お父さん、フランス外人部隊に入隊します。 (廣済堂文庫)

著者 :
  • 廣済堂出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (293ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784331654996

作品紹介・あらすじ

卒業旅行に向かった自慢の息子が、そのまま姿を消した。大学卒業を目前に就職先も内定し、すべては順調のはずだった。息子のなにをわかっていたのか。煩悶する父に、フランスから届いたのは、たった三行のエアメール。すべては、そこからはじまった。フランス外人部隊-。自らの意思で兵士となった息子は、「小市民」と決めつけたつもりの父への思いを捨て切れなかった。父はそんな息子を、「刹那主義」者だと思いながら、ただ、無事だけを願った。父と子、それぞれの思いは、手紙に託され、つながれていった。

感想・レビュー・書評

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  • 昨年末にHONZ(ノンフィクション本のレビューサイト)のレビューをちらっと見て、「なんだこの上手すぎるタイトルは!」と買いに走った本。

    タイトルはこの本の主役となる青年が父親に書いた、わずか数行の手紙の一文。小中高とかなり優秀な成績をおさめ、地方の国立大学に進んだ青年が、4年生の終わりに失踪する。家族が八方手を尽くして探している最中に、遠くの地より届いた手紙で、彼の選んだ進路を知って驚愕する。地方公務員のお父さんからは想像しがたい就職先。しかも世界的にみてもエクストリーム職業軍人の「フランス外人部隊」だという。ま、ある意味公務員だけどさあ…。

    第1章の息子と父親の手紙のやりとりで、息子の決心と父の困惑がもう絵に描いたようなコントラストで浮かび上がる。お父さんの反応は、彼のお父さんじゃなくても、日本で生活する人のほとんどなら普通にとる反応だと思う。息子にしても、選んだ職業が究極の職業軍人だという1点をのぞけば、自分の道を信じて突っ張る口調は年相応の若者で、選んじゃったんならしかたないよね…と思わないでもない。ただし、それは任期を生きてまっとうできればという条件付きではあるけれど。

    それ以後の章は…うーん、どうなのかなあ…書きかたが「冒頭に要旨、以降はその詳細記述」という、論文の基本フォーマットに近い形なので、正直な印象としては、第1章がすべてなのではないかと思う。お父さんは「ダメだダメだ」だけで突っ張らずに、次第に彼の選んだ職業に対して理解し、現実的に対処しようとする賢明なかただし、件の青年も「なりたい職業を選んだらこれだった」という点以外は「変わりもの」でもなんでもなく、自分の能力を見極める能力を備え、それを磨き、確固たる職業観も持った、ごくまっとうな青年だったということで、「驚愕の真実」としては展開しづらかったんじゃないかと感じる。事実、息子が休日の暮らしや給料の使い道を得意げに書き送り、お父さんがそれをたしなめる場面があるのだが、それは職業の「軍人」を「金融マン」にでも変換すると、日本の社会人2、3年目の青年と父親のやりとりとして、普通に成り立っちゃうし。

    枝葉の部分では、新谷かおる『エリア88』のように、「だまくらかされて入隊」というのはあくまでもファンタジーなんだなとあらためて認識できたこと(今ごろか)と、フランスの田舎町で現地のおじいさんが「入隊はやめたらどうか」と青年を説得にかかる理論が、いかにもフランス人的に、感情じゃなく理性に呼びかけるもので印象に残った。それと、脳内で映像化されると、主役の青年がなぜか武井壮だったのは内緒。

    件の青年にとっては波乱万丈の兵役人生であり、それを丹念に追ったルポではあったものの、読み手が心のどこかで何か「因果応報」的な展開を期待してしまうような点をするっとすり抜けているので、読んでいて現実のあっさり加減を感じるしかなかった。フランス人ではないけど、「それが人生」というもんなんだろう。

  • 子供の頃から勉強のできた国立愛媛大学4年の青年が、卒業目前で失踪。
    心配する両親の元に、パリから手紙が来る。
    息子からのその手紙には、フランス外人部隊に入る、任期は5年、日本にいるうちは言えなかった、と書かれていた。
    以後、厳しい訓練を受けながら、あるいは、訓練を終えて他国に派遣された先で、やりとりした親子の手紙を中心にノンフィクションライターが書き上げた本が、この本。

    あまりいい出来の本だとは思いません。
    外人部隊の訓練の実態では、多少、興味深いところもありましたが、この本の中心テーマである、父と息子との関係については、とくに心動かされるところはありませんでした。
    でも、一応、バブルも経験してきた私としては、今の若者に対して感じ入るところは少なからずありました。

    青年は、父に対する手紙の中で、外人部隊の任期を終えても普通に会社で働く気はなく、日本に帰るどうかも分からないと書いている。
    理由は、今の日本はあまり魅力的でないから。歌も、政治も、みんな流行ばかりを追って、右に行ったり左に行ったり。小手先でごまかしている・・・と。
    彼は1994年~20年間続く就職氷河期の渦中に放り出された「ロストジェネレーション」。日本に魅力を感じないのは、分かる気がする。
    そして、彼が外人部隊のことを初めて知ったのは、1991年1月に始まった湾岸戦争の報道でのこと。この戦争開始とともに日本のバブルは完全に崩壊し(株価はその1年前にピークアウト)、彼をロスジェネへと導く。

