社会科学の哲学入門

著者 :
  • 勁草書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784326102969

作品紹介・あらすじ

社会科学はいかなる「科学」か? 科学哲学の観点からその営みの根本へとガイドする。哲学と社会科学を学ぶ全ての人のための入門書。

社会現象をどう捉える? 社会科学は普遍的といえるか? 研究者の価値観をどう取り除く? 社会科学は自然科学に還元されるのか? 社会科学の哲学とは、こうした社会科学に関する様々な問題を哲学的に問う科学哲学の一分野である。6つの問いを出発点に、基本用語と対立軸を丁寧に解説する、初学者のための待望のガイドブック。

感想・レビュー・書評

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  • 大学講義の社会哲学総論みたいな学部生が受講する内容を、一冊にまとめたもの。お堅い内容と文章ではあるけど、初めて触れる学問分野だったので概要を何となくつかむ一助になてくれたか。

    以下個人的な理解も混じったサマライズ
    第一章:
    存在論・方法論×個人主義・集団主義のマトリクスを各主義の論者の意見をまとめながら、最終的に制度的個人主義という社会は固有の有機性は持ちえないが、個人の意図せざる結果への影響を持っていることを含意したものとして社会科学を捉える方向に発展していくのではないか?

    第三章:
    社会科学の理論の前提となる合理的経済人の言及から、行動経済学(代表ヒューリスティックスやアンカリングと調整)まで視野を拡張し、社会科学の理論の根本的な目的を追求していく。最後通牒ゲームでみられる、人間は、利他主義と完全合理性の狭間で揺れる曖昧な強い互恵性を備えていることも示している。理論とは一般性・普遍性を有するべきか、単なる道具として割り切るか、いづれにしても常に批判にさらされることで中立性や客観性を保っていく挙動がいるのだろう。

    第四章:
    社会科学は一つのものの見方にすぎないのか、ここは文化相対主義に対する認識が刷新された。各文化を尊重することは良いことと盲目的に信じていたが、ここに問題が孕んでいる。
    自文化の慣習と比較して、異文化のさいれに問題があると批判できなくなる(P132-133)
    自分の属する社会の慣習を批判できなくなる(P133)
    道徳的進歩の考え方が怪しくある(P133)
    手放しですべてを認めるずぶずぶの思考回路ではなく、やはり自己批判的な立場は常に意識していきたいと心に留めよう。

    最後の2つの章は抽象度が上がってきて、理解が及ばず。しかし、真に正しいという理論や考え方は存在しないという前提で、批判的にというのがキーワードであることは何となく伝わった。哲学と銘打つだけあって、人間を対象としている学問に対するメタ的な視点でどう意義があるのか、という究明が思考を惑いに誘う良い体験をさせてもらえました。
    参考文献も充実しているので、個々から気になったトピックの理解を深堀しよう。

  • 概説書,というか用語集を文章になおした本といった趣き.各章それぞれ問いが立てられていろんなひとの議論が整理される,という形をとっているが,問い自体がなかなかはっきりと捉えづらい.教科書みたいなものだからしょうがないということかもしれんが,アーギュメントがあんまりないのもつらい.「社会科学の」問題なのかあんまりわかんなくなる部分もおおくて,どういう事例が念頭に置かれてるのかをもっと言ってほしかった.読書案内とかはとても充実してるし,ひとの考えと吉田さんの考えとはよく区別されて参照先も明確なので,扱われてる議論を元の文献に戻って整理しなおしたりしながら読書会やったりレポート書いたりするとよいだろう.

  • 摂南大学図書館OPACへ⇒
    https://opac2.lib.setsunan.ac.jp/webopac/BB50265622

  • 2021年度第2回見計らい選定図書
    http://133.11.199.94/opac/opac_link/bibid/2003576904

  • https://cool.obirin.ac.jp/opac/volume/880171

    千駄ヶ谷にもあり。

  • 「社会科学の哲学」という学問があること自体知らなかったが、哲学思想と社会科学の両方の側面で物事を捉える面白い分野だと思った。日本ではまだ研究が進んでいないみたいで、本格的な入門書も本書が初という感じらしい。

    ◯現代の社会科学において自然主義が有力である理由
    物理学羨望→ガリレオ、アインシュタインなど、科学史の功績は物理学が大半を占めており、社会学者も物理学のような一人前の学問にしたいという願望があった。

    行動主義心理学→心理学は物理学や生物学のような位置づけを目指していた。

  • 書名に惹かれて買ってみた。科学哲学の本というと自然科学が題材となることが多い中で、社会科学を扱う本書が出版された意義は大きいはず。ただ、入門書という位置付けのためか、いかにも教科書的な書き方で、ページ数の割に多くの研究者の主張が紹介されるため一読しただけでは理解しきれない。本格的な勉強に入る前の読書ガイドとして使うと良さそう。また、(科学哲学の特性なのかもしれないが)社会科学をひとまとめにして語るシーンが多く、議論の内容がピンと来ないことが多かった(これは私が社会科学に詳しくないからだと思うが)。

