透明人間は密室に潜む

著者 :
  • 光文社
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  • / ISBN・EAN: 9784334913458

感想・レビュー・書評

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  •  一風変わったシチュエーションで発生した事件とその顛末を描く、ミステリー短編集。
             ◇
     舞台は近未来の日本。細胞の変異により全身が透明になってしまうという「透明人間病」が蔓延し、社会問題になっていた。

     この難病に罹患した人間は、衣服はもちろん鬘やウィッグ、そしてメイク等によって透明になった身体を補正して暮らすよう定められていて、生活は不自由を極める。
     さらに透明化した感染者に対する DV も深刻化するなど、患者を取り巻く状況は悪化の一途をたどっていた。

     そんなある日、T大学で国産初の透明人間病治療薬が開発中だと発表された。それまでの米国製の薬よりも画期的な効果があるという。現在苦しんでいる患者や感染を恐れる人々にとり待ち望んだ新薬だ。
     
     だが、透明人間病に苦しむ1人である内藤彩子はこのニュースを知り、新薬の開発者であるT大学の川路教授の殺害を決意したのだった。( 第1話「透明人間は密室に潜む」) 全4話。

         * * * * *

     どれもこれも変わったシチュエーションで進む話です。現実離れした状況ばかりでなかなか楽しめましたが、特におもしろかったのは、表題作の第1話「透明人間は密室に潜む」でした。

    ・患者なら待ち望んでいるはずの新薬を彩子が歓迎しない理由。
    ・川路教授殺害後、研究室に閉じ込められた彩子が身を隠した場所。
    ・事件を解決に導いた探偵の茶風の秘密。

     と、短編にも関わらずミステリーファンを唸らせる謎解きがいくつも盛り込まれています。しかも伏線までしっかり用意してくれているのです。見事でした。

     他の作品については……。

    ・第2話「六人の熱狂する日本人」
     ある殺人事件についての裁判員裁判の評議での場が舞台。
     被害者は1人。被告人は素直に自供し犯行を認めているため、量刑について話し合うだけのさほど手間取らない評議になると思われたのだが……。

    ☆1番さんから6番さんまで、無作為に選ばれたはずの裁判員6人に共通する趣味。
     それが起点となって、事件の真相が明かされていきます。
     ドタバタコメディ過ぎの感はありますが紛れもなくミステリーです。ただ好みによって大きく評価が分かれるとは思います。
     舞台でなら観てみたいかも。 ( ウリャオイ! ウリャオイ!)

    ・第3話「盗聴された殺人」
     異常に鋭い聴力の持ち主である女性探偵の山口美々香が主人公。抜群の推理力を持つ事務所所長の大野とともに事件解決に奔走する姿が描かれます。

    ☆超能力とも言えるほどの聴覚で、美々香がいかに事件の真相に迫るのかが作品のウリなのですが……。
     思うようにいかないものなのですね。

    ・第4話「第13号船室からの脱出」
     ミステリファンが集う、豪華客船で開催されたリアル脱出ゲームで起こった監禁事件。閉じ込められた少年はコアなミステリファン。友人の幼い弟とともに、事件の謎解きと密室からの脱出に挑むのだが……。

    ☆主人公が拉致監禁された事情が少しずつ明かされながら展開するため、緊迫感に欠けるのですが、『名探偵コナン』で扱うとピッタリくるような作品です。


     奇抜さが目につくシチュエーションですが、実験的なミステリーとしての意欲は感じます。表題作のような作りなら別の作品も読んでみたいと思いました。

  • やっと楽しみにしていた一冊を手にしました。

    阿津川作品初読みですが、本物ですね♪

    4つの短編がおさめられていましたが、表題作でもあり、巻頭におさめられていた「透明人間は密室に潜む」から個人的にはドストライク!

    その後、「六人の熱狂する日本人」「盗聴された殺人」「第13号船室からの脱出」と続きますが、全てにおいて趣が違うのに、しっかりと仕込まれていました、大好物のどんでん返し。

