ミステリウム

  • 国書刊行会
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感想 : 41
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784336053183

感想・レビュー・書評

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  • 面白かった。
    今までにあまり読んだことのないような空気を感じた。

    スコットランドが舞台とされているようだが、実在しない架空の世界に紛れ込んだような違和感がつきまとう。なんというか、終始けむにまかれているような居心地の悪さを感じながらも次のページが気になって仕方がない。

    核心の謎解きも嫌いじゃない。ハッピーエンドでもなければバッドエンドでもないアンニュイさがあと引く。

    心地悪さと心地良さの間で揺れながら読む一冊。
    著者の他作品も読んでみよっと。

  • グロテスクな描写が多くやたらと人が死ぬが、話は事件発生→探偵役の見習い記者がキャリックに行き捜査というか死にかけた住民へのインタビュー→犯人が自白→最後にどんでん返しとわかりやすく進んでいく。住民へのインタビューのところは一番の読みどころで作者も楽しんでいるのがわかります、礼儀正しい抑揚で罵倒語を発するランキン医師へのインタビューではやりすぎたと思ったのか『もはや彼のことをほんの少しでもおもしろいやつとは思わなかった』と自分を落ち着かせています。とにかく色々なおもしろエピソードが次から次と出てきて楽しい小説です。

  •  翻訳にちょっと疑問を感じる箇所がいくつかあったのだが、それを書くのはやめにした。
     本当は20数行に渡って、翻訳に悪態をつくような文章を書いたのだけれども、すべて消してしまった。
     たまらなく面白い内容だったので、著者(エリック・マコーマック)の責任ではない要素にケチをつけるのが嫌だったからだ。
     それに、翻訳に疑問を感じてはいるけれど、この本を翻訳して、紹介してくれたという功績には感謝しているから、なんて上から目線だなぁ(汗)。
     マコーマックの作品を読むのはこれが3冊目。
     前の2冊「隠し部屋を査察して」と「パラダイス・モーテル」が切っても切れない緊密な関係を保っていたのに対し、この「ミステリウム」は単独の長編となる。
     長編、といっても、手記や新聞記事、数人の登場人物に対するインタビューや回顧録といった断片を積み重ねながら作品を構築しているので、やはり短編にその手腕を発揮する作者なのかもしれない。
     ミステリー的な要素があるが、すべての謎がスカっと解決されて、それによるカタルシスを味わいたい、といった読者には向かないと思う。
     いろんな謎が出てくるが、どれ一つとっても「100%解決」されてはいないからだ。
     解決されたように見えて「実はこうだった!」というどんでん返し的な展開もあるにはあるのだが、そのどんでん返された事実にしても、けっして解決されてはいないのだ(すごく回りくどい言い方になってしまった)。
     そういう意味では、「どんでん返し」とは言えないのかもしれない。
     作品中のセリフを引用すれば「まるで上に書かれているテキストをこすり落とすと、その下からべつのテキストが現れる」といったところだろうか。
     僕などは謎が謎のままに残ってしまっても、一向に平気な読者であるから(かえってその謎の余韻に浸れる、なんて思ったりもしている)非常に面白く読み進めることが出来た。
     もちろん、謎がきちんと解かれた作品で味わうことが出来る開放感だって好きではあるが。
     このどんでん返しされても、なお謎が謎として残ってしまうラストに「ポカン」とする読者もいるかも知れない。
     というか、このどんでんの返しかたに、クチをポカンと開けてしまう、といったところかな。
     僕自身も一瞬「はぁ?……」と思ってしまった。
     そして「ああ、こういうのもありだよな」とニヤっとしてしまった。
     柴田元幸氏(彼が翻訳をしているわけではないです)が本のオビで「個人的には、全作品の中で一番好きです」と書いているのも、わかる気がする。

