ボマーマフィアと東京大空襲 精密爆撃の理想はなぜ潰えたか

  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (236ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334962555

感想・レビュー・書評

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  • 米国空軍とB29に関する認識を改めた。
    戦争における空爆は、今では当然のように考えられているが、かつては陸軍による敵地上陸が主軸だった。そうした時代に空爆を理解してもらうことの難しさをこの本で知った。
    東京大空襲を指揮したカーティス・ルメイに、戦後日本政府が勲章を与えたという話は、本書で紹介されている東京大空襲・戦災資料センター(東京・江東区)を訪問したときに知り衝撃を受けたが、著者のマルコム・グラッドウェルさんも同センターを訪問したときの印象を次のように記している。「そこにあったのは、その夜に起こった出来事の飾らない、率直な記述だった。だからこそ、私は彼らの体験により一層心を揺さぶられたのだ。」
    ただ本書を読み終えてみると、冒頭で語られた東京大空襲・戦災資料センターの印象とは違った視点に結末が着地している印象を持った。すなわち、二人の空軍指揮官カーティス・ルメイと、ヘイウッド・ハンセルが考える理想的な空爆への考えが、本書では明確に否定されていない印象が残ったのである。(空爆に関する二人の意見は異なり、本書では二人がたえず比較描写されている)
    訳者あとがきには、本書に対するるアメリカでの批判的レビューとして、「精密爆撃の背後にあったのは本当に道徳的配慮だったのか」「そもそもきれいな戦争というものがあり得るのか」というコメントを紹介している。私もこうした感想を持った。
    東京大空襲・戦災資料センターをつくられた早乙女勝元さんなら、この本をどうレビューしただろうか。早乙女さんは2022年5月に亡くなられた。

    なお、著者は最後のほうの注釈(P189 注19)で、次のように記していることも書いておく。「計り知れないほど多くの命が失われたにもかかわらず、日本には今も三月十日の空爆を追悼する政府公認の記念施設が一つもない。あの夜を生き延びた人々は… 政治家や世間の無関心と闘いながら…私費を出し合って記念館を建てた。それが、東京大空襲・戦災資料センターである。」

  • マルコム・グラッドウェルはものすごく好きな書き手だが、これはテーマに対してボリュームが少なすぎ、それだけに単純化が激しい。カーティス・ルメイとヘイウッド・ハンセルをある陣営のそれぞれ代表者に仕立てるには論証が足りていないと思われる。面白いんだけど説得はされなかった。
    それにしても、日本人はアメリカが好きすぎる。そして同胞の犠牲に対してとても冷淡だ。

  • ●=引用

    ●フェスティンガーは、このすべてをどう解釈したのだろう? 人は何かの信念に傾倒すればするほど信念のために犠牲を払えば払うほどその信念が誤っているという証拠をますます受け入れがたく感じる。だから信念を捨てたりしない。ますます傾倒するのだ。

    ●ハリスは反発した。ことさらに一般市民を狙ったわけではない。ドイツ軍の戦争継続を可能にしていたすべてものの生産体制を狙ったのだ。それが爆撃のそもそもの目的だった。今言ったように、ドイツ全土の潜水艦建造施設や軍需産業、そこで働く人々を破壊することが目的だった。私に言わせれば、彼らは全員が現役兵だった。軍需物資の生産に携わる人々は、現役兵として扱われる覚悟があるはずだ。そうでなければ、どこで線引きをしろというのか?私に言わせれば、全員が現役だった。子ども。母親。老人。病院の看護師、教会の牧師。 目標は特定しないと宣言すれば、一線を踏み越えることになる。子どもや母親、病院の看護師たちは、兵士と違いはないのだと、自分に言い聞かせることになる。ボマーマフィアのそもそもの主張は、彼らの存在理由は、その一線を踏み越えたくないということに尽きた。

  • グラッドウェルとしては引き込まれ度が少なかった 一つ前のTalikg to strager があまりによかったから!?

  • 知らなかったことが多くあり、人物の紹介の仕方がうまく、引きこまれた

    この著者が好きなんだと思う

    それしても、2時間で10万人、とは

    それでも、現時点で戦争が続いていることに驚愕する

  • マルコム・グラッドウェルといったら、学術的な知見を噛み砕き、当たり前のことから面白い洞察を引き出す希代のストーリーテラーだ。
    そんな著者が本書で「東京大空襲と戦略爆撃」をテーマに取り上げるというのが意外だった。
    もはや語り尽くされた感のあるこのテーマに、読者を驚かせるような新たな発見があるのか?
    結果は、"おぉ"と唸らされる部分と、"何だそれ?"と残念な部分があって、相半ばといった感じ。
    あまりにもモヤモヤするので海外のレビューを読んでいると、わが意を得たりとばかり、"それそれほんとそれ"という感想が書かれていて驚いた。

