- Amazon.co.jp ・本 (230ページ)
- / ISBN・EAN: 9784344034921
感想・レビュー・書評
-
主体性はあるが周囲を振り回してしまう魚住と、几帳面な故に後ろ向きになってしまう徳井。
二人が始めた椅子工房は少しずつ軌道に乗り始めるのだが…。
いわゆるひらめきの天才タイプの魚住。だがそれを実際に作り上げるスキルが足りない。
逆に徳井は魚住のような個性的なデザインは浮かばないが、魚住のデザインをきっちり作り上げる職人のような技はある。
二人のコンビはとても良いバランスのように見える。
しかし二人ともそれまで勤めていた会社、あるいは工房から逃げてきた(追い出された)人間で、今どきの言葉で言えば生きづらさを感じている。
祖父と共に小さな町に住み、修理屋を細々とやっている徳井にとっては幼馴染の菜摘と祖父こそがそれぞれ態度は違っているが自分を温かく受け入れてくれる存在。
そこに魚住という波乱がやってくる。さらには魚住を追って胡桃というぬいぐるみ作家もやって来る。
読み始めた時は、三浦しをんさんの「多田便利軒」シリーズの多田と行天のようなコンビを思い浮かべたが、そこまでリアルに追求するものではなく、椅子工房を舞台にしているものの椅子作りに描写を割くお仕事ものでもなく。二人の関係の変遷を描く作品だった。
徳井が必死に胸の奥深くにしまい込もうとしている自身のコンプレックスを魚住は最終的に容赦なく暴いてしまう。残酷に見えるこのシーンも最終的には必要だった。
徳井に似て不器用なおじいちゃん、黙って見守る菜摘、割り込んでくるようで気遣っている胡桃、脇役たちもそれぞれ葛藤を持っている。
二人の工房がこのまま上手く行くのかどうかは分からない。やはり一度それぞれ修行した方が良いという方向に行くこともあるかも知れない。
だが現時点ではこれで良いのだろう。暗く後ろ向きになるよりも二人で楽しく椅子を作って欲しい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
身体の弱った祖父を心配して、田舎に戻った、徳井。
そこへ、大学の後輩・魚住がやってきて……。
楽天家で大雑把な、デザイン担当魚住。
心配性で細かい、実作業担当徳井。
凸凹コンビだからこそ、補い合えるふたり。
細々だけれど、着実にすすむオーダーメイド椅子づくり。
ふたりの椅子への愛情とこだわりが伝わってきて、魅力的だった。
周りの人間も含め、人情味があって、読後感もあたたか。 -
魚住くんの椅子への愛があふれ過ぎていて、たまらなく愛おしい。
あらためて、「椅子っていいな」と思った。
人は常に居場所を求めるものだけれど、その一番小さなスペース、単位?…が椅子なのではないかと思った。
それが、心と体に添う物ならなおさら。
徳井律と、一つ下の魚住光は、10年前、大学の選択科目の木工の授業で知り合った。
卒業後、建築学部だった徳井は住宅メーカーに就職して営業職となり、造形学部だった魚住は老舗の家具工房に弟子入りした。
10年を経て、徳井の故郷で二人は再会。
徳井は年老いた祖父が心配(という名目)で故郷に帰り、そこへ、親方の方針と対立して家具工房を飛び出した魚住が転がり込んできた形だ。
徳井は、魚住の情熱に引きずられる形でオーダー家具の製作に携わっていくが…
芸術家になり損ねた人たちも出てくるが、過去を引きずることはしない。
進藤先生の「建築家はアーティストではない」というのも分かる。
芸術家の作品は、あくまで己のみの嗜好で作られ、その人に属するが、建築と内装はあくまでそこに住う人のためにある。
“民藝運動”の“用の美”に通じるものかもしれない。
この頃気になって読んでいる「手仕事」に関わる作品。
ドロドロは無く、対立や喧嘩も素直な気持ちの吐露で、下心や駆け引きもなく。
あたたかい、木肌の温もりのような作品。
デザインの魚住、技の徳井、二人なら完璧! -
大学時代の同級生の徳井と魚住。
2人が久々に再会し、徳井の地元の片田舎で椅子工房をはじめる話。
暖かくてほっこり。
そして読みやすくてさらさらと読める一冊。
特に大きな変化も感激もないけれど、どこまでも暖かくて優しい気持ちになれる一冊。 -
終始穏やか。悪人がいない。
-
東京で勤めていた会社を辞め、祖父がひとりで暮らす地方都市に出戻ってきた徳井は、祖父のあとを継いで何でも屋のような「修理屋」をしている。
大きな絶望もないかわりに心躍る楽しみもない日常に、ある日突然、大学時代の友人、魚住がやってくる。
椅子を愛し、マイペースで甘え上手な男、魚住に巻き込まれ、いつのまにやら椅子づくりを始めることになった徳井の環境は大きく変わり始める。
人と人との関係がやさしくあたたかく描かれていて、さらりと読めて気持ちが軽くなるような物語だった。 -
web小説が単行本化された作品。
田舎で祖父の修理屋を手伝う主人公と、その主人公に椅子作りを誘いにやってきた後輩。
性格も能力も相対する男性2人が、つてもなにもないまま、椅子作りに乗り出します。
夢をあきらめたような主人公と、夢を追いかけて主人公のもとにやってきた後輩。
どうしても現実を見てしまい、計画に不安しかいだけない主人公の気持ちも、二人の腕を信じて明るい未来を描く後輩の気持ちもわかるだけに、二人がなかなか折り合えずにぎくしゃくする会話は、決着がつかないところがリアル。
自分のこだわりのモノ作りに妥協をしたくないという気持ち、生活のためにそればかりに関わっていられないと心配する気持ち。
職人は、その二つの気持ちを抱えながら、作品に取り組んでいるのでしょう。
時に口論し、時に反目しながらも、緻密なモノづくりを得意とする主人公と、依頼者に合った椅子をデザインできる後輩は、見事なタッグを組んで、少しずつキャリアを重ねていきます。
次第に周りに認められるようになっていきますが、それが必ずしも二人の目指すものでもないというほろ苦さ。
それでも結局は、譲れない大切なものを見つけ出せたところで、物語は終わります。
ライトなストーリーでしたが、読後爽やか。
ラストシーンがタイトルに反映されています。 -
魚住ニガテ。
徳井さんもおじいちゃんも
人が良すぎです。