アンチェルの蝶 (光文社文庫 と 22-1)

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  • 光文社
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感想 : 71
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  • Amazon.co.jp ・本 (471ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334766825

感想・レビュー・書評

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  • 遠田さんの書く主人公て、こうも救われない人ばかりかと言いたくなるくらい破滅型の人が多く。
    自暴自棄になって、救われての繰り返しで、読んでて辛くなるが、最後まで読ませちゃうのは、小説としては、素晴らしいのでしょう。

    ほずみちゃんがいて、何とか少しは未来が切り拓かれたのが救いですね。
    どなたかも書かれてましたが、最後のアクション?みたいなドタバタは余計な気が。

  • 内容紹介
    「母に捨てられ、父に殴られ、勉強もできず、リコーダーも吹けない。そんな俺でも、いつかなにかができるのだろうか」
    劣悪の環境から抜け出すため、罪無き少年は恐るべき凶行に及んだ。
    25年後の夜。大人になった彼に訪問者が。
    それは、救いか? 悪夢の再来か?
    河口近く、殺風景な街の掃き溜めの居酒屋「まつ」の主人、藤太。客との会話すら拒み、何の希望もなく生きてきた。
    ある夏の夜、幼馴染みの小学生の娘が突然現れた。二人のぎこちない同居生活は彼の心をほぐしてゆく。
    しかしそれは、凄惨な半生を送った藤太すら知らなかった、哀しくもおぞましい過去が甦る序章だった。
    今、藤太に何ができるのか?
    希望は、取り戻せるか?


    慟哭のミステリーという名にふさわしい陰鬱な展開。どぶの中で咲いたような一瞬の暖かな光のような思い出。その思い出に絡みつくような、薄汚れて心に食い込んでくる蔦のような記憶。今現在進行形で輝くたった一つの希望である少女。
    こんなに陰鬱で有りながらほんのりと感じる美しさに手を引かれて、読むごとに胸に突き刺さる痛みを我慢して読み進めたことだろうと思います。どうしてこんな親から生まれたんだと心の奥底から叫ぶ子供たち。大人になってもその呪縛から逃れることが出来ず闇へ闇へと引きずり込まれていく姿が胸に刺さります。
    この話に出てくる彼らの親のくずっぷりが物凄くとにかく比類なき屑。マーダーライセンスを持っていたら全員皆殺しにしてやりたいところです。これを女性が書いたというのだからびっくりです(女性蔑視ではありません)
    悲しみのマドンナであるいずみと、彼女の忘れ形見であるほずみ。彼女たちの人生が悲しい符合をしないように祈るばかりです。
    僕は男が女を力ずくでどうにかする描写が大嫌いで読むたびに怒髪天を衝くという状態になります。なので、この本読んでいる時にも主人公の藤太と一緒に怒っておりました。藤太が酒におぼれて人生踏み外し始めた時にほずみが彼に与えた光。それによって変わっていく姿を見たいがために読んだようなものでした。
    所で最近読んだ柚月裕子さんといい、女性とは思えないぶっとい背骨を持った作家さんが出てきましたね。読む本がどんどん増えてうれしい限りです。暗そうだけど。

  • 新作『冬雷』のインタビューで遠田潤子はこう答えている

    -成功した人間よりも、間違って失敗した人間を描いていきたいです。たとえ惨めで愚かな人生だとしても、否定せずに丁寧にすくい上げて描きたい。安易な救済は失礼だと思えるくらいに真摯に向かい合って、なおかつ面白い物語を書きたいと思います。

    著者の書く作品には『正しい人』はでてこない。
    負け続け、地べたを這いつくばって下を向いている人しか出てこない。

    その人に前向けよ、顔あげろよというのは容易ではないし、
    果たしてそれは彼らのためになるのだろうか、お節介ではないのだろうか。

    蝶になることは簡単だ。
    ただ羽ばたき方は誰も教えてくれない。

    (抽象的な推薦文になってしまったが、彼女の作品はストーリーを追うことにあまり意味がない気がしてしまって、このような形がいいのではないかと)

  • 序盤、疑似父娘の描写を読んでいる時間が、本作において一番幸せな時間でした。ほづみの存在が藤太とその周囲を明るく変えていく様子は心地よくて、仕事の疲れも癒されるような(笑)感覚すらありました。

    それだけに中盤からの暗い過去話は読んでいて本当に辛く、気分もページをめくる手も重くて仕方がありませんでした。

    以前読んだ「雪の鉄樹」と同じく、主人公達がロクな大人に恵まれずに辛い思いをする様子は、個人的に一番心が痛くなる話。藤太たちの親はもちろん、デリカシーのない教師なども最低すぎて憤りを禁じ得ないです。

    後半、そんな状況でも藤太とほづみが幸せになってくれることを祈って読んでいました。しかし、片羽がしわくちゃのアゲハチョウのエピソードが藤太の人生を暗示しているような気がして、ずっと不安がつきまといます。

    案の定、最後はいづみや秋雄のところに行ってしまったのかな、と思わされる描写で終劇。重厚な内容でさすがプロな作家の仕事だと感じ入りながらも、結末やほづみのこの先を思うと歯痒さがタップリ残り、微妙な読了感が残った次第です。

