街の人生

著者 :
  • 勁草書房
3.72
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本棚登録 : 319
レビュー : 25
  • Amazon.co.jp ・本 (306ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784326653874

作品紹介・あらすじ

本書には5名のライフヒストリーが収録されています。子どものころに南米から日本に移住し、やがてゲイとしての自分に気づいた人。夜の世界でなんとか自分の生きる場所を切り開いてきた「ニューハーフ」。満州で生まれ、波瀾万丈の人生の果てに大阪でホームレスをしていた男性。さまざまな人たちが語る、「普通の人生」の物語です。

感想・レビュー・書評

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  • 2018年11月29日に紹介されました!

  • 前知識なく読みました。

    冒頭の一文、
    「我々が空想で描いて見る世界よりも、隠れた現実の方が遥かに物深い(柳田国男)」を踏まえて読み続けました。

    ゲイ、ニューハーフ、摂食障害、シングルマザーの風俗嬢、元ホームレスの人生の記録が、インタビュー方式で淡々と記されていました。
    生きるためには都度選択肢を選び、そしてまた選びを綴ること。それが一つの命の灯火としてあり続けるのだと感じました。

    私は生き様という言葉が大嫌いです(他人が使うべきではない言葉だと思う)
    人には奥深さがあり、人の人生は言葉ひとつで語れるものじゃないなと思いました。

  • インタビューをそのまま活字にした本って「ライフヒストリー」と言うんだっけ(ちょっと違うと思うが)。この本は5、6人のそれまでの人生の「一部」をインタビューして話してもらったものの記録。中南米出身の日系ゲイ、ニューハーフ、摂食障害を持った人、シングルマザーでセックスワークしてる人、野宿者、覚えている限りでは対象者はそんなところか。

    最初の2人はセクマイ系の人だった。読んでると「ここ、もうちょっとツッコミが足らない」と思うところが何ヶ所もあった。けど、他の人のインタビューではそんなことは感じない。セクマイ系だけにそう感じてしまうのは、わたしがセクマイ系の定義にどうしても拘ってしまうためだ(たとえば「性自認」と「性的指向」は別物であるとか)。もちろんその定義から外れていたって全然構わないと自分でも思っている。「性転換した理由は」って聞かれて「男の身体であることは耐えられない」というのと「男性と同性同士だったら付き合える数が少ないから女になりたかった」というのは多分その人の中では両立してる。けど、わたしは、わたしが自分の目の前でそう言われたらきっと「それはあなたの中で本当に両立してるんですね」って改めて問いただしちゃうだろうなと。問いただして「そうだ」と言われたら改めて納得するんだろうなと。でもそのことに気が付いて、わたしは却って落ち込んでいる。「定義に拘ってないつもりが拘ってるじゃん」って。「定義に当てはめるつもりはないのに当てはめているのは自分じゃん」って。そこから脱却するためにはどうすればいいのだろう。


    まぁそれはさておいて、この中で一番読み応えがあったのは、電話を通してインタビューしたという、シングルマザーでセックスワーカーをしている人の話だった。インタビューする人もされる人も1回も直接会ったことはない。インタビューから10年ほど経っているが、今、どこで何をしているかは分からない。インタビュー中にした話も、他の人には誰にも話したことがなく、きっと見ず知らずの人だったから話せたんだろうという。そういう状況が読んでいるわたしにとってインタビュワーと一緒に「覗き見」している感覚になったから話が印象深いのか。この人は生活保護を受けながら3人の子ども(すべて男)を育てており、生活保護や児童手当だけでは足りないからセックスワークをしているとのことだった。なにより、一度止めたのにまた復帰したのは一番上の子どもが大学進学するからという理由だそうだ。生活保護では当然のことながら子どもを大学になんてやれないし、18歳過ぎたら逆に児童手当が打ち切られるんだからね。別れた元旦那は事業に失敗したりギャンブル依存になってたりしてお金を渡すどころか逆にお金をせびりに来る。ので、住所、電話番号その他一切を変えたという。ただ、これほどの内容なのに、インタビューは全然暗くない。淡々と話しているような感じ。あれから10年ほど経っているが、この人は今、どういう暮らしをしてるんだろうと気になる。

    摂食障害の人の話で一番印象に残ったのは「苦しみは回復の途中にはないと思っている」というところ。摂食障害を克服するためには苦しまなければならない、苦しみは、摂食障害を克服するためだということが世間では「肯定的にとらえられている」というが、この人はそうじゃないと思っているとのこと。でも確かにうつ病に対して「この苦しみは、うつ病を治すためのものだ。だから、今、苦しんでるのも無駄じゃない」とは言わないよね。うつ病にとって「苦しみ」は病気の症状であり、それは完全に「無駄」なものだ(寛解したあとで「あれは自分にとって無駄な経験ではなかった」と感じる人もいるだろうが、でも自分の人生を無駄に痛めつけているという点では苦しみなんかない方がいいとわたしは思う。苦しみはその人のその後の人生を完全に曲げる)。うつ病は「苦しんだら回復するよ」と言われないのに、なぜ摂食障害だとそれが成り立ってしまうのだろう?あとその人は「摂食障害が治った」と言う表現も違和感があるという。読んでてきっと「支援者」と「当事者」の間に感覚の齟齬があるんだろうなあと思った。これはね、摂食障害の分野だけに限らずね。ありがちな話なんだろうけど。

