この国。 (光文社文庫 い 35-10)

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  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (347ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334765781

感想・レビュー・書評

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  • ● 感想
     一党独裁の管理国家である「この国」が舞台の連作短編集。この国は、非戦・平和を掲げることで経済成長を遂げている。
     共通しているのは、全ての作品に「番匠」という人物が登場すること。冒頭では少佐で、公開処刑の場で処刑に失敗し、降格・左遷。各地で活躍し、最後、公開処刑を失敗させった反政府組織の松浦と対決するという構成となっている。
     石持浅海の文章は、無駄な部分があまりなく、文体もすっきりしていて読みやすい。構成もシンプル。予想外の展開ではなく、予定調和で読ませる。無理な意外性やサービス精神を盛り込んで読みにくくすることなく、全体をスッキリした構成で仕上げている。
     個々の短編もすっきりして読みやすく、連作としての構成も鮮やか。短編作成、短編集作成のテキストにしたいほど。この構成を分析すれば、短編、短編集のテンプレートができそうなイメージだ。
     作品全体を包むブラックでビターな雰囲気が石持浅海の味だろう。その味が楽しめれば、全体的に妥当なレベルの作品ぞろいなので楽しめる。個人的には好みの味付けである。
     読みやすく、分かりやすい作品で雰囲気が好きなので全体的に楽しめる。ただし、最後の作品である「エクスプレッシング・ゲーム」だけはイマイチ。これだけミステリ的要素がほとんどなく、アクションとなっている。番匠対松浦の対決は、もう少し知的ゲーム風でもよかったように思う。トータルでは★3で。★3の上の方というイメージ