  • 個人的に、雪の鉄樹より好きだった。
    はじめ、状況がほとんどわからない状態から始まって、藤太とほづみの危なっかしい関係にハラハラさせられる。
    居酒屋「まつ」の客と、ほづみ、藤太の三者が、どんどんいい関係を築いていくのと裏腹に、過去の事実が明らかになっていくのが切なかった。
    ラストは息を飲むし、涙も止まらなかった。遠田潤子さんの作品を読むのはまだ2作目だけれど、2冊とも、ちょっと自分には考えられないくらい悲惨な人生を歩んでいる人たちばかりが出てきて、感受性が追いつかないことだけが悔しいし、自分の甘さを思い知る。「それでも」生きていく人間の強さを感じる反面、「それでも」生きるしかない人間の辛さから逃げれない作品。

  • 大阪市港区安治川の河口近くにある薄汚れた暖簾が掛けられた居酒屋「まつ」。その店の扉が開いたところから物語が始まる。「まつ」の主人はもう長い間、「薄汚い川底の泥の中で亀のように首をすくめて生きてきた」藤太。戸口に現れたのは小学生の少女を連れた中学の同級生秋雄。
    25年ぶりの幼馴染との思わぬ再会が藤太を泥から引きずり出し、過去の記憶が痛みと共に藤太をからめとる。

    遠田潤子作品らしいノンストップの息をもつかせぬ展開に呼吸が早くなり、毛穴も開く興奮状態。
    藤太、秋雄、いづみの3人は、酒とギャンブルと暴力に溺れた最低の親たちの犠牲となり、過酷な毎日を強いられている。それだけに強い絆で結ばれた彼らが互いのためにとった行動、つきとおした嘘が哀しい。

    物語のモチーフとして繰り返し登場するのが、家族全員を強制収容所で殺されたチェコの指揮者アンチェルによるドボルザークの「新世界より」の演奏。第1楽章の哀愁、第2楽章の郷愁、第4楽章の衝動、すべてが物語とリンクする。そして、どん底の状態にありながら音楽を聴いて「きれいだね」といえるいずみの強さ。
    自分たちが置かれた理不尽な境遇をアンチェルに重ね合わせ、それでも美しい音楽を作り出していることに希望を見出す彼らの姿。

    過去に起こった目を背けたくなるような事実が明らかになるにつれ、圧倒的な質量と熱量にもう読む手を止めることはできない。
    痛みと、情けなさと、やるせなさで心をかきむしられながら、やっとの思いで最後まで読み通し、ここにかすかな光があるとすれば、人生を棄て、泥の中で生きてきた藤太がいづみの娘、ほづみのためにそれでも生きていこうと前向きな心を取り戻したことと少女が持ち続けた少年への純愛だけなんだろうな・・・

    あ~これぞ遠田作品。「雪の鉄樹」以来の感動!読みごたえなんていう言葉では表わせない、のめり込み、身を削られるような物語にしびれました。
    でも、この本を読むために購入したアンチェルの「新世界より」を聴くたびに、これからもこの作品を思い出して苦しくなるんだろうな~。

  • 雪の鉄樹に続き、遠田作品2作目。
    前作に負けず劣らず衝撃的な作品。
    主人公の不幸な生い立ちは前作同様、読んでいて本当に胸が痛くなる。

    作中に出てくる新世界よりの『家路』がひたすら頭の中で流れて、より切なさが増す。
    小説の中の世界だと言えど、藤太とほづみの幸せを願わずにはいられなかった。

    他の方のレビューにも書かれていましたが、東野圭吾の白夜行、天童荒太の永遠の仔を彷彿とさせられました。
    ちょっと時間を置いてから、他の作品も読んでみようと思う。

  • 何とも言えず苦しくなる作品。
    残酷な運命の中でも、懸命に生きれば新しい世界に繋がって欲しかったけれど……。
    最後は希望に繋がったと信じたい。

  • 内容(「BOOK」データベースより)

    大阪の港町で居酒屋を経営する藤太の元へ、中学の同級生・秋雄が少女ほづみを連れてきた。奇妙な共同生活の中で次第に心を通わせる二人だったが、藤太には、ほづみの母親・いづみに関する二十五年前の陰惨な記憶があった。少女の来訪をきっかけに、過去と現在の哀しい「真実」が明らかにされていく―。絶望と希望の間で懸命に生きる人間を描く、感動の群像劇。

  • 重い。
    前半は藤太がぐずぐず言っててなかなか進まなかったけど、過去のことが明らかになるにつれて目が離せなくなっていく。
    悲しい話。でも最後はなんとか持ち直す方向で終わって良かった。
    余談だけど、遠田さんの下ネタはエグくて苦手。蓮の数式は冒頭で挫折した。

    [ストーリー]
    藤太の営む居酒屋まつに、秋雄が、いづみの子どもだというほづみを預けて失踪する。3人は仲が良かったが、3人の父親たちが焼死した火事の後、中学卒業をしてから25年疎遠だった。

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著者プロフィール

遠田潤子
1966年大阪府生まれ。2009年「月桃夜」で第21回日本ファンタジーノベル大賞を受賞しデビュー。16年『雪の鉄樹』が「本の雑誌が選ぶ2016年度文庫ベスト10」第1位、2017年『オブリヴィオン』が「本の雑誌が選ぶ2017年度ベスト10」第1位、『冬雷』が第1回未来屋小説大賞を受賞。著書に『銀花の蔵』『人でなしの櫻』など。

「2022年 『イオカステの揺籃』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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