- Amazon.co.jp ・本 (348ページ)
- / ISBN・EAN: 9784344038073
作品紹介・あらすじ
祝言の翌日に、隠居の申し渡し⁉
小さな楊枝屋の四男坊・鈴之助は、相思相愛のお千瀬の生家、大店の仕出屋『逢見屋』にめでたく婿入り。誰もが羨む逆玉婚のつもりが……
「鈴之助、今日からはおまえも、立場上は逢見屋の若主人です。ですが、それはあくまで建前のみ。何事も、最初が肝心ですからね。婿どのにも、しかと伝えておきます」
鈴之助の物問いたげな表情に応えてくれたのは、上座にいる義母のお寿佐であった。
「この逢見屋は代々、女が家を継ぎ、女将として店を差配してきました。つまり、ここにいる大女将と、女将の私、そして若女将のお千瀬が、いわばこの家の主人です」(本文より)
与えられた境遇を受け入れ、商いの切り盛りに思い悩むお千瀬を陰で支える鈴之助。
“婿どの”の秘めた矜持と揺るぎない家族愛は、やがて『逢見屋』に奇跡を呼び起こす……。
感想・レビュー・書評
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小さな楊枝屋の四男・鈴之助は大店の仕出屋<逢見屋>の長女・お千瀬にプロポーズされて婿入りすることに。兄たちに逆玉の輿だと羨ましがられるのだが、その実態は代々女性が主人で婿養子の男たちはあくまでも子作りのために必要なだけの日陰者だった。
まるで武家社会の逆パターン。家を継げるのは長女のみ、その配偶者やそれ以外の弟妹たちは商いに関わることは出来ない。
武家なら女性は家の差配を振るうことが出来るが、<逢見屋>の男たちは何もすることがない。
実家でも商いに関わることなくのんびり過ごしてきた鈴之助ですら寂しく感じているのだから、長年そうした日々を過ごしてきた義父・安房蔵やお千瀬の妹たちはどうなのか。
それでも夫婦仲がしっかりしているのが救い。裏方からでも縁の下からでも商いを支えようとする鈴之助に応えて協力し大女将や女将の厳しい目から守ってくれている。
そして少しずつお千瀬の妹たちとの距離も近づいていく。
物語の肝としては<逢見屋>に嫌がらせを仕掛ける同業者<伊奈月>の若主人の真意。そこにもまた<逢見屋>の異質な状況が関わっていた。
そしてお千瀬に宿った小さな命をきっかけに、鈴之助・お千瀬夫婦は<逢見屋>の伝統について改めて考えていく。
上手く行き過ぎなところもあるが、ホッと出来る結末で良かった。
鈴之助が生まれながらに日陰者ながら歪んでも僻んでもないのも良い。だが一方で同じ状況にあれば心が荒んだり妙な野心に走ってしまったり、何もかもを諦めてしまったりする者がいるのも当然だろう。
同じ状況にありながら様々な心情に向かう人達のその違いは何か。どうしたら前向きになれるのか。改めて考えてしまった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
2024年 初読みに相応しく、心温まる内容だった。
小さな楊枝屋の四男坊、鈴之助が、相思相愛のお千瀬と祝言した。
お千瀬は、大店の仕出屋『逢見屋』の跡取り娘で、鈴之助は、入婿として『逢見屋』に入った。
祝言の翌日、隠居から申し渡された事。
誰もが羨む、逆玉の輿の筈が・・。
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室蘭民報2019年10月31日~2020年6月1日連載、他12の新聞に連載された作品に加筆訂正して2021年6月幻冬舎から刊行。四男坊の婿入先は女系経営の仕出し屋。婿は何もするなといういう中での鈴之助の気づきや頑張りで家族や店が変わって行く…という流れは予想の範囲なので、どういうやり方なのかに興味を惹かれます。少し出来すぎの感もありますが、鈴之助の持ち味と家族、奉公人を思う気持が物事を動かす様が素敵で面白かったです。
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楊枝屋の四男・鈴之助
のんびり優しげな風貌、これといった取り柄もなく毎日のんびり実家の手伝い(おつかい)
仕出し屋のお嬢様と相思相愛からの逆玉婚!
婿殿の仕事は子作り…のみ笑
西條奈加らしく面白おかしく始まったこの作品。
店は大女将、女将、若女将に仕切られ、義父と鈴之助は貰った小遣いで毎日ぶらぶら…するだけ(*´-`)
中盤からお店に不穏な問題が起こり始め…
お〜ミステリー?
若旦那がとてもいいです♪
甲斐性とは…甲斐甲斐しく健気な性質のことである
因果応報とは…悪が苦を生む悪因苦果も、善が楽を生む善因楽果もともに同じ因果である。そもそも起きた事ごとには善も悪もない。
なるほど_φ(・_・
西條奈加さんの作品はホント読みやすい!
時代物だけど小難しい言葉やセリフもなく、サラッと説明も入ってる。
上手い作家さんだなぁと毎回感心します(^ ^)
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鈴之助の人となりが魅力的。
大店の娘さんと結婚し、婿入りした途端、お店は女たちで回すから、引っ込んでおくように言われる。
そんな中でも、飄々と立ち回る姿が、面白かった。 -
世間の「あたりまえ」にあえて立ち向かい、「女系」を貫こうとする相見屋の女主人たちの厳しい覚悟を見る。そこの歪みも初めだからこそであり、この時代の「あたりまえ」の反動ゆえの呪縛ともいえる。鈴之助の柔軟な対応力と妻への思いやりが好もしい。
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「弱く愚かな者はいる。それより他に生き抜く術がないからだ。」
上に立つ者の心得を説いたセリフにはっとする。
この作者の作品が心地よいのは、懸命なものが報われるだけでなく、弱さや愚かさも否定しないところにあるのかなあと思う。
こちらの作品は、基本的にやわらかな人情譚です。 -
西條氏得意の江戸の人情もの。家族の立ち位置、感情がきめ細かく描かれている。前作の「心淋し川」や「無暁の鈴」が身に沁みただけに少し読み応えがなかった。
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<賛>
いやはや,なかなかな面白いではないか。『心淋し川 』でチョッキ賞を獲ってのちの第一作がこれってわけだな。こりゃあまた良い出来ときたもんだ。いや待てよ本作初出は各地の新聞に連載されたものらしいから,特に”チョッキ賞の直後に出る本だから”というつもりではなかったのだろうがやはり良い出来。奥付けには連載新聞の紙名はどうやら全部載っている様子だが,連載がいつからいつまでの事だったかは示されていない。
と、ここまで書いて、あれちょっと待てよ何かあったぞ、と、ああそうだ先に僕の読書感想文で絶賛した『曲亭の家』が受賞後第一作であった。すまぬ。すまぬが面倒なのでここはこのまま書き進めるw。
しかしまあ本の中身に触れないで毎回こうやって何か書くのもそれはそれで結構大変なのだぞ。登場人物のキャラ書いて舞台設定書いてオチなりなんなり書けばそれではい読書感想です,ってのがどれほど簡単か。だって毎冊”違う本”だjからな。あたりまえか。でもその体でプロの書評家や帯の文言を考えるプロライターさんなんかは書いているのだからな。要は”文質”ってことだよな。毎度高講釈すまぬすまぬ。