    ● メモ
    ● 設定
     一党独裁の管理国家である「この国」が舞台。非戦平和を掲げることで経済成長を遂げている。
     死刑は公開処刑。ただし、首を吊ったのに死ななければ法的には死刑執行済み。戸籍抹消の上、新しい戸籍によって違う人間として生きることになる。
    ● 公開処刑 ハンギング・ゲーム
     別名、ケルベロスとの呼ばれる番匠少佐が、菱田一敏の公開処刑を指揮する。松浦と菊池という反政府組織のメンバーが菱田を救出に来るという。
     番匠は、反政府組織が観衆を人質にとって菱田の解放を要求することを防ぐため、菱田に銃を突きつけた状態で死刑会場に入った。これが一次攻撃隊の作戦だった。
     反政府組織の第二次攻撃隊はミツバチ。慌てたところを、出入口扉上の反政府組織員が菱田を奪還するという計画。番匠はこれを見抜く。第二次攻撃隊は確保。
     第三次攻撃隊。死刑制度反対のデモ。これが反政府組織か単なる市民団体かが分からない。番匠が迷っている間に、死刑囚の死亡確認のためにいる医師を人質にする。これもすんでのところで、番匠が見抜く。
     次はロープの狙撃。死刑執行後、死亡しなければ菱田は助かる。それを狙い、菊池という鍛え上げた男が、ライフルでロープを撃つのでは。番匠はそう考える。実際にライフルは発射されるがロープは切れなかった。
     死刑執行。しかし、菱田は死なない。屈強な男が死刑台の中で菱田の足を支えていた。ライフルでの銃撃が菊池だと思わせるミスディレクション。死刑台の中にいたのは菊池だった。
     菱田は助かり、番匠は処分を受ける。番匠は、この計画を立てた松浦を捕まえる、あるいは殺害することを心に誓う。
     松浦は、菊池の仇として番匠を殺害することを心に誓う。
     菱田という人物を公開処刑会場から救い出すための、ケルベロス=番匠と、反政府組織の策士、松浦との知恵比べ。この「設定」が面白い。これから処刑する菱田に銃を突き付けて入場し、先に人質とすることで、観客を人質に取られることを防ぐというアイデアは面白い。ミツバチ作戦と、市民団体作戦はそこそこ。最後のオチはもうひとひねりあってほしかったが、全体の完成度は高いと思う。
    ● ドロッピング・ゲーム 教育
     「この国」のアメリカから来ている英語教師、スコット・ヒルの目線で描かれる。小学校卒業後の進学先で、その子どもの将来がある程度決まる。最も優秀な子が行く「海洋学校」、それほど優秀でない子は普通科に。中間層にも入れない学力の子は職業訓練中学校に行く。このヒエラルキーからはずれるのは「体育選抜」と「芸術選抜」。
     仲がよい4人組の旭奈津美は普通科に、石田桃子は体育選抜に、金崎啓介は海洋に、そして宮村翔一は普通科に進学した。宮村だけが、希望の進学先である海洋への進学ができなかった。
     努力家であるがトップにはなれなかった宮村。海洋への進学の道が絶たれ、一時は落ち込んでいたが、周囲の友人の励まし、特に思いを寄せる旭奈津美からの声掛けにより立ち直っていた。その矢先、宮村が飛び降り自殺をする。
     その捜査を、番匠が行う。宮村は自ら飛び降りた。しかし、ヒルには疑問があった。立ち直っていた宮村が、なぜ、自殺をしたのか。
     ヒルは、卒業式での金崎のセリフから真相に気付く。それぞれ努力をしていることで結び付いていた4人。海洋への進学の道が絶たれ「普通」になった宮村が許せなかった金埼は、宮村に、宮村が海洋に進学できなかった原因は、奈津美が宮村を海洋に進学させないようにするために、悪くいったからだという嘘を吹き込んだ。
     数年後、ヒルは帰国。金埼は、外務大臣となっていた。
     人間の残酷な一面を書いている作品。ミステリというより、オチのある短編という感じ。北山猛邦の「私たちが星座を盗んだ理由」に収録されている短編に近い。オチは予想できるので、衝撃は少ないが、短編全体を支配するダークな雰囲気が魅力。計算された構成というか、ありがちな話ではあるが、悪くない。このような計算された構成の作品を書ける石持浅海という作家は、安定した質の作品を掛けそうなイメージである。それだけに、突き抜けた傑作がないのかもしれないが。
    ● ディフェンディング・ゲーム 軍隊
     士官学校の学生に任務の依頼がある。番匠から強盗未遂事件の捜査の依頼を受ける。同様の事件が3件起き、いずれも外国人が犯人。捕まっていない。軍拡を目指す周辺国が、東アジア安定会議において、優位な立場になるために、「この国」の政府に揺さぶりをかけているのではないか。騒ぎを大きくしないように、士官学校生が巡回することで、犯罪を抑止するという任務だ。
     浅岡、印南、池は巡回中、不審人物に遭遇。印南が撃退される。追っていた不審人物がいなくなり、急に背後に現れたという。不審人物は、電柱に上ってやり過ごしていた。印南を一人で行動させた判断のミスだった。
     池は、番匠に、犯人を見つければ攻撃してよいかと聞き、了解を得る。池は番匠に攻撃を仕掛ける。
     これは国防実習だった。戦争をしない国の軍人はどうあるべきか。戦わずに国民を守ることができる最善の手段は何か。その思考法を伝授するために行われた訓練だった。
     これも、計算された作品で、有り勝ちにも感じる。しかし、無駄な情報が少なく、すっきりしていて読みやすい。極めて安定したデキの作品
    ● エミグレイティング・ゲーム 出稼ぎ
     「この国」には、実質的に政府が経営している売春宿がある。その売春宿のサタの客が強盗に襲われ、殺害されるという事件が続く。
     売春宿から客が減る。犯行を裏で指揮しているのはテロリスト組織ではないかと考え、番匠が捜査をする。被害者が全てサタの客であることを知り、番匠は、自らがサタの客となり、おとり捜査をする。
     番匠は、サタにキスマークを付けてもらう。この行為は、同じ国から来ている労働者の男性、サジに言われてやっていること。ここでサタも、サジの犯行ではないかと気付く。
     番匠にキスマークのことを教えたのは、サタと同じ売春婦のイデ。イデは、この国に永住するためにサタと付き合っていたが、サタがテロ行為をしていることから裏切った。この国はいつも誰かが誰かを利用している。最後、サタはそのことに気付き、番匠に営業スマイルを見せてエンド
     短編のお手本のような構成の作品。最も犯人になりそうなのサジが真犯人で意外性はない。ただし、読みやすく、構成はシンプル。サタの営業スマイルで終わるというオチも含め、作品全体のブラックな印象は悪くない。
    ● エクスプレッシングゲーム 表現の事由
     表現庁が開催する「カワイイ博」が、反政府組織のテロに襲われる。首謀者は松浦。その警備を番匠が行う。番匠対松浦の直接対決
     カワイイ博の開催開始前日に、テロ行為が起こる。表現庁の完了である貝塚にある記者がインタビューをしていた。その場を毒を仕込んだ画鋲等で襲うテロリストが現れる。キャスターを使った攻撃。これらを回避し、別の会場へ。次の会場では建築資材、ベニヤ板、カーテン等を利用した攻撃
     最後の会場ではバイクを利用した攻撃。全ての攻撃を回避し、テロリストをせん滅。貝塚を取材していた記者を助けると記者の手に毒を塗った画鋲が。記者が松浦だった。番匠は、最後に松浦を殺害する。
     番匠、松浦の双方が死亡。番匠は松浦に対する、この国の何が不満だったんだという思いを示しながらエンド
     短編集のラスト。松浦と番匠が双方を殺害し、引き分けで終わるという形で、「この国。」という短編集を終わらせようとしていたのだろう。予定調和としての作品。アクションモノとなっており、ミステリ的要素はほぼない。謎解きでも、頭脳ゲームでもない。唯一あるのは、記者が松浦だったという意外性だが、これもさほど以外ではない。きっちりした伏線がないせいもあるだろう。最後の作品であり、全体の予定調和ではあるが、このオチはイマイチ。もう少し魅力的な終わらせ方をしてほしかった。
     

