宇宙は無限か有限か (光文社新書)

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  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334044459

感想・レビュー・書評

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  • 現代物理学で答えのない問い、宇宙は無限か有限か、をタイトルに据えている。理論の展開に興味を持ち、読み始めるが、深遠なテーマを更に印象付ける結果に終わる。無限とは?その概念理解にページが割かれていくが、どれだけの読者が議論に追随できているのだろうか。思考容量を遥かに超えるイメージ力が要求される。宇宙の始まりにも触れているが、量子ゆらぎと光速を超えるインフレーション、時間と空間が生まれる、不確定性原理に象徴されるように同時並行世界、測定して初めて確定する宇宙という人間原理など、これまで考えられてきた推論が紹介されているが、初級者以外には物足りない内容に終わっているのが残念である。

  • ・p.36 宇宙の地平線は、光が地球へ向けて138億光年かかりようやく到達する距離だけ離れたとこりにある。だが、この距離は現在の宇宙で138億光年というわけではない。その理由は宇宙空間が膨張しているからだ。(略)光が138億年前に地球へ向けて出発した場所は、現在の宇宙でみて約470億光年離れたところにある計算になる(実際は、宇宙が始まってから最初の37万年は光がまっすぐ進めないため、実際に光を使って見ることのできる宇宙の範囲は半径455億光年ほどになる)。

    ・p.50 光交差と呼ばれる現象が1728年に発見された。光交差とは光の速さが有限であることにより起きる現象である。ちょうど、まっすぐ降ってくる雨の中を前に走ると前方から雨が降ってくるように見えるのと同じで、地球が動いていることによって星の光のやってくる方向が本来の方向からずれる。この光交差の発見は、地球が宇宙空間で動いていることの証拠になる。

    ・p.62. オルバースのパラドックスが成立するためには、1京光年よりもはるかの星まで見通す必要がある。

    ・p.101. 空間曲率が0でないときは空間が曲がっている。その値は正が負のどちらかにもなり、このときユークリッド幾何学は成り立たない。空間曲率が正の場合は楕円幾何学になり、負の場合は双曲幾何学になる。(略)数値的な話をすると、曲率の値というのは、どれくらいの距離尺度で空間の曲がりが顕著になるかという特徴的な長さを、2乗して逆数をとった値に等しい。

    ・p.103. 一般相対性理論によると、時空間の曲がり方を決めているのは、その中にあるエネルギーの量である。その関係をすうしきで表したものが、アインシュタイン方程式とよばれる一般相対性理論の基本方程式だ。この方程式を使えば、宇宙を平均してみたときの空間曲率の値と、宇宙に存在する平均的なエネルギーの量がお互いに関連付けられる。その結果、空間的に平均したエネルギーの密度が十分に大きいと、空間曲率がが正になる。(略)逆に、エネルギーの量が少ないと、宇宙空間は双曲幾何学の成り立つ世界になる。(略)これら2つの場合を分けるのは、エネルギーの密度がある特別な値になるときだ。この特別な密度を「宇宙の臨界密度」といい、このとき空間曲率はちょうど0になる。

    ・p.107. 空間曲率がどこでも同じ値をもち、その値が正ならば、その空間は球面のように閉じていて、真っすぐ進んでいくともとにいた場所に戻ってしまう(略)この性質は空間曲率が場所によって異なっていても成り立つ。このことは数学的に「ボンネ・マイヤースの定理」として知られている。すなわち、物理的に妥当な条件のもとで、「空間曲率がある正の最小値より常に大きい空間は、必ず有限に閉じている」ということが数学的に証明されている。ボンネ・マイヤースの定理では、空間曲率の最小値から、閉じた空間の大きさの最大値を与える式も導かれている。空間曲率という空間の局所的な性質を使って、空間が閉じているかどうかという空間の大局的な性質に制限を与えることができるというのが、この定理の面白いところである。

    p.109 ボンネ・マイヤースの定理は一般的なもので、3次元以上の空間についても成り立つ。実際の宇宙において、空間曲率がどこでも正であると何らかの方法で証明できたなら、空間は有限に閉じている、と結論づけることができる。この場合は宇宙が無限に続いているかどうかという問題には終止符が打たれる。そのような宇宙でまっすぐ進んでいくと元にいた場所へ戻ってしまい、空間が無限に続いていることはない。

    ・p.111 宇宙の平均的な曲率を求める方法。空間曲率の値をきめるには、この宇宙空間に描かれた、できるだけ大きな三角形を使うのが手っ取り早い。(略)描く三角形は大きければ大きいほどよい。非ユークリッド幾何学の特徴として、空間の曲がりが顕著になる距離尺度というものがあった。その距離尺度よりも十分に小さな三角形を描いても、それはユークリッド幾何学におけるものと区別がつかない。宇宙空間の平均的な曲率が0でなかったとしても、その絶対値はかなり小さいかもしれない。小さな絶対値の曲率を測定するには、観測可能な宇宙の果てにまで伸ばした三角形を考え、しかもそれをできるだけ精密に測ることが必要である。

