雪の鉄樹

著者 :
  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (365ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334929350

感想・レビュー・書評

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  • 遠田潤子さんのデビュー4作目だそうです。
    つくづく、ストーリーテラーだと思いました。
    そしてこの作品は構成と人物造型が特に巧だと思いました。

    主人公の雅雪は造園業を営む家に生まれ、その家は男が代々女たらしの「たらしの家」と呼ばれていました。
    雅雪は20歳の時から仕事の他にとある事件の償いのために、生まれてすぐ両親を亡くし、祖母の文枝と二人暮らしの遼平の面倒を見ていました。

    祖母の文枝の恨みは根深く、何かあるたびに雅雪を土下座させて謝らせ、遼平の前ではいいふりをしていますが、誰もいないところでの罵詈雑言はすさまじいものでした。

    文庫解説の北上次郎さんは、この小説には誰も悪い人がいないのに皆不幸であると書かれていますが、私はこの祖母の文枝は雅雪を恨む気持ちはわかりますが、裏表がありすぎて嫌悪感を感じずにはいられませんでした。

    遼平は中学生になり、雅雪がとある女性をかばって(雅雪はたらしではありません)自分たちのために尽くしているという真実を知り、ヤケになりますが、雅雪は少しづつ自分の過去の話を遼平にしていきます。

    遼平と雅雪の間には12年間に渡る交流と、雅雪の真実の告白によって絆というか、確かに信頼が生まれていました。
    雅雪が負ってきた罪の償いは、遼平を一時的に傷つけましたが、結果は奇跡を生んだと思いました。
    事件の被害者と加害者のこれ以上ない和睦が生まれました。

  • 7月2日から7日までのたった6日間の話なんですが…
    詳しくは語られないまま話は進みます。

    中学生の遼平と祖母
    庭師の雅雪

    遼平の両親は殺された…らしい
    雅雪は加害者と関係してた…らしい
    雅雪は13年間ひたすら償い続けてる…らしい

    全てが らしい なのである(*_*)

    いつわかるのか?いったい何があったのか?

    13年間の回想はあるけど肝心な事件の事がわからないから気になって読む手が止まらない。

    初めて読む作家さんでちょっと重く暗い作品が多い
      らしい…笑

    なぜ図書館でこの本を手にしたのか…
    何かしら感じるものがあった…らしい

    最後は救いのあるラストでホッとしました(u_u)
    遠田潤子さんクセになりそう…

  • 庭師の雅雪を取り巻く人々との不自然な関係が描かれていく。
    卑屈と思われるほどに謙虚な雅雪は「俺の責任ですから」の言葉を繰り返し屈辱的な扱いにも耐えている。贖罪のためなのか、過去に何があったのかが気になり先を読み急ぐ。
    次第に明らかになる生い立ち。そして全てが明らかになった時、雅雪の哀しみに圧倒された。
    その哀しみは雅雪だけではない。
    親の愛を感じられずに育った子どもたちの哀しみと愛を求める一途さに胸が塞がる。その一途さが歪んだ形で表れるとき‥‥哀しすぎる。

  •  苦しかった。ただひたすら苦しかったが、ページをめくる手が止まらなかった。
     なんで雅雪はこんなにも理不尽な仕打ちに耐えなければならないのか。その疑問を早く解決したいとの一心で夢中のになって読んだ。

     曽我造園を祖父と2人で営む3代目の雅雪。腕は確かだが、周りからは『たらしの家』と蔑まれていた。祖父も雅雪の父も女をたらし込み、雅雪が小さい頃から女の出入りが激しかった。
     雅雪は島本家に理不尽な扱いを受けながらも、金銭面において支援し続け、そこの孫である遼平という少年に対しずっと親代わりとなり面倒をみてきた。遼平だけは雅雪に懐いていた。遼平だけは雅雪の心の拠り所であった。しかし、そんな遼平も同級生から真実を聞き、雅雪に反抗的な態度をとるようになった。それでも雅雪は耐え凌いだ。13年待ち続けた7月7日を心の支えに。13年前に何があったのか。そして遼平とは分かり合える日がくるのだろうか。

