あなたの声がききたい 聴覚障害者の両親に育てられて (感動ノンフィクションシリーズ)
- 佼成出版社 (2006年4月30日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (128ページ)
- / ISBN・EAN: 9784333022038
作品紹介・あらすじ
聴覚障害を持つ両親のもとに生まれた加奈子。
心ない差別に傷つき、両親と言葉で会話ができないもどかしさを感じながらも、両親の深い愛情に包まれて成長していきます。
そして「手話のできる看護師」として活躍するようになり――。
小学校中学年から読める、「感動ノンフィクション」シリーズの一冊です。
感想・レビュー・書評
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聴覚障害者の両親のもとで育った加奈子が、障害者への差別や、両親が耳が聴こえないという孤独の中、夢を見つけ、それを実現させるまでを描いたノンフィクション。
障害者への差別の記述に、こんな酷いこと言ったり態度で示す人っているか?と思ったが、加奈子が生まれた時代が今より少し前であることを考えると、そうだったのかもしれない。今でも、表立っての差別は減ってきていると思うが、内心では差別してしまっている面もあるのかもしれない。
私は身近で障害を持った人に触れてこなかったので、実際に聴覚障害や視覚障害などのハンディキャップのある人を目にすると、戸惑ってしまうと思う。大昔のように、ハンディキャップのある人間を同じ人として扱わないというような差別はもちろんないが、戸惑いや、どうすればいいの?という気持ちがあり、フラットな立場ではいられないだろう。ハンディキャップのある人がよく、腫れ物に触るような態度を取られたくないと言うのを聞く気がするが、それが出来ないのではないかと思う。
とは言え、戦前やら戦後に比べると、ハンディキャップを持つ人の地位は明らかに変わってきているはずだ。それはよい変化であると同時に、加奈子の両親が生きた時代はまだそうではなかったことを考えると、彼らの辿ってきた人生を思うととてもつらい。
今の小中学校では、授業で少なからず手話や点字について学ぶ機会があると思う。
しかしその手話が禁止され、口話法が推奨されていた時代があったことを考えると、人間の「健常者(他の人)と同じであらなければならない」という強迫観念や思い込みはとても強く、様々な人間を生きにくくしてきたのだろうなと思う。
聴覚障害がある人びとを描いた作品としては、山本おさむさんの漫画『遥かなる甲子園』や『わが指のオーケストラ』『どんぐりの家』が強く心に残っているので、未読の人には是非読んでほしいと思う。私は本書を読みながら、度々これらの漫画の内容を思い出していた。
この作品で特にハッとさせられたのは、聴覚障害者の両親を持つ、耳の聞こえる加奈子もまた、孤独と闘っていたということだ。聴覚障害者である両親の孤独や切なさは計り知れないが、耳が聞こえる立場である加奈子もまた、耳の聞こえない両親のもとで切なさを感じる場面が度々ある。そしてそのことは、当事者の加奈子以外わかるべくもない。だが加奈子の切なさは、物理的に不可能であることを除いて、周りの人間の心遣いや態度で和らげることができたのではないか。加奈子が持ち帰ったたんぽぽを庭の片隅に植える優しい両親の姿を見て、温かい気持ちになった。
読書が好きで、我慢強く思慮深い加奈子の母親。仕事で忙しくても、加奈子が助けを求めるときには温かく包み込んでくれる加奈子の祖母。加奈子は周りの愛情に包まれ、成長し、やがて夢を見つける。それは、看護師になるということ。手話のできる看護師になる、ということ。父親が入院した際に、医師が聴覚障害がある母親には父の病状を説明しないという差別を受けた加奈子は、それをきっかけに「人の役に立つ仕事をしよう」と決意する。つらい思いをした人ほど優しくなれるというのは本当だろうか。加奈子が選んだ未来は本当に素晴らしいと思った。
加奈子が看護師として働く姿も描かれ、賢吾くんという男の子のエピソードが添えられる。このエピソードも実話かな?とても効果的で素晴らしいエピソードだ。
手話を学んでみようかな?という気にもなった。「知っている」ということは、「知らない」ということより、何百倍も強い。
様々な辛い経験を経て、今は市民講座や小学校で手話を教えている加奈子のお母さん。強くて賢い女性だと思う。
『挫折が大きいと、つい、自分は損をしていると思いがちだけれど、じつは、挫折をのりこえる力がその人にそなわっていることを神様が知っていて、人生の勉強のために挫折をいう宿題をあたえてくださったんだよ』とはお母さんの言葉。
最後に、加奈子がお母さんに結婚の報告のメールをするところ。お母さんの返事には、泣かずにはいられなかった。思い出しても泣ける。
あとがきより。著者の岸川悦子さんは、腹痛で緊急入院した際に、入院先の病院で、加奈子のモデルとなる看護師さんに出会う。加奈子のお母さんが岸川さんの作品『まあちゃん』の愛読者だったということで、二人の縁ができた。
『まあちゃん』は、聴覚障害児の弟を持った姉の苦しみと心の成長を描いた作品で、「きこえる、きこえない。見える、見えない。話せる、話せない。「そうしたちがいが、どんな意味を持っているのか?」を心に深く問いながら書いた作品だそうだ。
とても素敵なエピソード。人と人との繋がりって不思議だ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
聴覚障害の両親に育てられて、看護師になった
成長の物語。人間の醜さも、素晴らしさもこの
一冊に詰まっている。
人には誠実に対応していきたい。 -
小学生の頃に読んで、涙腺やらかけた本です。
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コーダの女の子を主人公にした物語。保育園に入って、先生が遠くから呼んでも振り向いてくれる、転んで泣いているときに気づいてくれると喜んだエピソードや、長じて父親が病気になったときに、医師が母親ではなく自分に対して説明をした経験など、リアルな内容が、小学生でもわかりやすい文章で描かれています。
小5の娘も読みましたが、聞こえないこと、聞こえない親の元で聞こえる子として育つことが、具体的にイメージできたのではないかと思います。この先の人生の中で必ず「あっ、あの本の……」と思いだすことがあるでしょう。(「感動ノンフィクションシリーズ」というのは、やや押しつけがましいニュアンスがありますが……) -
聴覚障害者の両親を持つ健聴児の心を書いた本です。
主人公は、今看護師として働いています。そんな彼女が、子どもの頃、大好きだけど耳の聞こえない自分の親と
友達の耳の聞こえる親との違いに、幼い彼女の心は葛藤します。
やがて、耳が聞こえなくても、我が子を慈しみ大切に育てている、そんな両親の気持ちに気付きます。
児童書なので、15分くらいで読み終わりますが、とてもよい本だと感じました。
図書館で読んでいて、人目もはばからず涙を流してしまいました。