強い力と弱い力 ヒッグス粒子が宇宙にかけた魔法を解く (幻冬舎新書)
- 幻冬舎 (2013年1月30日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (298ページ)
- / ISBN・EAN: 9784344982932
作品紹介・あらすじ
宇宙には「四つの力」が働いている。私たちを地球につなぎとめる「重力」と電気や磁石の力である「電磁気力」は古くから知られていた。二十世紀に入り「強い力」と「弱い力」が発見され、この新しい力を説明するために考え出されたのがヒッグス粒子だ。その発見により、人類が叡智を傾けて築き上げてきた理論の、最後のピースが埋まった。それは、ヒッグス粒子の魔法によって覆い隠された、自然界の美しい法則を明らかにする営みでもあった。やさしくロマンあふれる語り口で宇宙創成の謎に迫る、知的冒険の書。
感想・レビュー・書評
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『重力とは何か』に引き続き、大栗先生の本で標準模型について読みました。質量とは何か、というところから始まって、素粒子の標準模型が作られていった過程を一歩一歩学ぶことができました。ヒッグス粒子発見のニュースが出た際に本質が伝わっていないというもどかしさや、多額の公費を使って素粒子の研究をして何の役に立つのか、という批判に対する答えが、先生がこの本を書くモチベーションになったのかなと感じました。
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現役バリバリの素粒子物理学者である筆者が、前作「重力とは何か」に引き続き一般人向けに書いた解説書で、書名通り強い力と弱い力をわかり易く書いたものである。それらの解説は、素粒子の標準模型の解説でもある。湯川秀樹博士の頃から、素粒子物理の理論と実験の進展を逐一解説し、多くの研究者によって作られてきたこの理論が、ヒッグス粒子の発見で完成した、と説明する。わかり易くと言っても難解な理論であり、読み進むにつれ次第についていけなくなる。何度も読み返さないと、分かり易くまとめた本書でさえ理解は覚束ない。時々垣間見える筆者の天才ぶりに驚くが、それくらいでないとこの理論の本当の理解が出来ないのだろうし、アインシュタインの言う「本質の高貴さ」は辿り着けないのだろうな、と思った。
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ヒッグス粒子の発見によりその理論の正しさが示される「標準模型」、重力以外の電磁気力・弱い核力・強い核力を統一的に説明しようとする理論の全貌を解説する。「標準模型」構築の過程は、自分たちの根源を問う人類の叡智の積み重ねの歴史である。超弦理論(ストリング)を専門とする理論物理学者、「標準模型」を知り尽くした大栗先生による最新素粒子物理へのガイドブックである。
同じ新書による素粒子物理学の啓蒙書でありながら、村山斉さんの本に比べると、より本格的で骨太。数式の代わりに、理論物理学者たちがふだん議論している時のたとえ話や視覚的イメージを使う。より本質的にものごとを捉えるたとえである(その代表が南部陽一郎による自発的対称性の破れに、丸い体育館とその中に並んでいる人間を使う例)。
また村山さんの本が物質を構成する素粒子から始めるのに対して、大栗さんの本は「力とは何か」「質量とは何か」から入って、標準模型に至るアプローチ。したがって「場」の概念をきちんと導入する。 -
サイエンス
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どこを詳しくしどこを易しく書くかとても難しい分野.成功している.
