- Amazon.co.jp ・本 (247ページ)
- / ISBN・EAN: 9784344982697
感想・レビュー・書評
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そういえば最近、
(怖い思いをした事が無いな・・・。)
本書を手にとりながら、そう思った。
夜中のトイレも
母親の小言も
ホラー映画の中のゾンビにも
ビビらなくなったね。私…。
ふと、
(怖いもの…
どこへ消えたんだろう?何時の間にいなくなっちゃったんだろう?)
無敵の私は、ほんのちょっとだけ寂しくなり、
歌人達が一体何を怖れているのかが、
突然気になりだした。
ねぎを切る うしろに廊下 続きけり
戦争が 廊下の奥に 立っていた
口開けぬ 蜆(しじみ) 死んでいる
ぞくっ、とする。
私には全くみえない
亡霊が 歌人の目には 見えている おそまつ。 -
世界最短の詩である俳句。
その俳句の世界で、誰もがその名を知る「俳聖」松尾芭蕉は
「言ひおほせて何かある」(すべてを言いつくしてしまって、何の妙味があるだろうか)
と言っている。
(この言葉は本書の中でも紹介されている)
要するに「チラリズム」
ただ、俳句で「怪奇」や「恐怖」を表現した場合、短いだけに、かえって想像が掻き立てられてしまう。
本書では、そんな怖い俳句を紹介している。
その怖さの種類にも
「幽霊画を見たり、怪談話を聞いているような怖さ」
「作者自身、もしくは作者がおかれている状況が怖い」
「作者が体験したことが怖い」
といったものがある。
「幽霊画を見たり、怪談話を聞いているような怖さ」は比較的、分かりやすい。(紹介されている句の数も最も多い)
なにより、所詮「絵」や「話」なので、実際に危害を加えてくるようなものではないという、ある種の「安心感」もある。
そのような句の中で印象に残った句としては次のようなものがある。
稲づまやかほ(顔)のところが薄(すすき)の穂 松尾芭蕉
骸骨たちが能を舞う絵に感じ入っての句。骸骨の幽霊たちが踊り狂うさまを偶然、見てしまったかのよう。
狐火や髑髏に雨のたまる夜に
公達(きんだち)に狐化けたり宵の春
巫女(かんなぎ)に狐恋する夜寒かな
すべて与謝蕪村の句。怖い句ではあるが、同時に絵になる感じがする。
流燈(りゅうとう)や一つにはかにさかのぼる 飯田蛇笏
怪奇現象?
蛍死す風にひとすぢ死のにほひ 山口誓子
嗅覚にうったえる、というのはこの句だけ。「死のにほひ」がどんなものか分かりませんが、嗅げば、それと分かるものなのだろう
百物語果てて点せば不思議な空席 内藤吐天
さきほどまで百物語をしていたメンバーの一人こそ実は死者そのものだったのか・・・。
「山小屋の四人」の怪談を連想させる。
水を、水を 水の中より手がそよぎ 坂戸淳夫
水の中からのびてくる手は「助け」を求めているのか、「仲間」を増やそうとしているのか・・・。
海避けて裏道とほる死者の夏 大屋達治
海水浴客でごったがえす海沿いの表通りから一歩、裏通りに入ると表の喧騒がウソのような静けさ。
死者が歩くにはもってこいの環境なのだろう。
隙間より雛の右目の見えてをり 小豆澤裕子
ホラー映画で隙間から外の様子を覗いたら、邪悪な者もその隙間から中の様子を覗いていた、というシーンを連想させる。
「作者自身、もしくは作者がおかれている状況が怖い」という句(自由律詩が多い)は紹介されている数は少ないものの、かなりゾッとするものがある。
皿皿皿皿皿血皿皿皿皿 関悦史
よく見ると「皿」の羅列の中に、形のよく似た「血」が混ざっている。
いまだに意味不明だが、「皿」という日常品の中に突然「血」が出てくる怖さがある。
ホントニ死ヌトキハデンワヲカケマセン 津田清子
文句なしで怖い・・・。
本書の中で一番、怖かったのが「作者が体験したことが怖い」という句。
戦争が廊下の奥に立つてゐた 渡邊白泉
廊下の奥に立っていた「戦争」は人型で、ずんぐりむっくりの体型、全身真っ黒、顔は大きな口だけの異形の者(推測)
「冷酷無比」ではあるものの、「邪気」はない気がする。
この作者の他の句も怖い。
繃帯を巻かれ巨大な兵となる
赤く蒼く黄色く黒く戦死せり
眼をひらき地に腹這ひて戦死せり
どれも「この世ならぬ者」が関わっておらず、戦場で実際にありそうな光景なので、よけいに恐ろしい。
結局、一番怖いのは「この世ならぬ者」ではなく、「生きている人間」なのだろう。 -
寺山の歌集に衝撃。
しかし頭の悪い高校生ゆえ季語を知らない。
切れ字もぴんとこず。
とはいえ川柳というと言葉が低俗な印象。
やっぱり俳句より短歌だ、
俳句ではわずかに山頭火くらいだな、
とまったく無駄なこだわりを持ち続けていたが、
まったくの誤りであると眼を見開かされた。
言葉少なく指し示すことの豊饒さ。
ホントニ死ヌトキハデンワヲカケマセン -
【怖い~を読む―2】
いそうでいない…とか、見えそうで見えない…
ってのが、「怖さ」を引き起こすんだろうなぁ。
俳句は17音…すべてを語るには短すぎる…
わかりそうでわからない…う~む、やっぱり怖い…
本書にもあるように…
「鑑賞する主体によって、感じる怖さはおのずと違ってきます。」
…というわけで、ボクが怖いぃ~と思ったのは、