  • あれ、この本は勁草の「入門」書なのにちゃんと入門書になっている。有名人の名前がぞろぞろ出てくるが、それらの人々がなぜ重要で有名なのかの見通しがよくなる。とても優秀な入門書だと思う。

  • 【書誌情報+内容紹介】
    著者:吉田 敬
    ジャンル 哲学・思想・倫理
    出版年月 2021年8月
    ISBN 978-4-326-10296-9
    判型 A5
    頁数 232
    定価 2,420円(税込)

     社会現象をどう捉える? 社会科学は普遍的といえるか? 研究者の価値観をどう取り除く? 社会科学は自然科学に還元されるのか? 社会科学の哲学とは、こうした社会科学に関する様々な問題を哲学的に問う科学哲学の一分野である。6つの問いを出発点に、基本用語と対立軸を丁寧に解説する、初学者のための待望のガイドブック。
    https://www.keisoshobo.co.jp/book/b588087.html


    【目次】
    目次 [i-iv]


    序章 社会科学の哲学を学ぶとはどういうことか 001
    1. 社会科学の哲学とは何か 001
    2. 社会科学の哲学が研究対象とする社会科学とは何か 004
    3. 社会科学の哲学をあえて論じるのはなぜか 007
    4. 社会科学と社会科学の哲学はどのような関係にあるのか 009
    5. この本が必要なのはなぜか 010
    6. この本の構成 012


    第1章 社会科学は社会現象をどのように捉えようとするのか 
    1. はじめに 019
    2. 方法論的個人主義 021
    3. 方法論的集団主義 032
    4. 方法論的個人主義の制度論的転回 038
    5. おわりに 045


    第2章 社会科学の方法と目的はどのようなものか 
    1. はじめに 051
    2. 自然主義の前身としての実証主義 052
    3. 現代の社会科学において自然主義が有力である理由 056
    4. 解釈主義 064
    5. 自然と規約の二分法とそれが見過ごしている第三のカテゴリー 068
    6. 予測にまつわる方法論的問題と方法の単一性 072
    7. 行為の意図せざる結果を説明するための状況分析 075
    8. おわりに 078


    第3章 社会科学の理論は何のためにあるのか 
    1. はじめに 087
    2. 一般科学哲学における実在論と反実在論の論争 088
    3. 合理的経済人の起源とサイモンの批判 092
    4. フリードマンの道具主義的方法論 094
    5. 合理的経済人とその批判 096
    6. 行動経済学の展開 101
    7. 強い互恵性と神経経済学 105
    8. おわりに 110


    第4章 社会科学はものの見方の一つにすぎないのか 
    1. はじめに 117
    2. 異文化の合理性をめぐる様々な論争 121
    3. 文化相対主義の議論と問題点 129
    4. 文化の多様性を擁護しつつ相互批判を可能にする方法 134
    5. 女性器切除の問題 138
    6. おわりに 142


    第5章 社会科学において認識と価値はどのような関係にあるのか 
    1. はじめに 149
    2. 事実と価値の二分法 152
    3. ムーアの自然主義的誤謬 153
    4. ヴェーバーの価値自由としての客観性と価値判断論争 154
    5. 20世紀半ばの英語圏における価値自由論 157
    6. 価値自由と社会的・政治的文脈 163
    7. 価値自由とスタンドポイント理論 168
    8. おわりに 174


    第6章 社会科学と自然科学の関係はどのようなものか 
    1. はじめに 179
    2. 心理学の還元可能性に関する論争 180
    3. 社会生物学と進化心理学の還元主義的研究プログラム 186
    4. ローゼンバーグの社会科学無効化論 192
    5. ソーヤーの社会法則擁護論 196
    6. キンケイドの非還元主義 198
    7. おわりに 200


    終章 この本はどこにたどり着いたのか
    1. この本のまとめ 207
    2. この本が提示した見解と今後の展望 210


    あとがき(2021年7月 吉田敬) [214-219]
    索引 [220-226]

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著者プロフィール

吉田  敬(よしだ けい)1972年神奈川県生まれ。2005年カナダ・ヨーク大学大学院哲学専攻博士課程修了。Ph.D.。現在、早稲田大学社会科学総合学術院准教授。著書:Rationality and Cultural Interpretivism: A Critical Assessment of Failed Solutions(単著、Lexington Books、2014) The Impact of Critical Rationalism: Expanding the Popperian Legacy through the Works of Ian C. Jarvie(分担執筆、Palgrave Macmillan、2019)など。

「2021年 『社会科学の哲学入門』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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