椿姫 (光文社古典新訳文庫 Aテ 2-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (491ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334751616

作品紹介・あらすじ

美貌の高級娼婦マルグリットは、パリの社交界で金持ちの貴族を相手に奔放な日々を送っていた。ある日、青年アルマンと出会い、初めて誠実な愛を知る。マルグリットは享楽的な生活を捨て、パリ近郊の別荘で二人の幸福な生活が始まる。だが、噂を聞いたアルマンの父が駆けつけて…。

感想・レビュー・書評

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  • 高級娼婦との出会い、そして大恋愛の末、悲劇の破局。
    登場人物のキャラクターと役割が明確でわかりやすく、登場人物も少ないので読みやすく、先が気になるストーリーで一気に読めます。うまく練られたお話ですが半分はフィクション。本編中、真実の話であることが強調されているので丸々実話だと思いながら読んだのもよりのめり込めた原因かも。
    教養はないがふとしたはずみで娼婦となってしまったマルグリットは本質はとても気高く、美貌に恵まれているにも関わらず、娼婦故に自分を真に想ってくれる人と出会えず、挙げ句の果に、自分では働こうとせず親の用意した財産で暮らす放蕩息子のアルマンと恋に落ちてしまう。
    このアルマンがどうしようもない甘ったれなのだが、この小説では主にアルマンを主観にしていることもあり、その行動や浅はかな考えに思わず同意してしまう。
    マグリットとアルマンの幸せな6ヶ月の後の、マルマンの父親のマルグリットへの説得が切ない。純粋無垢な妹の結婚話を理由にしているがホントなのかと勘ぐってしまう。その父親は病床のマルグリットを見舞い、涙を見せるところはいくらか救われます。
    アルマンは作家自身がモデルであるが、フィクションの部分も含め、恋愛に純粋で情熱的であり正直者ではあるが浅知恵過ぎな部分にいらいらしますね。元兇のようなマルグリットのコバンザメ、プリュダンスの役割もこの話には欠かせないと考えるが、オペラではいなくてもよい脇役になっている所が面白い。
    マルグリットが残した手記は間違いなくマルマンを苦しめるだろうと思っていたろうが、それでも書くことで自分自身を慰めるためというのがひしひしつたわり、切ない。
    本編もさることながら、解説もとても興味深く読めた。

  • 本当に名作…最高の愛の物語。
    デュマ フィス自身がマルグリットのモデルとなった女性にどれほど入れ込んだかは妻を差し置いて彼女の墓の近くに葬ることを頼んだことを見ていても明白。

    序盤でこの愛の結末はわかってしまうんだけれど、そこに至るまでの愛の物語が半端じゃない。
    ふたりは愛し合いたいだけなのだけど、世間が放っておかない。愛するがゆえに犠牲を払わせることを選べない。そして最後には…
    読んで本当に良かった。

  • 人は自分が持つことができない物こそ欲し、なれないからこそ憧れる厄介な欲求がある。善良な市民がアウトローに憧れ、純朴な女性が破滅的な恋愛を求めるのも多分そういうことだ。高級娼婦マルグリットと良識ある青年アルマンは正反対の二人だからこそ相思相愛に…と思ったが、途中からアルマンくんのダメっぷりに目も当てられなくなってきた。マルグリットに己の虚栄心を散々指摘されてもさっぱり理解することなく、余計なお世話や当てつけやらを繰り返す彼に思わず目を背けたくなるのは自分も同類のダメ人間だからでしょうか。あぁ、恐ろしい…

  • 19世紀フランスの作家であるデュマ・フィス(1824-1895)の代表作にして恋愛小説の古典、1848年の作。イタリアの作曲家ヴェルディによるオペラでも有名(初演1858年)。作者が嘗て関係を持っていた実在の高級娼婦との体験が基にあるとされている。なお、デュマ・フィスは『三銃士』『モンテ・クリスト伯』で知られる作家アレクサンドル・デュマの私生児。

    本作中に様々な形で登場する、アベ・プレヴォーの『マノン・レスコー』と、幾つかの共通点を持つ。作者の実体験が背景にあること、ヒロインが高級娼婦であること、その恋人であった男の回想として話が展開していくこと、男がヒロインや世俗に翻弄されること、恋人同士は男の父親によって引き裂かれること、最後に恋人たる男を愛しながらヒロインは死に赴くこと、残された恋人によって埋葬の移しかえが行われること・・・etc. 本作のヒロインたるマルグリットの人物像・その心理の変遷は、マノンに比べてずっとはっきり描かれているように感じられる。



    娼婦を自己の快楽享受の為に金で買った道具としか看做さない男たちの中で、アルマンだけは「じぶんのためではなく、あたしのためにあたしを愛してくれ」た。男たちの欲望に奉仕する商品として人格が物象化され心身ともに虚偽に塗れていく中で、アルマンは「あたしが自由に考え、話すことができる、たった一人の人間」だった。そんな二人が愛し合うと云うのは、実に美しいことだと思う。