  • いかにも石持浅海って感じ。5編の連作短編集。面白かったけど、最後の話はイマイチだったな。番匠があっさりやられちゃうのは悲しかった。日本のパラレルワールドのような『この国』。中学校進学に際し、ランク分けし、売春宿も国営。売春国営はいいんじゃないかと思うけど。全てを管理することで平和を維持する。ほんと、反体制は何を目指していたのか。断然番匠派だね。しかし、この作者はほんと変な話を書く。嫌いじゃないって感じだね。

  • 番匠と松浦の息をつかせぬ攻防戦が見応え抜群でした。
    相変わらず独自の設定を生かして書くのが上手いなぁと思う。それありきと言ってしまえば元も子もないが、それだけに留まらないスケールの大きさを感じる。

  • 一党独裁の管理国家。治安警察間の番匠と反政府組織の戦略家松浦。
    どんな形態の国家でも支持する側と反対する側が存在するのは不思議ではない。現行を是としているのが良いのか悪いのかなんだか良くわからなくなってしまった。
    それは置いておいて、二人の人間の頭脳のぶつかり合いには驚嘆する。推測し瞬時に対策を取り実行に移す、この素晴らしさったらない。敵にしたくない人達である。

  • 小6男子が「女の尻を追いかけ回す愚劣な人間になってしまったんです。」っておもろ過ぎるやろ笑
    松浦視点でも物語を読みたい
    松浦が何故反政府なのかどういう国にしたかったのかめっちゃ気になった
    石持浅海作品2冊目で1番好きな作者に決定した
    冒頭ニ作が特に好き

  • 新しい日本の近未来を独創的な内容での小説かなと思っていましたが、後半などは普通にハードアクション小説。
    新しい死刑制度や進級制度などは面白いからもっと幅を広げてほしかったな。
    読みやすいので星二つ

  • 一党独裁政権下の日本を仮想したような国家における治安維持警察と反政府組織のテロリストの話。
    もしかしたらありそうと思わせながらも実際にはあり得ない設定は三崎亜記氏を彷彿させる。
    どちらのリーダーも非常に頭が切れるので、相手の手の内の読み合いに力が入る。
    冷静なようで正義感と人情味に溢れる番匠の魅力に惹かれていたので、最後はちょっと残念な終わり方でした。

