芸術起業論 (幻冬舎文庫)

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  • 幻冬舎
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  • Amazon.co.jp ・本 (230ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344428140

感想・レビュー・書評

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  • 芸術は経済的価値を得てこそ---すなわち市場で評価されてこそ---真の価値を得る。芸術家とは起業家であり、芸術のみを追求していればよいのでは決してないことをくり返し説いています。

    作者本人も認めているように、「怒り」を原動力(もしくは起爆剤)として活動しているようです。なぜ自分の芸術は理解されなかったのか、なぜ日本人の芸術家は欧米で評価されないのか、なぜそもそも彼らは海外で勝負しようとしないのか・・・。そうした怒りの疑問に突き動かされて、今日の地位を築いてきたことがよくわかります。

    同じ日本人として共感ともいえなくもない気持ちを覚える箇所もあれば、みずからの手厳しさに酔っていなくもないように読める箇所もあり、複雑な印象を与える本書。

    気づけば徹夜していたと語る知人に対しては、それくらいの努力で世界と勝負しようとしているのかと失望する作者。その反面、みずからが芸術に対して抱く飽くなき情熱に対しては、それを業として受け止める作者。こうした矛盾すらも人間なのだから、芸術家なのだから、よしとする作者。

    芸術家の読者であれば理解できるのかもしれませんが、個人的には得るものは少なかったです。

    最後に、良かった点を挙げます。
    口述筆記であるからなのかはわかりませんが、インタビュー形式でもないのに丁寧語で書かれている点は読んでいて新鮮でした。

  • みのミュージックさんの動画で紹介されていたのを見て、気になって読んでみた。
    私には少し難しい内容で、読了するのに時間がかかってしまった。
    しかし、なるほどなと勉強になった所はたくさんあったため読んでよかったと思える内容。
    村上隆さんのことはあまり詳しくなかったが、凄く努力家であり勤勉な方だと分かり、尊敬しかない。
    美術関係の人のみならず、私のような普通の大学生が読んでも為になるし、勉強へのモチベーションが上がるのでおすすめしたい。

  • おもしろかったです。まさか村上隆に共感できるとは思いもしなかったので自分自身驚いてます…。村上さんはガリガリ亡者に見えて、かなりピュアでアツいハートの芸術家なんだなあと思いました。現代アートにはルールがあり、アーティストはプレイヤーという考え方がおもしろかったです。20年近く前の本だけど、今読んでも新鮮というのは村上さんも複雑な心境でしょうね…。

  • 日本の現状、芸術業界の現状に、強い怒りを持っていることが、
    伝わってきて、何が必要なのかが、納得できて、元気になれた。

    村上隆はいう。
    芸術には、世界基準の戦略が必要である。
    世界基準を知るには、美術史つまりルールの成り立ちを
    つかむことが必要であり、そのルールの文脈の中で位置付けること。
    現在の芸術のルールを作っているのは、パリではなく、
    アメリカ、ニューヨークである。
    芸術に携わるものは、技術というよりも、発想、アイデア
    であり、新しい発想を作ることに力を注ぐべきである。
    その発想が、文脈上に載っているかを検証する。
    想像力を膨らませることに、価値がある。
    つまり、芸術といえども、ビジネスの中にある。
    芸術の顧客である富裕層を納得させる物語を作る必要がある。

    業界の構造を知り、経済的な自立を図る。
    個人の歴史の蓄積が、その人のブランドを作る。
    個人の持つ才能よりも、サブタイトルである。
    唯一の自分の核心を作り、自己満足を超える価値を発見する。
    成長するのは、怒りであり、挫折を乗り越えることだ。
    「魂の叫び」とは、違う。

    アーティストの目的は、人の心の救済にある。
    そのために、強烈な欲望がいるのだ。
    芸術家になる根拠の濃度を高めることと、長期戦を覚悟すべきである。
    そのためには、タフネスでなければならない。
    熱量のある雰囲気がなければ、お客さんはつかない。

    作品の価値は、物自体だけでは決まらない。
    ビジネスセンスや、マネージメントセンスがいる。
    知的な仕掛けやゲームやパズル性を楽しめるようにする。
    芸術品を作るには、観念や概念であり、多大な努力でもない。
    現代芸術の評価の基準は、概念の創造である。
    金銭を賭けるに足る商品の物語があって、
    つまり、投機対象になるような商品の物語。
    購買欲、征服欲、勝利欲を揺さぶり盛り上げる。
    芸術とは、時代の価値と気分が市場である。

    芸術も娯楽も日本人だったら、世界で認められるには、
    「翻訳」に投資して、人に晒す機会を増やすことである。
    時代の気分を誘発する機会を増やす。

    生き残るためには、どうするのか?
    追いつめられた人間は、能力を駆使して自前の正義を作る。
    そこには、生き残るという情熱が込められていることだ。
    表現で、未来を照らしたければ、夢や希望の方向が見えていた方がいい。

    「芸術家の提出した謎」
    Something New、New Something!
    モヤモヤしていて、表現できないことを表現しようとしている。
    何の目的でやるのか。人を超えたい。超人願望がある。
    現代人の感性を揺さぶる一発を打ち込む。
    根強い慣習や因習を振り切れる衝撃や発見や現実味。
    歴史の残るのは革命を起こした作品だけ、
    すでにあるものには、喝采は贈られない。
    質の高い作品、魂の入った作品→アートの文脈を見つける。
    日本の芸術家は、文脈の設定に対する理解不足にある。
    日本の頼るべき資産は、技術。
    欧米の頼るべき資産は、アイデア。