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新書とは思えないほどの内容の充実ぶりとわかりやすさもさることながら、一般読者を決して変な喩でごまかさすまいとする姿勢がとにかく素晴らしい。おすすめの一冊。
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『重力とは何か』と同じ大栗さんの2冊目
重力の方が身近なこともあるし
重力とは何かの方が、ちょっとわかりやすいかもしれないが
これもわかりやすく、最先端物理の内容を紹介してくれる本 -
自分のしらない力があるというのは捨て置けないため、購入したが、たしかに、大学の講義の片隅で「核力」や「強い、弱い相互作用」などの力は聞いてた気がする。力の呼称がまだ定着してなかったようだ。
とりあえず、復習できてよかった。 -
『重力とは何か』で相対性理論や超弦理論などの最新重力理論の解説をした大栗先生が、今度は「強い力」や「弱い力」などのミクロの世界の物理学について説明をした本。出版されたのがヒッグス粒子発見からそう間が空いていない時期でもあり、その記述からもその昂ぶりが伺える。ヒッグス粒子の発見は、ニュースを聞く素人からは何だかよくわからないがまた新しいことが分かったんだなという程度だけれど、理論物理学者からすると「自然界は本当に標準模型を採用していたのだ」と驚きと感動を覚えるものだという。
そうしたニュースの中で、ヒッグス粒子は「万物の質量の起源」と紹介されたが、本書ではそれは違うと指摘する。ヒッグス場(著者はヒッグス粒子とヒッグス場の違いにもこだわる)は素粒子の質量の起源かもしれないが、陽子や中性子などの物質の質量の大部分はクォークではなく強い力のエネルギーに由来するからだと。こういった一般的な誤解を解きながら進めていく姿勢は本書を通して一貫しており、内容の信頼度を上げている。例えば、弱い力も「力」という言葉から得られるイメージとは異なるが、粒子の種類を変える働きも含めて「力」なのだと本書のように丁寧に説明されると納得しやすい。ヒッグス粒子は「質量を与える」ことで粒子の状態を変える「力」で、いわば第五の力だと説明されるとそうなんだと思う。ボゾンとフェルミオンの説明や素粒子の色荷なども、本で読むのはもう何度目かなのだが、よくわかっていなかったことがよくわかった。
また本書では、南部陽一郎の仕事に比較的多くのページを割いて説明しているが、彼の自発的対称性の破れの理論がいかに重要であるのかがこの本で初めてわかったような気がする。偉大な理論物理学者には、賢者、曲芸師、魔法使いの三種類があるとして、南部を「魔法使い」と評しているのは興味深い(リチャード・ファインマンは曲芸師らしい)。自発的対称性の破れ自体に関しては『真空のからくり』の説明の方が詳しいし、『宇宙が始まる前には何があったのか?』や『すごい宇宙講義』などでも扱われていたが、相転移の概念を通しての著者の説明は、他のものと比べても理解しやすかった。宇宙が始まった後の相転移によって、それまでは対称性により交換可能であった力が、宇宙の相転移によりその対称性を失うことで、「弱い力」「強い力」「電磁気力」に分かれたというイメージだという。
最後に著者は、素粒子の標準模型は、南部陽一郎、ワインバーグ、ヤン、ミルズなど数多くの物理学者(40人を超えるノーベル賞受賞者を生んだ)が「何か辻褄の合わないことが見つかるたびに別の理論を継ぎ接ぎして、苦労して織り上げたパッチワーク」のようだと評する。だからこそ標準「理論」とは言われず、標準「模型」と呼ばれているらしい。また、その理論にはまだ重力が含まれていないという決定的な欠点がある。さらに悪いことに、標準模型が「なぜ」に答えていない。力はなぜ四つあるのか、クォークの種類はなぜこの数なのか、この理論に含まれる十八個ものパラメータはこの世界においてなぜこの値を取るのか。また、もともとニュートリノが質量を持たない前提で構築された模型の変更やより高いエネルギー状態での破綻などが問題として提示される。宇宙の全質量を説明するためのダークマターについても何も説明できない。「なぜこの世界は無ではなく、そこに何かが存在しているのか (ライプニッツ)」を説明するための理論にはまだまだ遠いのである。ただ、遠いということは、おそらくはこの分野においても今後多くの進展があることだ。それは悪くないことのような気がする。
これまで色々と量子力学に関する本を読んできたけれども、これまでで一番よく理解できたように思う。それは、自分自身に少しだけ多く知識が付いたからなのかもしれないが、やはりそもそも日本語で日本人に対して書かれたものであることも大きいのだろう。もちろん著者の力量と姿勢の影響もある。著者は、やさしくても本格的な説明とするため、「現場の研究者が実際に使っているたとえやイメージしか使わない」と宣言し、その分「より深くより豊かな知的経験を味わえるはず」だと自ら太鼓判を押す。「強い力と弱い力」に興味がある、という人は少ないのかもしれないが、興味がある人にはかなりおすすめ。自分の中の評価では、『重力とは何か』よりもおすすめかな。
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2016年7月、中国語にも翻訳されて出版されたとのこと。素晴らしい。
https://twitter.com/PlanckScale/status/754498445604519936
同じく同年7月にアスペン物理学研究所の所長にも就任。こちらも素晴らしい。
http://www.ipmu.jp/ja/20160713-Aspen-Ooguri
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『重力とは何か アインシュタインから超弦理論へ、宇宙の謎に迫る』のレビュー
http://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4344982614
『真空のからくり』のレビューhttp://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4062578360
『宇宙が始まる前には何があったのか?』のレビュー
http://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/416376870X
『すごい宇宙講義』のレビュー
http://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4781609910 -
強い力が質量を生み出す一要因とは知らなかった。力を伝える粒子のことをボゾン、物質の構成要素となる粒子をフェルミオン。