものの、読書が人にとって救いとなることがあることは事実ではないでしょうか。

  • 近い未来、フランスでイスラムが政権を勝ち取ったらどうなるのか、というお話し。もともとキリスト教信者だった人たちも最初は疑いつつもアッベスから発せられる口当たりの良い言葉を聞いて安心させられているうちに労働のあり方や家族のあり方、教育までいつの間にかイスラムを基とした形に変わっていってしまう。でも考えてみたら当たり前の話しだ。宗教や信仰はその人の進むべき指針や考え方に大きく影響するのだから。この本が発売された時フランスには激震が走ったというが日本だっていつ同じ状況になってもおかしくないと怖くなりました。
    服従とは「あるがままを受けいれること」と述べられていて主人公もいつの間にかイスラムになっていく。紹介された妻は形ばかりの服従の姿勢を見せるかもしれないけど、主人公が望む「あるがままを受けいれてくれる」とは思えないなと感じる後味の悪い小説でした。

  • この本のハードカバーが日本で出たのは2015年の9月、今2017年4月。翻訳ものの文庫化としてはかなり早いなと思ったのだけど、もしかして今まさにフランスでは5年に一度の大統領選挙の真っ最中、もしかしてこのタイミングにあわせての文庫化だったのかしら。

    作中ではさらに5年後の2022年の大統領選がおこなわれているフランスが舞台。主人公はユイスマンス研究で博士論文を書いた大学教授のフランソワ独身40代。あまり政治には関心がなく投票にもいかないタイプ、大学では女生徒をとっかえひっかえ、そこそこモテのインテリのおじさん。

    読んでる私も正直政治の話はあまり得意ではない。日本のことですらそうなのに、フランスの政党のことなどチンプンカンプン、実在の政治家の名前がガンガン出てくるので(今回も候補になっているマリーヌ・ル・ペンとか)こういうのってフランスではOKなのかな?名誉棄損で訴えられない?と心配になったりする程度。しかし、にもかかわらず、なんとなく読まされてしまうのがすごい。

    2022年のフランスではなんとイスラーム政党が勝利、当然以降は、ムスリムの法がフランスを支配することになる。女性は肌の露出を許されなくなり、家庭で生きるために社会からは撤退、男性側にとっては嬉しいことに一夫多妻制、他の宗教を信じていてもおおっぴらに迫害されるわけではないけれど、出世はできない。教師や公務員は改宗が必須。

    主人公は無神論者らしく、当初は現実逃避的な行動しかとらない。しかし大好きなユイスマンスも入っていた修道院にいって修行しようとしてみるも、煙草吸いたくて挫折しちゃう優柔不断な彼は、彼を優遇してくれるある人物に説得されて「服従」を選ぶ。この説得材料に『O嬢の物語』を引っ張り出してくるのがすごい。ドMの心理を、神への服従=宗教への服従(つまり信仰ではなく)に例えるとはなんとも斬新。うんまあでも殉教者はほとんどドMだしね(こら)

    近未来、ウエルベックの書くことはまるで預言のように実現することがあるので怖い。大半を占める政治の話の全部をきちんと理解できたわけではないけど、それでもすらすら読めたのは翻訳が良いのかな。共感ポイントはとくにないけれど面白いと感じた。しかしとくに必要と思われないセックス描写が無駄に具体的でくどいのは村上春樹っぽくてやっぱりちょっと苦手・・・

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著者プロフィール

1958年フランス生まれ。ヨーロッパを代表する作家。98年『素粒子』がベストセラー。2010年『地図と領土』でゴンクール賞。15年には『服従』が世界中で大きな話題を呼んだ。他に『ある島の可能性』など。

「2023年 『滅ぼす 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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