オトメの祈り: 近代女性イメ-ジの誕生

著者 :
  • 紀伊國屋書店
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感想 : 6
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  • Amazon.co.jp ・本 (254ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784314006064

作品紹介・あらすじ

近代化の荒波のなか、可憐に花ひらく少女たちのワンダーランド。女性雑誌を通して、オトメたちがつくりあげた、不思議な共同体とは?

感想・レビュー・書評

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  • 「Twitterを見るのをやめられない…」なんて声もちらほら聞く現代ですが、この本を読んでいると、100年前にも同じように、活字メディアに魅了された若い女性たちがいたんだなあと納得します。
    川村邦光さんの『オトメの祈り』は、『女学世界』『婦女界』など、明治終わりから戦前期の女性雑誌の分析を通じて、女性たちの姿を描き出した一作。近代における女性たちの言説を丁寧に読みなおす、射程の広い著作です。
    前半では、女性雑誌の読者投稿欄のお便りに注目しています。「〜遊ばせ」といった言葉遣いや「ハート」「ライフ」「ロマンス」など、当時の女学生たちの流行語の数々を駆使した〈オトメ体〉の文章。それを書くことによって、彼女たちは誌上で〈想像の共同体〉、いわば〈オトメ共同体〉に参加していたのだ、といいます。
    さらに後半では、雑誌の表紙絵や化粧品広告などの視覚メディアの分析に加え、オトメたちが夢見た〈ブルジョア家庭〉と実際に築いていった"愛の家庭"のありさま、そしてオトメたちがゆきついた「主婦」という物語の誕生までを論じていきます。
    マスメディアを通じたコミュニケーションを考える時、しばしば現代のインターネットやSNSのことを考えてしまいがちですが、かつては(今も?)雑誌や新聞がその重要な形態でありました。
    メディアがどのように人々をつないでいくのか、近代の女性をとりまく言説はどんな状況だったのか、100年前の女性たちのリアルはどんなものだったのか、さまざまな関心から面白く読むことのできる一冊だといえるでしょう。
    川村さんには同じe-bookで読めるものとして『オトメの行方』という作品もあり、合わせて読むと近代日本の「オトメ」たちの姿がさらに見えてきます。
    (文科三類・2年)(4)

    【学内URL】
    https://search.ebscohost.com/login.aspx?direct=true&scope=site&db=nlebk&AN=143052

    【学外からの利用方法】
    https://www.lib.u-tokyo.ac.jp/ja/library/literacy/user-guide/campus/offcampus

  • 女学生たちが作り上げた幻想の共同体として「オトメ」という概念をあらたに設定し、それが近代化の過程でいかに形成され、かつ当事者たちにどのような形で維持され、結果的に女性自体のイメージにどう影響したのかを、女学生雑誌の読者投稿から分析してゆく本です。

    みずからを乙女(オトメ)とみなした少女たちが印刷技術の革新により生まれた読書人間の一種であると言う分析には、なるほどごもっともと思いました。

    吉屋信子『花物語』などをはじめ、あの辺りの女学校というとを、なぜか美しく理想的なイメージが浮かんできます。しかも、妙に心惹かれるのです。なんでだろうと不思議でした。いまでも女子校は普通にありますが、そんな清楚な理想郷のイメージはありません。むしろスカートの下にジャージをはいてても誰も気にしないような、楽しくざっくばらんな自由のイメージです。

    そこやはり、大昔だからかなと思っていました。学校なんてお金持ちしか通えない場所だったから、自然と浮世離れしていたのかなと。しかし、本書を読むと、かつての少女たち自身が女学校を、どこか聖別された特別な空間として過度に理想化し、懐かしく懐古し続けてたからこそ、あんなにも謎めいてキラキラしてたのが分かります。

    つまりは現実の上に重ね合わされたフィクションだったからこそ、いま読んでも妙に魅力的なんですね。言葉をかえれば、オトメとは文字として存在している小宇宙ですから、女学校を卒業しても、孫ができても、読めばすぐに帰ることができる。

    逆にいえば、文字ですから、女学生であったことなど一度もないような我々にも触れられるわけです。もちろん、所属感なんてものはないですが、現状になんらかの不満を抱いていて、いっときばかり現実逃避をしたいような人間にも扉は開かれているように思います。

    養老孟司氏の本でも、身体と思考の分離をうながす大きな歴史の流れについて語られておりましたが、オトメという幻想の共同体は、因襲的なしがらみから自由にはなれない身体から、読書というツールを利用して、精神だけは分離させようという、当時の女性たちの一種の逃避先だったわけで、だからこそ現実から遊離し過度に理想化されてます。この構造からして近代化の流れそのものだと思います。

    こうした、理想郷に読書行為でつながろうとする姿は聖書をあがめたてまつるキリスト教徒のようです。そういえば女学校というとなぜか賛美歌を歌っているイメージがあります。あれはあながち的外れなイメージでもなかったようです。オトメ的な本を読み、オトメ体で書き、オトメ仲間たちと語らい続けることは信仰活動だったんでしょう。それゆえ本書のタイトルもオトメの祈りなのですね。

    無名のオトメたちが操る独特な言葉「オトメ体」で描かれる世界はなかなかにパワーがあります。そんなオトメの言葉も、引用の形ではありますが、じかに読めたのが良かったです。

  • 乙女でありたいと思った近代の女性たちの姿を、当時の出版物から読み解く。乙女という概念は過去のものとなったけれど、今の女性たちは女子というキーワードで自分たちの世界観をつくっていて、どちらも閉じた世界の中でつながりあっているなぁ、と思う。

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  •  明治から昭和初期にかけての、女性達による自己イメージを、当時の雑誌に掲載された投書を元に分析した本。ビックリしたのは、当時の投書の文面の美しさ・心地よさである。古い文体ってのはこうまでして目の保養になるのはなぜか。当時の女性達の、「悲しさ」「寂しさ」といったイメージが、非常に印象的であった。2008.4.27-27.

  • 現代にも形を変えながら生き残っている「オトメチック」な語り、あるいは心性。<a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4872330218/toraushi-22" target="_blank"><strong><u>大塚英志『たそがれ時に見つけたもの』</u></strong></a>は、それを1980年代の『りぼん』の「ふろく」を通して見ているわけですが、こちらは大正時代の女学生の雑誌『女学世界』の、とくに読者投稿を通して見ています。「『オトメ』の語り」がどのように生み出されていったかを見ることによって、「近代における〈少女〉の発明」といったものにも思いをいたすことになります。…というわけで、おもしろいです。かなり強くオススメ。(20060122)

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著者プロフィール

川村 邦光(かまくら・くにみつ)
文筆業。東北大学大学院文学研究科満期退学。2016年大阪大学大学院文学研究科退職。著書に『日本民俗文化学講義』(河出書房新社、2018年)など。 

「2022年 『親密なる帝国』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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