10ドルだって大金だ (KAWADE MYSTERY)

  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309801018

作品紹介・あらすじ

結婚三か月、そろそろ妻を殺す頃合だ-財産目当てに妻殺しを計画する男を待っていた皮肉な展開をオフビートなユーモアをまじえて描く「妻を殺さば」、銀行金庫の中の"余分な"10ドルをめぐって二転三転する「10ドルだって大金だ」、迷探偵ターンバックル部長刑事シリーズなど、巧みなツイストと軽妙なタッチが冴える短篇ミステリの名手リッチーの傑作14篇。

感想・レビュー・書評

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  • ジャック・リッチー(1922 -1983)は、アメリカのミステリ作家。「アルフレッド・ヒッチコック・ミステリ・マガジン(AHMM)」や「エラリー・クイーン・ミステリ・マガジン(EQMM)」などのミステリ雑誌の常連として名を馳せた。生涯に350を超える短編をものしている。

    生前に刊行された本はわずか1冊。発表の場はほぼミステリ雑誌で、ある種、読み捨ての軽い作風を身上とするが、その筆致は職人技だ。
    そぎ落とされたシンプルな描写。胃もたれしない軽さ。くすりと笑わせるウィット。時折忍び込むダークさ。
    洒脱でべたつかないクールさが魅力である。

    本書は邦訳オリジナル編集で14編を収める。
    のちの「カーデュラ探偵社」シリーズの前日譚のような作品や、別のシリーズであるヘンリー・ターンバックルものも含む。

    個人的には、以下の3作を推す。

    ・「10ドルだって大金だ」
    表題作。町の小さな銀行の会計検査。例年通りに何事もなく終わるかと思えば、検査官は問題があるという。収支が10ドル合わない。さらにおかしなことには、足りないのではなく、「多い」。そんなバカな。銀行の会計には「私」と2名の従業員しかかかわっていない。いったい誰が、何のために、10ドルを金庫に入れたのか? 検査官は温情処置で翌朝もう一度確かめなおすという。疑心暗鬼の一夜を過ごす「私」。翌朝もたらされる驚きの真実とは。結末が鮮やか。

    ・「誰が貴婦人を手に入れたか」
    ルーベンスの名画『貴婦人像』がアメリカの美術館に貸し出された。厳重な警戒をかいくぐって、何者かが名画を狙う。だがことはうまく運ばなかったようで、後には名画が残されたままだった。だがしかし、この名画、何かがおかしい・・・?
    考え抜かれた計画で、名画から大金を生む犯人の手口がいっそ小気味よい。

    ・「キッド・カーデュラ」
    のちの「カーデュラ探偵社」の前日譚。Cardulaは誰もが知る「あれ」のアナグラム。
    ボクシングジムを訪れた1人の男。カーデュラと名乗るその男は、30歳。ボクサーとしては若くはないが、どうしてもボクシングがしたいという。半信半疑でマネージメントを引き受けた「おれ」は、彼の桁外れの強さに驚く。ファイトマネーをがんがん稼いでいくカーデュラ。だがこの男、夜の試合にしか出られないという一風変わったところがあって・・・。
    カーデュラが恩義に対してきっちり仁義を立てるラストが楽しい。

    性格描写や壮大なテーマはないが、ちょっとした息抜きに職人芸を楽しむのも悪くない。

  • 「とっておきの場所」
    とてもジャック・リッチーらしい作品。
    犯人対刑事の頭脳戦が楽しく書かれている。刑事の先の先を読む犯人。
    ジャック・リッチーの作品は、何故か犯人を応援したくなってしまう。不思議だ。

  • 私の中でショートショートといえば、星新一と阿刀田高。そしてジャック・リッチー。

    倒叙ミステリーは、徐々に追い詰められ犯行が露見するパターンが多いと思うけれど、本作は逃げ切れるハッピーエンド?が多くてこれはこれで楽しかった。
    ダチョウ倶楽部の「どうぞどうぞ」パターンかなと思わせる「10ドルだって大金だ」にもニヤリ。