  • 著者を『断片的なものの社会学』で知った。日々執筆とめんどくさい事務作業に追われて夜明けまで酒飲んでる活動家のおじさんという印象があったが、「あー、このひとこんな感じでインタビューするんやなあ(エセ関西弁)」という視点で読んだ。
    基本インタビューをそのまま文字おこししているので、会話文がひたすら続く。インタビューの中でさらっとさっき聞いたことと同じことをもう一度聞いたり、話を誘導させる方法などが垣間見えておもしろかった。

  • 社会

  • 解釈を示すことがはばかられるような語りの数々。どの人も必死に、強く、生きていた。固有の人生に直面して、もがいているという点で、恐らく人は多かれ少なかれ同士である。

    ノンフィクションの読み物、あるいはライフヒストリーの調査を行う上での参考書籍として読むのが良いと思う。楽しんで読む本。

  • 話者の語りを、一切のまとめをせず、間や言い淀みも意味が通らないところもあえてそのまま精密に再現したことで、この人たちの抱えているもの・感じていることの複雑さが伝わってくる。同情とも共感ができるものでなくても、深い印象を残す。
    ただし、前書きの趣旨の説明はくどいので不要と思われる。ただインタビューを収録したままを上梓することに忸怩たるものがあるのかもしれないが。注意書きのみで十分。


    [more]<blockquote>P21 必ずなんかこう廊下とかですれ違う時にこう、ボーン!てしてくるやつはいた。最初廊下混んでたからぶつかったんだね、と思って。でも2回目はなんかもう明らかに二人しかいないのに超近づいて来てドーンってして来たから、頭来たーって思って三回目は自分から行ってボーン!って飛ばしたら、やっぱりオレのほうが体格いいから、グルグルって転んで、で次の日からおおーぅ、って友達みたいな(笑)
    っていうのもなんか、お父さんとお母さんに言われてたのは、なんかあったら、殴れ。あとは、いいから。って、言われててたの。あとは何とかするから。って。(ルイス)

    P82 そこは親が泣いてでも「ごめん、今は泣いて」って心のどこかで。『必ずどうにかなるから』って。
    P91 あんまりぬか喜びし過ぎて、失敗し、失敗するっていうかうまくいかないようになった時に、また
    自分がボロボロになるんがわかってるから、ちょっと抑えておかなきゃいけないっていう気持ちもあったし。
    P109 だから私らの行き方って踏まれても雑草みたいに、強くもう一回立ち上がらんと行き抜けない。そこが一番大事やねん。この生き方を選んだからには。あまり夢見すぎると、どんなに愛しても、所詮はそうなんだわって思うと、どっぷり失望してしまう。(りか)

    P138 回復論じゃないけど、回復に関する、症状が消える、イコール回復ではないと思いますね。治った治らないっていう言い方はようしないんです。私一人、元気ですって言ういい方しかできないっていうか。

    P145 回復論が嫌なのは、うん・・何か、説教されてるみたい。何かそんな感じに。(マユ)</blockquote>

  • 「断片的なものの社会学」で知られる社会学者の岸雅彦氏が、彼の研究において最も重要な方法論の一つであるライフヒストリーの聞き取り調査を書籍化した一冊。本書では、実際に聞き取りを行った南米出身で日本で移民として暮らしている外国籍のゲイ、ニューハーフ、若いときから摂食障害に苦しめられてきた女性、シングルマザーの風俗嬢、大阪の西成で暮らすホームレスの男性、という5人の聞き取り内容が、ほぼヒアリングそのままに収録されている。

    Sly & The Family Stoneの有名な一節を借りるなら
    「different strokes for different folks」とでも言うべきか、他者の人生をここまで深く追体験できるだけで十分に面白い。

    個人的には職業柄、様々な業界・企業のエキスパートに対して、業界動向等をヒアリングする機会が多いが、インタビュアーとしての岸氏が相手の警戒感を解しつつ、自由闊達に話をさせる様子(話の展開のさせ方など)に関心させられた。

  • 面白い。が、実際にどや街なり歓楽街なり歩くとき、こんな題名の単行本がかばんに入ってるって、白々しいっていうかしゃらくさいっていうか、そんな気持ちになるよね。
    3ヵ月で3刷ってまじか。ゼミの後期教科書にでもしたのか?

  • ターケル先生のタイプの無名の人々、人生を語る、みたいなの。まあおもしろいねえ。こういうのはおそらく誰に語らせてもおもしろいわよね。でも聞き出すのはたしかに難しいだろう。

    もっとも、インタビュー対象はそれなりに色のついた人々っていうかマイノリティとされる人々で、私自身はもっとごくふつうの人々のやつが読みたい気がする。

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著者プロフィール

岸政彦(きしまさひこ)
1967年生まれの社会学者。立命館大学大学院先端総合学術研究科教授。研究テーマは沖縄、生活史、社会調査方法論。
『断片的なものの社会学』で紀伊國屋じんぶん大賞2016を受賞。初の小説「ビニール傘」(『新潮』2016年9月号)で第156回芥川龍之介賞候補及び第30回三島由紀夫賞候補。
その他の著作に、博士論文を元にした単著一冊目の『同化と他者化』、『街の人生』、『はじめての沖縄』、雨宮まみとの共著『愛と欲望の雑談』、『質的社会調査の方法—他者の合理性の理解社会学』(石岡丈昇・丸山里美との共著)などがある。

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