    そんな二人が一時の幸福な信頼の裡に愛の生活を実現できたのが、虚飾と俗物に埋め尽くされた狂騒の大都市パリを離れた田園であったという点も『マノン』と共通する。即物さを振り切りながら若さが疾走する真実の愛は、俗世を突き抜けたところにしか在り得ないのか。「社会」とは相容れない狂気にも似た無限遠の自閉空間――そして「社会」による制裁を受けて破滅せずにはいない私的世界――、でしか在り得ないのだろうか。

    「これは狂気の沙汰かもしれない。でも、あたしは彼を愛しているのよ! どうしようもないじゃないの」(マルグリット)

    「世界は遠くのほうで勝手に営みをつづけ、ぼくらの青春と愛の絵図を影で汚すこともありません」(アルマン)

    「ああ、あんたはこう思っているんでしょう。ふたりが愛し合い、羊飼いの少年少女みたいに田舎でゆったりとした生活をしていればそれでいいんじゃないかって。・・・、それじゃだめなのよ。理想の生活とは別に、物質的な生活ってものがあるんだから。どんなに純真な決意だってね、・・・、鉄のように頑丈な鎖でこの地上につながれているものよ」(プリュダンス)

    それにしても、男が女に向ける独占欲というのは度し難い。まして高級娼婦を恋人にもつ、若いだけで金持ちの粋人でもないただの男であれば。

    「もしあなたが真剣に恋をしたことがあるならきっと、じぶんが全身全霊を捧げて生きたいと願う存在を世の中から孤立させておきたいという、あの欲求を覚えられたことでしょう。愛する女性が周囲にどんなに無関心でも、いろんな人間や物事にふれていくうちに、いくぶんかは香気と純一さをなくしていくように感じられるからです」(アルマン)

    男の独占欲・虚栄心が娼婦の自尊心と衝突する遣り取りを見るにつけ、様々に姿を変える偽装した自己愛でないような純粋な愛というのが在り得るのか、思わず考えさせられた。二人いれば、その二人は互いに他者である。各人の愛の形に相手が首尾よく収まるとは限らない。自己都合という隔壁が融け消えてしまう陶酔の瞬間、合一の瞬間、それは殆ど死の瞬間と云っていい、成就されざる成就であるか。

    二人の愛の美しさゆえに、女に裏切られたと勘違いした男による報復の残酷さが哀しく際立つ。自分を傷つけようとする男の行為すら愛の証だと赦し、男を愛し続けながら死んでいく女とは対照的に。憎しみも愛の一つの現れであろうか。



    同じく若さの恋愛小説とでも云うべき『マノン・レスコー』と併せて読みたい。二作を続けて読んだのだが、翻弄されながらも娼婦に惹かれ続けずにはいられない男の心理が、何だか我が事として分かってきてしまいそうだ。

  • 19Cのフランスにおいて、高級娼婦が純粋な青年との愛を通じて「真の愛」にたどり着くお話。
    この本における主題はおそらく「長期的な視点から愛する相手の利益になる場合には、短期的には相手の不利益になるようなこと、あるいは自分が嫌われるようなことでもするのが、真の愛の持ち主である」みたいなじゃないのかなー。
    個人的にはクソみてぇな自分の人生の中の反省において、愛とはそういうものであるのではないか、と思う機会が多いので、この本の「愛観」にはアグリーですおっおっお

  • 死の床に伏しているマルグリットのアルマンへの言葉に思わず、涙。

    『椿姫』=ファム・ファタルとよく聞くので、作品の中でもずっと引用さている『マノン・レスコー』と比べてどんなに残酷な女なのかと思ったら、ひどいのはアルマンの方だった…

    マルグリットも周りの人々もアルマンに散々、「玄人の女」の現実を教えてあげているのに、嫉妬にかられ、愛するマルグリットをも苦しめようとする、その姿は滑稽だが、誰の心の中にもアルマンのような愛情が隠れているのだろうと感じた。

  • 男と女の恋愛の感情を見事に描いているように思う。

    1年足らずで亡くなってしまうこと、社会的な大きな障害・・・全てが恋を燃え上がらせる。マルグリッドの感情は詳しくは書かれていないのに、なぜか彼女の信条がひしひしと伝わってくるところがこの小説のすばらしいところだと思う。作者のデュマ・フェスの実体験をもとにしているらしいので、真実味があるのかもしれない。

    しかし・・・

    最後に、「それでも、アルマンはいつかまた恋愛をして、たくましく生きて行くんだろうな・・・」と思ってしまったのは、ワタシの年齢のせいだろうか・・・

  • 2022.8.30(図書館)

  • 華やかな高級娼婦と主人公の大恋愛

    主人公が嫉妬深いので…あらあらやめなよwと思いながら読んだ。
    狂ったように全力で恋愛に心血を注ぐのもまた幸せなんでしょうか。

  • パリの高級娼婦と青年の恋。贅沢で華やかな暮らしをしているとはいえ、人々には「所詮はそういう女」と見られ、真剣な恋愛の対象とはならなかった女性。でも青年アルマンは彼女に真剣に恋をし、彼女も彼を愛した。でも彼には彼女の暮らしを支える財力はなく…
    悲しく、せつない物語。

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