  • 面白かった!マコーマックは3冊目だけれど、いちばん読みやすくゾクゾクワクワク感がハンパなかった。霧におおわれた炭鉱町の叙景にまずツインピークスを想起、どよーんと歪んだ空気に忽ち惹き込まれた。アンチミステリの類だけれど物語の結構がしっかりあるからぐいぐい読ませる。信頼できない語り手だらけの中、唯一実直な青年マックスウェルを支柱として主人公に仕立てたのがミソで、霧の町の霧のような人々の幻想性に現実としての意識が一本釘刺している。真相解明されなくともモヤモヤすることなく着地できた。久々に物語に熱中した、大満足。

  • 至福。これはパラダイス・モーテルも読まねばならない。村に蔓延する致死率100%の病がとにかく幻想的で恐ろしい。ミステリウム、ラテン語を少しかじった人間ならこの単語やアートという言葉から色々妄想して悶えるはず(笑)

  • 小さな炭坑町に水文学者を名乗る男がやってくる。だが、町の薬剤師の手記には、戦死者の記念碑や墓石がおぞましい形で破壊され、殺人事件が起こったと書かれていた。語り手である「私」は、行政官の命により、これらの事件を取材することを命ぜられるが、その頃、町は正体不明の奇病におかされ、全面的な報道管制が敷かれ、人々は次々に謎の死をとげていた。真実を突き止めようと様々な人物にインタビューをする「私」は、果たしてその真実を見つけることができるのか…。謎が謎を呼ぶ、不気味な奇想現代文学ミステリの傑作

  • 好き嫌いは分かれるのかもしれないが、自分はつぼにはまった。

    語り手であるジェイムズが駆け出し記者の頃に転機を迎えることになった事件。とある田舎町のキャリックでは、多幸感と共に饒舌になりほどなくして死を迎えるという不思議な病気が蔓延していた。ジェイムズは関係者に話を聞き事の全貌を明らかにすることの任務に取り組み始める。。

    記者自身の独白と関係者の供述や手紙などの形で綴られる独特の形式。何となく低調で山谷の少ない物語なのだが、緻密な書き込みや深い洞察が随所に見られドラマとしての完成度が高いと感じた。

    クックから重さを少し引いてSFの要素を足した感じの作家。
    まだまだ知らない作家がいるものだ。

  • 奇想短編集『隠し部屋を査察して』で知られるマコーマックのミステリ長編。主人公マックスウェルは新聞記者見習いの学生。ブレア行政官からの依頼で、軍に封鎖された田舎町キャリックの取材に行く。そこでは恐るべき事態が起こっていたのだ・・・
    この紹介じゃよく分からん!ということなかれ(笑)。キャリックで起こったことがまず最初の謎、そこから次々謎が展開されていくのがこの小説なのだから。そういう意味ではまったく正統的な本格ミステリの展開をしているのだが、一筋縄ではいかない。ところどころ配される動機追求への疑問など、ミステリにおける‘真相’あるいは‘解決’とは何かという問題提起が随所であらわれ、次第に通常のミステリから逸脱していくのだ。病におかされた登場人物の話法など奇想作家らしさもちゃんと出てくるし、レムみたいな架空犯罪学講義も楽しい。短編を得意とする作家らしく、細切れで手記を多く入れたような形式も内容としっかりマッチしている。マコーマックらしいスケールの大きい奇想は控えめだが、グロテスクで残酷な風味がいかにも著者らしい実にユニークなミステリに仕上がっている。

  • 小さな町に蔓延する言葉に関する奇病の謎を解くため「私」は町の住人にインタヴューを始めるのだが……。
    手記、インタヴュー、新聞記事など様々な形式で語られるうち虚実のあわいが曖昧になる世界は不気味で悪夢のようでいながら同時に快い。
    犯罪学講義の形を借りたソシュール、ヤコブソン、ドゥルーズなどの記号論・現代思想のパロディに爆笑しつつ、読み解こうとする行為まで作品に取り込まれているようで戦慄する。
    作中何度も繰り返される「真実を語るのが可能なのは、あなたがあまりよく知らない時だけ」という言葉も印象的。

  • 奇妙な、不穏で何かありそうな不可思議な空気。閉鎖的で、隠し事のありそうな町で、何かが進行しているが、全貌がつかめない。では、結局なんだったかっていうと…スコットランドの作家は大好きかも。ミステリーとも、ファンタジーとも言えるかな。

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