暦物語 (古典新訳文庫)

  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (312ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334753252

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  • 1949年初版のドイツの庶民向けミリオンセラー短編集。全17篇。

    1編目の「アウクスブルクの白墨の輪」は、親権争いで二人の母親が幼児の腕を引っ張り合い、手を離した方が母親として認定されるお話。(キリスト教世界の定番ネタ?)

    「異端者の外套」は、仕立て代金の回収に奔走す老婆と、獄中から支払いを試みる天文学者のお話。

    それぞれ、個性的なお話だった。仏陀、カエサル、ソクラテス、老子、と言った有名人もいっぱい出てきた。(知ってるような話は1篇目位。)

  • 幅広い年代の史実や人物を題材にした物語が多い。しかしそれは物語にならないような筋書きのものが多く物語の顛末を期待して読むと肩透かしを食らう気がする。
    物語の雰囲気はよい。一方で理解に苦しむ文脈もあり、賛否は分かれそう。
    最後のコイナーさんの物語が印象的。解説にも触れているが、本当に作者の分身なのか。

  • 劇作家らしく、切れ味の良い文章で、短編やさらに短い文章で様々なストーリーを綴っている。小説やアフォリズム等とは違う感覚で面白い。暦物語というジャンルは初めてだが、テーマが深くて余り一般的でないような気も。
    コピーにある「下から目線のいい話」というより、人間の愚かさを指摘したような話が多く、何回読んでも考えさせられる。社会の矛盾とか人の欲望の醜さに呆れつつ、それでも生きていく、という感じか。コイナーさんは作者の分身というより、問題意識の人格化という感じを受ける。
    好きなのは「仏陀が語る、燃えている家のたとえ」「子供の十字軍」「ラ・シオタの兵士」「本を読んだ労働者が質問した」「分不相応な老婦人」「コイナーさんの物語」

  • 解説によると戦後ドイツのために書かれたクリスマスプレゼントなのだそう。カレンダーに刷られていた民衆にも分かりやすい物語がタイトルの由来。確かに素朴で分かりやすく、風刺が効いたり、微笑ましかったりする物語ばかりでした。
    短編と詩が交互に配されていましたが詩は反戦争、反ナチス色が濃いものも目立ちました。哀しくて読んでいて辛い『子どもの十字軍』のような詩も。
    戦争や思想に翻弄された時代と言う背景が見える本でした。

    『コイナーさんの物語』のサメの話が皮肉たっぷりで面白いけれど真剣に考えると怖かったです。

  • 『暦物語』は、16世紀以来カレンダーの印刷と共に発展した読み物が出自。解説によると、このブレヒトの暦物語は、戦争で荒廃したドイツに贈られたプレゼントのような作品たち、だそう。
    17編の物語+詩+小咄集にプラス解説中に詩が一編。
    今回のお気に入りは…

    物語だと
    「アウクスブルクの白墨の輪」
    「分不相応な老婦人」
    詩だと
    「仏陀が語る、燃えている家のたとえ」
    「子どもの十字軍 1939年」
    「クヤン=ブラクの絨毯織工たちがレーニンを記念する」
    「本を読んだ労働者が質問した」
    「兄は飛行士だった」
    「亡命の途中に生まれた『老子道徳経』の伝説」
    解説中の一編
    小咄集「コイナーさんの物語」

    で、特に「兄は飛行士だった」と解説中の詩は、実際の出来事の名を出さずに、ただ美しかったり悲しかったり…が表現されていて、意味に気付いた時にはっとするところがとても好み。
    とても良かった。

    解説で紹介されていた岩波文庫のJ.P.ヘーゲル『ドイツ炉辺ばなし集』も読んでみよう~。

  • 本書は1949年に出版されたブレヒトの『暦物語』を2016年に光文社の古典新訳文庫として刊行したものだ。1898年生まれのブレヒトはドイツの劇作家、演出家、詩人である。彼は1917年、19歳の時ミュンヘン大学に入学する。主に演劇のゼミに参加していた。翌1918年、20歳の時には第一次世界大戦終了までの1ヶ月間をアウクスブルク陸戦病院で衛生兵として働く。その後1933年まで、ドイツにて多くの劇作品や詩を発表する。この年、ナチスが政権を掌握した後、北欧に亡命する。1941年にはさらにアメリカへ亡命する。そして1949年、第二次大戦後再びドイツに戻って来る。その年、出版されたのがこの本だ。全部で17編、短編が9、詩が7、小咄集が1つだ。『暦物語』というタイトルは民衆のために暦に書かれていた「おもしろくてタメになる短い話」(本書288頁)から来ている。冒頭の『アウクスブルクの白墨の輪』は最後まで読めば、ドイツ版の大岡裁きだ。しかし、30年戦争という戦時下の出来事、侵略と略奪から話が始まる。その次の『ユダヤ人相手の娼婦、マリーザンダースのバラード』はまさにブレヒトが亡命し、第二次世界大戦の契機ともなったナチスへの皮肉だ。その後、仏陀やベーコン、カエサル、ソクラテス等の歴史上の偉人たちが登場する話も一見、ちょっとした話(つまりは暦物語)に見える。しかし、以下のフレーズはそんな短編から抜粋したものだ。「資本という爆撃機の編隊」(本書60頁)、「異端審問所」(本書93頁)、「軍需産業は熱に浮かされたように戦争の準備をしている」(本書134頁)、「戦争に勝てば、下の人間までがしばらくは好戦主義者になる」(本書211頁)。こうしたフレーズが当時、どの程度のインパクトのある言葉だったのか。ブレヒトの生きた時代は、二つの大戦と亡命の日々だった。彼にとって当たり前だった生活を反映しているのか、ナチス批判、大戦、体制への批判や皮肉が頻出する。平和な現代と約70年という時代を隔てたズレ、つまりは「暦」のズレ。そのズレをちょっと考えるには、本書はちょうどいい。

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