天下一の軽口男 (幻冬舎時代小説文庫)

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  • 幻冬舎
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  • Amazon.co.jp ・本 (557ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344428201

感想・レビュー・書評

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  • 【中央】木下昌輝講演会 11月8日 - 大阪市立図書館
    https://www.oml.city.osaka.lg.jp/?key=jo5p2zwc9-510#_510

    歴代受賞作 | obop (OsakaBookOneProject)
    https://osakabookoneprojec2.wixsite.com/obop/blank-1

    天下一の軽口男 | 株式会社 幻冬舎
    https://www.gentosha.co.jp/book/b12138.html

  • 紐解き始めて、直ぐに頁を繰る手が停められなくなり、素早く読了に至った一冊である。
    長い江戸時代の前半側、未だ17世紀である、将軍の代で言えば4代目、5代目というような時代を背景にしている物語だ。所謂「上方落語」の元祖というような人物と伝わる米沢彦八を主人公とする物語だ。
    現在では所謂「お笑い」というのは、何やら間口が広いエンターテインメントということになるのかもしれない。かなり古くから諧謔というのか、笑いを誘うような表現は在ったかもしれない。が、「人々の御愉しみ」ということで誰かが何かを演じて、それを観る、聴くで笑うというような現在の「お笑い」にも通じる営為が起り、発展したのは江戸時代と考えられる。その「お笑い」の草創期に活躍したと伝わる人物の物語が本作である。
    「誰かが何かを演じて、それを観る、聴くで笑う」というような芸が、確立している、認知されているとも言い悪いような時期に、米沢屋の彦八はそういうことをして身を立てたいというようなことを夢見る。近所の色々な人達の物真似をして、考えた笑える話しを演じて披露する場を勝手に設けて、幼馴染の女の子と一緒にその場を取り仕切ってというような少年時代を過ごす。そして長じて、勃興する「お笑い」の世界に身を投じて、様々な経過が在る。そういう経過を辿るのが本作の物語である。
    本作の物語そのものが、名古屋に設けられたという、現在の常設の寄席に相当するような場所で、或る男が「米沢彦八なる人物」を語っているという様子を間に挟みながら進んでいて、何処となく「古典落語の内容を小説化」という風情も漂う。
    大坂から江戸に出て、色々と在って大坂に戻り、そこで名を成す米沢彦八の経過だが、「江戸時代の或る男の物語」の体裁ながらも「何時の時代にも在るかもしれない」というような普遍性を帯びているような気もした。成功しそうな者が出てくれば、足を引っ張るような謀を巡らせるような者も現れるというのは、時代や場所を問わず在りそうだ。そういう中で、成功しそうな何かが必ずしも成功しない場合も在ろうが、曲折を経て成功する場合も在る。本作を読み、愉しみながらも考えさせられた。
    「大阪に所縁の内容である文庫本」で「御薦め!」を大阪の書店関係業界の皆さんから成る選考委員会で択んで推薦しようという<大阪ほんま本大賞>という賞のことを知り、過去の受賞作品の紹介に触れた。そういう中で、所謂「上方落語」の元祖というような人物と伝わる米沢彦八の物語というのに強く惹かれた。作品を愉しんだ後に、最近幾つかの作品を愉しんだ作者の作品と知ることになった。そこが少し興味深い。
    「時代モノ」ということになると、「何やら面倒な…」と思われてしまうかもしれないが、本作に関しては断じてそういうことはない。大阪の難波が、未だ畑が沢山在る村だった頃、道頓堀が竣工して水運に利用されるようになっていた頃、現在で言う「お笑い」を志した男が在って、幼馴染の女の子の最高の笑う顔を観たいというだけの理由で色々と奮戦するという物語が本作である。「時代モノ」の体裁でいて、その枠を大きく食み出している。大阪が舞台の青春モノ、サクセスストーリーだ。凄く面白い!!

  •  木下昌輝さんの作品にはじめて触れたのは、
    『戦国十二刻 終わりのとき』。

    「時代ものを書かれる方で、
    今、おススメの作家さんはいませんか?」
    と伺った折、
    日本橋のタロー書房さんに教えていただきました。

     木下作品でよく語られるのが、
    その視点の斬新さ。
    私も夢中になり、あれよ、あれよという間に
    現在刊行されていらっしゃる8割を読破。

     なかでも、繰り返し読んでいるのが
    「天下一の軽口男」。
    江戸中期、庶民のあいだに落語を広めて行った
    米沢彦八の一代記がつづられています。

     大阪の本屋と問屋が選んだ
    ほんまに読んで欲しい本
    「大阪ほんま本大賞」(2019年)受賞作。

     当時、お座敷に呼ばれるかたちで発展していった江戸、
    神社を中心に、ストリート・パフォーマンスとして発展していった大阪。
    東西の落語の発展のすがたを、
    楽しみながら学ぶことができる1冊です。

     大阪出身の彦八が、若き日、江戸で学び、
    ある一件を機に、帰郷して拓いて行った道。

     愉快な表紙とは裏腹に、
    その壮絶な一生に惹きこまれます。

     連載後、
    大幅に加筆修正されるケースが多い木下さん。
    文庫版では連載時との変化も楽しみのひとつですが、さらに、本作の舞台化の折、
    主演された落語界と縁の深い駿河太郎さんとの
    対談原稿も収録。