    あとがきにもあるが、海外のレビューも著者の作品にしては批判の声が目立つ。
    まず、あまりに不正確な記述が多いという声。
    日本語版ではそうではなかったが、原書の初版では広島・長崎への原爆投下が両方ともエノラ・ゲイからなされたと記述されていたりと編集者がいれば当然気づくレベルの間違い。
    というか本書がPodcastという特殊な形態で作られているため編集者自体が不在なのではという声もある。
    「著者の他の作品と同様に、本作もページを繰る手が止まらないのだが、これも他の作品同様、正確さに関して問題がある」

    失敗に終わったハンセルのドイツのボールベアリング工場への精密攻撃も、あと数回で致命的な状態に陥っていたというシュペーアの証言もあるとか、本当に航空隊戦術学校で実際に自分たちを"ボマーマフィア"と自称していたのかなど、事実誤認・リサーチ不足といった指摘も。
    いまや部屋にいる特定の人物をターゲットにできるほど極限まで極まった爆撃技術を見ると、彼らがいち早く精密爆撃を提唱したのは先見の明があったし、戦争に勝ったのはルメイではなくハンセルだとする結論には、だったらなんでアフガニスタンではあの体たらくだったのかという当然すぎるツッコミも。

    カーティス・ルメイ少将。
    日本人を「あぶり、煮て、焼き殺した」と嘯き、ベトナム戦争の際には「爆撃で石器時代に戻してやる」と発言した男。
    だが、戦中から一貫して原爆投下を疑問視し、後年には「もし、戦争に敗れていたら、私は戦争犯罪人として裁かれていただろう。幸運なことに、われわれは勝者となった」と述懐している。

    日本を敗戦に導いた決定打は原爆投下ではなくソ連参戦だと言われているが、指導者レベルでは確かにそうだろうが、ルメイによる本土爆撃が庶民に与えた影響は大きく、大いに戦意を喪失させた。
    降伏後に行なった調査によれば、住民の64%が、降伏前にこの戦争はもう戦えないと感じたと答え、その理由として軍事的敗退をあげた人は10分の1以下で、4分の1が食料や生活物資の不足、そして空襲をあげた人がもっとも多かった。
    都市住民の士気の低下や敗北感は、疎開により農村の住民にも感染したと指摘されている。
    逆に、ルメイが指示した、夜間に低高度で爆撃を行なうという、本来は無謀とも思えるような作戦がものの見事に図に当たり、爆撃を終え帰還した戦闘員の士気は大いに盛り上がったという。

    かつてポール・ケネディは、『第二次世界大戦 影の主役』の中で、「日本に対する戦略爆撃攻勢の詳細を物語ることはしない」と記述している。
    なぜなら、制空権をめぐる戦いにおいて、「彼我の戦力の差があまりにも大きく」て、英米にとっては「あらゆる面でドイツのほうが強敵だった」ためだ。
    つまり、ほぼ迎撃らしい迎撃もないフリーパス状態。
    逆に日本の戦闘機の性能以上の高高度から爆撃を行なおうとして、神風ならぬジェット気流によってあえなく挫折したハンセルが滑稽に思えてくる。

    本書で考えさせられたのは次の3点。
    「第二次世界大戦についてとかく忘れられがちなのは、あの戦争が今とはまったく違う技術環境で起こったということだ。当時は20世紀とはいえ、まだ19世紀に片足を残したままだった」。
    ノルデン爆撃照準器は裏で64もの複雑な計算式が働き、地球の自転なども考慮に入れられていたが、当時の気象観測は当然衛星ではなく、気球だった。

    もう一つの上層部の無頓着と現場の「即興的破壊」の対比は衝撃的だ。
    横浜で瓦礫の山を直に見るまではルメイの言っている航空爆撃の威力がわからなかったスティムソン。
    批判しているのではなく、この無頓着さの現場の即興仕事はいまも気づかぬうちに至る所で行なわれていることなのだろう。

    それと、敬虔なクリスチャンが、人類のために尽くしているつもりで、爆撃の精度を上げれば人命を救えるを本気で信じるという倒錯。
    戦争での民間人の犠牲を最小限にとどめる、崇高な意図に導かれた精密爆撃?
    いつだって敵への壊滅的攻撃だけが戦争を終わらせる。
    戦争に送り出す息子の無事の帰還は、戦地での敵の悲劇的な死と常に直結している。
    爆撃の精度をどれほど上げても、戦争に勝てないし終わらない。

  • 本書を読むまで、B29は日本の迎撃など相手にしないような高度からやすやすと爆撃を行っていたものかと思っていた。実際には、航続距離ぎりぎりだし、照準器の精度や気流の問題等で高高度からの爆撃では効果を上げることができず、やむを得ず低空から、やむを得ず夜間に爆撃を行ったのだということがわかった。そして日本中に行われた空襲が、マリアナ諸島にいる「現場指揮官」だけの判断だったということにも驚いた。200ページほどの著作で、たいへんコンパクト。著者は、理想主義者vs現実主義者の戦いとして、ノンフィクションを物語化しているので、ところどころ牽強付会なところもあるのかとは思うが、読みやすさには貢献していると思う。