  • 2020/4/29購入
    2020/12/20読了

  • 妻を殺さば
    妻殺しの機会を狙っていた夫が、妻の愛を知り夫も自身の心を知る物語。

    世界の片隅で
    少年が叔父の犯罪計画に巻き込まれ隠れた場所の物語。

    この二つが良かった。


  • 「カーデュラ探偵社」と同じ作者だったので。

    面白かった。
    お話としては、最初の作品「妻を殺さば」。
    金のためにちょっと変り者の女性と結婚した男の話。
    召使いや運転手、強請り屋(!)と彼女のお金に群がる、
    いわばライバルたちを次々と片づけ、いよいよ彼女を殺す番に。
    流れるような展開がとても楽しい。

    それに、「だれが貴婦人を手に入れたか」。
    パリからアメリカから来た世界で最も偉大な絵画「貴婦人像」を盗む話。
    非常に頭の良い「盗み」だった。
    肖像画はモナリザをイメージでしているのだろうか。
    面白かった。

  • 収録作どれもさらりと読ませて鮮やか。先の展開がどうなるのか予想はしてみるものの、さらにその先に一捻り加えてくるなど、どれも高水準で面白かった!

  •  ジャック・リッチーの短編集2冊目。正直言ってクライム・マシンよりは若干落ちるなあ。惜しい。こうなるかなと思ってたら意外なことになったり、案外だったり、意表をつくところは相変わらずだが、思わず膝を打つというほどでもなくなった。でも並の短編集よりは抜けているのは確かで楽しめる。あれだけの高水準を続けるのはどだい無理な話なのでこれでも十分。

  • 洒落た会話、シャープな文体、ひねりを効かせた展開、あっと驚くようなオチ、というのがジャック・リッチーの持ち味。2016年に早川書房から出た『ジャック・リッチーのびっくりパレード』を初めて読んで以来、すっかりはまってしまった。2013年には同じポケミスで『ジャック・リッチーのあの手この手』も出ている。『10ドルだって大金だ』は、2006年に河出書房新社から刊行されたもの。全部で十四篇の短篇集だが、先に挙げた二冊と比べても遜色ない出来栄えにまとまっている。

    「結婚して三か月、そろそろ、妻を殺す頃合だ」という書き出しではじまるのが「妻を殺さば」。温室と納屋を探しても見つからない毒薬の在りかを、殺す当の相手に「ヘンリエッタ、毒薬はどこにある?」と尋ねるところからして、リッチー節炸裂だ。このオフビート感がたまらない。「仕事を義務だとか、喜びだとか、やりがいだとかと感じたことはないし、日ごろから、仕事を楽しんでいる人々は基本的にマゾヒストなのだと思ってい」るウィリアムは、生まれてから四十五年間働いたことがない。

    「これまで他人がその慣習に従うのに異を唱えたことはない。平凡な精神というのは、何かに打ち込まずにはいられないものだ。労働にせよ、漫画本にせよ、結婚にせよ。それでも、わたしは常に独立した立場を大事にしてきた」。たとえ構成人数が二人でもチームに入るのは気が重い。金のためにした結婚なら三か月くらいが切り上げ時、というのが、殺しの理由というのだから、ふるっている。いいねえ。この人を食った言い種。

    財産が目的だから、家計の支出にも目を光らせる。すると、不明朗な会計が見つかる。使用人が鷹揚な女主人を食い物にしていたのだ。首をすげ替えることで、食事は美味しく、時間通りに出るようになる。この悪党のすることなすことがいちいち、妻のためになっていくところが最大の皮肉。財産目当てで妻を殺そうという男なのに憎めない。逆に無邪気なはずの子どもは、ずる賢くて可愛げがない。庭に放り込まれた青酸カリの丸薬を家のどこに隠したのかを尋問する刑事が子どもの狡知に手を焼く「毒薬で遊ぼう」が、まさにその見本。

    オチの秀逸さで目を引くのが表題作。会計検査で見つかった余分な十ドルを金庫に入れたのは誰なのか?二人の従業員はそれぞれ自分が犯人だと名乗り出るが、信用が落ちるのを防ぎたい銀行家はもみ消しを図る。翌朝、再度検査をする直前、余分の十ドル札を抜けばいい。従業員と申し合わせ、金庫の開く時間にやってくるはずの検査員の足止めをたくらむが、果たして。クリスティー張りの叙述トリックの大胆さにあきれる。

