ボードゲームで社会が変わる: 遊戯するケアへ (河出新書)

  • 河出書房新社
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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309631714

感想・レビュー・書評

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  • 與那覇潤、小野卓也『ボードゲームで社会が変わる』読了。ボドゲテーマ初の新書。シリアスゲーム批判(危惧)を活字で読んだのは初めてかも。
    ボードゲーム哲学という煽りは大仰だけれども、メリトクラシー、新自由主義的なものとメンバーシップ、ナショナリズム的なものを「こわばった共同性」としてまとめ、それらを乗り越えるものとしてゆるやかなつながり、コミュニティを生み出すものとしてのボードゲームの可能性に触れており、ここは大いに同意するところ。ここからサード・プレイス論とかに発展させてもいいんだけど、趣味のワンオブゼムとしてのボドゲとするのか、あるいは他にないボドゲの特異性を論じるのか、そうだとしたらそれはなんなんなのか、というところは考えていきたいところ。それにしても小野さんの語り口の安定感たるや。本職の法話もきいてみたいものだ。

  • この本「ボードゲームで社会が変わる」は、ボードゲームが社会に与える影響についての深い洞察を提供します。デジタルゲームとの違い、ドイツとアメリカのボードゲームスタイルの対比、そして著者がうつ病の回復過程でボードゲームが果たした役割など、多岐にわたる興味深いポイントが紹介されています。さらに、6人の寄稿者による歴史や国際政治に関連するボードゲームのプレイレポートは特に注目に値します。この本は、ボードゲームを単なる遊びではなく、個人の属性や能力の違いを超えた共存のための手段として捉え、新たな視点を提供しています。読んでいて、ボードゲームのもつ社会的な価値や可能性に改めて気づかされました。

  • 「目的」は遊びの大敵
    という小見出しが出てくるが、この部分こそ本書の中核をなす本質だと感じた。
    ボードゲームを知らない人向けの紹介レポートとして、6人の有識者による実際にボードゲームを遊んでみたレポートも収録されているものの、
    その部分は付録的なものであり、挙げられているゲームも世の中に無数にあるうちのごく一部でしかない(批判しているのではなく、そもそも良作を挙げたらキリがないし、読書と同様に人によって向き不向きや相性もあるから一概に言えない事情もあるかと思う)。

    現実社会においても、
    事前に設定された「目的」に縛られてしまった途端におもしろくなくなる、という現象が観察される場面は少なくない。
    仕事でも、スポーツでも、過度に「目的」に縛られると単なる作業と化してしまい陳腐化する。
    明示的でない、自ら設定する裏テーマがあって初めて生き甲斐に感じることができるのは
    多くの人にとって思い当たるところがあるのではないかと思う。

    本書は、そうした社会現象の縮図を、
    誰か特定の人に具体的な責任を負わせないファンタジーとして追体験できる環境を与えてくれるのが
    アナログゲーム(ボードゲーム)である、と指摘する。
    あくまでも遊戯(ゆげ)に徹するところに意義があり、
    そのことを体験すれば、現実社会における振る舞いを自ら振り返って見直すきっかけにもなる、
    と説明している。
    実際の感じかたは人それぞれだろう。
    それでいいのだ。

    コロナ禍を経て加速しているボードゲームブームの背景には、
    コミュニケーションの枯渇を補うツールの需要が急激に高まっているのかもしれない。

    ボードゲームを単なる遊びで終わらせず、
    人生の幸福度を上げるツールとして活用するアプローチを積極的に提案し、その構造を深掘りしながら平易に提示する良書。
    とても共感いたしました。

  • タイトルに社会を変えるとあるが、本書で面白いボードゲームを発見し、皆で楽しむ時間を作れたら、それだけでも作者冥利か。場を共有する事で得られるコミュニケーションは、それ自体がオンラインで代替出来ない「遊戯」になり、そこにボードゲームの真髄がある。優れたゲームのデザインには、高度で洗練された設計が求められ、人間の心理や行動原理まで見越した内容は、社会や経済のシミュレーションに使えるほど用途が広い。その意味では、人間世界そのものが広義の遊びと見立てられなくもなさそう。

  • 「「ボードゲームを思想にする」ために」(p3)作られたという本書。その言葉に違わず、「ボードゲームを思想にする」ための数々の試みが、書籍全体にちりばめられており、その切り口そのものが興味深い。
    文化人類学者・小川さやかさんの『 ハイソサエティ』論や、歴史学者・辻田真佐憲 さんの『主計将校 』のプレイレポート)など、様々な分野の研究者・専門家がそれぞれのアカデミックな知見と文体で「ボードゲームをプレイする」経験を記述する第2章からは、「ボードゲームを思想にする」ために我々はいかなる言葉で、何を語ることができるのか、という問いを突き付けられる。
    また、與那覇潤氏と小野卓也氏の二人が、それぞれに異なる言葉を重ねながら、ボードゲームをプレイすることの「本質」を語ろうとする対談(第1章・第3章)も面白い。與那覇氏が、自身のゲームプレイ経験に基づく経験を分類・整理しながら言語化すると、それが即座に、インド哲学者であり住職でもある小野氏によって、宗教的な実践と結びつけられその実践の意味が重層化されていく。もちろん、ボードゲームをプレイするときの経験を語るための言葉、それを抽象的に意味づけ価値づけるための言葉はさまざまだが、そのひとつのありよう、その可能性のようなものを垣間見せてくれているように思う。

