非常識な建築業界 「どや建築」という病 (光文社新書)

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  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (245ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334039059

感想・レビュー・書評

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  • 新国立競技場問題を2年前からブログで取り上げ、ザハ・ハディドによる案に疑問を呈していた建築士。その説明は素人にもとてもわかりやすくエンターテインメント性に富んだもので大変楽しく読ませて貰った。結局予算が限りなく膨張したザハ案は白紙撤回され、その慧眼ぶりが立証されたのだが、そんな著者が日本の建築業界が抱える重大な問題点の数々を鋭く指摘する。

    10年前に世田谷に購入した小洒落た狭小住宅は、雨漏りが止まらず断熱性能もひどいもので、まったく呆れたものだったけれど、その原因となる建築業界の仕組みがよく分かった。現場の声に耳を塞ぐ業界はどこもダメになっていく。その典型的な例が示されている。

    一般市民や為政者など建築の素人がどうしたら建築を正しく評価できるようになるのか。印象に残った逸話がある。「韓非子」の故事に、伯楽という名馬の目利きがいるのだが「伯楽は愛する者には駄馬の鑑定法を教え、憎む者には名馬の鑑定法を教えた」という。名馬というのは滅多に出会えるものではなく、一方駄馬はいくらでもいるのだから、普通の人にとっては駄馬を避ける事のほうがずっと役に立つ、ということらしい。同様に建築に対しても、すごく前衛的なデザインの建築の善し悪しを見るのではなく、その建築の目的に沿って要素を整理し、判断していくという地味で実直な方法を提案している。

    特に街並みの景観や公共施設においてそうした判断基準を共有し、建築と一般社会との健全な関係を築き上げることが大切なのだろう。

  • 建築の世界が、設計、施工の両面から詳しく、わかりやすく解説されている。ニュースで取り上げられた新国立競技場やマンションの杭打ち不良の問題についても、業界が抱える仕事の発注や進め方の構造とからめてよく理解できた。さらに建築の歴史を概略で把握できるような内容も盛り込まれていてとても興味深かった。すごく勉強になった。

  • 建築業界は、木材とも関係の深い、隣の業界だったので、関心を持ってずっと見ていたが、今ひとつ業界構造がわからなかったというのが正直なところであった。それが、この本を読んで、氷解。
    ゼネラルコントラクター。脱構築建築・・・暴走してしまう業界というのは必ずあるのだなぁ。

  • 「どや建築」がパワーワード過ぎる。この業界に来てから、なぜこんなにも建築を巡る論説は難解で、時として意味不明なのかと思っていたが、謎が解けた。家を建てる予定の人も必読

  • 非常識な建築業界 「どや建築」という病。森山高至先生の著書。日本の建築業界がいかに非常識で歪んでいるかについて単刀直入に説明している良書。どんな業界でも非常識なところはあるけれど、建築業界の非常識さは際立っているのかも。

  • 建築業界を学んで、IT業界を学ぼう企画として読んだ。

    建築はデザインでコンペが行われる。料理と違って素人が評価しづらい。(おいしい、まずいは素人でも分かるが、デザインの良し悪しは分かりづらい)
    →ITのコンペはプレゼンかと思いますが、ソフトウェアは見えないものなので、良し悪しはプレゼンの出来次第という意味では、あんまり変わらないかも。

    建築家の野心は、一般人の感覚とはズレたところで大きく膨らんでいます。「雨をよけるという屋根の機能はそのままに、でも屋根に見えないようにするにはどうすればよいか。」そんなことばかり考えているようなのです。何なんでしょうね、この感覚。
    →やばいw ITにはないだろうな、その感覚。

    現場監督はOJTで育てる文化だったが、最近は派遣監督も多いとのこと。
    →ITは社員がPMや上流工程をやって、派遣は設計、開発という構図が多く、派遣PMはあんまりなさそう。OJTでPMを育てるっていうのはどうだろう。PM補佐みたいな役割を定義して、次期PMを育てるというのは良いかも。

    下請をリスト化してとにかく安いところへ発注
    →それはいくらなんでもバッドノウハウでしょう。スキルと値段の両輪で評価しないとダメかも。うちの会社の場合、リスト化されてないので、まずはそこからかも。

  • 東京都知事選挙は終わったけど、新国立競技場って、オリンピックまでに完成するんだっけ?

    世間を騒がした新国立競技場建設問題の発端は、技術的にも予算的にも実現不可能なザハ・ハディド氏の案を受け入れてしまったことだ。そもそもこのザハ氏、以前から「アンビルトの女王」と呼ばれ、絵に描いた餅のような建築物を設計してしまう有名人だったらしい。また、このザハ氏も例外ではなく、最近の建築業界では居住面や管理面を無視し、見た目の奇抜さだけを追いかけて、存在感のみを自慢する建築物が増えている。

    著者はこうした自慢気な建物を「どや顔」ならぬ「どや建築」と名付ける。見事なネーミングだ。そんなどや建築を作ってしまう、非常識な建築業界を紹介する。

    本書を読んで、どや建築が作られる一番の原因は、どや建築家の存在ではなく、役所が主催するコンペが問題だと思う。国立競技場のような大規模建築計画は、コンペを経て決定されるが、そのコンペ出席者は建築知識もない、責任もとらない素人ばかりだ。当然、見た目のカッコよさが注目され、長期的な維持管理や収益、周囲との調和などは2の次になる。

    そんな建築業界の弊害を明らかにしてくれたという点で、今回の新国立競技場問題は評価されるべきか。これをきっかけに建築業界のどや建築ブームがなくなってしまうことを望む。

  • 槇さんのヒルサイドテラス、丹下さんの代々木体育館は機能、芸術性共に最高作品だと思います。
    建築業界は一部の方の非常識な行動、自己満足に汚されているだけで、全うな方もたくさんいるはずです。

  • 建築界の批判本と思って手に取ったが、建築を愛する方の提言書と感じながら読んだ。
    日本の建築設計の歴史、変遷がよくわかり、人文科学的にも建築設計について考えることができた。

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