- Amazon.co.jp ・本 (371ページ)
- / ISBN・EAN: 9784334775117
感想・レビュー・書評
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新宿労基署の残業税調査官が、山林で他殺体となって発見された。国税局の職員・大場莉英に、警察より先に事件の真相を探れという特命が下る。警察、国税局、労基署それぞれの視点から働くことの意味や法制面の矛盾に鋭く斬りこむお仕事小説withミステリ。
前作・残業税の着眼点がツボで、シリーズ化されていると知り、古本屋を数軒巡るも出逢えず、かと言って新品で買うほどの熱量までに至らず、スマホで検索していた時某フリマサイトで発見、力強くポチった。
前作でもレビューしたが、「残業に税を課す」と言う発想が面白い。
正に私も労働者である故、日頃から法制面においてはアンテナを張っていたり、もしも自分に法令制定の権利が与えられたなら…とたまに妄想していることもあり、この著者の視点には勝手に共感しているクチである。どうかこんな根暗で不気味な私を引かずに横目、もしくは薄目で見守っていただきたい。
本来、法は国民の生活を守り、秩序を保つためのものである一方、その法理によって真っ当な労働者を苦しめたり、時に犯罪を生む側面があるのも事実である。
この前提を活用し、実際に殺人事件を取り入れたシリーズ第2作となる本作、私的には読み応えがあった。
ハッキリ申し上げるならば本作品、殺人事件はショボい、ミステリ作品としては10点満点中2点、大したオチもなく、ストーリーとしての面白味は正直ない…というのが私個人的総括。
だがしかし、本作はシリーズ作にも関わらず制度はそのままで主人公を変え、脇役を繋ぎとした大胆設定が斬新だったこと。また、警察官、犯罪者、殺人犯、国税調査官、労働基準監督官、経営者、営業マンなどが登場、それぞれの立場・視点の語り部があって、そのセリフが妙に腑に落ち響く。主人公・大場莉英の合理的な心境面の表現やドSな発言には惚れ惚れするし、犯罪者兼経営者の『脱税ではない節税だ』と解く屁理屈っぷりはお見事。営業マンの営業マンシップに則った思想も頷けて面白い。トドメは脱税の手口のリアリティさだ。そりゃ確定申告せな分からん。
以上の通り、もはやプロット云々ではなく、著者の発想力と地頭力を評価したい作品である。
昨今、コロナ禍で改めてフォーカスされた税金の使われ方。我々の血税が然るべきときに、必要なところへ正しく投じられますように。
どうやら本作は3部作のようで、またポチッとした次第である。
あ、私の好きなジャンルですか。
ミステリです。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
前に読んだ「残業税」の続編。
と言っても、前作に出てきた西川は使い走りで、矢島はほとんど友情出演の体。主要な登場人物は全く変わっているので、姉妹編と言った方が良いみたいな感じ。
ひとりの残業税調査官(マルザ)が殺され、その犯人と背景の真相を巡って、相棒だった労働基準監督官、事件を追う警視庁、現場となった群馬県警、スキャンダルを恐れ警察より早く真相に辿り着きたい国税庁がくんずほぐれつ。
それぞれの調べが進む内に、ある企業グループの存在が浮かび上がってくる…という展開は、普通に犯人捜しのミステリーになって、まずまず面白く読めた。
ただ、犯人の動機が弱かったり、企業グループの親玉の悪の存在感が存外小さかったりで、騒いだ割にはちまちました話になってしまったように感じた。
前作の感想で『突っ込みどころも多く』と書いた残業税に、逆手を取ったか「残業税の致命的な欠陥」が脱税のキーポイントになっていたが、給与計算や確定申告の仕組みが分かっていないと、理解が難しいように思った。 -
残業は善か悪か。前回の残業税に続いての第二段。労働者から残業をした分だけ税金を取る。これにより企業も生産性を重視して、ブラック企業が淘汰される。景気も良くなると言う制度。
殺人事件はおまけの要素かなと思う。
働き方改革と言われるけど、結局は抜け道ばかりだし経営者のような強い方を見てしまう。国滅びて企業が残る。税金って誰のためのお金だろうと考えるきっかけにはなるかなと思います。