こんな句でした…絞りに絞って10句…
稲妻に道きく女はだしかな 泉鏡花
戦争が廊下の奥に立つてゐた 渡邊白泉
葱を切るうしろに廊下つづきけり 下村槐多
うしろとは死ぬまでうしろ浮き氷 八田木枯
不安な世代完全な形で死ぬ電球 上月章
水を、水を、水の中より手がそよぎ 坂戸淳夫
呪う人は好きな人なり紅芙蓉 長谷川かな女
六月の皿に盛りたる人の顔 栗林千津
きみのからだはもはや蠅からしか見えぬ 中烏健二
かあさんはぼくのぬけがらななかまど 佐藤成之
怖いもの見たさで一気に読んじゃったけど、
ふと気がつけば、この本…俳句の世界を概観できるように
なっています…そして、人の心に蠢く闇のありようも…まさに、
本書で語られることのすべてがある世が「怖い」のかも… -
似たような感じで先行ヒットした桐生操『ほんとうは怖いグリム童話』や中野京子『怖い絵』みたいな「あの有名な作品に実はこんな怖い意味が…」というのとは違うが、俳句にもいろんな味わいの作品があるんだと知ることができて面白かった。
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「俳句の怖さは、その決定的な短さに由来します。」六月の 皿に盛りたる 人の顔/栗林千津, 鏡ヨリ 見知ラヌ我ノ 迫リ来ル/関悦史―おぞましくも美しい俳句の世界へようこそ【中央館3F-文庫・新書 080/GE/268】
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買ってから、あれーまた怖いの買っちゃったよー。なぜ、わたしは怖いものに惹かれるのかなーとしみじみ考えながら読みました。芭蕉から、現代までの怖い俳句の数々。ひとつひとつ読んでいくと、これはあんまり怖くない、わぁ!これはゾッとするなぁ。と自分の嗜好がわかってきます。説明が付与されない不安、分からなさ、ぽんと放り出された不条理。そういった怖さに俳句の形式はぴったりです。
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まえがき冒頭は
俳句は世界最短の詩です。
とのこと
俳句・・・何気にと手にしたら、結構はまりました
はっきりくっきりこわい句や、そこはかとなくこわい句の数々
芭蕉から、戦前、戦後、女流、自由律、現代まで、
多くの俳人の作から著者が採ったものを紹介
この最短の詩から、背景や意味を読みとるのは、
慣れていないからなかなかむつかしかったけど
解説のおかげで楽しめました
また、読んでみたくなりました
稲づまやかほのところが薄の穂 松尾芭蕉
稲妻に道きく女ははだしかな 泉鏡花
ホントニ死ヌトキハデンワヲカケマセン 津田清子
口あけぬ蜆死んでゐる 尾崎放哉
無人駅にころがるつぶれたランドセルの記憶 種田スガル -
世界最短の詩文学・俳句は同時に世界最恐の文芸形式でもあります。日常を侵犯・異化するなにか、未知なるものとの遭遇、人間性そのもの…作品の中心にある怖さはそれぞれですが、どれも短いがゆえに言葉が心の深く暗い部分にまで響きます。一句二句、暗唱して秘められた世界に浸ってみてください。不思議なことに、そこはかとない恐怖がやがてある種の感動へと変わるはずです。数々のホラー小説を手がけ、また俳人でもある著者が、芭蕉から現代までたどった傑作アンソロジー。
目次
第1章 芭蕉から子規まで
第2章 虚子からホトトギス系、人間探求派まで
第3章 戦前新興俳句系
第4章 実存観念系とその周辺(伝統俳句、文人俳句を含む)
第5章 戦後前衛俳句系
第6章 女流俳句
第7章 自由律と現代川柳
第8章 昭和生まれの俳人(戦前)
第9章 昭和生まれの俳人(戦後)
こんにちわ。 コメントありがとうございます♪
そういえば、この3作品、
特にゾクッときた句を適当に並べただけだったのですが...
こんにちわ。 コメントありがとうございます♪
そういえば、この3作品、
特にゾクッときた句を適当に並べただけだったのですが、
あれ?
いつの間にか3句一体となって、恐怖倍増してませんか?ぶるぶる。(どなたの仕業だろう?^^;)
無敵ですが、たった17文字にやられました。
>紙面より 出てはならぬと 本を閉じ (^^;
あああ、本当だぁっ!
MOTOさんのレビューを読んだときには
ちゃんと一句ずつわけて読んでいた...
あああ、本当だぁっ!
MOTOさんのレビューを読んだときには
ちゃんと一句ずつわけて読んでいたのに、
コメント書くときにはなぜか繋がってるものと思ってます・・・。
>どなたの仕業だろう?^^;)
ひいぃ。
コワイのでわたしのボケだということにしておいてくださいぃ(T_T)
(いやそれはそれで、違うイミでコワイですが;)
いやいや~
確かに感想書いた時は、
ちゃんと一句ずつわけていたはずなのに、
改めて読んだら、なぜか繋がっていた、...
いやいや~
確かに感想書いた時は、
ちゃんと一句ずつわけていたはずなのに、
改めて読んだら、なぜか繋がっていた、ってのも…
いやぁぁぁ~
コワいですねっ!
お互い、蜆の味噌汁のねぎ刻むときは・・・
せいぜい背後に気をつけましょう・・・
(…て、余計コワいっつーの♪^^;)