    死体を隠すには自宅の庭がいいというのはこの作家の持論。「とっておきの場所」は、その死体の隠し場所を主題にした一篇。ウォレンは自分が疑われていることより、丹精した庭を警官たちに掘り返されることの方を気にしている。そんな時、隣人がウォレンは湖畔に夏用の別荘を所有していることをばらしてしまう。さて、死体はどこに?盲点を突いた隠し場所と殺人方法にニヤリとさせられる。

    リッチーの短編に常連の二人の探偵も登場する。一人目はこの作品が初登場なのか、ボクサーとして登場する。外套も帽子もスーツも靴も黒一色で身を固めた男。服は上等だが、寝る時もそれを着ているくらいくたびれていた。力は強くパンチ力も抜群ながら、光恐怖症(フォトフォビア)があって試合は夜しかできない。キッド・カーデュラ(Cardula)というリングネームでさっそうと登場したこの男の正体はもうお分かりのことだろう。

    もう一人は、ヘンリー・ターンバックル。作品により、警察に勤めていたり、私立探偵だったりするが、相棒のラルフとのコンビは今回も健在だ。知識は豊富で、抜群の推理力を誇り、鮮やかに謎を解いてゆくのだが、どこか過剰で必要以上に謎を解きたがり、その結果すべりまくるという迷探偵ぶりが笑わせてくれる。今回は五篇を所収。

    「誰も教えてくれない」は、私立探偵開業後の初仕事。失踪人探しという私立探偵にはお約束の仕事の依頼。失踪した女中頭を探さずに報告書だけ送れといわれて、ピンときたターンバックルは匿名の依頼主の家をまんまと探り当て、調査を開始。すると、相前後して依頼主の息子と娘が父と同じ内容の調査を依頼に来る。失踪人は殺されていると考えた探偵が犯人だと指名したのは、何と執事!いつものやり口である。

    探偵小説では、使用人が犯人というのはご法度。横紙破りのリッチーは、面白がってその手を使う。しかも、それは簡単に覆されて、真犯人が別にいることが分かる。しかも、何ということでしょう。通常なら序盤から登場していなければならないはずの犯人の存在が、最後になって探偵と読者に知らされる。こんないい加減なミステリがあるものか、と怒ってはいけない。重々承知した上での悪ふざけというか、メタミステリになっているのだ。

    六人の連続殺人を予告する手紙が犯人から送られてくる。五人が殺され、警察は共通点を探すが見つからない。被害者の名前はセルヴァンティーズ、ジャクスン、リヴィングストン、ニューマン、ルーベンス。どこかで聞いたような名前ばかりだ。もう一つの手がかりは手紙に署名代わりに記されている<10/19/1>。手口からプロファイリングした犯人像と二つの手がかりからターンバックルは犯人に迫るが、大事なところで読みを誤る。「殺人の環」はクリスティーの『ABC殺人事件』を嚆矢とする「見立て殺人」をパロッている。さて、共通点は何か?アルファベット順というのがヒント。

    クールな中にそこはかとなくユーモアが漂い、深く考える間もなく、あれよあれよという間に犯人が分かってしまう。最近流行りの猟奇殺人は登場しないので後味がいいし、凝りに凝ったミステリとちがって、淡々と語られるストーリーは、ひねりが効いているものの満腹感はない。一度手にすると、次々とページを繰る手がやめられない、止まらない。しかも、どの作品もはずれがない。まさに職人技。器でいうなら普段使い。シンプルでいて飽きることがない。ふとした折に手にとれるように、いつも手元に置いておきたいのが、ジャック・リッチーだ。

  • 前作ほどの切れ味は無い。ヘンリーターンバックル刑事シリーズはあまりに明晰な推理力や卓越した人間洞察力で組上げた論理が常に現実を追い越してしまうという笑えて、新しく、オリジナリティあふれる探偵キャラクター設定が本作でも秀逸。

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著者プロフィール

1922‐1983。ウィスコンシン州ミルウォーキー生まれ。1950年代から80年代にかけて《ヒッチコック・マガジン》《マンハント》《EQMM》などの雑誌に、350篇もの作品を発表した短篇ミステリの名手。軽妙なユーモアとツイスト、無駄をそぎ落とした簡潔なスタイルには定評がある。「エミリーがいない」でMWA(アメリカ探偵作家クラブ)最優秀短篇賞を受賞。邦訳短篇集に『クライム・マシン』(晶文社)がある。

「2010年 『カーデュラ探偵社』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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