学歴社会の法則 教育を経済学から見直す (光文社新書 330)

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  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (269ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334034313

感想・レビュー・書評

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  • 教育バウチャー制度やら学歴の再生産やら、教育経済学の主要な議論を誠実な切り口で押さえてありながら、経済学の素養は要らないので読みやすい本のはず。ただそのよさを文章のうまくなさが相殺していてトピックも飛び飛び・・・。
    この先生、(一般に普遍的合理性をもつと誤解されがちな)経済学の議論には前提条件の設定時点ですでに一定の価値判断バイアスがかかることをきちんと指摘しているところはある種誠実なのだが、不思議なことにそれを逆手にとって、主観的な価値判断による主張(実証無し)まで経済学的に合理的だと主張する我田引水のきらいがある。
    これはもう少しかたい「教育の経済学」も一緒で、その蛇足部分があるせいで読み物以上のものに感じられないのが残念。
    小塩先生の本ではあまり感じなかったけど、教育・文化をトピックにする以上仕方のないことなのかしらん・・・。

  • 現・一橋大学大学院経済学研究科教授(ミクロ経済・日本経済論)の荒井一博(1943-)による教育経済学論。

    【構成】
    第1部 学歴社会には「法則」がある
     第1章 学歴はなぜ所得格差を生み出すのか
     第2章 学歴シグナルによる「差別」は正当か
     第3章 働く母親と専業主婦、子どもの学歴を挙げるのはどっち?
    第2部 経済学的に正しい教育とは?
     第4章 学校選択制と教育バウチャー制度で何が変わるか
     第5章 英語ネットワークへの投資法
     第6章 「いじめ」を経済学で解決する
     第7章 教師と学級規模の経済学
    実践編 収益率をアップさせる学習法

    教育を経済学の視点で考える、というのが本書のユニークさであり、それを味わえるのは第1部である。第2部以降は著者が考える抽象的・定性的な教育の理想論となっている。

    第1部においては、単に学歴社会を批判するのではなく、統計的な相関関係における富裕層-高学歴者を前提にして、なぜそのような学歴主義が普及しているのかを人的資本論とシグナリング理論を用いて説明されている。個人的には教育投資の収益率が平均的な大卒
    で6%、私大医学部においては9%、国立医学部においては17%程度であるという下りが印象に残った。
    また、第3章で論じられている、家庭における女性の教育への影響という点は他の教育論であまり見かけない視角であり、なるほどと思わせる。

    新書向けを意識して全体的に平易な文章で教育経済学の知見が紹介されており、楽しめる内容だが、前後半での議論の一体感があまり感じられなかったのが残念である。

  • いろいろ考えることはできる、ってことが収穫。

    だけど、時々言っていることがちょっとムリかなー、と。
    学歴による差別(学閥)はダメ、と言っておきながら、如水会の大学に勤務して、そして、一部の優秀な人材に英語の勉強はさせるべき。
    ってちょっと違わなくないか???

    まあ、そういうのはさておき、問題点とそれの分析はおもしろいかな、と。
    父親と母親でどちらが子供に勉強面で影響を与えるか、とか。。。

    でも、教育って、壮大な実験なのかもしれない。
    今分かっていること(分かったこと)は少なくても10年位前に行われた教育。
    そこから学んだことを生かそうとすると、そこからまた数年。
    その間の人たちはどうなるんだろう???

  • 教育学×経済学 
    学歴ってどんな人にも関わりあるのですよねー。日本に限って言えば。
    だから身近に切実に感じる内容かもしれませんねー。
    結構砕いてあるので,経済学に興味を持てるかもです?
    後半は,まあ,著者さんの理想の教育論?みたいな感じでちょっとどうでも(略
    まあ色々ある考えのひとつとして読めばいいんじゃないかしらん。