  • お話の舞台は日本のようで日本でない、パラレルワールドにある日本というのが私のイメージ。
    過去二回の世界大戦では中立を保ち、資源に乏しく、長いこと一党独裁で、絞首刑が一般公開され、人々の娯楽になっているような、でも平和な国。そこでの体制側と反体制側の人間の頭脳戦&肉弾戦がメイン。
    だけど、直接対決のない、小学校や国防軍の話もあって、読みやすかった。

    最後に勝つのはどちらか、そこに作者のイデオロギーは反映されてるのか?と読んでる間は考えていたけど、どちらにも公平?な終わり方で、ハッピーエンドよりはバッドエンドに分類されるかもしれないけど、ある意味スッキリした。

  • この国の通ってきた道、政策が正しいのかどうかはわからない。しかし、治安警察官の番匠も反政府組織の松浦もこの国を愛していたのは間違いないと思う。

  • 2016年11月24日読了。
    2016年108冊目。

  • どこまでもこの国の為に有れる番匠さんが清々しすぎます。イイネ!(笑)
    たしかに「戦争のない国」というのは素晴らしい、誇れる事であるというのは 頭では理解できます

    この本を読んだ感じとして番匠さんは戦争経験者ではない…ようですが… 
    実際にその悲惨さ、凄惨さを経験していない人が
    戦争のない事(この国では失業者もない等色々良い所あるますが)を命をかけてまで誇りとし、
    国の体制維持のため己の全て捧げちゃったり…できるものでしょうか。
    私的には番匠さんがどうしてそういう人間に育ったかという事の方が気になって仕方ありませんでしたが
    最後までこの国の事を考えて終わるという生き様が素敵だったので★4つで。

    内容というよりキャラが良かったというか。

  • “この国”の治安警察官と反政府組織の頭脳戦。
    公開死刑が国民の娯楽となり、小学校卒業時に将来が決められる。
    そんな国を守る側と、国に反発する側。
    国のためを思うがゆえの戦いの結末とは・・・。


    “この国”が具体的にどこなのかは示されていませんが、どうしても日本に置き換えて読んでしまいます。

    こんな国になったら…ありえそうな、怖いような。

    公開死刑や小学生の話、それぞれ独立した章で構成されているので、読みやすかったです。

    途中から私は反政府組織の応援をしている自分に気が付きました。

  • 一党独裁の国家「この国」で,治安警察の番匠と,反政府組織の戦略家・松浦の頭脳戦を描いた連作短編集。
    らしいが,いつもの石持作品と比べると,あまり頭脳戦っぽさは感じないし,管理国家の割には皆わりと楽しそう。

  • 一党独裁のこの国では、国家に対する反逆は死刑で、小学校卒業時に将来がほぼ決まり、売春宿は国営…と設定はすっごくおもしろい。けど展開が読めてしまう上に吸引力が弱く、いまいちハマれなかった。この作家さんなら「三階に止まる」のほうが断然オススメ。

  • 長らく一党独裁政権が続くある国を舞台としたディストピア小説。
    明治維新後、極端な社会主義と法治主義を貫いてきた21世紀の日本という風情、北朝鮮テイスト。

    治安警察官の番匠が遭遇した事件を解決していく連作短編集。
    あらすじと1話目の印象から番匠対松浦という構図で続くのかと想像したが、番匠が様々な事件を解決する形式だった。


    『ハンギング・ゲーム』
    反政府組織のリーダーの公開処刑当日、つつがなく処刑を完了しようとする番匠とリーダー奪還を目指す松浦の対決。
    展開、オチ共にこれが一番スッキリ読み終わった。

    『ドロッピング・ゲーム』
    この国では能力に応じて進学する中学が決定され、その後の人生が決まる。
    とある小学校で起きた児童転落死事件を番匠が解決するが、
    海外からやってきた担任教師の視点で描かれているため存在薄め。

    『ディフェンディング・ゲーム』
    陸軍士官学校の生徒が他国の工作員による犯罪を防ぐため見回り業務を任される。
    世界観の補強には必要な話なのだろうが、
    解決する事件とネタがしょぼくて全体の説教臭さに勝てていない。

    『エミグレイティング・ゲーム』
    ある売春婦を買った客ばかりが連続して殺される事件を解決する。
    しばらく脇役だった番匠の出番が増え、最終話への繋ぎにもなっている。