    爆撃機から正確に地上の目標に爆弾を投下すること、これはなかなか難しいことだった。正確に目標だけを爆撃できれば―白昼、対空砲が届かない上空九〇〇〇メートルから漬物樽に爆弾を落とせれば――「きれいな戦争」ができる。軍事目標だけを狙い撃ちにして、市民の犠牲はなし。その「夢」を追った者たち「ボマーマフィア」の一員が、日本への爆撃の第一陣を担った。米軍は照準器に莫大な予算を投じたが、結局、目標は達成できなかった。マリアナ諸島を飛び立ったB29は巨大な中島飛行機の工場を5回にわたって爆撃し、ほとんどかすめもしなかった。原因は、当時はばかげていると誰もが相手にしなかったジェット気流の存在だった。司令官は交代となり、現実主義の権化のような人物、ルメイが登場する。気流を避けて1500メートルの低高度から、戦闘機を避けるために夜間に、精密な爆撃を諦めてナパーム弾で市街地ごと焼き払うということになった。そして東京大空襲が決行され、数十万人が死んだ。東京だけではなく、日本中の大都市が同様に爆撃された。歴史家・ウィリアム・ラルフを引いて曰く〈これほどまでに殺傷力の高い作戦が……現場指揮官から生まれたことに衝撃を覚える。(中略)これほど重大な道義的、政治的影響をおよぼしかねない決定が、いったいなぜ一介の若い現場指揮官の手にゆだねられたのだろう? 上層部の個人的責任と積極的関与はどこにあったのか?〉

  • 精密爆撃から無差別爆撃へ。B29による日本への空襲。なぜ大量殺戮へ発展したのかを描く。

    アメリカ空軍は元々は陸軍。補助兵力だった航空機を主力兵器に。第一次世界大戦の塹壕戦、総力戦への反省から航空機によるピンポイントでチョークポイントとなる工場等の目標を狙う昼間の高高度精密爆撃。戦争による双方の犠牲を最小にする最良の手段と考えられていた。その一団がボマーマフィアと呼ばれた。

    実際には精密爆撃は成功せずやがてハンセル将軍からルメイへの指揮官交代を機に低高度夜間の都市無差別攻撃へと方針は変換する。

    本書は戦略爆撃の思想からどのように変化したかの裏側を描く。

    現在は高性能誘導弾の発達によりある意味ボマーマフィアの理想が実現した世界。

    アメリカの本だが実に日本向きな内容。そもそも東京大空襲を知らない人々も多いことだろうから、本書のような書籍が売れるのは良いことだろう。

  • 灯火管制は、夜間爆撃への対応である。夜間爆撃は、精密爆撃を放棄したことを意味する。

    「精密爆撃は白昼に行うものだ。目標を視認しなければ照準器を合わせることはできな
    みい。だが爆撃機を白昼に低高度から侵入させれば日本の対空防御の餌食(えじき)になってしまう。だから彼は決めた。夜の闇に紛れて侵入するしかない」(p.174)

    [目次]
    日本版に寄せて
    はじめに
    序章「これではだめだ。君を解任する」
    第I部 夢
    第1章「ノルデン氏は工場で過ごすことを好んだ」
    第2章「慣習にとらわれずに前進する」
    第3章「彼は人間らしい共感の絆に欠けていました」
    第4章「まごうかたなき信奉者」
    第5章「ハンセル将軍は呆然としていた」
    第II部 誘惑
    著者の覚え書き
    第6章「そんなの自殺行為よ、みなさん、自殺行為」
    第7章「もしあなたがわたしの前にひざまずくなら、これを全部あなたのものにしてあげましょう」
    第8章「すべてが灰になった。あれも、それも、何もかもが」
    第9章「即興的破壊」
    結論「エアハウスがいきなり、パッとなくなる」

    謝辞
    訳者あとがき
    原註

  • 終戦が夏ではなく冬まで続いていたら、餓死者が増えていた。マッカーサーは食料を与えた英雄。
    戦争を早く終結するために、夜間低空爆撃を各都市で繰り返す。
    日本人からすれば、アメリカ人の都合のよい言い訳にも聞こえます。

    しかし、東京空襲の慰霊碑がないなど仰るとおりのこともあります。

    こういったことを二度と起こさないように両当事者からの事実を後世に伝えてほしい。

    終戦記念日に読んだことに、運命も感じます。

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著者プロフィール

1963年イギリス生まれ。
カナダ・トロント大学トリニティカレッジ卒。
『ワシントン・ポスト』紙のビジネス、サイエンス担当記者を経て、現在は雑誌『ニューヨーカー』のスタッフライターとして活躍中。邦訳には『天才!』『ニューヨーカー傑作選』ほかがある。

ある製品やメッセージが突然、爆発的に売れたり広まったりする仕組みを膨大な調査とユニークなフレームワークによって解き明かした最初の著書『ティッピング・ポイント』(邦題『急に売れ始めるにはワケがある ネットワーク理論が明らかにする口コミの法則』)、人間は、長時間考えてたどり着いた結論よりも、最初の直感やひらめきによって、物事の本質を見抜くという仮説を検証した2冊めの著書『ブリンク』(邦題『第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい』)は、いずれも世界で200万部を超える大ベストセラーになっている。

「2014年 『逆転! 強敵や逆境に勝てる秘密』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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