    もちろん、主張の中には身勝手で青臭い面もありますが、あの悪夢のようなバブルと崩壊、その後の20数年をそれなりに楽しみ、生きてきた世代として、彼らのような若者になぜだか少し申し訳ない気がするのです。
    できれば私の生きているうちに、再び日本に活気が戻くることを祈るしかない。そう考える情けない自分自身も見えた気がした。

  • 【要約】


    【ノート】

  • 行動力に憧れる。
    羨ましい、と思った。

  • 親子はですら、わかりあえない。それは、やはり血を分けた家族であっても他人だからなのだ。では、私たちは家族に対して他人のように接するべきなのか? いや、そうではない。わからなくとも、信じれば良いのだ。挑戦の連続を、受け止めることが教育なのだ。

  • フランス外人部隊に入った息子と厳格な父親の手紙のやりとり。思春期に経験した様々な心の葛藤や苛立ち。その苛立ちを自分や家族、そして周りの人々に対して、投げやりな行動としてぶつけていた事などが苦い記憶として蘇る。
    こんな人生もあるのかな。

  • 大学を卒業し、地元のスーパーに就職するはずの息子が突然失踪。おる日届いた手紙には、タイトルにあるメッセージだけが書かれていた・・・。その後の手紙のやり取りを中心に、父と息子の交流・衝突・理解が織り混ざった5年間とその後についてのノンフィクション。外人部隊で生死の境を身近に感じながら、世界中を飛び回り様々な人種、背景、事情を持った兵士たちと生活して行く息子。オヤジの生き方を小市民的と決めつけ、何の価値があるのかと吐き捨てる。人生は楽しんでナンボ、食べたいときに食べ、やりたいようにやり、死ぬときはそれはそれで運命。一方、消防署員として地域のために、地域に根ざし、また3人の子を育て大学を卒業さるために一生懸命働く父。息子の生き方を刹那主義と批判し、長い目で見て幸せを考えろと諭す。息子が出した退学届を休学届けに切り替え復帰を待つ。年金、健康保険、免許証の更新など、いつ社会復帰しても良いように準備を怠らない。息子はこのまま海外でもいくらでも生きて行ける、日本の年金も健康保険も免許証にも世話にはならないとさばさばしている。この父子の距離は、愛媛の片田舎とフランス以上の距離であり、平和で変化の無い生活と、朝食を一緒にとった仲間が夕食には居ないという極限状況とのギャップ以上に、理解し難いものなのだろう。親との接し方、子供との接し方、そして自分の生き方を考える、とても良い本。

  • えっ、これってノンフィクションだったのか。
    読了後に知った。
    それなら許す。

  • 大学卒業を控えた息子が失踪、フランス外人部隊に入隊していた・・・、という実話。

    「なんで外人部隊?」の問には、はっきりとした答えはない。
    たぶん、本人にもはっきりと答えられない何かなんだろう。

    この息子の言う、「日本の社会に希望が持てなかった」「ただのサラリーマンになんかなりたくなかった」という思いは、たぶん若いころ誰もが一度は思うこと。たいていのひとは、それを振り切ってなんとなく普通の就職をしていくわけだが・・・。

    そして、この歳で読んだからこそなのか、「なんとしても大学だけは卒業してほしい」「いつか大学を出ておくことの大切さがわかるはず」という父親の気持ちもよくわかる。

    息子の、若さゆえの狭量さが危なっかしい。
    なんだか、自分のことを振り返ってしまった・・・・。

  • 愛媛の厳格で旧態依然とした家に生まれた長男、森本雄一郎が大学卒業間際に失踪。その一ヶ月後、両親が表題から始まる手紙を受け取った所から始まる、父と子の対話を描いたノンフィクション。
    とにかく頑固な父と閉塞感のあるコミュニティの中で育った雄一郎。「自分の意志を尊重しろ」と言われながら伸び伸びと育ってきたつもりだったが、一人暮らしをして色々な都会というか今までより広い世界を見るにつれて疑問が湧いてきた辺りは良く分かる気がする。そこで行動へ移す力は僕にはないけどw
    自分にはここまでの意志や厳しい親や周りの存在というものはなかったけれど、小さい頃から将来については諭されるように言われていた。んで、その将来を今も疑いなく進むものだと思ってはいるけれど、結局それは示されるままに進んでいるだけだよね、と言われたような気がしてしまった(;´Д`)
    なんというか、地位や経験が人を作るとはよく言うけれども、そういう機会にエンカウントする為にテイルズ的に言うとダークボトルを使うか目的地までホーリィボトルを使うかの違いは大きいな、と改めて思った。できることから(倒せる敵から)少しずつエンカウントしてレベルを上げるようにしたい。
    まだ二十代だから、という言い方が通じるのもあと3年弱か・・・そう考えるとこえーなwとりあえず今日はここまで。出張がフイになったのも何かの縁と考えて、明日は事務所でできることをもうちょっと考えて動いてみよう。若者向けの、良い本だった。

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著者プロフィール

駒村吉重(こまむら・きちえ)
一九六八年、長野県生まれ。
二〇〇三年『ダッカへ帰る日――故郷を見失ったベンガル人』で、第一回開高健ノンフィクション賞優秀賞。二〇〇七年『煙る鯨影』で第一四回小学館ノンフィクション大賞を受賞。ほかに『君は隅田川に消えたのか 藤牧義夫と版画の虚実』(講談社)、『山靴の画文ヤ 辻まことのこと』(山川出版社)、『お父さん、フランス外人部隊に入隊します。』 (廣済堂文庫)、詩集『おぎにり』(未知谷)などの著書がある。

「2021年 『このごろのこと』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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