  • 親になり学歴が何に関係するか興味があって積読していた本。

    学歴が何を示すのか一つの意見がわかった。
    特に学歴が関わる経済的な効果をあまり深く考えてこなかったので、個人的には新鮮な内容であった。

    英語教育の経済効果は、国としてこの本のような議論がなされているのか、改めて疑問に思うと共に、全体的な教育に対する不安がより増すものでもあった。
    なんとなくわかっていたことが比較的明確に語られ、考えがまとめやすくなったと言うか、何となくわかったつもりになった。

  • [ 内容 ]
    近頃の教育問題は、経済学的な知識なしに立ち向かうことができません。
    本書は「教育の経済学」の基本的な考え方を紹介しながら、「なぜ大卒男性の給料は高卒の1.5倍なのか?」「子どもの学歴を上げるのは働く母親か専業主婦か?父親か母親か?」「少人数学級は学力を高めるのか?」など、さまざまな角度から学歴社会のしくみを解き明かします。
    また「英語ネットワークへの投資法」や「いじめの経済学」など、専門の世界においても先駆的で、なおかつ問題解決に有効な視点を提供します。

    [ 目次 ]
    第1部 学歴社会には「法則」がある(学歴はなぜ所得格差を生み出すのか 学歴シグナルによる「差別」は正当か 働く母親と専業主婦、子どもの学歴を上げるのはどっち?)
    第2部 経済学的に正しい教育とは?(学校選択制と教育バウチャー制度で何が変わるか 英語ネットワークへの投資法 「いじめ」を経済学で解決する 教師と学級規模の経済学)
    実践編 収益率をアップさせる学習法(学習の一般理論 英語の学習論)


    [ POP ]


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    ☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
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    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • 荒井一博著「学歴社会の法則 教育を経済学から見直す」を読んだ。

    最近、漠然とマクロ的な視点で学校経営を考えたいと思っていた。
    教育に、行動経済学とか経済合理性の視点を適用できるかどうか、などである。

    この本は、少し前にはやった下流社会、高学歴社会の終焉といった格差社会の指摘ではなく、
    社会全体の「厚生(好ましさ)」を考える経済学の視点で書かれている。

    以下、例の如く印象に残ったことをまとめてみる。

    教育論議は、経済学的な知識なしに、説得的な見解を表明することは困難。
    多く人物金時間を必要とする活動だから。

    大卒男性は高卒男性の1.5倍給与を得ている。
    高学歴は高収入を得るということに対して、
    シグナリング理論と人的資本論を用いて説明されている。
    現在の教育は、この両面の機能が含まれている(P.61)。

    人的資本:教育によって身に付く知識や技能も資本と見做す。
    義務教育段階・理科系教育と職業に成立しやすい。

      →家計においては教育費は資本的支出と言えるかもしれないと思った。
    ・著者による1980年の大学教育の私的収益率:6%
    ・同私大医学部:8.9%
    ・同国立医学部:17.2%

    シグナリング理論:
    教育は、個人の能力を他人に知らせる「信号(シグナル)」て取り扱われる。
    企業は、労働市場で、求職者ひとり一人の実力を正確に把握しがたい。
    求職者は、自分がどれだけ優秀であるかを積極的に知らせなければならない。
    最も効果的な手段が受けた教育の履歴・学歴。
    スペンスは、教育が必ずしも個人の能力を向上させる、とは考えていない!!
    一流大学が一流人材を教育するというより、
    (既に一流である)一流人材が、優秀性を市場に知らせるため一流大学に入る。
    一流大学を卒業するだけの実力があるというシグナルだという。

    教育投資とポトラッチ(宗教的・誇示的儀式)
    富裕層は、富裕度を誇示するために、
    多大なコストをかけて教育サービスを購入し、
    有名大学に行かせる。

    親の学歴・親の所得が、子の学歴に影響を与えることは、
    今日では当たり前の論になってしまった。
    また、専業主婦に比べ、母親が働くことは子供の学歴の影響度は下がるが、
    相対的に父親の影響度が上がる。
    →共働きだと子と触れ合う時間が、父親・母親間の差が少なくなるから。
     同時間、子と触れ合う場合は父親の学歴が影響しやすい。
    母親が労働市場に参加すると、市場を使って子供を教育する程度が高まる。
    【塾に早い段階から行かせる】

