人は、なぜ約束の時間に遅れるのか 素朴な疑問から考える「行動の原因」 (光文社新書)
- 光文社 (2010年8月17日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (244ページ)
- / ISBN・EAN: 9784334035792
感想・レビュー・書評
-
行動分析学の類書(新書の入門書)と比較すると、題材や応用例を教育(特に発達障害)に絞っていないため取っ付きやすい。タイトルにもある「人は、なぜ約束の時間に遅れるのか」もその一つ。サラリーマンが仕事に応用しやすいのも本書。読みながら「トヨタ流のなぜなぜ分析に行動分析学、心理学の側面から妥当性裏付けを与えている」と感じた。
一方で、独自の概念化が必ずしも分かりやすさにつながっていない。特に「視考術」は、思考ツールとして分かりにくい上に、メソッドとして固まっていないためにダメな分析のまま考察を進めても本人が気づいて直す手がかりがない。
著者による分析事例はなるほど見事だが、いざ自分でやろうとすると手が止まる。何から手をつければいいのか。何を切り口にすればいいのか。何を基準にすればいいのか。逆にべからず集は。
発想、心構えとして行動分析学を知るにはいい本だと思うが、ツールとして使うには甘い。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
行動分析学入門。ABCをより自由に描くことにより人間の行動と随伴する環境との環境を可視化し(本書では視考術と読んでいる),行動の原因を内的で測定が難しいもの以外にもあるという考え方を紹介する。個人攻撃の罠から脱する批判的思考につながる。
成績がいいのはあの人が優秀だから
部屋がきれいなのはあの人が几帳面な性格だから
人の名前を覚えるのが苦手なのはもともと記憶力が低いから
よく使うもっともらしい原因が本当に原因なのかを考察する。
P.219自分とは行動を決める主体ではない。なぜなら,行動を決めるのは,遺伝的要因も含んだ過去と現在の随伴性だからだ。
P.221行動が消去されると攻撃行動が自発されることが分かっている
p.238プロの仕事は,感動や解釈を生み出す,事実や具体物の仕込みにある。これと同じように,行動のなぜを性格や能力や記憶や道徳心や意志のような見えない心の概念で説明してしまっては楽屋落ちと同じになる。
著者の主張はあとがきで簡潔に記述されている。 -
行動分析学。「だらしなさ」と「几帳面」で終わらせてしまってよいのだろうか?という話。なぜジベタリアンが増えたのかという話も、巷でよく言われる「道徳心の低下」というより、現代社会の様々な要因が重なり合って派生している点をあげている。日常でつい忘れがちな貴重な視座。
-
心や性格や年齢ではなく、随伴性があるかどうかがポイント。行動のなぜを心に追い求めすぎず、行動と先行事象と後続事象を考えることで、行動を変えることができる。
考えたことのなかったような視点でみるものだったので、おもしろかった。
題名から想像していた内容とは少し違ったが、勉強になった。 -
タイトルから惹かれてしまった一冊。
ミスにつながらないようにするための心がけを説くだけでなく、その行動や思考の前後に、その原因をとらえ、その行動変容につながる仕組みの必要性を解説する、興味深い内容でした。
そのために、行動分析学に基づく、思考術という手法により、行動を視える化することで原因を探っていきます。具体的には、約束の時間に遅れる、血液型による性格判断、傘の置き忘れ、ケータイマナーを取り上げ、図解しながら問題点を探っていく内容は非常に面白い。
▼人や人の行動の問題の原因を、私たちは人の中にある「何か」(心、感情、認知、性格、脳、遺伝子など)に求める傾向がある。行動分析学の面白さは、人や人の行動の問題の原因を、私たちの中にある「何か」ではなく、行動と環境の関係に求めるところにある。
個人攻撃に繋がりがちな現在にあって、それに警鐘を鳴らしつつ、もしかすると発達障害への対応も含め、今後注目される手法なのかもしれません。
<この本から得られた気づきとアクション>
・指摘されているように、個人の特性のみを取り上げるだけでは解決に繋がらない問題は多い。行動の前に気付かせる仕組み、その行動を促すための仕掛けづくりも考慮したうえで、問題解決を図る必要がある。
<目次>
まえがき
序 章 県民性・国民性を視考する
第 1 章 性格を視考する
第 2 章 記憶を視考する
第 3 章 道徳観を視考する
第 4 章 思考を視考する
第 5 章 意識を視考する
あとがき -
行動分析学
視考術
行動の原因を「県民性」や「国民性」のような「心」の概念ではなく、行動と先行事象や後続事象との関係性から説明すること
行動随伴性
行動と環境との相互的、機能的な関係性を表す(スキナー)
「〜のとき(先行事象)〜すれば(行動)〜になる(後続事象)」という関係性
行動のなぜを考えるとき。この行動随伴性を視覚化していく
強化・弱化
人が同じ過ちを繰り返す理由は、そこにそのような随伴性があるからと考える
般化
ある場面で学習した行動を、他の似た場面でも自発するようになること
問題の原因のすべてをひっくるめて「道徳心の崩壊」のせいにしている限りはなかなか見えてこない。「行動のなぜ」の答えを心に求める罠は、こんなところに潜んでいる
マナーの低下という行動問題の原因は「道徳」という「心」の概念を用いなくても解釈できること、そして行動随伴性を分析した方が、具体的な解決策が考えやすい
刺激等価性
物理的には異なる刺激群が同じ機能を持つようになること
BSEで牛が倒れる映像で、米国産牛肉と聞いただけでBSEを想像する
後続行動でなく、随伴性を記述する言語行動によって引き起こされる強化もある。随伴性を記述する言語行動とは、「お湯を注げば3分後に食べられる」や「会員権を買えば十倍になって帰ってくる」のように言ったり、考えたりすること。このような行動や言語によって生み出される言語刺激を「ルール」、ルールによって引き起こされる行動を「ルール支配行動」と呼ぶ
アイデアが出てこないなら、それはアイデアを引き出す先行事象が不足していたり、アイデアを出す行動が強化されていないことが原因である可能性がある
→想像力や発想の柔軟性のせいにする前に、まずは思考の随伴性を視考すべし
カウンターコントロール 反抗
お願いは、脅しにつながる さもなくば〜
自由度を与える -
2011/5/27読了。
著者の専門である行動分析学の本。人の行動の要因を性格や心に求めるのではなく、過去の同様の行動が引き起こした結果が、次回にどのような行動を強化・弱化するかというところに帰着させる手法で、忘れ物や公衆マナーなどを考察している。
それぞれの事例に大きな意味があるというよりは、その分析手法を学ぶことによって一段深い考察ができるようになることに意義がありそうだ。 -
【2011年_5冊目】
たいして期待もせず、「時間を守れない女」としては読まなきゃ、なんてネタ半分で購入した本だけど、行動の過程が解説されていて、修論へのヒントにもなり、読んでよかった!
しかし、この本を読んでから、私がいかに不条理な叱られ方を経験してきた(そして今もしている)のかを意識するようになってしまい、ますます「理屈っぽい」と言われそうです。 -
最初から最後まで、筆者の言いたいことは一貫している。
「なぜ」その行動が引き起こされるのか、いくつかの具体例を通して、『思考術』用いて分析する。
この本から学べるのは、「行動のなぜ」を解明するためのプロセス。
『思考術』というのはこうやって使うんだよ、こう考えるんだよ、というのを丁寧に解説してる。
「人は、なぜ約束の時間に遅れるのか」気になる人は一読してみてはいかがだろうか。