     読み終えて、全ての謎が解けた時にはここまで雅雪が耐えてきた理由がわかったが、同時に誰が悪いのだろう、誰も悪くなかったのではないかと、やるせなくなった。それでもラストには喜びで打ち震えた。

    • chie0305さん
      ひとしさん、こんばんは!
      うん、私も同じ感想です。遠田潤子さん、いいですね。お薦めの本、ありがとう!!
      沢山の方に尽力頂き、連休明けに素...
      ひとしさん、こんばんは!
      うん、私も同じ感想です。遠田潤子さん、いいですね。お薦めの本、ありがとう!!
      沢山の方に尽力頂き、連休明けに素晴らしい医師の診察を受けられる事になりました。
      これでだめなら、諦めがつきます。来週から行ってきます。では!
      2018/04/21
    • chie0305さん
      昨晩帰宅しました。お父様お元気になられたんですね。
      思うような結果にはならないかもしれませんが、手術が決まりました。昨日の朝まで怒涛の展開...
      昨晩帰宅しました。お父様お元気になられたんですね。
      思うような結果にはならないかもしれませんが、手術が決まりました。昨日の朝まで怒涛の展開で。今日退院→施設だったのを、覆したので、関係各所に多大な迷惑をかけてしまいました。詳細を話したらびっくりすると思います。落ち着いたら読書始めますね。では!
      2018/05/09
  • 「たらし」の家と蔑まれる反面、確かな造園技術で地元では知られた曽我造園の三代目・雅雪。
    全身に大火傷の跡、不自由な身体、祖父から受け継いだ若白髪の髪。
    雅雪は、両親を亡くした少年・遼平の面倒を見続けながら、ひたすらに「その日」を待っている。
    その日まで、あと数日というところから物語は始まる。

    肉親から関心を持ってもらえず、自身も肉親への情を知らずに育った雅雪。
    母親からの過剰な関心を寄せられ、バイオリンを弾く事だけを求められてきた郁也。
    郁也の双子の姉でありながら、郁也に全ての関心を注ぐ母親に無視され、家政婦のように扱われてきた舞子。
    雅雪の父母、祖父、そして郁也と舞子の母もまた、人としての情の欠けた大人達。
    そんな人々が交錯し、愛が生まれ、愛ゆえの悲劇が起きる。


    遠田潤子作品の、どうしようもない力に惹かれつつ、昏い人間関係の描写が辛くて…
    しばらく離れていたけれど、本作には、最悪の傷と、最上の救いがある。
    あまりにも深く傷つき、結びついた心。
    すぐそばにいて伝わる心もあり、離れてやっと受け入れられる心もあるのだろう。

    ラストのおだやかな暖かさ。
    雅雪、舞子、遼平の誰もが、いつか傷つけ合わずに暖めあう距離を見つけられますように。

  • 内容(「BOOK」データベースより)
    母は失踪。女の出入りが激しい「たらしの家」で祖父と父に育てられた庭師の雅雪は、両親を失った少年、遼平の世話をしてきた。しかし遼平の祖母は雅雪に冷たく当たり続ける。雅雪も、その理不尽な振る舞いに耐える。いったい何故なのか?そして14年前、雅雪が巻き込まれた事件の真相は?耐え続ける男と少年の交流を軸に「償いと報い」を正面からとらえたサスペンス。






    終始、暗くて重くて 読んでいると気が滅入ってしまいます。
    けれど、読み進めていくと少しずつ内容がわかっていくといった感じなので 何がどうなるのか気になって読み進めていました。
    けれど 主人公の雅雪には共感も感情移入も出来ないまま 読み終わってしまいました。
    育てられ方によっては 人は雅雪のような考え方になってしまうのでしょうか?
    ラストに舞子となにもかもこれから始められそうなので良かったと思えたのと 遼平がちゃんと育ってくれているのは雅雪にとって救いになっているのではないかと思いました。