    ・p.113 ハッブル・ルメートルの法則:宇宙膨張によって遠ざかる天体の速さは、その天体までの距離に比例して大きくなる。ハッブル・ルメートルの法則は比例関係として有名だが、実は、実際の観測料に対して比例関係が成り立つのは比較的近くにある天体に限られる。なぜなら、遠方の天体からやってくる光は昔に出た光であり、光が私たちのところへ到着する間に宇宙膨張の速さが変化してしまうからである。

    ・p.115 ハッブル・ルメートルの法則自体は別に間違っている訳では無いのだが、その法則における遠ざかる速さとしては、現在の値を使わなければならない。だが、遠方からやってくる光はそれだけ時間がかかって届くので、現在の遠ざかる速さというのは知り得ない。したがって、光が私たちのところへ届く間に宇宙膨張の速さがあまり変化しない場合にだけ、ハッブル・ルメートルの法則が正しい距離の見積もりを与える。(略)観測が比較的近くの宇宙に限られていた場合には、ハッブル・ルメートルの法則を使って距離を推定できた。だが最近では、観測技術が十分に発展して、かなり遠方の宇宙まで観測できるようになった。すると、ハッブル・ルメートルの法則そのものを実際の観測量に使うということができなくなった。

    ・p.116 遠ざかる速さは、天体の赤方偏移というもので測定する。(略)銀河から出た光は私たちのところへ届くまでに宇宙膨張の影響を受けて、その波長が伸びる。(略)光の波長が伸びるということは、色で言えば赤くなる方向へ変化するので、これを光の赤方偏移と呼ぶ。赤方偏移の値は、光の波長がどれくらいのびたかという割合から1を引いた量で定義される。
    →天体の赤方偏移を測ることによって、その天体までの距離を推定できる。

    p.119 非ユークリッド幾何学においては、ユークリッド幾何学の余弦定理は成り立たない。3つの辺の長さがわかっても、三角形の内角の値が空間曲率によって異なるため。
    →平均的な空間曲率が場所によらず一定という場合を考える。この場合にはその空間曲率の値によって決まる、別の形の余弦定理が成り立つ。その関係を使うと、3つの辺の長さとどれか1つの内角によって空間曲率の値を一つに決めることができる。

    p.120 つまり地球と2つの天体を頂点とする三角形を考え、その3つの辺の長さと一つの角度から、空間曲率の値を測定できる。2つの天体までの距離は原理的に赤方偏移の測定から決められ、そのあいだの角度は地球から直接測定できる。残りは2天体の相対的な距離。
    →バリオン音響振動

    p.126 バリオンは原子核を構成する粒子のこと。バリオンは重粒子とも呼ばれ、それに比べてはるかに軽い電子はレプトンまたは軽粒子と呼ばれる。だが、宇宙初期のプラズマ状態ではバリオンが電子や光と強く作用しあって一体化していることもあり、用語の使われ方は少し不正確だが、原子核、電子、光をすべてひっくるめてバリオン物質と呼ぶことも多い。バリオン物質には強い圧力がかかっており、音波が伝わるのと同じメカニズムでその中を振動が伝わることができる。(略)空気中における音響振動と同じメカニズムにより、宇宙の初期にプラズマ状態だったバリオン物質の中でも密度の濃淡が振動できる。その振動は宇宙規模で起きていた。これが初期宇宙におきるバリオン音響振動である。(略)光が電子と作用しあわなくなると、バリオン物質の高い圧力が失われて、バリオン音響振動は止まる。これは宇宙の晴れ上がりとだいたい同じ時期に起きた。

    p.136 宇宙の晴れ上がりから現在までに光の進める距離を半径とする球面を、宇宙マイクロ波背景放射の最終散乱面と呼ぶ。宇宙マイクロ波背景放射の温度ゆらぎに刻み込まれたバリオン音響振動スケールは、この最終散乱面の上に張り付いている。また、宇宙マイクロ波背景放射の赤方偏移の値は観測量から理論的に計算できるので、最終散乱面の半径も計算できる。その結果は、現在の宇宙での距離に直して約455億光年となることが知られている。バリオン音響振動スケールは現在の宇宙での距離に直して約5億光年だから、これにより3辺の長さが455億光年、455億光年、5億光年という2等辺三角形になる。この場合、宇宙がユークリッド幾何学に従っているのならば、バリオン音響振動スケールの見かけの角度は0.6度ほどになるはずである。もしその予想から外れていれば、非ユークリッド幾何学に従っているということになる。そして、そのずれの量から、宇宙の平均的な空間曲率の値を推定できる。

    p.140 宇宙の大規模構造を使うと、最終散乱面に固定された宇宙マイクロ波背景放射の場合と違っていろいろな場所のバリオン音響振動スケールを測定できる。

    p.141 宇宙マイクロ波背景放射と宇宙の大規模構造の観測を合わせて、バリオン音響振動スケールをものさしとして用いる方法により、宇宙の平均的な空間曲率の値に制限が与えられている。その結果としては、平均的な空間曲率はゼロにとても近いことがw買っている。

    p.153 ポアンカレ正12面体空間

    p.156 宇宙が遠くの方で繋がり合っているか確認するのに有用=宇宙マイクロ波背景放射。もし宇宙が遠方で繋がり合っているトポロジーをしているならば、同じところから出発した宇宙マイクロ波背景放射が、違う経路を通って我々のところに届く場合がある。すると、そういうところの温度ゆらぎは同じパターンになる。違う方向に同じ温度ゆらぎのパターンが観測されることになる。→ p.159 プランク衛星による宇宙マイクロ波背景放射を解析した結果、そのような同じパターンの領域があるこてゃ誤差の範囲内で確認できなかった。このことにより、もし宇宙が遠方でつながっているとしても、だいたい観測可能な宇宙の半径よりも遠方でつながるしか無い。