     ひとつぶで三度おいしい? 大好きな作品です。
     

  • 上方落語の始祖である ぼんくら男のお話でした。

    人を笑わす その相手は誰かというのは
    時代と共に変化していく。
    笑いも 昔は 偉い人が占有していたんですね~~~

    文化や 娯楽は 庶民が 加わる事によって
    どんどん広がるのですよね。

    笑を 商売に変える。
    今では 当たり前に見えてる事も
    最初は大変な苦労があったのですね。

  • 木下作品は3作目。気軽に購入したのでそこまで期待はしていなかったが、非常にテンポが良く、期待以上の面白さだった。

    話は単純で、子供時代の彦八が天下一の御伽衆を目指し、江戸へ行って栄光の兆しと挫折、大阪での生涯の居場所を見つけ、晩年は後世代にどう残すかを自問する展開。これに二代目安楽庵策伝のエピソードが冒頭に加わる。

    子供の頃の彦八を知っていると、大阪生魂神社で人々を笑わせることを使命と気づくシーンはジーンとくるものがあった。最後の後進のためにという部分は少し尻切れ蜻蛉な感じがするが、史実に基づくとすると仕方ない気はするし、彦八らしいとも思う。

    笑いで金を稼ぐことすら考えられなかった時代があったということを改めて感じ、それを打破してきた武左衛門や彦八には畏敬の念を覚える。近年、M1などお笑いの賞レースが盛んになり、笑いに命をかける芸人が増えてきているが、お笑い=馬鹿な奴、社会の落ちこぼれというイメージが、それこそ歌舞伎や能と同じ専門家集団として見られてきているのは私は非常に良い傾向だと思う。

  • 上方落語の元祖、米沢彦八が天下一の軽口男になるまでの一代記。
    笑話の伝統、辻咄から座敷咄、物真似から仕方(ジェスチャー)の導入、そして咄小屋の設立まで、新しい文化が生まれ育つさまをイキイキと描写。
    ストーリーに驚きの展開はないものの、現代につながる文化が発明される瞬間の物語は読んでいてワクワクさせられる。

  • 2020/7/27

    910||キノ (3階文庫)

    大阪でお笑いが盛んなのもこの男がいたからこそかもしれません。
    上方落語の祖と伝わる米沢彦八の物語。
    彼が活躍した生國魂神社(天王寺区)では、彦八の名を後世に残すため、年に1度「彦八まつり」が開催されています。

    9月開催予定でしたが、今年はコロナ感染症拡大防止のため中止です。

  • 落語の小咄から始まり、出会い・別れ・笑いに感情のジェットコースターを堪能できる時代小説。緻密に練られた構成。これはヤバい。
    落語の原形を作った実在の天才だから驚く。
    上方演芸の後継者の大阪人だけに独占させるにはもったいない名作。

    本作が関東だけでなく、翻訳されて世界で支持されないかなぁ。村上春樹もいいけど、こういうのもいいと思うんだけどな。

    ・師匠と虎丸との感動的な別れから泣かせる。
    ・主人公が殺されかけた場面は笑いで切り抜けようとしたシーンは秀逸。
    ・そして最後の小咄に、悲しみを笑いに変え、未来を繋ぐという感動。

  • 笑けて、そして切なさも感じる物語であった。
    主人公、米沢彦八が、人を笑わせることに対して誠実に向き合い、ときに人に騙されたりひどい目に逢いながらも、もがいてもがいてもがきぬく姿が描かれる。完全なる成功者の物語ではなく、彼もまた道半ばでこの世を去るのだが、それゆえに、人間味があり、物語が生き生きとしたものとして胸を揺さぶるのである。
    挿入される笑い話も面白い。

  • 一度行ってみたいと思いながら、まだ実現できていない(毎年終わってから思い出すから^ ^)、生玉さんの彦八まつりのその人、上方落語の祖とされる米沢彦八の生涯を描いた小説。

    大阪に生まれ、笑いを生業とする決意と幼馴染の少女への淡い想いを持って江戸で武者修行。夢破れて大阪に戻り、大阪で自分のスタイルを確立してスターダムへ。最後は興行ツアー中に客死・・・。切ないくらい笑いに実直に行きた彦八の人生でした。笑いの世界の同時代の牽引者たちも次々登場し、笑いを追求する彦八のモチベーション、また、気まぐれな聴衆に評価されようとしのぎを削る同業者たちとの厳しい競争など、なかなかリアルに描かれていて、今の芸人さんたちの世界もこうなのかなぁと思いながら読了しました。

    身分を越えて万人が笑えるネタ。腹の底から笑うことで得られる救い。大阪で育まれた笑いの文化の根っこが感じられた気がします。

    今年の大阪ほんま本大賞受賞も納得。面白かった!

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著者プロフィール

1974年奈良県生まれ。2015年デビュー作『宇喜多の捨て嫁』で高校生直木賞、歴史時代作家クラブ賞新人賞、舟橋聖一文学賞、19年『天下一の軽口男』で大阪ほんま本大賞、『絵金、闇を塗る』で野村胡堂文学賞、20年『まむし三代記』で日本歴史時代作家協会賞作品賞、中山義秀文学賞、’22年『孤剣の涯て』で本屋が選ぶ時代小説大賞を受賞。近著に『応仁悪童伝』がある。

「2023年 『風雲 戦国アンソロジー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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