    ・・・・・・・・・・・・・・・

    基軸通貨はドル、英語は準世界共通語。
    アングロサクソン的な会議手法・慣習に従うことになる。
    <IB教育との関係をいずれ考えてみたい>

    “英語自身のなかにもJapaneseのような日本人蔑視の単語があります
    (語尾がeseとなる英語の民族名は蔑視の表現です)。
    日本人が英語を学ぶということは、蔑視を含意する単語で自分自身を呼ぶことも含む”
    P.143 このことは知らなかったな。

    少人数学級は、効果はあるが、追加的な費用を上回る価値を上回るかは定かでない。
    逆に生徒の学力に影響を与えるのは、教員の学力・知能指数(!!!、P.199)
    →当たり前だけど、、、、

    重要な意思決定ほど、広範な体系的知識が必要。高校の学習が重要。

    ・・・・・・・・・・・・・・・・
    久しぶりに、今の私にインパクトのある本だった。
    近い将来、勤務先の学校の意思決定にたずさわれるように、知識を積み重ねていきたい。

  • キャッチーなメインタイトルにつられて手に取ったが、中身は豊富なデータを用いた経済(特に人的資本論)入門書。
    研究者がまだ日本に少ないというだけあり、なかなかユニークに感じられる箇所が多かった。
    ただ、後半まで読み進めるに従って理想の教育論が語られている印象が強まった。あとがきにある「普通科目に割く時間は4時間/日が良いのでは」というくだりでは、経済学に基づく根拠が殆ど見受けられず残念だった。つづきはまたね、ということか。

  • 20090112
    大学に入学して間もないころに、兄貴に読んでみろと言われてちらっと読んだ。結局読み終えてないのだけど、経済学の立場から見た教育ということを通じて、経済学の考え方が少しわかった気がして面白かった。また読み返してみようと思う。

    20100410
    どこまで読んだのか覚えていないけれど、とりあえず4章から読み進めてみた。
    ・第4章:学校選択制と教育バウチャー制度で何が変わるか
    いずれの制度もさほど好ましい結果を生み出さない。
    ・第5章:英語ネットワークへの投資法
    英語「公共財(非競合性、集団消費性)」「ネットワーク」
    ・第6章:「いじめ」を経済学で解決する
    「いじめのネットワーク理論」各生徒はネットワークに参加する(ネットワークを形成する)費用とその便益の大小比較を内面で行い、参加するか否かの決定をする。いじめを防止・根絶する三つの方法。その1、いじめネットワークに参加する便益を小さくする。その2、いじめネットワークに参加する費用を高くする。その3、ネットワークを破壊する。
    ・第7章:教師と学級規模の経済学
    教育に消費者主権原則は成立しない。
    少人数教育は学力を高めるのかという問題は、多くの研究をもってしても明瞭な答えの出ない難しい問題。政策評価が難しい。山田治徳の「政策評価の技法」をあわせて読むと面白い。
    ・実践編収益率をアップさせる学習法
    Ⅰ学習の一般理論
    少数の大学受験科目に専念した勉強や、大学時代に狭い分野に特化した勉強は誤りであり、もっと広い分野の勉強から得られる知識が日本人の能力とりわけ独創力を高める。
    Ⅱ英語の学習論
    発音記号を教える。優れた辞書の作成。英語の早期教育が望ましいかを調べるための統計をとる。などなど…

  • 教育は「人的資本投資」


    教育がそれを受けた個人以外に対しても便益を生み出す



    シグナリング理論

    1、企業の信念

    大卒者は高能力、非大卒者は低能力

    2、企業が支給する賃金

    大卒者は高賃金、非大卒者は低賃金

    3、求職者の反応

    高能力者は大学進学、低能力者は進学断念

    4、実現する生産性

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