    ・p.202 マックス・テグマークは、宇宙が無限だと仮定すると、私達に観測可能な宇宙とまったく瓜2つの場所は、大雑把に1グーゴルプレックスの100京乗メートルだけ離れたところにあると見積もった。

    ・p.241 アーチボルド・ホイーラーの宇宙像。どんなの?

  • 松原博士は6冊目になるが今回も読み応えのある満足行く内容で、一瞬で読み終えてしまった。
    宇宙は有限か無限か。膨張している観測結果から行くと有限のように感じてしまうが、無限空間も膨張するということは想像が難しい。 ビッグバン前の特異点に、現在存在する全エネルギーが凝縮されてる状態ってのも理解の範囲を超えている。
    さらば青春の光のぼったくり過大請求のコントで那由他や無量大数という単位は聞いていたが、華厳経ではもっと大きい単位が設定されていたとは・・ 10の100乗=グーゴルで、そこからグーグル名が来てたのは有名な話?
    年周視差や光行差の発見を地動説発見の時系列にうまくまとめられており、分かりやすい。
    宇宙の曲率の測り方についてはこれまでより突っ込んだ内容だったので勉強になった。三角形を使った測定になるかと思っていたが、相対距離が知られている天体はないため、バリオン音響振動を物差しにする方法が検討されているそうで、まさに筆者の専門分野か。現在の観測精度では宇宙の曲率はゼロに近いとのことだが、空間の曲がりが顕著になる距離スケールとして3000億光年以上必要とは・・やはり宇宙の理解は一筋縄ではいかないらしい。
    ボンネ・マイヤーズの定理(空間曲率と有限について)や、ゼータ関数(無限を扱った計算から有限解を導く)に触れるなど、数学的な要素も紹介しているが、とくに高次元の想像が困難なため宇宙のトポロジーは難解。
    宇宙像の新章として紹介されたのは情報の宇宙について。シミュレーション仮説はマトリックスやループの世界観でおなじみだが、物理学者が語ることで夢がさらに膨らむ。

  • 宇宙は無限か有限か誰しも考えるし宇宙が始まる前は何なのか頭が痛くなるような問題。
    面白かったのは仮に宇宙が無限だとすると可能性も無限になる。どんなかすかな可能性があってもいつかどこかで実現してしまうことになる。
    自分と全く同じ人物がどこかで生存していると言うことになる。
    宇宙が無限だと言う事は考えたくないし思考の放棄にもなりそうな気がする。

  • 宇宙の広さは無限なのか、それとも有限なのか…。

    一番最初にも説明されていますが、その答えはまだわかっていないとのこと。

    情報だけで出来た宇宙についてはとても興味深い内容で、色々と頭の中で妄想が広がりそうです。

  • 8章から面白くなった。
    もし宇宙が無限ならどんなに小さな確率でも無数回起こり得る。地球に生命がいるのだから他の星にも無数の生命がいることになる。宇宙論なのか確率論なのかわからないが、ということは自分と完璧に同じ自分(他人?)が無数存在し、この瞬間にも新たな自分が無数産まれていることになり、マジキモい。

  •  複雑怪奇な一冊にして、何かを理解したいという思いになる一冊であり、しかし、その実態はやはり難解な一冊。
     物理学の専門的な知識を持ちえない自分自身にとっては、どこまでも見えないものがつかめないというもどかしい読書の時間になった。それでも、このようなことを考えることも悪いことではないという、妙な納得感を得られた。
     宇宙は無限なんだろうと、なんとなく素人にはそのように考えてしまうことに対して、いや、有限なのだという仮説を得て実際有限なのだという結論に至る可能性もあることを初めて知った。
     知らないことはまだまだ多い。

  • ふむ

  • すまん、浪人時に模試で物理の偏差値100超えて全国1位でも、スパッと理解出来ず…

  • 東2法経図・6F開架:B1/10/1037/K

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著者プロフィール

■松原 隆彦(マツバラ タカヒコ)
高エネルギー加速器研究機構、素粒子原子核研究所・教授。博士(理学)。京都大学理学部卒業。広島大学大学院博士課程修了。
東京大学、ジョンズホプキンス大学、名古屋大学などを経て現職。主な研究分野は宇宙論。
2012年度日本天文学会第17回林忠四郎賞受賞。
著書は『現代宇宙論』(東京大学出版会)、『宇宙に外側はあるか』(光文社新書)、『宇宙の誕生と終焉』(SBクリエイティブ)など多数。

「2020年 『なぜか宇宙はちょうどいい』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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