    現状では評価できないものこそ革命的になるかもしれない。
    だれでにもわかる説明の限界。
    作品の価値とは実体のない虚構から生まれる。

    夢の持ちにくい時代。
    挑戦できるところは、すべて挑戦されたと思わせる時代。
    アイデアは、出尽くしたと思わせる時代。
    生きていることが実感できない時代。

    マネジメントに集中していく人間が勝つ。
    人間には、天才型、努力型がある。
    ルールに則った、文脈のある シナリオに沿って作っていく。
    ルールとの関係性における挑戦の痕跡。
    実現不可能なことへの挑戦。

    新しいゲームの提案。
    芸術史の新解釈、解放。
    確信的ルール破る。ルールの枠に収まらない。
    他の世界にない世界観の提案。
    新しい権威者を作り上げる。

    世界で、唯一の自分を発見し、その核心を歴史と相対化させつつ、
    発展させること。
    仕事を好きになるより、好きなことを仕事をする。
    自分の好きなことを究明する。自分の興味を究明する。
    「興奮できるお祭り騒ぎ」を作り上げられるか?

    興味を抱かせて、楽しませて、引き込んでいく。
    文化の精神を説明する。
    若いこと。貧乏であること。無名であること。

    文化とは、色を塗る行為ではなく、輪郭を作り出す行為である。
    久しぶりに、気分が高揚するいい書に会うことができた。

  • 「日本文化をそのまま持っていっても評価される時代が既にきているということだと思います。
    そのために必要なものは何か?
    もちろんそれは『世界に持っていくというガッツです』」

    元々、村上隆さんの作品は拝見の機会があったものの、自分の感性に引っかからなかった。
    反面、どこの国に行っても「ムラカミ」作品や名前を見るのも事実で、国際市場で作品の値段が6000万円を超えることもある。
    なぜ、日本一稼ぐアーティストなのか。
    資本主義と自由な芸術はどう共存すべきなのか。
    正直疑問が大きかったから、彼の作品作りの根底にある資本主義的芸術感を知りたいと思った。

    結論から言うと、「世界に認めらる為に、西洋美術史の文脈を学び、熱意を持って作品をつくる。
    加えて論理的に、日本と彼自身のアイデンティティを文脈に落とし込み、『伝える』ことが必要」というお話で、
    自分が言語化しきれなかった文化の資本主義への昇華の意味と方法論が本気で綴られていた。
    アツかった。

    最近、自分がなぜここまで文字を追うのか、なんの問いを持ってどんな答えを探しているかもわからないなって思う。

    けど、この状況下、ある種の孤独と対峙する日々の中で一方的に共感できる先、同志をどこかに探しているのかもしれない。

  • f.2024/3/19
    p.2024/3/13

  • ん〜〜面白かった!村上隆の個展に行く前に読んでおきたかった。一般消費者としてこの精神にどれぐらい共感できるかと言われたら3割ぐらいかなと思うけども、現代アートはそれを体現する人消費する人の考え方もまるごと文化で、面白いな〜!と気づいた。なんか色が綺麗…もいいけど、そうじゃなくて良いんだ!てかそうじゃだめだ!という意見は救いだし、宗教的でもある。

  • 芸術家は作りたいものを作ればよいわけではなく、受け容れられるための戦略を持たねばならない。そのためには勝負する市場(著者の場合は米国)について徹底的に学ばなければならない……との持論が展開される。

    挑発的な言葉が多く、読者の立場によってはムッとする人も多かろう。が、アートに門外漢の私には面白く読めた。

    著者の主張は芸術家のみならず、広義の「クリエイター」すべてに当てはまる面を持っているだろう。また、セルフブランディングのたぐいまれな成功事例としても興味深い。

  • 立場を問わず、アートとどう向き合うかを考えるきっかけを作ってくれる。幻冬舎らしい熱い本。

  • 芸術でお金を稼ぐ正当性。世界のアートマーケットが求めているのはどんな作品なのか。
    1ページ読んで、この人とは性格合わないと思った。芸術家は「嫌いだけどすごい」人であるべきなんだろう。
    仲間にはなり得ない人からでも、じっくりと思想を語ってもらえるのだから、改めて本ってすごい。

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著者プロフィール

北海道大学スラブ研究センター教授。1942年長野県生まれ。
上智大学外国語学部ロシア語科卒業。(社)ソ連東欧貿易会ソ連東欧経済研究所調査部長を経て,1994年4月から現職。2000年4月から2002年3月までスラブ研究センター長。
専門分野は旧ソ連のエネルギー経済,ロシア極東経済,日ロ経済関係。
著書・論文には,『めざめるソ連極東』〈共著〉(日本経済評論社,1991年),『ソ連崩壊・どうなるエネルギー戦略』〈共著〉(PHP研究所,1992年),「ロシア石油・天然ガス輸出市場の形成」西村可明編著『旧ソ連・東欧における国際経済関係の新展開』(日本評論社,2000年),「サハリン大陸棚石油・ガス開発にともなう環境問題」(『ロシア研究』日本国際問題研究所,2001年),『サハリン大陸棚石油・ガス開発と環境保全』〈編著〉(北海道大学図書刊行会,2003年)など多数。

「2004年 『北樺太石油コンセッション 1925-1944』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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