- Amazon.co.jp ・本 (277ページ)
- / ISBN・EAN: 9784344982383
感想・レビュー・書評
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書名はずばり「第九」。
著者の中川右介氏は私より若い。
『世界の10大オーケストラ』『カラヤン帝国興亡史』『カラヤンとフルトヴェングラー』を読みました。
博識・資料渉猟・筆力・・・敬服します。
この本を読んで「第九」に関わるさまざまなことを知りました。
ワーグナーの楽劇は別にして、「第九」は人類が産み出した
音楽の最高傑作だと私は感じています。
昨年暮れのマエストロ下野+読響の「第九」は若々しく
エネルギーに溢れていて、大家の悠然たる演奏とは
また異なった感動がありました。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
第九の完成から、初演、さらにそれからの他の作曲家の作品へ及ぼした影響、翻弄される楽団や指揮者の物語を経て、2001年に直筆の楽譜が世界遺産に登録されるまでを綴ったノンフィクション。
いかに第九が人類にとって重要で特別なのかがよくわかる。
僕個人としては、曲が完成してから、ベートーヴェンが初演の手配やマネタイズに四苦八苦して足掻きたおすところが面白かった。しかし、初演から3年後にベートーヴェンは56歳で亡くなっているので、相当しんどかったのではないだろうか。
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第九の誕生から歴史を追ってたどっていて面白かった。
初演では利益が出なかったとか、演奏が難しく、また演奏時間も長いことからなかなか完全な形で演奏されなかったとか。
人の歓喜を歌う第九がヒトラーとナチスに利用された歴史も取り上げられている。
日本での第九の演奏についても取り上げられている。日本での初演は、1918年6月1日、四国の徳島の坂東俘虜収容所に収容されていたドイツ人捕虜たちによるもの。この収容所では西洋野菜が栽培され、ハムやベーコン、菓子などが作られ、それらの作り方や建物の設計建築などが日本人にも教えられ、日独文化交流が行われていたようです。
フルトヴェングラーは、「第九はあくまで「声楽付き交響曲」であって歌曲ではない」「歌詞は二義的なもので、まず音楽なのだ」と言ったそうだが、そうはいっても、やはり合唱と歌を単にメロディーとしてだけ聴くことはできず、そこに歌われている歌詞が心に響かないではいられない。 -
博識な知見をもって第九の歴史について掘り下げた著作。
ベートーヴェンが第九を書いた時から、初演、そしてどのように世界に広がっていったかがよく分かります。
当時の器楽では演奏・発声するのが難しい交響曲で敬遠されていたということです。
日本では年末の恒例行事として演奏されるこの曲は世界でいったいどういう意味をもっているのか。
また大指揮者の演奏にも迫っています。
各種CDの紹介もいいですね。 -
第九絡みの本といえば、通常名演奏の紹介やら解釈上の諸問題やらを細かく論じる物が多い中、少なからずそうした事にも必要上最小限に触れはするものの、むしろ第九が「喜ばしい式典に演奏される曲」であったり、逆に「鎮魂などの厳かな場面に演奏される曲」という意味合い持たされるようになった経緯や、政治に利用される様になって深まってきた深刻な演奏環境、第九によって演奏上の解釈という仕事が指揮者に不可欠の問題になった事、さらに演奏会場の問題や職業指揮者誕生のきっかけなど、広い意味で第九が世間と音楽社会にどのような影響をあたえるような存在になってきたのかをわかりやすく解説した良書。
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株式会社アルファベータで編集長を務めながら精力的に著作をモノにしている中川右介さんによる昨年末発刊の著書。
クラシック界で最も有名な曲であるベートーヴェンの第九交響曲の誕生と以後の演奏遍歴を年代を追って解説している。
ベートーヴェンによる作曲から初演、その後の演奏遍歴を読むにこの曲が同時代人ではなく後世に大きな影響を与えていったことがよくわかる。メンデルスゾーン、ワーグナー、マーラー... 作曲家として今に名を残す人々にどのように作用していたのかも興味深い。
この曲だけではないだろうが、オーケストラの形や演奏能力の標準としての指標にもなったのだろう。
原典や各種の資料にも丁寧に当たって正確な記述を期そうとしていることがわかる好著であり、第九についてのまとまった資料としての価値も高い。 -
ベートーヴェンの作曲エピソードよりも、
誰が、どのような状況で第九を振ったのか?
という初演後のエピソードが充実している。
上流階級から労働階級へ
ヨーロッパからアメリカ、アジアへ
第九の演奏が広がって行く。
確かに名曲。
そして他の名曲とは一線を画した「特別」感。
しかし、単に世界平和を謳うメッセージソングではない。
ドイツ語が分からないし、日本語訳も読んでいない私は
何に心揺さぶられているのだろうか……。
第九初演以降の作曲家・指揮者に詳しい方が楽しめると思う。 -
第九という曲の辿った数奇な運命。
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年を越す前にと思いながら、年を越して読了。
余りにも有名な曲の裏面史で、音楽通の方には既に常識のことばかりなのかもしれないが、私にとっては「へぇー、そうなんだ」という話が多かった。
特に、稼ぐために曲を作り売ろうとしたベートーヴェンの奔走ぶりと、その割には「長くて難しい」と余り評価されなかった様子は意外だった。
生まれた時はそんな曲だったのに、この曲をきちんと演奏するために交響楽団が形成され、国民国家の時代の中でこの曲が政治的に利用され、この曲が収まるようにCDという媒体の規格が決まる。すごい変化である。
そして、この本にカルロス・クライバーが登場しなかったことが、悔やまれてならない。クライバーの「第九」をBGMに、この本を読んでみたかった。