    巻末の「第13号船室からの脱出」ではこれでもかぁ〜ってぐらいに詰め込まれていましたね。

    それぞれのキャラもいい味を出していましたが、著者は特にシリーズ化を意識はしていないとのこと。

    そして4作の趣が違うのは著者の言葉を借りればそれが「実験」だからだそうです。

    化け物かよ。

    1994年生まれのまだまだ若い阿津川辰海、今後も追い続けることになるであろう作家との本書が出会いとなる。

    説明
    内容紹介
    透明人間による不可能犯罪計画。裁判員裁判×アイドルオタクの法廷ミステリ。録音された犯行現場の謎。クルーズ船内、イベントが進行する中での拉致監禁──。絢爛多彩、高密度。注目の新鋭が贈る、本格ミステリの魅力と可能性に肉薄する4編。
    内容(「BOOK」データベースより)
    透明人間による不可能犯罪計画。裁判員裁判×アイドルオタクの法廷ミステリ。録音された犯行現場の謎。クルーズ船内、イベントが進行する中での拉致監禁―。絢爛多彩、高密度。ミステリの快楽を詰め込んだ傑作集!
    著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
    阿津川/辰海
    1994年、東京都生まれ。東京大学卒。2017年、『名探偵は嘘をつかない』が、光文社の新人発掘プロジェクト「カッパ・ツー」に選ばれ、デビュー(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

  •  ヒボさんからのおすすめ頂いた、こちらの作品、結構楽しく読めました♪ありがとうございます。

     この作品は4編の短編集で、どの短編にもあっと驚くような結末を読むことができました。どれもいい感じに好きだけれど、面白かったのは「六人の発狂する日本人」かな~こういう、オチ好きなんですよね♪現実的ではないので、好き嫌いは別れるかもしれないけれど、楽しめましたっ!そして次回作につながる「盗聴された殺人」っ…!耳がとってもいい女性の名前は、美々香!こういう遊び心も好きですね。

     「録音された誘拐」も、もちろん今読んでいますよ(^^)

    • ヒボさん
      かなさん、こんばんは♪

      阿津川辰海にドハマリ中のヒボですσ(o'ω'o)
      そこそこ楽しんで頂けたようでちょっとホッとしていますε-( ´▿...
      かなさん、こんばんは♪

      阿津川辰海にドハマリ中のヒボですσ(o'ω'o)
      そこそこ楽しんで頂けたようでちょっとホッとしていますε-( ´▿` )‬

      「録音された誘拐」、辰海にきっちり騙されましたよ^^;

      私も早く積読読まないと^^;;
      2023/12/04
    • かなさん
      ヒボさん、おはようございます!
      阿津川辰海さんの作品、面白いですねぇ~♪
      こうなのか…と思いつつ気が付くと違う展開になっていて…
      「録...
      ヒボさん、おはようございます!
      阿津川辰海さんの作品、面白いですねぇ~♪
      こうなのか…と思いつつ気が付くと違う展開になっていて…
      「録音された誘拐」も今読んでいますが
      おかげさまでいい読書時間を持てていますっ(*^^)v
      ありがとうございます。
      2023/12/05
  • 透明人間でも犯罪は難しい? 奇想天外な設定で展開されるストーリーが超絶お見事! #透明人間は密室に潜む

    特殊設定を基盤にしたミステリー短編集。
    館四重奏シリーズでは、ド本格ミステリーで楽しませていただいた作者ですが、本作はとてもチャレンジングな作品ですね。どれも発想が素晴らしい。

    しかもミステリーとしても熟慮されていて、一筋縄ではいかないものばかりでした。

    またいろんなミステリーのオマージュも小気味よく、ニヤニヤしながら読ませていただきました。個人的には12人の怒れし男、優しい日本人が大好きで、若かりし頃なんども映画を見たのを思い出しました。

    ただ全般的に、若干設定にリアリティ、説得性がないのが気になったかな。短編だから仕方ないでしょうが、もう少しエピソードを入れるなどしてくれると世界観に厚みがでたのではと思いました。

    ■透明人間は密室に潜む ★5
    透明人間が出てくる破天荒な設定な上、倒叙モノのミステリー。
    起承転結の構成が素晴らしく、よくも成立させたなという意味で凄い。真相も衝撃的でビビリました。

    ■六人の熱狂する日本人 ★4
    裁判員裁判をテーマにしたお話。
    かなり無茶な書きぶり、展開、登場人物ですが、エンターテイメントとしては素晴らしかった。思い切りの良さが気持ちよかった。

    ■盗聴された殺人 ★4
    聴力がやたらよい探偵が活躍する、これもありそうでなかった作品。
    少し地味目に見えますが、構成と展開が超絶お見事! 本格ミステリー作家のパワーが感じられました。

    ■第13号船室からの脱出 ★5
    脱出ゲームをテーマにしたミステリー、これもぶっとんだ作品。
    パズル要素もたくさんあり、読んでて楽しい!舞台も展開もキャラクターも素晴らしく、そのまま映画でいけるじゃんと思いました。