    『エクスプレッシング・ゲーム』
    松浦との再対決となる最終話。
    1話と同じく、松浦の策略を次々突破していく構成。
    ラストは推理の出来ない私にもバレバレの仕掛けだったし、
    そもそも最初に不意打ち狙いで殺せただろうと思ったけれど、それではお話にならないしたくさん散りばめた伏線を回収する形で悪くはなかった。
    ただ終わり方はこれでいいのか?微妙。


    相変わらず全体的にうまく行きすぎ、という現実感のない展開も多いけれど、これも持ち味ということで許容出来る範囲。
    SF設定の話は少ない気がするけれど小さな世界の完成度は高いのでこういう系統ももっと書けばいいと思う。

    http://www.horizon-t.net/2013/09/07/%E7%9F%B3%E6%8C%81%E6%B5%85%E6%B5%B7%E3%80%8E%E3%81%93%E3%81%AE%E5%9B%BD%E3%80%8F/

  • 連作短編集。
    設定が非常におもしろかった。
    登場シーンの多さから心情的に番匠寄りになるが、松浦側からも読みたかったと思う。

    「ハンギング・ゲーム」は一言、壮絶。
    「ドロッピング・ゲーム」はブラックな仕上がり。
    この設定ならではの動機と、語り手、話の展開がよくできていると思う。
    しかし心情的には受け入れにくい。
    「ディフェンディング・ゲーム」はやや軽めの仕上がり。
    少しリラックスした表情の番匠が見られる。
    「エミグレイティング・ゲーム」はラストが印象的。
    最終話に向けた布石の話でもある。
    そして最終話「エクスプレッシング・ゲーム」。
    次々と繰り出される罠とそれを回避する描写が見どころ。
    ……もっと読んでいたかったなと思う。

    表紙が臨場感があって好き。
    解説がシンプルで的確だなと思った。

  • 治安警察官と反政府活動家。
    「この国のため」に戦う二人の
    裏の裏を読み合う頭脳の攻防戦――
    考えろ。読め!奴はどう動く!?

    一党独裁の管理国家である、架空の「この国」では、
    死刑執行は娯楽に、教育は小学校時代での成績が重視される選抜制、
    政府が売春宿を管理している。
    国家を思うのは、立場が対立する治安警察官・番匠と反政府活動家・松浦。
    この二人の攻防戦を中心に「この国」を論じる作品。

    石持さんのいい意味でずれた倫理観が、もともと一党独裁で理想の国家とされている舞台では、
    論理的に機能する、冒頭二編「ハンギング・ゲーム」「ドロッピング・ゲーム」が印象的だった。

    ミステリ :☆☆☆
    ストーリー :☆☆☆
    人物 :☆☆☆☆
    読みやすさ:☆☆☆☆

  • 「公開処刑―ハンギング・ゲーム」
    「教育―ドロッピング・ゲーム」
    「軍隊―ディフェンディング・ゲーム」
    「出稼ぎ―エミグレイティング・ゲーム」
    「表現の自由―エクスプレッシング・ゲーム」
    一話一話が粒ぞろいで、とても印象に残った。

    世界観は、日本が明治維新からずっと一党独裁体制だったら・・・というもの。
    一見舞台設定などややこしそうに見えるが、登場人物は多くないし、キャラもたっていてわかりやすい。
    さらに治安警察や表現庁など独特の設定も面白い。
    個人的には「軍隊―ディフェンディング・ゲーム」が一番好きだ。

  • キタ!
    石持ワールド。
    独裁国家な筈なのに、現代日本と被る、この国。

    ”国”を守りたい、エリート警察官VS超頭脳派革命家
    この攻防戦はクセになります。

    柳広司の「結城」シリーズが近いかも。

  • 番匠と松浦の頭脳戦が繰り広げられ、アクション要素もある「ハンギング・ゲーム」と「エクスプレッシング・ゲーム」が面白かった。

  • <公開処刑 ハンギング・ゲーム ★★★>
    公開処刑の執行と阻止を巡る物語。ストーリー展開自体は面白かったが、オチとして「あれは有効?」という疑問は残った