    ***
    もっとも印象に残ったのは、與那覇潤「ボードゲームはなにをわたしに考えさせたか――リワークデイケアでの体験から」(第4章)での、「人狼」についての考察だ。與那覇氏はリワークデイケアで何度も「人狼」のファシリテートをしてきた体験をもとに、本来、「遊び」であったはずの「人狼」が「必勝法」の持ち込みによって「作業」になってしまうことを指摘しながら、それを避けるために私たちができることのひとつに、「長くつづけること」を挙げる。つまり、同じメンバーで対面で集まりながら長く続けていくことによって、お互いのことがわかってくること、お互いのことを気にかけあうことで、みんなでみんなが楽しめるようなゲームプレイのありかたができあがってくる――それによって、私たちはもう一度、「人狼」を楽しめるようになる。
    與那覇氏は、ここに、「社会思想としてのボードゲーム」の可能性を見出す。
    このことは、同じメンバーで何度も何度も同じゲームをプレイする機会そのものが珍しいなか、どうしても見過ごされがちだ。嫌な思いをするプレイヤーがゼロになるように、ゲームシステムのルールを複雑にすることでみんなが楽しめるようにすることが、ベストソリューションだと短絡的に思われがちだ。でも、そんなかたちでファシリテーターに依存しなくても、私たちは、ゲームを自分たち自身で楽しめるようにするための場を、自分たち自身で作り出せるはずなのだ。
    ボードゲームが、そんなかたちで、私たち自身がその場にいる人たちと皆で楽しみあえる場をつくる「練習場」になるのだとしたら、そういうプレイの場を易々と放棄するのは、あまりにももったいない。

  • <目次>
    第1章  なぜボードゲームに注目するか~「ブーム」の理由と現在地
    第2章  ボードゲームをどう楽しむのか~有識者6名とのプレイング
    第3章  どんな未来をボードゲームは開くか~「遊戯<ゆげ>するケア」の可能性
    第4章  ボードゲームはなにを私に考えさえたか~リワークデイケアでの体験から
    第5章  ボードゲームはどこまで世界を掘り下げるか~「えっ?」と驚くテーマの作品たち

    <内容>
    最近はやりのボードゲーム。教え子の卒業生たちもときどき集まってやっているようだ。この本は、ある意味ボードゲームを大上段から論じている。やや仰々しいが、その楽しさも垣間見えるし、最後に初心者への購入術も載っているので、実用性も○である。

  • 『ボードゲームで社会が変わる」
    評論家の與那覇潤さんは存じ上げなかったが、小野さんはブログも読んでるし声も顔もよく知っている。対談部分は與那覇さんを自分を重ねて、大先輩の小野さんに教えてもらっている感覚で読んだ。

    ボードゲームをゲストと遊ぶ章では近現代史研究科の辻田真佐憲さんや国際政治学者の三牧聖子さんなどラジオやYouTubeで見知った方が出ているので、そんな人たちがボードゲームを遊ぶなんてという驚きと嬉しさがあった。軍事に詳しい辻田さんによる主計将校解説は熱かった。フェルトのドラゴンイヤーは実際の中国の歴史を考えると緩いというのも面白い。

    本のタイトルからボードゲームが何かの役に立つという結論に持っていくための本かと少し構えて読んでいたがそれは杞憂だった。もともと與那覇さんはそういう経験から興味を持ったみたいだが、小野さんが参加していることでホビーとしてのボードゲームの魅力をしっかり語ってくれている。小野さんの知識量に圧倒されながらも、好きなものの言語化をしてくれて、膝を打ちながら楽しく読めた。

  • ===qte===
    (新書・文庫)『ボードゲームで社会が変わる』與那覇潤、小野卓也著
    2024/1/20付日本経済新聞 朝刊
    ■『ボードゲームで社会が変わる』與那覇潤、小野卓也著

    近年活況を呈するボードゲームの魅力や可能性を、評論家とボードゲームジャーナリストが論じた。対面で遊ぶことで「みんなに楽しんでほしい」という客観的な視点や、互いの属性を気にしない平等な感覚が養われる。デジタルより制約があるからこそ無限のケアにつながると説く。識者6人による体験記のほか、購入法やシチュエーション別のおすすめもあり、入門書としてふさわしい。(河出新書・990円)


    ===unqte===

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京大学教養学部卒業。同大学院総合文化研究科博士課程修了、博士(学術)。専門は日本近現代史。2007年から15年にかけて地方公立大学准教授として教鞭をとり、重度のうつによる休職をへて17年離職。歴史学者としての業績に『翻訳の政治学』(岩波書店)、『帝国の残影』(NTT出版)。在職時の講義録に『中国化する日本』(文春文庫)、『日本人はなぜ存在するか』(集英社文庫)。共著多数。
2018年に病気の体験を踏まえて現代の反知性主義に新たな光をあてた『知性は死なない』(文藝春秋)を発表し、執筆活動を再開。本書の姉妹編として、学者時代の研究論文を集めた『荒れ野の六十年』(勉誠出版)が近刊予定。

「2019年 『歴史がおわるまえに』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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