    短編の特殊設定なので、なんとなく書いてもミステリーなるような気がするんですが、決してそうではなく、作者のこだわりと厚みがしっかりと感じられる本作。ミステリー好きには是非よんでもらいたい作品でした。

  • 初めて読む作家さん。様々な様式のミステリー四編。

    「透明人間は密室に潜む」
    個人的にはこの作品が一番好きだった。
    『細胞の変異により、全身が透明になってしまう』『透明人間病』に罹る人が多くいる世界。そんな透明人間になった主人公が殺人事件を起こしたあと密室状態の現場に閉じ込められる。脱出したい主人公と捕まえたい探偵との攻防。
    透明人間の設定が凝っている。透明になるものならないものがある。またあくまでも視覚で透明に見えるだけなので触られれば存在が分かるし動けば音もする。
    透明人間という設定ならではの…と思ったら、むしろ重要なのは動機だった。
    ☆☆☆☆

    「六人の熱狂する日本人」
    アイドルグループのファン同士が口論の末に片方が相手を殺してしまったという暴行致死事件を議論する裁判長と判事と裁判員たち。裁判員たちが偶然にもそのアイドルグループのファンばかりで…。
    なんとなく映画「キサラギ」っぽいなと思ったら、参考文献一覧にやはり入っていた。
    議論の中で事件の真相が見えてくるのだが、そこにファンならではの視点があってこそというのが面白い。オチもなかなか。
    ☆☆☆

    「盗聴された殺人」
    異常に聴覚が鋭い探偵助手と推理力に優れた探偵とのコンビ。作家さんは特殊設定が好きそうだ。
    タイトル通り音から殺人事件の犯人を探るのだが、こんな不協和音を聴かねばならないとは、聴覚が良すぎるのも大変だ。
    最後のシーンである言葉に点を打って強調してある意味がよく分からない。読み直しても分からないので私の理解不足?
    ☆☆☆

    「第13号船室からの脱出」
    脱出ゲームのイベント中に監禁され、リアルに脱出しなければならなくなった招待客の少年二人。ゲームの進行と監禁されている二人、それぞれの状況が並行して展開していく。
    なんとなくそういうことかな?と思いながら読んだ大筋のところは理解出来たが、ゲームの方の問題はさっぱり分からず。
    キャラクターが賢いことを鼻にかける者ばかりであまり好きになれなかった。
    ☆☆

    ブクログサイトでも度々目にする作家さん。他にも作品があるようなので、そのうちに読んでみたい。

  • 短編集。
    著者によれば中編集。

    実はこういった、あたかもクロスワードパズルのような謎解きに特化した推理小説(うまく表現できないが…)は、あまり得意ではないのだけど、2021年のこのミス2位だけあって楽しめた。

    ・透明人間は密室に潜む 評価3

    透明人間病なる病気の話。引き込まれ感はあまりなかったが、読み終わってから、唸らされた。

    ・六人の熱狂する日本人 評価3

    「十二人の怒れる男」のパロディ。
    著者自身が書いた解説によると、筒井康隆さん作の「12人の浮かれる男」(タイトルに笑った。無罪濃厚の被告人を12人の男が有罪にしてしまう、という話らしい。恐ろしい)という作品を読み直して、執筆のモチベーションにしていたという。
    アイドルグループのファンが殺された事件の裁判に裁判員として呼出された6人。実はみな熱狂的な〇〇〇。審理は暴走して、あげく…

    ・盗聴された殺人 評価3

    耳の良い探偵の話。

    ・第13号船室からの脱出 評価5

    これは面白かった!
    船上を会場にした謎解き脱出ゲームで、現実の事件に巻き込まれる主人公。
    どんでん返しにつぐどんでん返しで、頭の中ひっくり返され、最後に様々なことがスッキリする。
    素晴らしいです。

  • 骨抜き、の一冊。

    いきなり第一話目の表題作から骨抜きにされたような感覚を味わえた。

    透明人間という斬新な設定にいきなり心は鷲掴み。

    透明人間ならではのなるほどの綿密な計画、利点と不利点、トリック、結末に心はメロメロ。

    そして第二話のオタク法廷ミステリで笑いとオチにさらにメロメロ骨抜き状態。

    どれもそれぞれ異なるテイストでミステリなるものを味わせてくれる、なんとも魅力的な四編だ。

    これはもう一度、誰もいない密室なる部屋でウリャオイ!熱狂して全てを隈なく味わい、満足感と共に音を立てずに部屋を脱出したくなる面白さ。

    • 地球っこさん
      くるたんさん、こんにちは。

      すっごく面白そう!
      メロメロになりそうなレビューに、愉快な気持ちになりました(((o(*゚∀゚*)o))...
      くるたんさん、こんにちは。