    <教育 ドロッピング・ゲーム ★★★★>
    ある生徒の自殺と思われる死を巡る物語。一段オチまでは比較的早い段階で予想できるが、更に・・・という展開で、どんでん返し、という形ではないが余韻を残す結末

    <軍隊 ディフェンディング・ゲーム ★★★>
    敵国の仕業と思われる連続強盗未遂事件を巡る物語。

    <出稼ぎ エミグレイティング・ゲーム ★★★★>
    買春客連続殺人事件を巡る話。 

    <表現の自由 エクスプレッシング・ゲーム ★★★>
    あるイベントの主催者を狙ったテロを巡る攻防。物語のラストを飾る話だが、頭脳戦というよりは肉弾戦が多く、大味な感じ。

  • 反政府組織と、それを追う軍人を描いた連作短編集。
    久々に石持浅海作品だったが、冷徹な人間の描き方は一級品。
    小学生の振り分けの話が印象的。

  • 石持浅海さんの文体は非常にクールでとてもひかれる。

    オノマトペなどがないわけではないのに、なぜか、余計なだぶつきがないように、クールで軽やかだなといつも思う。良くも悪くも異常な振れがないのが特徴、といったらいいのだろうか。平均値を大きく上(下)回る登場人物も出てこなければ、極端な感情の発露をさらす登場人物も皆無。シチュエーションはいつも、都会的であり、きわめて限定的なものが多い。

    アイルランドの薔薇、月の扉、水の迷宮、扉は閉ざされたまま、(あたしの最愛の書→)セリヌンティウスの舟・・私の愛する石持ワールドは、限られたシチュエーションでの鋭利な推理ゲーム。精緻に構築された論理を紐解く推理ゲーム。

    ところが、最近の作品:耳をふさいで夜を走る、君がいなくても平気、などの作品にはその、ストイックな美しさがなくなってしまった気がしていた。いやいやもしかして短編であればあるいは?と期待して手にしたこの作品。

    しかし正直、最後のページで超がっかり。

    最初のストーリーは、死刑囚を奪還せんとする犯人と守る側の知的な内容で、もしやこれは、これからの華麗なる推理ゲームの前哨戦か?と期待。続く次号ではその犯人(松浦)と追う側(番匠)の構図が一度破られ、学園ものに。「むむ、ここで番匠・松浦の過去が語られるのか?あるいは第一話のいずれかの登場人物の人格形成に多大な影響を与えた何がしかの事件がここで・・?!」なんて読んだら、単に、先の事件で左遷された番匠がちらっと覗いただけの作品。すこしひょうしぬけ。次、はい次、と進むも同様のひょうしぬけを味わい、最後に唐突に二人の対決。

    ・・・てかこの段階で、深堀のされていない二人の緊張感への思いはすっかり薄れ、あ、そおだったのあんたたち、くらいの醒めた気持ちで読むことに。せっかく短編集なんだからそのへん、書き込めなかったのかな、とか、最初の話でキーになるのかと思った女性はなんだったんだろうとか不満やギモンが渦巻いてあったまぐーるぐる。

    兼業作家だから、なんて聞いちゃうと「もしかして本職がお忙しいのかしら~」なんて思ってしまったり。なんか残念。

    石持さんお願いです、あなたの精巧で美しい、潔い作品を、あたしに!
    最初にこのタイトルを見て「この国。」って、なんか句読点、ふるくね?と思ったけど正直言っていいですか。あの、石持さん、あなたに媚びは、似合いません。マルはいらないから内容を、追加お願い!

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著者プロフィール

1966年、愛媛県生まれ。九州大学理学部卒。2002年『アイルランドの薔薇』で長編デビュー。03年『月の扉』が話題となり、〝碓氷優佳シリーズ〟第1弾となった05年『扉は閉ざされたまま』(祥伝社文庫)が 「このミステリーがすごい!」第2位。同シリーズの最新作に『君が護りたい人は』(祥伝社刊ノン・ノベル)。本作は『Rのつく月には気をつけよう』(祥伝社文庫)の続編。

「2022年 『Rのつく月には気をつけよう 賢者のグラス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

石持浅海の作品

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