  • 読み始めから、この主人公の身に何が起こったのか気になって気になって仕方なかった、どんどん読みすすめていって最後はめちゃくちゃ感動しました。いい作品でさした。

  •  最初はあまりに暗くて、読むのが辛かったのですが、途中から結末がどうしても知りたくなり、久しぶりに一気読みしてしまいました。
     雅雪は曽我造園の三代目。
    祖父・父と続く「たらしの家」と呼ばれる女の切れない生活の中で暮らしている。
     さらに、雅雪は父が殺した母を持ち、それがもとで殺人を犯してしまった、恋人がいた。
    その恋人の罪を償う為に、その恋人が殺した両親の赤ん坊遼平の面倒を見ることになる。
     遼平の祖母は、息子夫婦を殺された恨みを他にぶつけるところが無いので、雅雪にぶつけてくる。
    一生懸命面倒を見て、懐いていた遼平も心無いいじめと、過去の事件を知らされることで、荒れて手に負えなくなる。
     しかし、雅雪が本当の真実を勇気を出して、遼平に語っていく中で事態は大きく変化していく。
     恋人とのなれそめで、あまりにも孤独に慣らされてすぎて、誰とも一緒に食事が出来ない雅雪の異常性がわかってくる。
    そして、それは「情」が全く無い祖父に育てられた父にも言えることがわかる。
     この物語の登場人物は皆、さまざまな寂しさを心に抱え込んでいる。
     しかし、その中で異常だと、犬のようだなどと言われながらも愚直に自分の出来ることを必死に続けている雅雪の誠実さで周りの皆が救われていく。
     最後の遼平の変化と、これからの希望を感じられるラストは嬉しかった。

  • 最初から話が全く見えず、断片的にいくつかのキーワードがあるのみで、何度もやめようかと思った。
    が、気になり、また読みすすめる、それを何度か繰り返し、ラスト近くで一気に話がまとまり動き出す。

    あの話は遼平にしたのか?
    7月7日までには、

    この2つが大きなポイントになる。

    親に気にかけてもらえず、何でも自分でしてきた雅雪は、両親がすでに亡く祖母に育てられている、遼平が赤ちゃんの頃から面倒を見てきた。そればかりでなく、借金も背負い、生活費の工面まで。
    でも、それを大変なことであるのは事実なのに、遼平を育てることによって自分が、子供の頃経験できなかった数々を、経験させてもらえた、そう捉えるところが、彼の素敵なところだと思う。
    言葉は悪いが、クソ真面目のバカ正直の雅雪から目が離せなかった。

    最後一気に話が進むところで、ケチをつけるわけではないが、あんなに頑なに拒んでいた舞子が雅雪を受け入れることが、納得できなかった。
    けど素直に雅雪が舞子と幸せに暮らしてほしいと切実に思う。

  • 重くて暗くて辛い。雅雪が舞子の代わりに償う長い物語。食べた後のお皿を灰皿替わりにするのはそんなに最低の事なの?喫煙者が周りにいないので知らなかった。ずっと意思疎通できなくても思い続けるって一途なのか重いのか分からなくなった。

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著者プロフィール

遠田潤子
1966年大阪府生まれ。2009年「月桃夜」で第21回日本ファンタジーノベル大賞を受賞しデビュー。16年『雪の鉄樹』が「本の雑誌が選ぶ2016年度文庫ベスト10」第1位、2017年『オブリヴィオン』が「本の雑誌が選ぶ2017年度ベスト10」第1位、『冬雷』が第1回未来屋小説大賞を受賞。著書に『銀花の蔵』『人でなしの櫻』など。

「2022年 『イオカステの揺籃』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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