      すっごく面白そう!
      メロメロになりそうなレビューに、愉快な気持ちになりました(((o(*゚∀゚*)o)))
      うりゃ!!おい!!
      2021/01/19
    • くるたんさん
      地球っこさん♪こんにちは♪
      なんか相変わらずズレたレビューでごめんな
      さい〜(//∀︎//)

      でもね、濃密な本格ミステリ短編集なん...
      地球っこさん♪こんにちは♪
      なんか相変わらずズレたレビューでごめんな
      さい〜(//∀︎//)

      でもね、濃密な本格ミステリ短編集なんです
      よ〜♪
      作家さんが思いっきり楽しみながらかきあげた世界っていうのがあとがきからも伝わってきますよ〜(≧︎ω≦︎*)

      透明人間のメリットデメリットを生かされた計画にも唸りました。
      そして、これもありか⁇な、笑いありの法廷ミステリでぜひ熱狂してください(≧︎ω≦︎*)

      機会があったらぜひぜひ〜(≧︎ω≦︎*)
      2021/01/19
  • 4編からなるミステリ短編集、どれも全く異なる内容、設定でとても面白かったです。
    短編集なので話がギュッと詰まっている感じはありましたが、どの話も中だるみせず読むことができました。
    また、どれも複雑な内容というよりもミステリ初心者(私)にも分かりやすく、だけどしっかり騙されました。
    思わず笑ってしまいそうになる所や、ハラハラする場面、謎が分からない悔しさ・・・
    全てこの1冊(4編)で体感することができ、よりミステリの沼にハマりそうです。
    個人的には、表題の「透明人間は密室に潜む」と「盗聴された殺人」が好みでした。
    特に、著者の長編集「録音された殺人」の元となった「盗聴された殺人」での話は繋がる点が多々ありその発見がテンションが上がりました!!

  • 全4話からなるノンシリーズの中編集。
    各作品が異なる趣向によるバラエティに富んだ内容となっている。遊び心も満載。アイデアの元となった作品群(詳細はあとがきに記載)と読み比べるのも一興。

    「透明人間は密室に潜む」
    表題作にもなってる本作が出色の出来。
    透明人間が殺人を企て犯行に至る模様を倒叙形式で綴ったSFミステリ。透明人間といっても“なんでもあり”ではなく、透明人間のルール(特徴)は定義される。そのルールがあるがゆえに、何かと下準備が必要だったり危険を伴ったりで、透明人間が人を殺すのも楽じゃないのだ。その模様が犯人視点と探偵視点をおり混ぜつつ、コミカルかつロジカルに描かれていて面白い。透明人間ならではの設定を活かした“真相”は切れ味鋭く、余韻の残るラストも良い。

    「六人の熱狂する日本人」
    舞台は法廷だけど、内容ははちゃめちゃ。アイドル好きの読者なら共感できる点があるかも。ウリャオイ!

    「盗聴された殺人」
    聴覚に優れた探偵(ワトソン役)が活躍する本格ミステリ。意外性を出すために若干無理めの筋書きではあるが、全4編の中では最もオーソドックスなフーダニット。

    「第13号船室からの脱出」
    船上を舞台とした脱出ゲーム。時間軸がコロコロ変わるのと、ゲームとリアルな犯罪が絡み合っててストーリーがわかりにくいので、“真相”に対してさほど衝撃は得られず。プロットがひねりすぎ感あり。

    週刊文春ミステリーベスト10 2位
    このミステリーがすごい! 2位
    本格ミステリ・ベスト10 1位
    SRの会ミステリーベスト10 6位
    ミステリが読みたい! 3位

  • 一つ一つの作風が全く異なる短編集です。
    奇想天外な状況でありながら、しっかりと謎解きが楽しめる、絶妙なバランスに驚きました。
    2話目の「六人の熱狂する日本人」好きです♥️

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著者プロフィール

1994年東京都生まれ。東京大学卒。2017年、新人発掘プロジェクト「カッパ・ツー」により『名探偵は嘘をつかない』(光文社)でデビュー。以後、『星詠師の記憶』(光文社)、『紅蓮館の殺人』(講談社タイガ)、『透明人間は密室に潜む』(光文社)を刊行し、それぞれがミステリランキングの上位を席巻。’20年代の若手最注目ミステリ作家。

「2022年 『あなたへの挑戦状』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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